サンライズ・アゲイン①
ネームレスが飛行船で激闘を繰り広げた次の日、ナナシ・タイランは花山重工が所有する大型輸送ヘリで決戦の地、壊浜に向かっていた。
「そろそろ到着です。準備に取りかかりましょう」
「了解」
相棒の小型竜メカに促され、ヘリの中とは思えない広い空間の真ん中に立つとナナシは右手にくくりつけてある赤い勾玉を顔の前に翳した。そして……。
「かみ砕け、ナナシガリュウ」
終生の愛機の名を呼ぶ!
ナナシの声に応じ、勾玉は光の粒子に、それがまた赤き竜を模した機械鎧に変わり、彼の全身を覆っていった。
赤と銀色のボディーに、勾玉を彷彿とさせる二本の角、木漏れ日のような黄色の眼……神凪を守る紅き竜の最新版、ナナシガリュウ見参!
「システム、コンディション問題ありませんね」
「当然」
「ではオプションナンバー13、装着していきます」
ベニが信号を送るとヘリの天井から紅き竜の周りにアームが降りて来た。何やらパーツを持った機械の腕が。
「肩と膝に増加装甲兼追尾レーザー発射ユニット……装着」
ガシャン!!
ベニの指示通り、肩と膝に装甲が取り付けられる。
「続いて腰部横にオリジンズ捕獲用のスタンニードル、後ろに中距離戦用のシルバーソードテイル」
ガシャン!
今度は腰の横に小さな装備と後ろに蛇腹状に銀色の刃が連なったものを尻尾に見立てるように装着。
「胸部、レプリカハイロウ発生装置……装着」
ガシャン!
胸にも新たなパーツを装着。この時点でシルエットは普段の不必要なもののないシンプルなナナシガリュウとはかけ離れた歪なものに。
「ナナシ様、マグナムを」
「おう。ガリュウマグナム」
紅き竜は最も信頼する得物、鈍い銀色に輝く無骨な拳銃を召喚。
「ネオブラスターユニット……接続」
ガチィン!!
それに大型の銃身をくっつける。
「イレギュラーナンバー13、サンライズアームズ装着完了」
「よっしゃ!仕上げだ!」
「はい!オプションナンバー10、クレナイクロス起動!」
ヘリの傍らに置いてあったアタッシュケースにベニが起動コードを送るとケースは空中で変形。長方形の箱だったものがX状の機械へと形を変える。
そしてそれがいつもより逞しい赤い竜の背中にくっつくと、これまた赤い竜の姿をしていたベニがカード状になり、Xの中心に収まった。
「ドッキング成功、リンク完了、システムオールグリーン……」
「ナナシガリュウ・サンライズクロス」
「わたくしとナナシ様の最強形態です」
リベンジのための新しい姿になった紅き竜は力強く黄色い二つの眼を輝かせた。
「……カッコつけてねぇでとっととどけ。オレもクレナイウイングとやらをつけねぇと」
そんな彼らに冷や水を浴びせたのはガリュウを少し簡素にしたような青緑の竜ガリュエムを装着した神凪のAOF爪の隊長リブス・サマースキル。シッシッと手を振り、最強の姿になったらしい赤い竜に場所を譲れと要求する。
「男はカッコつけてなんぼでしょうに」
「キザなのもタイランの伝統だったな。だが、それに付き合ってやる時間はない。ベニ、オレの方も頼む」
「はい。オプションナンバー4、クレナイウイング、おまけでレールガン、ガトリングどうぞ」
青緑色の竜の背中にメカアームによって真紅の翼が取り付けられる。さらに差し出された銃火器を手に取る。
「ガリュエム・リブスエディションってところか」
「準備できたならさっさとしろ。ターゲットが射程に入るぞ」
「せっかちなのもタイランか。つーか、お前より遥かにスムーズだったろ。文句言われる筋合いはねぇ」
「お二人ともじゃれ合うのはそこまで。本当に作戦エリアに入ります。降下の準備を」
「わかったよ」
「ふん」
二匹の竜は睨み合いながら、ヘリの後方に移動する。
「では操縦士さん、ハッチを開けてください」
『了解』
ベニの通信を受けて操縦士が目の前のパネルを操作。すると輸送ヘリの後部が開き、並び立つ竜の視界に空が広がった。
「グノスに侵入した時のことを思い出すな……」
「それっていい思い出じゃないですよね?」
「もちろん。ルシファー使い始めて多少マシになったが元々高い所は得意じゃない」
一応確認のために地上を覗き込んで見たが案の定全身に悪寒が走り、身体が強張った。
「バイタルが乱れています。やっぱり怖いですか?」
「やっぱり怖いですね」
「オレはこう見えて理想的な上司だから、嫌がることはできるだけ部下にやらせない主義なんだが、今回ばかりはできませんは通じんぞ」
「ヴァイネイジ相手に十分なファーストアタックをかませる火力があるのはナナシガリュウだけですからね」
「わかってるよ。覚悟はしてきた……!」
ナナシは気持ちを少しでもいいから整えようと深呼吸。そして……。
「人類の叡智、平和への祈り――」
「いいからさっさと行け」
ドッ!!
