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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
ドラゴンライジング
315/324

ムーンライズ・アゲイン③

 先ほどまでの騒々しさが嘘のようにネームレスの空の旅は順調に進み、飛行船の隣に簡単に並ぶことができた。

(マリグマイナがあれば普通は十分だもんな。だが、俺を相手にするならもう少し航空戦力を用意しておくべきだったな)

 プレガンドは身体と翼を傾け、窓の側まで寄る。

(ここから入るか?それとも他に相応しい入口があるか?……言ってる場合じゃないか)

 マスクの裏のディスプレイの端にあるジェットパックのエネルギーの残量を横目で確認する。およそ三分の一ほどまで減っていた。

(予想以上に手間取ったからな。理想はこの飛行船をジャックして戻ることだが、もしもってこともある。ジェットのエネルギーを多く残すに越したことはない。なので)

「お邪魔します!!」


バリィン!!


 ネームレスプレガンドは普通のガラスよりも遥かに丈夫な素材でできている飛行船の窓を叩き割り、内部に侵入した。

(さてと……とりあえずシュショットマンが調べてくれた内部マップを)

 耳元に手を当て、ディスプレイに地図を表示するとそれを見ながら久しぶりに歩き出した。

(地面の感触が素晴らしいと思える。人間は歩いてなんぼだ)

 慣れない空中戦から解放されて若干気が緩んでいるようだ。まるで慣れた道を散歩してるかの如くのんきなことを考えている。

(やはり最後の獣封瓶で契約を交わすオリジンズは飛べる奴がいいな。こういう時に便利だ……こんなこと早々あってもらっちゃ困るがな)

 ついには心の中でセルフツッコミを入れながらドアを開けた。するとそこには……。

「待っていたぜ!ブラックドラゴン!いや、今は違うか!!」

 野心溢れる不良、タカセが待ち構えていた。

「その台詞、みんなで仲良く食卓でも囲んで考えたのか?ほぼ同じ事をさっき言われた気がするぞ」

 辟易しながらネームレスプレガンドはジェットパックを外すと壁に立て掛けた。

「そりゃあ悪かったな。昨日からあんたをどうぶっ殺してやろうかばかり考えていて、出迎えの台詞まで頭が回らなかった」

「無駄な努力を。貴様が俺を倒すことなど万が一にもあり得ん。思い上がるな」

「おれのこと、チンピラ上がりだと思って舐めてやがるな」

「その言葉が何より思い上がっている証拠だ。俺もお前も現在進行形でただのチンピラでしかない」

「はっ!確かにそう言われたらそうかもな。ならチンピラらしく……喧嘩と行こうか!!」

 そう叫ぶと、タカセは全身をみるみる変化させながら一直線に突進!古代にいた猪のような姿になって、白いピースプレイヤーの目前まで迫った。そして……。

「てめえを倒しておれは裏社会で成り上がる!!」

 勢いそのままに拳を撃ち下ろした!


ブゥン!!


 しかし、プレガンドはこれをあっさりと回避!側面に回り込むと……。

「夢を見たいなら寝てろ!!」

 猪獣人の後頭部にハイキック!


ゴッ!


 蹴りは見事にクリティカルヒット。いつもならこれで一発KOだ。

 いつものようにガリュウを装着していたのなら……。

「……何かしたか?」


ガシッ!!


「――ッ!!?」

 プレガンドのパワーでは、人間を超える強靭な骨格と筋肉の壁で守られたブラッドビーストの脳を十分に揺らすことはできなかった。気絶どころか体勢を崩すこともできずに、逆に脚を掴まれてしまった。

「おれと戦うにしては……非力過ぎねぇか!おい!!」


ブゥン!!


 タカセは力任せにプレガンドを投げた!壁に叩きつけるようにおもいっきり!

「だとしても貴様程度の奴には負けん!!」


ドン!!


 しかしプレガンドは空中で器用に体勢を立て直し、壁に足から着地してダメージを食らうことを回避する。

「ちっ!!口と器用さは据え置きか……だが!!」

 再び地面を蹴り一目散に突撃!文字通り猪突猛進にわき目も振らずに壁に張り付いたプレガンドにパンチを繰り出す!


ドゴオォォォォォン!!


 パンチ炸裂……壁にだが。ネームレスプレガンドは直前で跳躍し、またまた難から逃れていた。結果、タカセはその拳で壁にクレーターを作っただけだ。

「くそ!!ちょこまかと!!」

(そうしないとヤバいからな。奴のパワーだけは本物。プレガンドではとてもじゃないが耐えられん。一発も貰うわけにはいかないんだが……)

「ならこいつでどうだ!!」

 猪獣人は反転しながら、その回転の力を上乗せして蹴りを放った!


