サンライズ・アゲイン③
「ふぅ……とりあえず一矢報いたな」
満足そうに呟きながらグレートサラマンダーバスターを二丁の銃に分離すると、過剰に溜め込まれた熱が白い蒸気となって放出された。
(せっかく神凪政府がサラマンダーを貸し出してくれたんだから、俺が決めたいところだが……)
「ギャオッ!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「ちっ!!」
よくもやったなとヴァイネイジがお返しの砲撃!けれどカズヤサラマンダーはそう来ると読んでいたのであっさりと避け、結果スクラップを焼却処分しただけに終わった。
「ぐっ!?」
しかし、攻撃こそ避けたもののカズヤは身体に痛みを感じた。前回の戦いの傷だ。
(やはり激しい運動はまだ無理だな。認識もされちまったからもう不意打ちもできない。壊浜出身としては悔しいが、ここからは支援に回る。とどめは……お前に任せるぜ、ナナシガリュウ)
バシュウン!!ドゴォッ!!
「――ギャオッ!!?」
「余所見してんなよ」
カズヤの想いを受け取ったと言わんばかりに紅き竜が再びスティングブラスター発射!銀色の竜の左後方の翼に穴を開けた。
「自慢の翼もこれで残り一枚……もうさすがに飛べないだろ?」
「ギャオッ……!!」
「逃げる選択肢はなくなったぞ!ヴァイネイジ!!」
バシュウン!!ヒュッ!!
もう一発スティング!しかしこれは躱されてしまった。
「よっ!」
「――ギャ!?」
だが、回避した先に紅き竜が先回り!ヴァイネイジの顔の前に跳び上がる……バチバチと帯電しながら。
「電気エネルギー充填完了。発射準備よし」
「スタンニードル!」
バシュ!バシュ!!
ナナシガリュウの狙いは腰から発射された電気を帯びた針を潰した目に食らわせること。
本来ならスタンニードルではヴァイネイジの鱗を貫けないが、痛々しく内部の肉や神経が見えている傷口なら話は別だ。そこに命中させられれば一時的に痺れさせ、動きを止めることができる……はずだったのだが。
「ギャオッ!!」
ヒュッ!ヒュッ!!
「!!?」
「何ですって!!?」
ヴァイネイジは花山が誇る最新鋭のAIのデータを超える凄まじい反射速度でこれも回避!さらにナナシガリュウの側面に回り込んだ!
「ギャオォォン!!」
「シルバーソードテイル!!」
ヒュッ!グンッ!ガチッ!!
さらにそのまま噛みつこうとしたが、紅き竜が尻尾のように装着された蛇腹状の銀色の刃を伸ばし、地面に突き立て、また縮めることで空中から地上に移動し、事なきを得た。
「危機一発でした」
「まだ安心するのは早いぞベニ」
「ギャオッ!!」
けれど、一度失敗したくらいでは諦めない。ヴァイネイジは懲りずに噛みつき攻撃を連続で繰り出す。
ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガチィッ!!
しかし、悲しいかな全部空振り。ナナシガリュウはピョンピョンと小気味良いバックステップで全て避け続ける。
「どれだけ俺のこと食いたいんだよ」
「無我夢中って感じですね」
「ギャオォォォォォォォォォォンッ!!」
ナナシガリュウがジャンプの頂点に到達すると同時にヴァイネイジは今までで一番大きく口を開けた。
「バリアで攻撃を受けるのってぶっちゃけ怖いんだよな。何かの不具合で発動しない可能性が頭を過る」
「ギャオォォォンッ!!」
「だから今、すごく怖い……仲間の攻撃をわざと食らうなんて初めてだしな」
ババババババババババッ!バシュン!!
「オラァ!オラァ!!」
「サラマンダーバルカン!!」
リブスガリュエム、カズヤサラマンダー、絶対防御気光を展開したナナシガリュウごとヴァイネイジに一斉射撃!
「発動……OK!」
「ワタクシがコントロールしてるので当然です」
紅き竜はバリアで守られているために本体に当たることはもちろんない。
「――ギャ!?ギャオォォォォンッ!!?」
対照的に銀色の竜の方は顔面に無抵抗に大量の弾丸を浴びせかけられてしまう!仲間ごと撃つという常軌を逸した行動に完全に不意を突かれた形だ!
