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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
ドラゴンライジング
305/324

呪われた地③

 カズヤという男はとても勇敢な人間である。

 子供の頃から自分や仲間を無下に扱うような相手にはどれだけデカい相手でも一切恐れを見せずに飛びかかり勝利を収めてきた。

 そんな彼がネクサスとの出会いを経て、グノスとの戦争、ネオヒューマン、ガブとの決戦を乗り越えたのだから、その胆力には磨きがかかり、どんな状況にも揺るがぬ強靭な精神を手に入れている……はずだった。

「なんだよこいつは……!!?」

 実際、彼がこれほど動揺したのはかなり久しぶりだった。当然、彼自身が望んでいるわけではない。けれどどうしても……どうしても生物としての根源的な恐怖心が“それ”を見ていると呼び起こされ、鍛え抜かれた鋼の精神が綻び、油断していると全身が震えそうになった。

 目が合っただけで人を殺せそうな鋭い眼光。

 どんなものでも一声で怯ませるような声を発せられ、どんなものでも食せるであろう牙がびっしりと並んだ大きな口。

 あらゆるものを貫けそうな鋭い角、それに負けず劣らずの鋭角な背鰭。

 一枚一枚が甲羅のようにも見える分厚い四つの翼。

 オオカゲートのものがひどく貧弱に感じられる直径だけで人間の身長ほどある太い尻尾。

 そしてそれら全てを支える逞しい四本の脚に、その先から生えている刀剣のような爪。

 神々しささえ感じられる鈍い銀色に輝く全身。

 おぞましくも美しいドラゴンのようなオリジンズ……それが久しぶりにカズヤに“恐れる”という感情を思い出させてくれた。

(俺はこいつには……勝てない……)

 数え切れないほどの戦いを経験した彼の直感が敗北を予感した。いや、そんなもの経験してなくても、きっとこの状況に陥ったら誰しもがそう思い、我を忘れて逃げようとするだろう。けれどカズヤはなんとかその場に踏みとどまった。全ては故郷のために……。

(ここが壊浜じゃなかったら、恥も外聞もなく逃げの一択なんだけどな……腐ってもここが俺の生まれ故郷、こいつを野放しにすることはできない……!!)

 幸か不幸か彼の郷土愛とこの場所の顔役であるというプライドが闘争本能を呼び起こし、恐怖を凌駕、謎のドラゴンと戦うことを決意させた。無惨な敗北の未来を心の奥底に封じ込め、仮初めの勇気で塗り潰した。

(こいつを倒す手段は俺にはない。だが、別に倒す必要はないんだ。ここから追い出せばいいだけの話。少し痛い目を見れば、きっとあのぶっとい尻尾を巻いて逃げてくれる……ってのはさすがに楽観的に考え過ぎな気もするが、それにすがるしかないのが今の俺の現実だ!!)

 覚悟を決めたホムラスカルは疲労で重苦しい腕に鞭を打ち、二丁のマシンガンを謎のドラゴンに向けた。そして……。

「効いてくれよ!!」


ババババババババババババババッ!!


 引き金を押し込み、弾丸を乱射!先ほどまでと打って変わって節約など一切考えずにありったけの弾を垂れ流した!並みのオリジンズなら全身を細切れにされるほどの圧倒的な破壊力の攻撃だ!しかし……。


キンキンキンキンキンキンキンキン……


「ギャオン……」

「くっ!!?」

 カズヤの願いも虚しく、謎のオリジンズには一切効かず。鋼のような体表は見た目通り鋼のように、いや鋼以上の硬度を誇り、弾丸をいとも簡単に全て弾き飛ばした。

(硬そうだとは思っていたがまさかここまでとは……だが、空中にいるあいつへの攻撃手段はこれしか……)

「ギャオン……」

「え?」

 謎のオリジンズはゆっくりと、まるでマシンガンの乱射など受けてないかの如く悠然と高度を落とし、地上へと降り立った。

「どういうつもりだ……?偉そうに上で構えていた方が有利だろうに。飛ぶのに疲れたのか?それとも俺に合わせてくれたのか?ハンデのつもりか?だとしたら……舐めた真似してんじゃねぇよ!!」


ババババババババババババババッ!!


 その行為を自分への挑発と捉えたホムラスカルは相も変わらずマシンガンを乱射しながら突撃!びちゃびちゃと自分が撒き散らしたコリモット達の肉片と血液を踏みつけながら、謎のドラゴンへと疾走した!

(さぁ、そろそろ射程に入るぞ。噛みつきに来るか?踏みつけに来るのか?それとも……)

「ギャオォォォォォォォォォォン!!」

 謎のドラゴンはその場で回転!先のオオカゲートのように太く逞しい尻尾での薙ぎ払いを敢行した!

「鱗野郎はそう来るよな!!」


ヒュッ!ドッ!!


 けれどその動きを察知していたホムラスカルはタイミング良く軽く跳躍し、迫り来る尻尾に飛び乗った。

「よっしゃ!このままあそこに!!」


ババババババババババババババッ!!


 ホムラスカルはマシンガンを足下に撃ち続けながら、ドラゴンの尻尾から背中へと走り、そのまま首を駆け上がった。

「ギャオォォォォォン!!」

「おっと!!どんなに嫌がっても落ちてなんかやんねぇぞ!!」

 身体を這うむず痒さを振り払うために身体を揺らすドラゴンだったが、ホムラスカルは銀色の鱗の継ぎ目にしっかりと足をかけ、どんどんと登って行く。

「踏み台にさせてもらうぜ」


ガッ!!