「――え?」
気合を入れるための口上の途中でリブスに蹴り落とされ、意に反してダイビング開始!
「あの野郎……!!」
「リブス隊長への文句は後です。文字通り目下の課題に集中しましょう」
「ちっ!そうだな!」
凄まじい勢いで空を落ちながらナナシガリュウは追加ユニットを取り付けたマグナムを下に向けた。正確には下方にいるヴァイネイジに。
「ギャオッ……!!」
それを察知したヴァイネイジも深い眠りから目覚め、大きく口を開き、そこにエネルギーを集中、砲撃の準備を淡々と進める。
「ムカつくほど察しがいいな……!」
「やはり奇襲は無理でしたか」
「なら俺達らしく正面からぶっ潰す!」
「はい!レプリカハイロウ射出!」
胸部装甲が開き、そこから光の輪が出現。ネオブラスターの前に配置された。
「出力安定、効果範囲計測完了……いけます」
「レプリカ・ミリオンバレット」
バシュ!ボボボボボボボボボボボボッ!!
引き金を引くと、放たれたのはお馴染みの太陽の弾丸!それが光の輪を通ると強化・拡散される。
かつてグノスで捻れた絆で繋がった悪友に向かって放った時のように圧倒的なエネルギー量を誇った光の弾が豪雨のように降り注ぐ!
「ギャオォォォォォォォォォォン!!」
ボボボボボボボボボボボボボボボッ!!
銀色の竜も物量で対抗!人間の半分ほどの大きさをした大量の光の球を、散弾のように瞬く間に広げ、機関銃のように次から次へと吐き出す!
ドゴォッ!ドゴォッ!ドゴオォォォォォォン!!
両者は正面衝突!お互いにお互いに打ち消し合い、あれだけあったのに一つも本体に届かなかった。
「ちっ!一発ぐらい当たれよ」
ナナシが舌打ちすると同時にレプリカハイロウは粉々に砕け、光の粒子となって霧散した。
「やっぱり一回で限界か」
「エネルギー消費量も予想より多いですね。けれど……」
「出し惜しみできる相手じゃない!ベニ!」
「レプリカハイロウ再射出!!」
再び光の輪が胸から生成され、銃口の前に。そしてすぐさま紅き竜は引き金を押し込んだ。
「レプリカ・シャインエッジ!!」
太陽の弾丸は再び光の輪を通り、今度は巨大な光の刃を形成!その切っ先をヴァイネイジに向けて、ナナシガリュウは猛然と落下!
「ギャオォォォォォォォォォォンッ!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
銀色の竜は先ほどと違い拡散させずにごんぶとビームで迎撃を試みる……が。
「切り裂けッ!」
ザシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
レプリカハイロウによってエネルギーを凝縮した光の刃は止められない!砲撃は易々と真っ二つに斬られてしまった!
「ギャオッ!!」
これは迎撃できないと判断したヴァイネイジは四枚の甲殻のような翼を羽ばたかせて後退。
ザァン!!
結果、光の刃は壊浜の大地に突き刺さった。
「ちっ!また外れか」
また舌打ちすると、またタイミングを見合せたかのように光の輪がバリンと音を立てて壊れ、それによって形成された刃も消失、つっかえ棒を失ったナナシガリュウは地上へと降り立つことに。
「ファーストアタックは失敗。ですが、こちらも被害なくヴァイネイジに接近することができました」
「ここまでは良くもないが悪くもないってことだな」
「ナナシ様、トラウマの方は?」
「若干刺激されたが、ナナちゃんは挫けない」
「お元気そうで何より」
「ギャオォ……!!」
「あっちはもう少し落ち込んでいて欲しかったんですがね」
「だな」
紅き竜の黄色い眼と、彼に片目を潰された銀色の竜の隻眼が交差する。
その目に奥に潜む感情ははからずも同じ。
自分を屈辱的な目に合わせた相手への怒りと、そいつに今からリベンジできる喜びの感情だ。
「ギャオォォォォォォォォォォンッ!!」
「やる気も殺意も満々。ですが今のワタクシ達なら、サンライズクロスなら」
「なるようになるだろ」




