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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
ドラゴンライジング
308/324

その頃の黒き竜

 神凪の紅き竜、ナナシ・タイランが花山重工で壊浜に襲来したヴァイネイジ討伐の作戦会議をしている頃、もう一人のガリュウの所持者、壊浜出身の黒き竜、ネームレスはとある倉庫街に来ていた。

「わたしの情報だと……あそこっすね」

 車の助手席から一見すると可憐な……多分可憐な少女、実際は凄腕の情報屋シュショットマンが奥の方に見える一際古びた倉庫を指差した。

「では、この辺りで」

 彼女の言葉を聞いた気品溢れる運転手、神凪が誇る財閥キリサキファウンデーションの当主レイラ・キリサキの優秀なる秘書の一人、ハタケヤマはどこぞの暴走老人とは違うぞと正確にブレーキを踏み、車を停止させると、そのまま逆方向にバックからの鮮やかなハンドル捌きで旋回し、別の倉庫の影に車を隠した。

「それじゃあ最終確認をしておきたましょうか」

 シュショットマンは傍らにあったタブレットを手に取り、操作し、ある画像を表示させると、後部座席の金髪碧眼の男に手渡した。

「こいつがこの事件の黒幕か……!!」

 画面に映ったいかにも陰険そうな痩せ細った男を見ると、ネームレスは自慢の金髪を逆立つんではないかと思うほど、沸々と胸の奥で怒りのマグマを滾らせた。

「お気持ちはわかりますけどタブレットは壊さないでくださいね」

「……わかっている」

「それなら結構。改めてそいつの名前は『クワシマ』。壊浜の再開発計画にも名を連ねる『梶浦建設』の幹部です」

「今朝レイラお嬢様に確認したところ、その名前には覚えがあると」

「彼女の耳に届くほど優秀なのか?」

「優秀と言えば優秀ですが……」

「あまり褒められたタイプの優秀さではないか……」

「はい」

 バックミラー越しにハタケヤマはネームレスの言葉に頷き、肯定の意思を示した。

「わたしが調べた限りでも、彼の成果はかなり強引で限りなくグレーな方法で得たものばかりっすね。ヤクザに脅迫させて、土地を買い叩いたり、ボケ始めの老人を騙して、これまた土地を買い叩いたり」

「そして今回も壊浜開発のためにその手を汚そうとしているわけか」

「ええ。どうやら今も壊浜に住んでいる人達が死んでくれれば保障やら交渉やらの手間が省けると思ったらしいっすね」

「それで取った手が傭兵を雇って、意図的にオリジンズ災害を引き起こすですか……」

「クズが……」

 自然と指に力が入り、タブレットがミシミシと軋んだような音が車の中に響く。

「ネムさん」

「……すまない。俺としたことが熱くなり過ぎだな」

 少女に諌められたネームレスは身体から力を抜くと、内部に溜まった熱と不愉快な感情を放出するように深呼吸をした。

「まぁ、そうなるのも仕方ないかもしれないっすけどね」

「生まれ故郷を最悪の形でもて遊ばれてるわけですから」

「でも、それならあっちに手助けにいかなくて良かったんですか?そっちの方が気持ち的にはスッキリするでしょ?」

「向こうにはナナシ・タイランが向かったのだろう?なら、あいつに任せる」

「信頼してるんすね」

「そうじゃない。あのアホがミスったら俺がこの手でぼこしてやろうと覚悟しているだけだ」

「……ネムさんとナナシ・タイランの関係って、ライバルというより、お互いがお互いの厄介ファン兼強火アンチって感じっすよね……」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何も。ネムさんがそう決めたならそれでいいっすよ」