チッ!!


 本日初ヒット!とは言っても装甲の表面をなぞっただけなのだが……。

「くっ!!」

 たったそれだけなのに白いマスクの下のネームレスの顔が険しさを増した。

(やはり昨日よりも動きの無駄が減っている。あの身体に慣れ始めている証拠だ。このままブラッドビーストの最大の武器である反射神経にまで適応したら俺の勝ち目はない……!!)

 タカセから離れるように動いていたプレガンドが急遽方向転換!お株を浮かぶように獣の巨体の懐に突っ込んでいく!

「野郎!急にやる気になったか!!」

 タカセはタイミングを見計らいカウンターを放つ!


ブゥン!!


「くっ!?」

 しかし、それを読んでいたネームレスは姿勢を低くし回避!さらに……。

「よっ!!」


ガシッ!!


「ッ!!?」

 口元からそそり立つ牙を両手で掴むと……。

「せいッ!!」


ドゴオォッ!!


「――ッ!!?」

 強引に引き寄せて顔面に膝蹴り!巨大になった鼻から血が噴き出すが、お構い無しに……。

「まだまだぁ!!」


ドゴォ!ドゴォ!ドゴォ!ドゴォ!ドゴォッ!!


 膝蹴り!膝蹴り!膝蹴り!膝蹴り!膝蹴り!猪の顔面に狂ったように膝頭を叩きつけ、白い脚を真っ赤に染めていく!

(このまま決められるか?それとも……)

「いつまで……いつまでやってるんだよ!!」

 タカセは顔面に膝を入れられながらも必死に腕を伸ばし、プレガンドを捕らえようとした。

「本当に丈夫だな」

 けれどこれも不発。白のマシンはあっさりと攻撃を中断すると、再度間合いを取った。

「ぜぇ……ぜぇ……このくそ野郎が……!!」

 猪獣人は鼻に詰まった血の塊を噴き飛ばし、新鮮な酸素を取り込むと、腕を広げ姿勢を低くして構え直した。

「掴みに来るか」

「あぁ、力一杯抱き締めてやるよ……てめえの骨が折れる音を間近で聞くのが楽しみだぜ」

「お前の悪趣味に付き合ってやる気は更々ない」

 対するネームレスプレガンドも腕を、手のひらを広げて迎え撃つ準備をする。

「どこまでも自信満々だな。このおれと正面から組み合おうってのか?」

「お前なんかに策を講じる必要などない。真っ向から叩き潰してやる」

「甘いな。その考え……黒蜜とアンコをかけたショートケーキより甘い!!」

 覚悟を決めて今日何度目かの突進!宣言通りプレガンドを抱きしめるために覆い被さろうとする。

「甘いのはお前だ!!」


ガァン!!


 けれど、プレガンドは獣人の左腕を簡単に捌く!そして……。

「はっ!!」


ガシッ!


 右腕を両手で掴むと反転!敵の勢いを利用して投げ……。

「ふん!!」


グンッ!!


「――ッ!!?」

 投げようとしたが、タカセが踏ん張ったことで失敗に終わってしまった。

「ワンパターン過ぎるだろ!つーかおれのことをバカにし過ぎだ!昨日投げでKOされたのに警戒してないわけねぇだろ!!」

「ちいっ!なら!!」

 プレガンドはならばと回転しながら左の裏拳を放つ!しかし……。


ブゥン!!


「何!!?」

「へっ!!」

 タカセは軽快なバックステップで回避!それはまさしくネームレスが恐れていたことが現実になった瞬間であった。

(今の動きは間違いない……)

「ようやく……この身体の使い方がわかってきたぜ!!」


ガシィンッ!!


「――ぐあっ!!?」

 ブラッドビースト特有の鋭敏な反射神経を存分に使い、後退回避からの前進攻撃への切り替え!これにはネームレスも対応できず、先ほどのタカセの言葉通り抱きしめられてしまった!

「万事休すって奴だな!このまま背骨をへし折ってやる!」

「くっ!離れろ!!」

 プレガンドはバックブローで振り上げていたことが功を奏して唯一自由である左拳を猪の頭に撃ち下ろした。


ポスッ!ポスッ!ポスッ!


「はっ!何だそりゃ!!」

 しかし、腕の力だけで撃つパンチに威力などなく、衝撃を毛に吸収されてダメージを一切与えられなかった。

「くそ……これでも駄目か……!」

「もう詰んでんだよ、あんたは!!大人しくおれ様のパワーに押し潰されな!!」

「仕方ない。こうなったら……」

「まだ抵抗するの――」


バァン!!


