鬼竜血戦
ドゴオォォォン!!!
爆音と熱風が吹き荒れる中、にらみ合う赤と黒の双竜と鬼。戦いの火蓋を切ったのは……。
「今回は後手には回らねぇ!先手、取らせてもらうぜ!!」
紅き竜、ナナシガリュウだった!
当然といえば当然だが、今回の一連の事件、ずっとネクロに先手を取られ続け、ひたすら仕掛けられる攻撃に後から対処することしかできなかった。そのストレスを今、解放する!
「ガリュウバズーカ!」
ドォン!!
手加減無用!とばかりに自身の武器の中でも高い火力を誇る大砲を呼び出し、躊躇なくぶっ放す!
「その程度……攻撃というのは……こういうものを言うんだよ!があっ!!!」
ドゴオォン!!!
シュテンの口から放たれた火球で迎撃、相殺される!しかし、ナナシの方もそれは織り込み済みだ。この攻撃の目的はダメージを与えることではなく、発生した白煙でシュテンの視界を塞ぐこと!
煙に紛れて接近、そして煙を貫いて紅き竜が真の第一撃を放つ!
「ガリュウランス!!」
槍の切っ先が鬼の胸部に真っ直ぐと向かっていく!
バキッ!!!
「なっ!?」
砕けたのは、攻撃を受けた鬼の鎧ではなく、攻撃をした竜の槍の方だった。
「何度も言わせるな……その程度で!」
バゴッ!!!
「ぐあっ!?」
ドゴオォン!!!
寄って来た羽虫を払うように裏拳で紅竜に反撃する!ナナシガリュウは咄嗟に防御するが、シュテン相手にはほとんど意味はなく、壁に吹っ飛ばされる!
(あのバカ!何やってるんだ!だが……)
しかし、その鬼と紅竜の攻防の間に黒竜が鬼の背後を取った!
(もらった!!)
「ふん!」
ザシュウ!!!
「ぐッ!?」
背後からのブレードの一撃はシュテンの背中の鬼の顔……その顔についている角が伸びて迎撃したことによって失敗した。タイミングドンピシャのカウンターだ。
けれど、ネームレスガリュウは驚異的な反応速度と身体能力で装甲を掠めるだけで済ます……が。
「よく避けたな……」
「……ネクロ!」
「ウラァッ!!」
バゴン!ドゴオォン!
シュテンはすでに追撃の準備を終えていた!一瞬だけ目が合ったが、すぐさま鬼の拳で視界の外へ追い出される!
そして、紅き竜と同じように黒き竜は壁に激突した。
「……さすがにこれで終わりというわけはなかろう……」
ネクロの言葉通り、双竜の心は折れていない!
「「ガリュウ!」」
「ハンマァー!!」「サイズ!!」
ナナシガリュウは戦鎚を、ネームレスガリュウは大鎌を手にし、シュテンの左右から挟撃する!
「オラァッ!!」
紅き竜が戦鎚を下から振り上げる!
「ハァッ!!」
黒き竜が大鎌を上から振り下ろす!
ガキィン!
「な、」「何ィ!?」
双竜の渾身の一撃はあっさりと鬼に片手で掴まれる!
「二人がかりならやれると思ったか?フンッ!!」
ガギャン!!!
「ぐあっ!?」「――ッ!?」
武器を掴んだまま両腕を交差させるように動かす。すると、鬼の目の前で二匹の竜が背中から激突した!
結果論でいえば武器から手を離せば良かったのだが、シュテンの動きの素早さ、そして力強さにそれは不可能だった!
ようやく背中の衝撃で武器から手が離れ、二匹の竜は鬼の足元に無様に落ちる。
双竜を見下ろしながら、シュテンは容赦なく追撃する!
「フン!」
「「!?」」
バゴォォォォォン!!!
「なんつう……」
「パワーだ!?」
シュテンは巨大な金棒を呼び出し、天高く掲げたと思ったら、それを双竜に全力で振り下ろす!
