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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
ドラゴンライジング
311/324

堕ちる月

(ネームレスガリュウが奪われただと……!?)

 ネームレスは生まれてから一番と言うほど自分の鼓動が大きく聞こえた。

 だが、そのおかげで自分が思っている以上に狼狽していることに気づけ、幸いにも落ち着きを取り戻すことに成功する。

(落ち着けネームレス……まず確認すべきなのは……)

「シブヤと言ったな?今、お前は本当の――」

「本当の依頼とはどういうことだ!!?」

「――!!?」

 ネームレスがしようとした質問を代わりにシブヤに問い質したのは今まで狼狽えるばかりだったクワシマであった。目を血走らせながら詰め寄る。

「あれ?まだいたんですか?ミスタークワシマ」

「いるわ!お主らに依頼したのはわたしのはずだ!!」

「ええ、あなたの依頼も受けました。ですから壊浜に凶悪なオリジンズを誘い出して皆殺しにしようとしてるじゃないですか」

「そんな依頼はしていない!!わたしは再開発にとって厄介な住人が速やかに立ち退いてくれるように少し脅しをかけてくれと言っただけだ!!軍が出て来る事態など望んでいない!!」

「でも私達のやり方の方が手っ取り早くないですか?」

「貴様ら……!!このわたしに舐めた態度を取ってただでは済まんぞ!!」

「怖い怖い、どうか許してください……なんて言うと思いますか!!」


ドゴッ!!


「――ぐふっ!!?」

 シブヤカスタムはクワシマを容赦なく蹴飛ばした。直接戦闘よりも電子戦に特化しているといっても生身の人間とは比べものないパワーで依頼主の意識を一撃で遮断する。

「さて、うるさい虫には退場してもらったところで……あなたの聞き間違いではなく、私達の本当の目的はガリュウだったんですよ、ネームレスくん」

「くっ!?」

 これ見よがしに本来自分の手にあるべき黒い勾玉を見せつけられると、ネームレスは顔を強張らせ、拳を痛いほど握りしめた。

「私達の本当の依頼主は……守秘義務で言えませんが、彼の依頼を受けて私達は遥々神凪までやって来たのです。ミスタークワシマの依頼を受けたのはたまたま。都合が良かっただけに過ぎない」

「壊浜にオリジンズを送り込んだら、きっとそこと縁のあるGR02の所持者であるお前とGR01の所持者であるナナシ・タイランが介入して来ると思ったからな」

「ナナシガリュウの方も狙っていたのか……?」

「私達は依頼を達成するためにいくつかのプランを立てました。そのうち最もリターンの大きいプランがオリジンズと戦う二体のガリュウをまとめていただくというものです」

「私としてはリターンもデカいがリスクもデカいと感じていたので、お前があっちに行かなくて助かったよ」

「くっ!!?知らず知らずのうちに俺はお前達を喜ばす判断をしていたのか……!!」

 ネームレスはさらに顔を歪めた。けれどそうなった理由はさっきまでのシブヤ達への怒りではなく、情けない自分への憤りのせいであった。

「あなた一人を狙うパターンが一番成功率が高いと踏んでいました。それでも高く見積もって五分五分ってところでしたけど。実際に急遽仲間に加えたタカセくんはともかく、エルムズくんがあそこまで完膚なきまでにやられた時は失敗したと思いましたね」

「あまりに動きが拙いと思ったが、あのブラッドビーストは傭兵じゃなかったのか」

「ええ、タカセくんはここでたむろしていた不良の頭ですよ。何だか面白そうなのでスカウトしました。ちなみにブラッドビーストになったのはほんの三日前です」

(だったら自らのパワーに振り回されるのも当然か)

 ネームレスは猪獣人との戦いを思い出しつつ、不愉快なにやけ面を晒している小田に視線を移動させた。

「なら不良のトップだと紹介されたそいつが……」

「はい。彼こそ今回の依頼の要の傭兵です。あなたほどの戦士なら隠れていても見つかってしまうでしょうから、あえてボロボロの姿を晒し、油断を誘おうと」

「そのためだけに怪我をさせたのか?」

「報酬を考えれば安いもんさ。つーか、そんくらいしないとあんたを騙せないだろ?」

(ぐうの音も出ないな。こいつのプロ意識にまんまとやられた)