「――か!!?」

 突然の発砲音、身体に走る衝撃、抜けていく力……。

 タカセはプレガンドを離すと、よろよろと後退りする。

「な、何が……?」

 恐る恐る衝撃を感じた場所に視線を下ろす。そこには……。

「ッ!!?」

 タカセの腹には小さな穴が開いていた。

 毛が焼け焦げ、白い煙を立ち昇らせ、真っ赤な血をドロリと垂れる穴が!

「お前……一体何を……!!?」

「仕込んでいた一発限りの隠し芸を使わせてもらっただけだ」

 そう言うと腰の横についていたこれまた煙が昇っている穴の空いた箱型の装備を取り外し、これ見よがしに振ってみせた。

「そいつは……銃か!?」

「銃というにはあまりにも射程が短いがな。お前ほど丈夫な皮膚を持っている奴にダメージを与えるにはほぼゼロ距離で撃たないと駄目だ」

「だとしたら……あんたはこうなることを見越して……」

 ネームレスプレガンドは首を縦に動かした。

「お前の性格からこういう展開になることは読んでいた。だが、他の奴らと違って貴様はいい様に使われているチンピラ……できることならもっと穏便に終わらせたかったんだけどな」

「な……!!?ずっと手加減していたってのかよ……!!?」

「センスは認めるが、今のところ、お前は俺が本気を出すレベルではない」

「策なんか使わないって言ってたじゃねぇか!!?」

「そういうところだぞ。敵の言葉を素直に信じるな、阿保が」

「こ、この野郎!!」

 屈辱に耐えられなくなったタカセは感情の赴くままプレガンドに殴りかかった……が。

「ッ!!?」


ブゥン!!


「銃の痛みで鈍った動きの攻撃など俺には当たらん!!」

 ネームレスプレガンドは容易く躱し、お返しにとカウンターを顔面に撃ち込む!

「おれの力はこんなもんじゃ!!」


ヒュッ!!


 タカセはなんとか痛む身体に鞭撃ち、顔を逸らしたことでパンチは躱した。パンチは……。


ガッ!!?


「――ッ!!?」

 パンチは躱したが、ツンと頭頂部から生えた耳に指を引っかけられてしまった。

「身体の使い方を理解したと豪語するなら、耳の位置が変わっていることを把握して回避しろ。でないと……こうなる!!」


ブゥン!ドゴオォォォン!!


「――がっ!!?」

 耳を引っ掛けた指で引っ張りながら、足をかけ、投げる!タカセの巨体が地面に叩きつけられ飛行船が揺れた!

「く、くそぉ!!」

「おっと」


ドサアッ!!


「――ぐっ!!?」

 すぐに起き上がろうとしたがプレガンドが上からのし掛かって阻止する!というかこの体勢は……。

「取ったぞマウントポジション」

「くっ!ぐうっ!!」

 タカセはじたばたと身体を動かし脱出を試みるが、怪我の影響か、血を流し過ぎたせいか力がうまく入らずうまくいかない。

「お前は確かに力を得た。特に丈夫さは目を見張るものがある」

「急に何を……!!?」

「けれど得てして長所と短所は背中合わせなものだ」

「だから何を言っているんだ!!」

「ここからは地獄だと教えてやったんだ。簡単に気絶できない自分のタフさを呪え」


ドグシャア!!


「――ブッ!!?」

 哀れなる獣に鉄槌が下された。ハンマーのように撃ち下ろされた拳が猪獣人の顔にめり込み、血が飛び散る。

 だけどネームレスの指摘通り丈夫なタカセは簡単には気を失わなかった。なので……。


ドグシャア!ドグシャ!ドグシャ!ドグシャアッ!!


「――ぐうぅ!!?」

 鉄槌!鉄槌!鉄槌!鉄槌!

 気を失わないので何度も何度も何度も拳を叩き込む!


ドグシャア!ドグシャ!ドグシャ!ドグシャアッ!!


「――ぐっ!?ギャッ!!?」

 牙が折れようと、衝撃で床にひびが入ろうと止まらない!ただひたすらに!ただがむしゃらに!撃ち……。

「……………」

 いつの間にかタカセは白目を剥き、赤い泡を口から吹いて、完全に意識を失っていた。

「思ったよりも早かったな」

 プレガンドは何故か少しがっかりしたような感じで気だるげに立ち上がるとマスクに付いた血液を拭い払う。

「これで雑魚の片付けは終わった。ここまでは順調と言ってもいいな」

 そしてグロッキーなタカセを一瞥もせずにそのまま次の部屋へ。

 ここまではほぼ計画通りのバトルを行い、涼しい顔をしているネームレスだったが、この先で彼は今までとは打って変わって、予想を遥かに凌駕する展開に直面し、激しく心を揺さぶれることになる……。


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