双竜はなんとか転がりながら回避するが、はね上がった床によって空中に放り出される!それでも体勢を立て直し、間合いを取って着地!反撃に移る!
「ガリュウライフル!」
「ガリュウショットガン!」
近接戦闘は不利と見て、銃を召喚する。けれど……。
「ウラァ!!」
ブォォン!!!
「ちィッ!?」「くっ!?」
金棒を横に振った衝撃波で再び体勢が崩され、引き金を引くことさえ許してくれない。
そして逆にシュテンの方が遠距離攻撃を仕掛ける!
「ガァッ!!!」
「!?」
ドゴオォォォン!!!
「ネームレス!?」
火球がネームレスガリュウを襲う!紅き竜の意識が黒き竜に向くが、シュテンはそんな暇を与えてくれない!
「よそ見してる場合か?ナナシ・タイラン……!」
ガキン!
「ぐッ!?」
ナナシガリュウの頭部がシュテンの巨大な手のひらに包み込まれる!そのまま鬼は竜の頭蓋を砕こうとその手に力を入れていく!
「この……離れろ!ボケッ!!」
バリバリバリバリバリバリッ!!!
竜の二本の角から電撃が放たれる!けれども、残念ながら鬼はびくともしていない!
「……手品かなんかか?……痛くも痒くもないが……鬱陶しいなァッ!!!」
ブゥン!ドゴオォォォン!!!
「……が!?」
紅き竜を力任せに前方に投げ、さらにそこに火球をぶち込む!爆発からボロボロになった紅き竜が地に落ちると、そのまま動かなくなった。
「これで……」
「終わりじゃない!!」
ガキィン!!!
先ほどの火球を回避していたネームレスガリュウが急襲する……が、これまた読まれていて腕であっさり受け止められる!
「ネームレス……何故裏切った……!」
「裏切ったのは、あなたの方だろう!ネクロ!俺の心だけじゃない!あなた自身の心もだ!!」
ガキィン!
「この国を変えるためには多少の犠牲も仕方ないのだ!」
「犠牲になった人々を俺は見続けて来たんだ!そんなこと、認めるわけにはいかない!」
「理想主義者のガキが!!」
「理想を捨てて、得たものにどれだけの価値があるというのだ!!」
ガキィン!ガキィン!ガキィン!!!
攻撃だけではなく互いの思いもぶつけ合う!元々は仲間だった、それが今は敵同士……いや、最初から見ていたものが違ったのだ!
それぞれの意志と力を込めて、黒き竜はブレードを、紫の鬼は金棒を振るう!そして、それが一合、二合と火花を散らして衝突する!
「邪魔をするなァッ!!」
「邪魔はするさ!それが、俺のせめてもの贖罪だ!」
「ならば!全身全霊でお前を排除させてもらうぞ!ネームレス!!」
ガキィン!
「ぐぅっ……」
振り下ろされたシュテンの金棒を、ネームレスガリュウがクロスしたブレードで受け止める!だが、パワーの差は歴然!どんどんブレードの高度が下がっていく。
「その刃ごと……お前の身体も心も砕いてやる!!!」
「ッ……!」
鬼がさらに力を込めると竜の足が床にめり込んだ。腕の力も限界が近い。このままでは……。
「俺のことを……忘れてんじゃねぇよ!」
バゴォッ!!!
「ぐはぁ!?……貴様……!!」
突然、シュテンの左脇腹に鋭い痛みが走る!
反射的にそちらを向くと、先ほどまでボロボロだった紅き竜が、まるで何事もなかったように戦闘前の姿に戻っていた!さらにマントを纏っており、その隙間から伸びた拳が鬼の腹部に突き刺さっていたのだった。
瞬時にネクロは理解する。先ほどのはやられたふりだったんだと!わざと攻撃を喰らい、やられたふりして、隙ができるのを待ち、いざその時が来たら、話に聞いていた完全適合で再生、さらにマントのステルスで知覚されずに接近、無防備なところに渾身の一撃をぶち込む!