「わたくし達はあなたの望んだ結果を得られるように全力でサポートするだけです」

「いつもすまないな……二人には感謝している」

 数々の苦難を乗り越え、ネームレスは情報屋と助っ人秘書に対して強い信頼感情を寄せていた。ナナシに対するひねくれたものではなく純粋な信頼を。

「面と向かって言われると照れるっす……」

「ですね」

 そしてそれは二人も同じ。最初はただの仕事の一つだったが、今は神凪のために自らが傷つくこと厭わずに戦い続けるネームレスを心の底から支えてあげたいと思っている。

 皆が皆、このチームなら今回の一件も速やかに解決できると思っていた。

「えーと……こんなハートウォーミングな空気を醸し出してる場合じゃないっすよね」

「だな。話を戻そう」

「さっきわたしが指差した古びた倉庫でクワシマと傭兵達が報酬のやり取りをするようっす」

「なら、大して人数はいないな」

「いえ、あそこは普段は不良のたまり場なんでもしかしたら」

「わけもわからず巻き込まれているか、もしくは仲間に引き入れられているか……ですね?」

「特に騒ぎが起こってる様子もありませんし、わざわざここを選んだってことは後者かと」

「本物の命懸けの戦いをしたこともなく、する覚悟もない奴がいくら集まろうと俺の敵ではない」

「そこら辺は全く心配してないっすよ。わたし、ネムさんが最強だと思ってるんで」

「買いかぶるな。世の中には上には上がいる」

 そう言いながら嬉しさを隠し切れないネームレスは僅かに口角を上げた。

「ちなみにこの際なんで前から聞きたかったこと一つ聞いていいっすか?」

「別に構わんが、年齢や誕生日は俺自身もわからないので答えられんぞ」

「そういうのじゃなくてサンバレ……ネームレスガリュウでも太陽の弾丸を使えないんすか?あれが使えれば倉庫ごと吹っ飛ばして悪党を一網打尽にできるじゃないっすか」

「物騒な奴だな」

「ですがそれが一番効率がいいのも事実。実際どう何ですか?」

「ナナシガリュウの代名詞をネームレスガリュウで……無理だな」

「どうして?同じ素材、同じ設計で作られたガリュウなら理論上は使えてもおかしくないはずっすよね?」

「肝心の中身が全然違う」

「中身……技量、いや性格の違いが影響してると?」

「あぁ、さらに正確に言うと思想と理想の違いだな」

「思想と理想の違い?」

 何がなんだかわからずシュショットマンは頭の上に?マークを浮かべながら、首を傾げた。

「知っての通りガリュウは感情を力に変える特級ピースプレイヤーにカテゴリーされるマシンだ。使う技も装着者の心、性格に大きく左右される。俺自身も最初は大雑把な奴と神経質な俺の違いが力の発露に影響してると思っていた。けれどよくよく考えてみると奴も妙に細かいところがあるし、俺も案外適当でそこに差はない気がしてきた」

「「あぁ……」」

「あっさり納得されるとムカつくな……」

 ネームレスは眉間にシワを寄せ、あんな奴と一緒にされるのは不本意だと分かりやすく表明した。

「いえ、そうじゃなくてさっき言った通り同じ素材で作られているんだから適合する人間の性格が似ているのは当然かなって……そういうことにしておいてくださいっす」

「それよりも続きを」

「なんか誤魔化されている気がするが……俺は色々考えた結果、奴と俺では想定している戦場が違うことに気づいた」

「戦場っすか?」

「奴は軍人の子。きっと子供の頃から想像していた仮想敵は祖国に押し寄せる侵略者やオリジンズの群れだ」

「まぁ、そうなのかも」

「俺はそうだと判断した。そしてだからあいつは心のどこかでそいつらをまとめて倒せる一騎当千の力を求めていたのではないかと」

「なるほど。それで広範囲攻撃が発現したと」

「ワンマンアーミー呼ばわりされることもあるっすけど、ナナシ・タイラン的にそれこそが理想の戦士の姿だったってことっすね」

「片や俺の敵は食い物を盗んだり、憂さ晴らしのために喧嘩を売って来るチンピラだからな。多くても十人程度の相手を路地裏で……あそこまでの広範囲攻撃は必要ない」

「むしろ使い勝手が悪くて、できても困るでしょうね」

「当時の俺はな。とにかく一人一人を速やかにどう無力化することばかり考えていた」

「言われてみればネームレスガリュウの戦い方は一対一をメインに組み立てられている気がしますね」

「実際そうだ。まぁ、最近は囲まれることも多いから表面上は俺の意識も変わって来ていると思うが、それでも根っこの部分は揺るがないだろう。なので俺にはサンバレは一生使えんだろうな」

 ネームレスは自分の言葉を噛みしめるように腕を組みながら力強く頷いた。

「じゃあ仮にナナシ・タイランと同じような理想を描く人間がネームレスガリュウ……GR02を装着すれば、サンバレを撃てるかもしれないってこと?」

「理論上はあり得るだろうな。ガリュウは装着者の願いに応えてくれるマシンだからな。まぁ、俺がガリュウを誰かに譲ることはないから、検証できないが」

 そう言いながらネームレスはタブレットを椅子に放り、車のドアを開き、外に出た。

「行くんすね」

「あぁ、俺の今の願い……故郷を踏みにじったチンピラどもを懲らしめて来る」

 ドアをバンと勢い良く締めると黒き竜に選ばれた男は再び心に怒りのマグマを燃え滾らせ、再び戦場に歩み出した。

 この先に思いもしない最強最悪の敵と対峙することになるとは知らずに……。


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