 折れた歯を見せて笑う小田の姿にネームレスは恐怖と若干の敬意を感じた。

「だが、どうやって俺の動きを止めたんだ?」

「教えるわけないだろ。企業秘密さ」

「そりゃそうか」

「小田くんの秘密は教えられませんが、GR02が勝手に待機状態に戻った理由は教えてあげましょう。私のキュリオッサーカスタムはコンピューターウイルスを撃ち込むことに特化したマシンなんですよ」

「やはりあの銃弾か……!」

 ネームレスは記憶を手繰り寄せるように自らの胸を撫でた。

「あの特製ウイルス弾を撃ち込まれたピースプレイヤーは抗体プログラムを保持していない限り強制シャットダウンし、待機状態に戻ってしまう。とはいっても即効性ばかり強化した結果持続性は弱いので、よっぽどの旧式でなければ一時的なもので二、三日もあれば回復してしまうでしょうがね」

「ならば、あらゆる毒やウイルスへの免疫を獲得できるガリュウなら間違いなく小一時間もすれば使えるようになるな」

「そう!その圧倒的な免疫能力こそがガリュウが狙われた理由なんですよ!!」

「なんだと……?」

「ネームレスくん、この世に完璧や無敵の存在なんてあると思いますか?」

「急に禅問答か哲学か?俺は幻想だと思っている。そんなものはあり得ない」

「私も同意見です。ですが完璧や無敵に限りなく近づくことはできると思っている。この依頼をした人間も同じ考えで、そうなる可能性をガリュウに見たんですよ」

「ガリュウが……」

「多彩な武器や再生能力に目が行きがちですが、受けた毒の抗体を作り出す力はよくよく考えるととてつもないことなのですよ」

「特級ピースプレイヤーの唯一の泣き所、精神攻撃も一度食らえば二度目以降は通じない可能性があるってのは、もっと評価してやるべきだ」

「実際に花山のバックアップの下、最新のウイルスに対して日夜、抗体を作り続けているナナシガリュウでしたら、キュリオッサーの力は無効化されて、待機状態に戻せなかったでしょうしね」

「今回の作戦でお前を狙うのが一番成功率が高いと思ったのはそういうことだ。そして案の定。GR02は我らの手に落ちた」

「なるほどな……!この事態は俺の怠慢のせいというわけか……!!」

 ネームレスはさらに自分への怒りを募らせ、小刻みに震えた。

「これが今回の依頼内容の全てとそれに対して私達が行った涙ぐましい努力の一部です。楽しんでいただけましたか?」

「あぁ、色々と勉強になったよ。お礼に半殺しで勘弁してやる」

「おやおや、まだやる気ですか?」

「当然だ。俺にはまだこいつが残っている!!」

 荒ぶるネームレスは数珠を着けた方の手を掲げ、そこに怒りの感情を注ぎ込みながら、高らかに叫んだ!

「喰らい尽くせ!ネームレスシュテン!」

 眩い光とともに数珠が紫色の機械鎧に、それがネームレスの全身を覆っていく。

 ガリュウと同じ素材で作られ、かつての同志ネクロから受け継いだ紫の鬼!ネームレスシュテン豪臨!

「忘れてなんかいませんよ。ただやることは同じなので勘弁願いたかっただけです」

 辟易しながらシブヤカスタムはライフルの銃口をネームレスシュテンに向けた。

「確かに免疫能力の高いガリュウに通じたのだから、そのウイルスはシュテンにも効くだろうな」

「ええ、先ほどの再放送です」

「いや、そうはならんさ。シュテンの装甲はガリュウ以上。そのライフルでは傷一つつけられん。さらに……」


ブオォォォォォォッ!!


「なんだと!?」

 ネームレスシュテンは炎を口から吹き出した……自分の腕に向かって。灼熱の炎はそこから燃え広がり、鬼の全身を覆った。

 いや……炎を纏ったのだ。

「鬼火纏い。炎と装甲の二重防壁、これでウイルスが入る余地は一切ない」

「実際にその通りでしょうね。今のままでは必殺のウイルス弾はあなたに届かない」

「今さら降参しようとしても遅いぞ」

「降参?まさか!よっぽどその炎に自信があるようですが、そんなもの私達からすれば、蝋燭の火と変わらない。風が吹けば消える程度」

「ほう……これを見てもそう言えるか!!」


ボオウッ!!


