夜明け
神凪の長い……それは長い夜が終わり、日が昇る。地平線から顔を出した太陽は海上に墜落したオノゴロを優しく照らした。
「……終わったんだな……」
太陽の光を反射する金髪の男、ネームレスがオノゴロの上に立ち、そっと呟く。まるで自身の過ちを噛みしめるように……。
「あぁ、ようやく……ようやく終わったんだ……」
彼の隣で、太陽の光を吸収する黒髪の男、ナナシ・タイランが座りながら清々したような声を上げる。
本当は心の中にネクロのことが引っ掛かっていたが、お互いあの場面では致し方ないことだとわかっているので、あえて触れなかった。
「……で?お前はどうするんだ……?」
ナナシがネームレスに質問する。単純にこの男の行く末が気になったのだ。
「……俺は過ちを犯した……それを償う……」
ネームレスは寂しげに地平線を見つめ、自身の心の内を正直に語る。今思えば、なんと愚かだったことかと、自分自身を責め続け、出した答えだ。
「じゃあ、お縄につくのか……?」
当然、そうなる。然るべき行程を踏み、法的に処罰されるのが妥当だ。しかし、ネームレスは首を横に振った。
「そうすることが正しいことは重々承知だ……けれど、俺にはまだやり残したことがある……あいつをと再び相まみえなくては……!」
端から見れば、ただの言い訳に聞こえるだろう。けれども、そうじゃないと彼の真剣な眼差しが語っている。
彼が先ほどから見つめているのは地平線ではなく、いつの間にか姿を消したあの仮面の人物だったのだ。
「そうか……じゃあ、とっとと行けよ」
「あぁ………って、な!?」
明らかに倫理的に、常識的に間違っているネームレスの発言をナナシはあっさり了承した。色々言われると覚悟していたネームレスは思わず突拍子もない声を上げる。
片やナナシはめんどくさそうに驚く好敵手の顔を見上げた。
「それで、いいのか……!?」
「よくねぇよ。よくねぇけど、今の俺、疲れてまともに動けねぇもん……ぶっちゃけ、抵抗されたら、どうすることもできない……」
別にナナシはネームレスが罪から逃れることを無条件に認めているわけではない。ただ、物理的に拘束する力が身体に残っていないだけだ……そういうことにしておこう。
「まぁ、もうさすがに、今回みたいなことはしないだろ?ネームレス……」
打って変わって、真面目な口調でネームレスの心情を問うと、金髪の男はその美しい髪が伸びた頭を縦に振った。
「あぁ、それは約束する……もう子供達を、平和を傷つけるようなことはしない……!」
こちらも真面目に黒髪の男の問いに答えた。そして、言い終わると同時にナナシに背を向ける。
「……なんというか……世話になったな……あと、そのTシャツ似合ってるぞ」
「おい!ちょっと待……」
タン!
ナナシの制止を無視し、ネームレスはオノゴロから飛び降りた。
「……いや、ガリュウ二号は返せよ……」
逃げるのはいいが、ガリュウは返して欲しかった……が、時すでに遅しという奴だ。ネームレスの姿はどこにも見当たらない。
「つーか、嫌味言う必要ねぇだろ」
目線を自身の胸、ビューティ君に向ける。結局、これも大きな穴が開いてしまった。
「……まっいっか……」
本当にもう、何もかもがめんどくさくなって、ナナシはごろんと寝転がり、どんどん明るくなっていく空を眺めた。
「……もう、俺……疲れ……」
自然と目蓋が下がっていく……。遠くの方から、船の汽笛と聞き覚えのある声がした気がする……。でも、確認する前にナナシは深い眠りに落ちていった。




