エピローグ:ドラゴンライジング
『今日午前、壊浜へのオリジンズを使ったテロに関する一件で、首謀者と目されてる梶浦建設のクワシマ専務の自宅に家宅捜索が入りました。あくまでクワシマ専務の独断と梶浦建設は関与を否定していますが、実行犯であるシブヤ容疑者の供述次第では……』
「後始末任せましたよっと」
ヴァイネイジとの決戦から数日後、ナナシは相変わらず客のいない喫茶店フェリチタでテレビのニュースを見ながら、コーヒーを飲んで、ゆったりまったりのんびりしていた。
「今回は本当に大変でしたね。ワタクシ、何回も敗北と死を覚悟しました」
「俺もだよ。何か一つ違っていたらこうして今コーヒーを飲めていなかっただろうな」
しみじみと命のありがたさを感じながらコーヒーを啜ると、いつもより少しだけ甘く感じた。
「大変だった分、この件が神凪政府と壊浜の未来に対していい影響を与えてくれるといいんですが……」
「一応、壊浜住人の政府への印象は良くなったんだろ?なら、大丈夫じゃないか」
「結局、これもなるようにしかならないですか」
「そういうことだな。長年解決できなかった問題……焦らずに一歩ずつ進むのが吉だ」
その言葉を体現するように改めてコーヒーの香りを嗅いで、違いのわかる男を気取ってみせる。
「でしたら今はナナシ様自身の問題について考えましょうか?」
「ん?何かあったか?」
「ヴァイネイジを跡形もなく消し飛ばしたことにハナヤマ会長がお冠です。生け捕りや無傷は無理にしても、貴重な個体なのですから、研究のためにももうちょっとだけでいいから死体を残せなかったのかと」
「サラマンダーが撃ち落とした翼があるだけ御の字だろ。そんな加減なんかして勝てる相手じゃなかった」
「では、そのようにメールしておきます。まぁ、どうせすぐにサンライズクロスの稼働データに夢中になって怒りなんてどっかに行っちゃうでしょうけど」
「産みの親をそんなアホみたいに……」
「好きなことにアホみたいに熱中できるところがいいんですよ。ハナヤマ会長もナナシ様も」
「ベニ……」
誰の影響かどんどんと嫌味ったらしくなる相棒にナナシは苦笑するしかなかった。
「まっ、とにかくワタクシ達は待つだけですね。警察ともう一人のア……神凪の罪深き牙が事件の全容を解決してくれることを」
「くそ!GR02は手に入らなかったか!!」
とある国の郊外にある屋敷の研究室と思しき一室で、白衣を羽織ったいかにもマッドサイエンティストといった風貌をした男が苛立ちを堪え切れずに吐き出した。
「一度は確保したというのに、詰めを誤りおって……!次に雇う傭兵はこんな下らないミスを犯さない奴を選ばないと。そのためには情報収集……おい!ちょっと訊きたいことがある!誰でもいいから強くて賢く、そして金を払ったら汚いことでも平気でやってくれる奴を知っている者がいたら来てくれ!!」
男は部屋の外にいるボディーガード達に声をかけた。
しかし、ドアを開けて入って来たのは……。
「そんなくそみたいな奴、ダブル・フェイス以外に早々いてたまるか」
「――なっ!?GR02!!?」
「そうだ。お前が恋焦がれている平和を祈る者、PeacePrayerネームレスガリュウだ」
部屋に入って来たのは、夜を閉じ込めたような漆黒のボディーに、マントを羽織り、勾玉を彷彿とさせる二本の角と月明かりのような黄色の眼を持つ竜、GR02ことネームレスガリュウその人であった。
「どうしてお前がここに!!?というかボディーガードの連中はどうした!!?」
「少し考えればわかるだろ?」
「くっ!!?」
男の頭に過った光景、一人残らず気絶するボディーガード達の姿は、実際に部屋の外で現実となっていた。
「まぁ、あまり頭が良くないことはわかっていたよ。この俺に喧嘩を売る奴など、バカとしか形容できない」
「誰がバカだ!!わたしはお前のそのマシンを有効活用してやろうと思っただけだ!!私欲ではなく人類の進歩のために!!」
「ならば、そう素直に頼みに来れば良かったものを。よりによって壊浜に手を出すとはな……!!」
「ひいっ!!?」
男は黒き竜の眼光に気圧され、狼狽え、尻餅を突いた。
「貴様のやったことは万死に値する。しかし、俺は優しいのでちょっと痛めつけるだけで許してやろう」
「待て!!?落ち着け!!?わたしの研究の話を聞けば、きっと気が変わる!!!」
「他人のものを強引に奪おうとする人間の話など聞きたくない」
「いや、そもそもあんた自身もガリュウをパクってんじゃん!わたしを責める資格なんてないじゃん!!」
「……そう言われるとそうだな」
「だろ!!?」
「ならば同族嫌悪が止まらないということで、お仕置きを続行しよう」
「ええ~~ッ!!?開き直りやがったよこいつ~~!!?」
翌日、とある国で違法な研究をしていたマッドサイエンティストが自首して来た。
何故そんなことをしたのかと聞くと、「刑務所に入った方が安全だから」と、腫れ上がった顔で答えたという……。