「熱っ!!?眩しっ!?」

 ネームレスの滾る感情に呼応し、炎が大きくなる。その気温を上昇させるほどの熱と光に生身の小田は思わず目を背けた。

「凄いですね。蝋燭の火というのは訂正します。キャンプファイアですね」

「まだ言うか……!!」

「ええ、いいますとも……私達には、彼のマシンには炎は一切通じない」


ブオッ!!ボッ……


「!!?」

 突然一陣の風が吹いたかと思ったら、一瞬でネームレスシュテンが全身に纏っていた炎がかき消された!

「何が起きた!?」

「へっ!これがマリグマイナの力だ!!」

 炎を消し飛ばした風の発生源は桃色の特級ピースプレイヤー、マリグマイナ。いつの間にか意識を取り戻していた彼は腕のファンから起こした風で鬼の炎を鎮火したのだ。

「少し言葉足らずでしたね。正確には私達の同志、エルムズの愛機マリグマイナの風の前ではあらゆる炎は蝋燭の火と変わらない。あのマシンから発生する風は炎という炎をたちまち消してしまうんです」

「なんだと……!?」

「そしてこいつのパワーなら、そのシュテンにウイルスを撃ち込むための楔を刻みつけることができる!!」

 マリグマイナは両腕から風のドリルを発生させながら、背中のファンで低空高速飛行!リベンジを胸に鬼となったネームレスに襲いかかる!

「ちっ!!」


ヒュン!!


「くっ!外したか……!!」

 しかしネームレスシュテンは大きくサイドステップして回避した。

「さっきよりも速い……!!」

「マリグマイナの本来の戦場は空!ここではオレが最強だ!飛んでいればてめえに折られた足も関係ねぇしよ!!」

 Uターンして再突撃!今度こそとドリルが唸りを上げる!

「偉そうに!速いが対応できないほどではない!」


ヒュン!!


 ネームレスシュテンは今回は地面を転がりながら回避。さらに……。

「喰らえ!!」


ボオッ!!


 起き上がると同時にマリグマイナの背後に向かって口から火球を吐き出した!

「話聞いてなかったのか!おい!!」

 マリグマイナはくるりと宙返り。逆さまになりながら腕から風を噴射した。


シュッ!!


 火球は風に触れた瞬間、跡形もなく消え去ってしまった……。

「炎を消せるというのは本当なのか……」

「そうさ!だからこうして上からてめえの手の届かない距離から攻撃すれば……嬲り殺しだ!!」

 桃色のマシンは倉庫の天井ギリギリまで上昇すると、真下にいる鬼に向かってさっきの意趣返しと言わんばかりに風の弾丸を発射した。


ボボボボボボボボボボボボボボボッ!!


「くっ!!」

 ネームレスシュテンはなんとかこれを避け続ける。逆に言えば避けることしか今の彼にはできなかった。

(炎が効かないなら奴を撃ち落とすことは不可能。跳躍して殴り倒そうにもこの弾幕では奴に到達する前に俺の方が撃ち落とされる……マジでこのままだと一方的に蹂躙される……!)

 打つ手が見当たらないネームレスシュテンはそれでもなんとか逆転の一手を見つけようと辺りを見回した。そして倒れているカネキに一瞬目が止まる。

「そろそろ彼を使うのもいい頃合いですか」

 皮肉にもその姿を見てシブヤは必殺の一手の発動を決断してしまった。

「マリグマイナ!カネキくんを狙いなさい!!」

「何!!?狂ったか!?気絶した仲間に攻撃しろなんて……」

「仲間?彼は鈴都で見つけたただのバイトですよ。ドラマの撮影をするから、エキストラとして手伝ってくれないっかてね」

「!!?」

「彼はそれを快く了承してくれた好青年ですよ。どっかの誰かさんはひどいことに蹴り飛ばしてましたけど」

「あいつも騙されただけだったのか……!?」

 無実の人間を傷つけてしまったという事実が強い罪悪感となってネームレスの心にのしかかる。

 こうなってしまってはシブヤの策が成ったも同然だ。

「悪いと思ってんなら今度は守ってやれよ!!」


ボボボボボボボボボボボボボボボッ!!