それを今実行、そして成功させたのだ!
「お察しの通り、死んだふりって奴だ!こちとら実際に死んでるからな!リアリティーが違うんだよ!リアリティーが!!」
「こ……のォッ!」
たまらずシュテンは金棒を振り、ナナシガリュウ、ついでにネームレスガリュウを後退させる。もちろん、それだけじゃ終わらない。
「やってくれ………ガハッ!?」
終わらないはずだった。けれども、火球を繰り出そうとした瞬間、紅き竜の拳が突き刺さった左脇腹が痛み、攻撃がキャンセルされる!ということは今度は双竜のターン……。
「今だ!!」
「――!?待て!ナナシ・タイラン!」
「……あ!?」
ドゴオォォォン!!!
「――ッ!?ちっ!」
ナナシが追撃しようと突撃しようとしたその時、天井が爆発して瓦礫が双竜と鬼の間に降り注いだ!いち早く、気づいたネームレスが制止していなかったらナナシはそれに押し潰されていただろう。
「……仕切り直しか……」
「あぁ………」
まさに息もつかせぬ攻防を繰り広げられていたが、瓦礫のおかげで一息つくことができた。あの状況だとチャンスを潰されたといった方が正しいか。
「……ここまで差があるのか……」
ネームレスが自身に対して落胆する。正直、もっとやれると思っていた。ただでさえビューティフル・レイラ号でのダブル・フェイス、ナナシガリュウ戦で彼のプライドはボロボロだったのに、だめ押しとばかりにネクロに実力を見せつけられた。情けなくて仕方ない。
「……つーか、お前さ……俺と戦った時より弱くない?」
そんなネームレスにナナシがさらに追撃する。嫌味に聞こえるが………半分は嫌味だが、素直にそう感じたから質問したのだ。
当然、ネームレスはいい気がしない。自分でも弱くなったのはわかっている……その弱体化の理由になった男に言われたのだ!腹立たしいったりゃありゃしない!
「それはそうだろう!お前に船でやられた傷がまだ治ってないんだからな!お前は完全適合とやらで回復できるかもしれんが!普通はそんなすぐに治らないんだよ!」
ネームレスが自身の状態を赤裸々に話す。怒りを込めて……。
ナナシだけではない、こんな奴に負けた自分に対しても苛立つ。
「そうか……そう言えば……ん?」
ナナシは言われて見れば当たり前なネームレスの解答に納得したが、そこで新たな疑問が浮かんだ。
「もしかして、俺……フルリペアやリンダのことでめちゃくちゃ大事なこと見落としてたかも……」
考えを整理するために、あえて声に出す。突如として独り言を始めたナナシをネームレスが訝しげに見つめる。
「……リンダって誰だ?女か?戦場で女の名前を言うのは縁起良くないぞ……」
とりあえず謎の人名に引っ掛かる。ネームレスが知るわけないが、ナナシがここまでこれたのはそのリンダのおかげ……つまり、今こんな状況になっているのはリンダのせいとも言えるのである。
「……お前、縁起とか気にするんだ……」
「なっ!?」
「まっ、俺も嫌いじゃないがな。験担ぎ」
仮面で見えないがネームレスの顔が真っ赤になった。なんとなくそんなことを気にしてると思われるのが恥ずかしかった。
一方のナナシはネームレスの人間らしいところが見れて嬉しさを感じていた。
「で、で、見落としていたことというのは何なんだ!?」
自身の羞恥心をごまかすように話を戻す。というかだらだらと雑談している場合じゃないのだが……。
「いやさ……効きすぎじゃないか?さっきの俺の攻撃……?」
「……そんな……いや、確かにそうだ。無防備なところに打ち込んだといってもただのパンチだ……」
「そう!完全適合で多少威力が上がっていても、今まで嫌と言うほど味わったあいつの防御力ならあそこまでダメージ食らうか……?」
ナナシの疑問は自身の攻撃が予想以上の結果を出したことだった。ネームレスも同意する。あの程度でいいなら、すでに最初の槍の一撃でもダメージを与えられたはずだ。
「だが……何故……!?まさか!」
ネームレスが頭を悩ませ……ることもなく、すぐに答えにたどり着く!なぜなら、答えはすぐ側……自分の身体にあったからだ!