「あっ……ネームレスにわざと刺されたことあったわ」
「よくそんな強烈な思い出、忘れてましたね。ただ今は昔話よりも……」
「仕上げの一発だな」
仲間から絶え間無く発射される銃弾の嵐の中、着地したナナシガリュウは銃をヴァイネイジの首に向けた!
「これが決まれば……!!」
「ギャオッ!!」
「「!!?」」
引き金に指をかけた瞬間、ヴァイネイジが突如下を向いた。
銃弾に耐えられなくて顔を背けたのか?
否、起死回生の一手を打つためだ!
「エネルギー上昇!これは!!?」
「お前も自分ごと――」
「ギャオォォォォォォォォォォンッ!!」
ドシュウゥゥゥゥゥッ!!ドゴオォォォォン!!
「――ギャ!?」
「――ぐあっ!!?」
「こいつ!!?」
「やりやがった!!」
ヴァイネイジ、自分の足下に砲撃!それによって自らもダメージを追ったが、巻き起こる爆風で決着の一撃を放とうとしていたナナシガリュウを吹き飛ばした!
「くそ!!」
なんとか受け身を取り、立ち上がる紅き竜。そこに……。
「ギャオッ!!」
ヴァイネイジ強襲!凄まじい勢いで回転し、自慢の尻尾で薙ぎ払う!
「当たるか!!」
ブゥン!!
けれどナナシガリュウは縄跳びを飛ぶように跳躍し、向かって来る尻尾を飛び越し回避した……一撃目は。
「ギャオッ!!」
「!!?」
横回転から縦回転!銀色の竜はその巨体で宙返りをして、尻尾をナナシガリュウに撃ち下ろす!
ゴッ!ドゴオォォォォォン!!
「――ッ!!?」
衝撃で全身がひび割れ、チャームポイントの勾玉に似た角はへし折れ、地面に叩きつけられ、クレーターを作り、仰向けになって紅き竜は倒れると、黄色い二つの眼の木漏れ日のような優しい光が……消えた。
(あの動き、あの速さ……俺の時とは段違いだった……)
(翼だ。あの重そうな翼を失ったことで身軽になり、敏捷性が上がったんだ。きっとヴァイネイジ自身も初めて体験する速度域、予測もできなければ対応もできるはずもない!!)
手負いの獣の底力に息を飲むカズヤとリブス。
「ギャオッ……!!」
そんな彼らに見せびらかすように銀色の竜は、倒れる紅き竜の上に前足を上げた。
(野郎……仲間が踏み潰されるところを目に焼きつけろって言ってんのか!?)
(そう見せかけてこちらが動くのを誘っているかもしれん。無闇に助けには行けない)
(だが、このままだと潰されちまう……他の奴だったら)
(他の奴だったら終わっている。しかし、ナナシガリュウの本領は……ここからだ!!)
「ギャオッ!!」
銀色の竜が踏みつけようと、勢いよく足を下ろそうとした瞬間!
「シルバーソードテイル!!」
ヒュッ!ガッ!グンッ!ドゴオォォォォン!!
「――ギャ!?」
ナナシガリュウ再起動!
先ほどのように尻尾のように装着された蛇腹状の銀色の刃を伸ばし、今度はヴァイネイジの後ろ足に突き刺し、即座に縮めることで踏みつけを空振りさせ、さらには銀竜の無防備な腹の下に潜り込んだ!
「これがナナシガリュウの最終奥義……死んだふりだ!!」
悪戯が成功した子供のようにはしゃぐナナシガリュウ!黄色い二つの眼に輝きが戻り、チャームポイントである勾玉に似た角が生え、全身のひび割れが跡形もなく消える!
「レプリカハイロウ……射出!」
ボォン!!
ベニの指令を受け、ひしゃげていた胸部装甲が爆砕しながら光の輪を生成、ネオブラスターユニットの銃口の前に配置される。そして……。
「レプリカ・シャインエッジ!!」
「うらぁッ!!」
ザシュッ!!