 マリグマイナはおやすみ中のカネキに風の弾丸を発射!

「くそ!!」

 彼を守るためにネームレスシュテンは盾になるように弾丸の前に立ちはだかる。


ガガガガガガガガガガガガガガッ!!


「ぐうぅ……!!」

 結果、シブヤの狙い通りネームレスシュテンはマリグマイナの攻撃を真っ向から受けることに。紫の装甲に無数のかすり傷が刻まれていく。

「これだけやってもその程度の傷しかつきませんか。あれではウイルス弾は撃ち込めませんね。ですのでマリグマイナ……」

「おう!もっとどデカい傷を刻んで来るぜ!!」

 マリグマイナは風の弾丸を鬼に浴びせかけるのを止め、再び暴風でドリルを形成し、接近戦を試みた。

(チャンスだ!近づいてきてくれるなら好都合!カウンターで仕留める!!)

 ネームレスシュテンは逆転を夢見て、拳を引いた。その瞬間……。

「あらよっと!!」


ガリッ!!


「な!?」

 マリグマイナは急停止したかと思ったら、風のドリルが伸びて、鬼の胸元に今までよりも大きな傷をつけた。

「はっ!風なんだからある程度伸ばせて当然だろ!!」

「くっ!?」

「このままちょっと押し込めばてめえは串刺し……ウイルス弾は必要ねぇな!!」

 マリグマイナはドリルの先を当て続けたまま前進!ネームレスの心臓を狙う!

「やられてたまるか!!」


ガッ!!ガリィィィィン!!


 しかしネームレスシュテンは即座に背後にいたカネキを掴み、移動し、串刺しの危機からは逃れた。串刺しからは……。

「おれのことを忘れてないか?」

「!!?」


ピタッ!!


(しまった!!?)

 マリグマイナの攻撃からカネキを守ることに夢中になっている間に小田が忍び寄っていた!

 回避先、鬼の横、少し離れた場所に立ち止まると、同調するようにネームレスシュテンの動きがピタリと止まってしまう。

「これでまた避けられねぇ!!」

「ナイスです小田くん」


バァン!!ガッ!!


 間髪入れずに放たれたシブヤカスタムのウイルス弾はできたてほやほやのネームレスシュテンの傷に見事に命中した。結果……。


パァン!!


「くっ!?」

 ガリュウの時と同じく装着者の意志に反してシュテンが勝手に待機状態、数珠の形態に戻ってしまう。

 ここまではガリュウが奪われた時とほぼ同じ流れ。つまりこの後に来るのは……。


ブゥン!!


「おっと」

「シュテンまで奪われてたまるか……!!」

 やはり先ほどと同じくフジナミヘイラットが数珠を狙っていたが、さすがに読んでいたネームレスは彼の魔の手から逃れた。逃れたが……。

「鬼さんもいいマシンですからできれば欲しかったのですが……まぁ、生身のあなたを始末してから奪えばいいだけの話ですよね」

(全くもってその通り。俺自身はピースプレイヤーと戦う力はない。だけど俺にはこいつらがいる……!)

 ネームレスはおもむろに腰に懐に手を……。

「おっと!動かないでください!」

「ッ!?」

「警告はしました。次、勝手に行動したら躊躇せずに撃ちますよ」

 シブヤカスタムは銃口をネームレスの胸に合わせた。

「もし大人しく従っていたら見逃してくれるのか?」

「私としては鬼さんさえいただければいいんで、それでも構わないんですが」

「私も目的は達した。そもそも戦えない人間を嬲るのは趣味じゃない」

「おれも興味無し。欲しいのはギャラだけ」

「オレも……許すわけねぇだろ!!脚をへし折られてんのによ!!そもそもてめえを倒して箔を付けるためにこの依頼を受けたんだよ!オレは!!」

「ここまで周りに助けてもらって俺を殺してもお前のキャリアアップにはならんと思うがな」

「はっ!裏の世界では結果が全てなんだよ!!どんな手段を使っても……勝てばいいんだよ!勝てば!!」

 マリグマイナは腕のファンをネームレスに向けると高速回転させ始めた。

(万事休すか……!)

