流れ流れて……
「はぁ……!はぁ……!!」
ネームレスガリュウが草薙の剣で飛行船をぶった切っているその頃、彼に飛行能力を奪われたマリグマイナは潮に流れ、流されて、とある波止場まで来ていた。
「もう少し……もう少しで陸に!」
念願の大地に戻るために海から必死に手を伸ばす。その時……。
「手を貸そう」
波止場にいた三人組の男達、その中でも屈強な肉体を持った大男が手を差し出して来た。
「助かる……」
精神的に参っているマリグマイナは何の疑問も持たずにその手を取り、引き上げてもらった。
「はぁ……ようやくたどり着いた……」
「ご苦労様です」
「大変だったろ?」
「脚、折れてるんだろ」
「あぁ…………ん?」
自分を今しがた助けた男が奇妙な言葉を口走った。初めて会った人間が知るはずもない自らの体調について口にしたのだ。
「何でオレの怪我のこ……あぁッ!!?」
男達の顔を見たエルムズは桃色のマスクの下で青ざめた。
目の前にいる男達はこの国きっての戦士だったのだ。
「カツミ・サカガミとお付きの二人……!!」
「お付きってひでぇな。オレ達だって中々やるんだぜ」
「まぁ、カツミさんと比べたらあれですけど」
お付きの二人、カルロとシゲミツはのんきに笑った。
「てめえら……何故ここに……!?」
一方のマリグマイナは慌てて飛び起きると、距離を取り、身構える。そして気づかれないようにマシンと自らのコンディションを確認する。
「壊浜の一件を仕組んだ一味の一人がもしかしたらこの辺りに流れつくかもと匿名で通報があったんですよ」
「んで、ハザマの直属の部下やってたせいで壊浜には行けなくて暇してたオレらが駆り出されたってわけよ」
「結果は……この通りだ」
「あの野郎……!どこまでも……!!」
勝ち誇ったように笑う金髪碧眼の男を幻視して、エルムズは悔しさから歯噛みした。
「個人的にはオリジンズとの戦いよりもピースプレイヤー相手の方が燃えるから、ウキウキ気分でここまで来たのだが……なんか想像していたよりボロボロだな」
「ッ!!?」
「弱った奴をいたぶる趣味はない。投降するなら受け入れるぞ」
(舐めやがって……!だが、今のオレに勝ち目は……)
ググッ……
(背中のファンはまだ動かない。逃走は不可能……いや、仮に飛べても確かカルロとかいう奴はオレと同じく飛行型の使い手だったな。半端なスピードじゃ地上からの銃撃で撃ち落とされるし……ならば!)
グルゥン!!
(よし!右のファンは動く!これなら……!!)
「……黙ってないで返事を聞かせてくれないか?俺は今、とても腹が減っているんだ。飯を食いに行かせてくれ」
「残念だがあんたはしばらくまともに飯が食えなくなる……神凪の最強戦力の一人と数えられてるらしいが、いい気になるなよ!!」
ブオォォォォッ!!
高ぶる感情に呼応し、右腕のファンが高速回転!風のドリルを生成した。
「闘志は衰えずか……ならばその意気に敬意を表して相手になってやろう……エビルシュリンプ」
愛機の名を呟くと、首に下げられていたタグが光の粒子に、そして光の粒子が機械鎧に変わり、一瞬のうちにカツミの全身に装着された!
エビルシュリンプ、ここに降臨!
「そいつが噂のエビシュリ……」
「やっぱりやめるか?俺は全然構わんぞ」
「冗談!予定は変わったがてめえを倒して箔を付けてやる!!」
マリグマイナは残った力を注ぎ込んだ風のドリルを突き出した!
「ふん!」
それをエビシュリは正面から迎え撃つ!巨大な手甲に覆われた拳を真っ直ぐと打ち込む!
ガッ!!
ぶつかり合うドリルと手甲!その衝突の結末は……。
ブアサァァァァッ!!バギイィィィィン!!
相討ち!両者ド派手に弾け飛んだ!
「く――」
渾身の一撃が不発に終わり、集中力を切らすエルムズ。
「うおおぉぉぉぉッ!!」
「――そっ!!?」
一方のカツミは何も気にしてない!パンチを振り抜くと決めたら、ただやり切る!それがカツミという男だ!
ドグシャアァァァァァァッ!!!
「ぐ、ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
エビシュリの拳がマリグマイナの拳を粉砕!激痛が腕から全身に広がり、桃色のマシンは情けない声を上げながら狼狽え、後退する。
「手が!?オレの手がァ!!?」
「エビシュリの手甲を破壊的するとするとは……万全の状態でやり合いたかったな。まっ、結果は変わらんだろうが」
「て、てめえ……!!」
「そんなに凄んでももう俺は戦うつもりはない。さっきも言ったが弱っている奴をいじめたくない」
「なら、また投降しろとかほざくのか……!?」
「それはしない。チャンスは一度きり。断ったお前にその道はないぞ」
「だったら!!」
バン!バン!バァン!!
「――ッ!!?」
瞬間、エビシュリの背後から飛んで来た弾丸がマリグマイナを容赦なく貫いた!
ギリギリの状態で保っていたエルムズの意識だったが、三発も食らってはさすがに耐えられず、気を失い、受け身も取らずに仰向けに倒れた。
「俺は弱っている奴を攻撃するのは好きじゃないが、俺の仲間は違う。敵と見なしたら、相手の感情や境遇などお構い無しに弾丸をぶち込む。そうだろヨハン?」
エビシュリが振り返り、親指を立てると、遠く離れた建物の上にいるライフルを持った蝙蝠獣人もまた親指を立てて応えた。
「さて……ターゲットを捕獲したし、飯に行こうか」
「そのターゲットを然るべき所に届けてからね」
「飯もいいけど、本当に壊浜のオリジンズ討伐の助っ人に行かなくていいんすか?」
カルロの問いにエビシュリは首を横に振った。
「リブスとナナシ・タイランが動いているなら俺達の出る幕じゃない。助けになるどころか足を引っ張ることになる」
「付け焼き刃の連携は邪魔ってことか」
「あぁ。だから信じて吉報を待とう。あの二人なら……多分大丈夫だと」
「多分って」
「信じられてないじゃないですか」
二人はいまいちカッコつかない上司に呆れた。
「まぁ……どうしても行きたいというなら止めはせんがな」
「ん?何か言いましたか?」
「下らない独り言だ。それよりも飯だ飯。カルロ、そいつを運べ」
「へいへい」
そのカツミの呟きはとても小さく、シゲミツやカルロ、普通の人間には聞こえなかった。普通の人間には……。