「――ギャッ!!?」
引き金を引いて太陽の弾丸を発射!それは光の輪を通り、巨大な光の刃となりヴァイネイジを貫いた!
「真っ二つになれぇ!!」
ザシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「ギャオォォォォォォォォォォンッ!!?」
さらにそのままシルバーソードテイルで移動しながら耳をつんざくような悲鳴を上げる銀竜の腹を容赦なく縦に裂いていく!
バリィン!!
けれど、尻尾の途中まで来たところでレプリカハイロウが限界を迎え、砕け散った。いや、限界が来ていたのは他にも……。
「ネオブラスターユニット、熱量が異常に高まっています!次弾撃てません!!」
「パージだ!サンライズアームズ、全てパージしろ!」
「了解!」
主人の指示に従い、この決戦のために作ったイレギュラーナンバーを廃棄!サンライズクロスからサブアームが折れ、マグナムを持ったナナシガリュウ・クレナイクロスに。
「あともう一押しです!サンバレで決めましょう!!」
「おう!!」
ナナシガリュウが両手でグリップを握り、ヴァイネイジの頭部に狙いを定めたその時だった。
「ギャオッ!!」
「「!!?」」
ターゲットが振り返り、目が合う!
いや、そんなことは問題ではない。
問題なのは……その口にエネルギーを溜めていること!
(奴の方が速い!)
(ここまで来て、負けるんですか!?)
(どこまでもしぶとい……!)
(この土壇場であれができるのが、特級オリジンズなんだ……!)
銃口を突きつけられている状態のナナシとベニ、そしてそれを遠目で見ているカズヤとリブス、彼らが絶望に叩きのめされそうになったその時であった。
バシュウン!!
「「「な!!?」」」
「――ギャ!!?ギャオォォォォォォンッ!!?」
どこからか飛んで来た銃弾が残っていたヴァイネイジの目を見事に狙撃!潰してみせた!その痛みに悶え苦しみ、砲撃は強制中断される。
「今のは……?」
「一体誰が!?」
「オレ達以外の奴が……!!?」
その起死回生の一発を撃った人間に誰も心当たりがなかった……彼と一緒にとある島で旅をしたナナシ・タイラン以外は。
「ヨハンか」
「壊浜出身としてこれくらいはな」
狙撃したのは旧ハザマ親衛隊にして、蝙蝠のブラッドビースト、ヨハン!昨日マリグマイナを捕縛した彼は密かに故郷、壊浜に戻り、ここ一番での一発を撃つために息を潜めていたのだ。
「今のうちですナナシ様!サンバレを!!」
「サンバレは撃たない」
「え?」
「お前らの絆が最強の必殺技を呼び起こしてくれた」
カッ!!
「――!!?ルシファー!!?」
光と共にルシファーと二つの輪っかがナナシガリュウの前に突如として出現した。あの時のように!
「これはデータにあった……グノスとの戦争に決着をつけた!」
ベニのAIらしからぬハイテンションに呼応するようにルシファーも輪に変形、三つの輪が直線上に並ぶ。
その中心の穴の奥に見えるヴァイネイジに狙いを定めるとナナシの意志や感情、そしてベニ、カズヤ、リブス、ヨハン、みんなの想いが紅き装甲から腕へ、腕からグリップへ、グリップから銃口へと伝わっていく。
「ヴァイネイジ、お前は一人でよくやったがここまでだ。ナナシガリュウのマキシマム……絆の弾丸 (ネクサス・バレット)!!」
ドォン!ドォン!ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
ガリュウマグナムから放たれた光の奔流は、輪をくぐる度に輝きを増し、最終的に真紅の竜へと形を変えた!
「ギャッ……」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
そしてその真紅の竜はヴァイネイジの巨体を飲み込み込むと、跡形もなく消し去った。
つまり……リベンジマッチの決着である。
「ふぅ……」
役目を終えたルシファーと二つの輪は光となって主人の下に戻り、その主人、勝者となったナナシガリュウは身体を投げ出し、仰向けに寝転んだ。
「タフなミッションでしたね。けれど今回も……」
「なるようになったな」
見上げた青空には故郷を守るために戦い抜いた者達を祝福するように、太陽が爛々と輝いていた。