 頭頂部までたどり着くと、力一杯踏み込み跳躍する……前方に。

 そしてそのまま頭を下にして落下。上下逆さまになりながら、再びドラゴンと目を合わせた。

(鱗が貫けないなら、目を狙うしかねぇよな……!!)

 カズヤが見出だした勝機とは目潰しであった。

 視界を失えば、このふんぞり返っているドラゴンも慌てふためきこの壊浜から出て行ってくれるだろう……そう願いながらホムラスカルは引き金を引……。

「喰ら――」

「ギャオォォォォォォォォォォン!!」


ブオォォォォン!!!


「――え!!?」

 引き金を引こうとした瞬間、ドラゴンは大きな口を開いて咆哮した!それに伴い発生した息は矮小な人間にとっては暴風と変わらず、至近距離でもろに受けたホムラスカルはマシンガンを撃つ前に、為す術なく吹き飛ばされた。


ドガッシャン!!


「――ぐっ!!?」

 そしてスクラップの山に凄まじい勢いで叩きつけられる!山は崩れ、ネジやらビスやら飛び散り、それらが地べたを転がるホムラスカルのオレンジの装甲に雨のように降り注いだ。

(一喝しただけでこの威力かよ……!?とてもじゃないがホムラスカルじゃ太刀打ちできない……!だとしてもノームで――)

「ギャオン……!!」

「――も!!?」

 急に暗くなったと反射的に上を向いたら、ドラゴンの腹があった。しかもそれはどんどんと大きくなっている。つまり……。

「全身で俺を押し潰す気か!!?」

「ギャオォォン!!」


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!


 壊浜全体が揺れた。その巨体にこれでもかと圧縮された質量が落下し、局所的な地震を起こしたのだ!もしその下敷きになっていれば、誰であろうとただでは済まないだろう……。

「ギリギリ……!!」

 だが、ホムラスカルはかろうじて落下地点から離脱していた!まさに九死に一生を得たカズヤの顔と心が僅かに緩む。

「ギャオォォォン!!」

 そんな彼に容赦なく追撃!先ほどのようにその場で旋回し、尻尾での薙ぎ払いを繰り出した!

「芸がないな……」

 ならばまた同じように避ければいいと、ホムラスカルは跳躍のために両足に力を込めた。


ヒュッ!


「え?」


ゴッ!!ドゴオォォォォォン!!!


 動き自体は先ほどと何ら変わらない。けれどその速度は全くの別物であった。

 文字通り目にも止まらぬスピードでカズヤの視界から尻尾が見えなくなったと思ったら、全身に衝撃が走り、気づいたらスクラップの山を二つ貫通して、ドラゴンからずいぶんと離れた場所で、またまた地面を転がっていた。

「ぐっ!?もう少しノームにチェンジするのが遅かったら、全身バラバラになっていたな……」

 地に這いつくばっているのは重厚なブラウンのピースプレイヤー。カズヤはあの追い詰められた状況で咄嗟に装着するマシンを変更しており、そのおかげで命をこの世に繋ぎ止めていたのだ。

(だがダメージは甚大……一発でノームはひびだらけだし、俺自身の骨も結構な数イカれてる……)

 生きてこそいるが、決して助かったわけではない。事態は何も好転していないのだ。普通の人間ならここで諦めるか、精神に支障をきたす最悪の場面。なのにカズヤという男は……。

「それでもやるしかねぇよな……!!」

 カズヤという男は立ち上がる。ガクガクと膝を揺らしながら、まともに構えも取れないというのに、彼の闘志は死んでいないのだ。

「ここは国から捨てられた街だ。こんな有り様でもずっと放置され続けてきた。でも、最近ようやく復興の道が見えて来たんだ。それを閉ざすわけにはいかない……オリジンズに蹂躙される歴史ばかりを積み重ねるだけの呪われた地には絶対しねぇぞ……!!」

「ギャ……」

 鬼気迫るノームの姿に圧倒的優位にあるはずのドラゴンが気圧され、思わずたじろいだ。

「なんだよ……ビビってんのか?」

「ギャオ……」

「恥ずかしがることなんかねぇよ……手負いの獣ほど怖いものはないからな。俺も絶対にただでは死なねぇぞ……!!」

「ギャオォォォォォン!!!」

 刹那、ドラゴンはノームのことを倒すべき敵だと認識した。全力をもって排除すべき敵だと。そしてその意志を実行するためにスクラップを踏み潰しながら、走り出した!

「来るか……!!」

 身構える……いや、身構える体力の残ってないノームはそれをただじっと睨み付けた。それがせめてもの抵抗であった。

「ギャオォォォォォォォン!!」

(最後の力で体当たり一つでもかましてやる……!なにがなんでも僅かでもダメージを――)

「太陽の弾丸 (サンシャイン・バレット)」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「ギャ!!?」

「――あ!!?」

 二人の間に突如として光と熱の奔流が通り過ぎた!

 ドラゴンは後ろに跳躍し逃げ、ノームはその場で立ち尽くした。

「今の攻撃は……」

「ギャオン!!」

 一人と一匹が光が放たれた方向に視線を向けるとそれは立っていた。

 十字架を背負い拳銃を構えた真紅の竜が。

「やるんならドラゴン同士でやろうぜ」

 ナナシガリュウ・クレナイクロス見参!


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