「まさか!?ネクロも俺と同じように前の……キリサキスタジアムでの戦いのダメージが残っているのか!?」
「だろうな……あれだけ大暴れして万全じゃないなんて思わないよな……でも、あいつが戦った相手はハザマ親衛隊のリーダー……よくよく考えなくても、無傷で済むわけない……」
そう、ネクロは先の戦いで傷を負っていた。ナナシの言う通りAOFの元隊長、大統領直属部隊の長、神凪の最強戦力同士がぶつかり合って無傷でいられるわけがないのだ。だが、その当たり前のことが、ネクロの超常的な能力と、リンダやフルリペアの存在で失念させられていた。もっと言えば……。
「あん時、それどころじゃなかったからな……てめえにボコられて……」
ネクロが戦っていた時、隣でナナシとネームレスも戦っていた。無論、隣のことを気にしてる余裕なんてない。彼らからしたらいつの間にか勝っていて、平然としているネクロが苦戦したイメージなどなかったのだ。そのことを嫌味を込めてナナシが指摘する。
一方のネームレスは……。
「皮肉だな……スタジアムで戦った俺達がこうして肩を並べるとは……」
ナナシの嫌味など意に介さず、感慨に耽っていた。まさか、あの時はこんなことになるなんて夢にも思わなかった。数奇な運命に自嘲でもしたくなるところだけど、まだ戦いは終わっていない。ネームレスは再び頭を戦闘モードに切り替える。
「……だが、奴が左脇腹に怪我を負っていたとして、もう攻撃を与えることはできないだろう……こちらがそれに気づいたことぐらいあっちも感付いている……」
確かに重要なことには気づいたが、状況はそこまで好転していない。ネクロほどの戦士なら、もう二度と同じヘマはしないだろう。
「……策ならある……」
「何!?」
ナナシの発言にネームレスが前のめりに食い付く。対して、ナナシの方は若干気乗りがしてない様子だ。
「策とはなんだ!?勿体ぶるな!」
人にものを問う態度ではない黒き竜に紅き竜が頭を掻きながら、嫌々……本当に嫌そうに語り始める。
「こんなことしか思いつかないんだな、俺って奴は……」
「ぬぅぅッ……」
片や、瓦礫を挟んで反対側にいるネクロは未だに紅竜から受けたダメージに悶えていた。いや、正確にはキリサキスタジアムでカツミ・サカガミとその愛機エビルシュリンプに受けた傷だ。
「カツミめ……これがお前の意地か……!」
かつては、同じ神凪軍人として同じものを見ていたはずなのに……。この傷は肉体だけでなく、ネクロの……ノブユキの心にまで響いた。
「だが!俺はもう止まれん!止まるつもりもないッ!!」
しかし、もはや後戻りできない。自らを必死に鼓舞し、目の前の障害を排除するために金棒を掲げる!
「フンッ!!!」
ドガァァァァァン!!!
金棒で瓦礫を破壊すると、空中に塵が舞い、鬼の眼前に煙のベールをかける。その奥には二つの人影が立っていた。
それこそがネクロが本当に排除しなければいけない障害だ。
「さぁ……第二ラウンドだ……!」
真っ直ぐと双竜を見つめる鬼。双竜も怯まずにらみ返す!
「……本当にやるのか……?」
「あぁ……やるしかねぇ……覚悟決めろ!ネームレス!!」