「じゃあな、ブラックドラゴン……!!」

 風の弾丸が放たれ、ネームレスの命が断たれようとしたその時!


バァン!バァン!!ガァン!!バシュッ!!


「「!!?」」

「うおっ!!?」

「痛っ!?」

 突如背後からの銃撃!

 シブヤとヘイラットには命中せず、マリグマイナは後頭部に当たられるがダメージは無し、生身の小田は肩を貫かれた。

「新手か!?」

 反射的にマリグマイナは振り返ると、そこには……黒いピースプレイヤーの足の裏があった。


ゴッ!!


「――がっ!!?」

 マリグマイナの顔面を踏み台にしてジャンプ!黒いピースプレイヤーはネームレスに合流した。

「お前は一体……」

「あまりに遅いので迎えに来ました」

(ハタケヤマさん!!)

 声を聞いた瞬間、マスクの奥で優しく微笑む老紳士の顔が透けて見えた。

「どうやら当たって欲しくない予想が当たってしまったようですね」

「あぁ、不甲斐ないことにな」

「ここはひとまず撤退すべきかと」

「それしかないみたいだな。あなたはあそこでのびているクワシマを回収してください」

 ネームレスが指差す方向を横目で確認すると車中で写真を見せられた男が白目を剥いていた。

「了解しました」

「おい!オレが獲物をそう易々と逃がすと思うか!!」

「誰だかわかりませんが、そのバカそうな喋り方からして……大丈夫でしょ」


ブウオォォォォォォォォォォォォォッ!!


「――ッ!!?煙幕か!!?」

 ハタケヤマの黒いピースプレイヤーの腰から白い煙が噴射!倉庫中を包み込んで、ネームレス達の姿をシブヤ達の視界から隠した。

「こんな子供騙し!マリグマイナの前では無意味なんだよ!!」


ブオォォォォォッ!!


 桃色のピースプレイヤーは両腕のファンを全開で回転させ煙を吹き飛ばした。

 そして再び白いカーテンが消えてクリアになったエルムズの視界に飛び込んで来たのはネームレスとカネキを背負う一本角の灰色のオリジンズであった。

「へ?」

「グルアァァァァァァァッ!!」


ドゴォン!!


「――ぐへっ!!?」

 マリグマイナ轢かれる!ネームレスがアーティファクト獣封瓶で契約を交わした僕の一匹、一本角アベルウスのグレイ丸の体当たりを食らって吹き飛ばされた!

「よくやったグレイ丸。僅かだが溜飲が下がった」

「グルアァァッ!!」

 グレイ丸はそのまま四本足で地面を疾走し、倉庫の外へと飛び出して行った。

 そして彼の仲間、黒いピースプレイヤーとクワシマも煙と共に見る影も無くなっている。

「最後の最後でしてやられましたね」

「情報を収集する仲間くらいはいると思っていたが、戦場に出てくるような奴まで抱え込んでいたとは予想外だった」

「あれはミェフタの隠密偵察能力強化モデル『チェーニ』ですね。あまりミェフタのマシンは評価していませんでしたが、気づきませんでしたよ」

「マシン以上に中身が優秀だったんだろう。さすが罪深き牙の眷属というべきか」

「感心してる場合か!!とっとと追わねぇと逃げられちまう!!」

「別にそれでいいじゃないですか」

「あ?」

「目的の物は手に入れたんですから」

 シブヤカスタムは黒い勾玉を見せびらかした。

「そりゃそうだがあの野郎のことだ、このまま泣き寝入りなんてことにはならねぇだろ。きっとそいつを取り返しに来るぞ」

「その時はまた迎え撃てばいいだけのこと。あなたの真の望みもそこにあるのでしょフジナミさん?」

 シブヤカスタムが勾玉を投げ渡すと、フジナミヘイラットは力強く握りしめた。

「あぁ、もし奴が来るなら……今回以上の地獄を見せてやる……!!」

 マスクの下でフジナミは普段の冷静さとは真逆の狂気に満ちた醜悪な笑みを浮かべた。

 いくつもの苦難を共に乗り越えた愛機を奪われる……初戦はネームレスの完敗で幕を閉じた。


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