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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
力の行き場
299/324

報われるのは……

 青のヒーロー忍者サイゾウ・皆伝の装と竜と見紛う金色の蜥蜴、スーパーブラッドビースト、ノクボの最終決戦。先に動いたのは……。

「先手必勝!!」

 サイゾウであった。刀を斜め下に構えながら、敵の懐に飛び込む。

「正面から来るか!高潔さは認めるが、このおれ相手にそれは……馬鹿の所業だ!!」

 対するスーパーノクボは足を肩幅に開いて渾身のカウンターパンチを繰り出……。

「んなわけあるか」

「!!?」

 サイゾウが消える!いや、忍者はノクボの視界の外に出ただけだ。彼の視線の下、スライディングで、畳の上を滑りながら今も蜥蜴獣人に近づいている!

「おりゃ!!」


ザザンッ!!


 サイゾウはそのままノクボの股下をくぐり抜け、通り過ぎ様、刀と腕についた刃でふくらはぎの内側を斬りつけた!しかし……。

(浅い!!)

 スライディングの勢いを利用した強烈な斬撃だったはずなのだが、結果はスーパーノクボの黄金の鱗の表面を少しだけ傷つけ、ほんの僅か血を流させることしかできなかった。

(マットンほどではないが、こいつの鱗もかなり強固だ。こいつはまた骨が折れそうだな……)

 辟易しながらノクボの背後で立ち上がり、即座に振り返って追撃しようと……。

「はあっ!!」

「ッ!!?」

 振り返れば黄金の尻尾がいた!それ自体が上質な筋肉の集合体と言っても過言ではない力の塊が、凄まじい速度とパワーでサイゾウの顔面に突きを放つ!

「この!!」

 けれど青の忍者はブラッドビースト顔負けの凄まじい反射速度を発揮!頭を逸らしながら、迫り来る尻尾の側面に刀を押し当てた!


ガッ!!ギギィーーーーーッ!!


「ぐっ……!!」

 刃と鱗が触れた瞬間、激しい火花が散った!

 それだけ凄まじい威力の突きだということだが、サイゾウは刀の背をもう一方の手で支えることで、なんとか尻尾の軌道を変えることに成功!事無きを得……。

「よく防いだ……だが、これはどうかな!!」

 一難去ってまた一難!スーパーノクボは突きが防がれたならばと、今度は尻尾を振り抜き、サイゾウの胴体に叩きつけた!

「ほっ!!」


ブゥン!!


 しかしサイゾウは体操選手のようにアクロバティックに空中を側転し、尻尾を飛び超す。

 そしてサイゾウが畳の上に着地と、ノクボが尻尾の反動で反転し終えるのと、両者の視線が交差し、拳を振り抜くのはほぼ同時だった。

「はあっ!!」

「でやあっ!!」


ヒュッ!!ゴォン!!


 放たれた蜥蜴のパンチは忍者が頭を最小限だけ動かしたことで再び躱され、忍者のパンチは蜥蜴の強固な鱗で覆われた腕でいとも容易くガードされた。

「やるな。マットンを倒しただけはある」

「あんたもな。その金色はメッキだと思ってたぜ」

「生憎、この輝きははったりじゃない。貴様の貧弱な拳など痛くも痒くもないわ」

「だったら、こいつはどうだ!!」


ボボッ!!


「――ッ!!?」

 密着した状態から針を発射!鱗を貫くことはできなかったが、僅かにガードを崩し、動揺を与えた!

「あんたもマットンと一緒に俺のキルスコアに刻まれな!!」

 サイゾウは間髪入れずに刀で突きを放つ!

「断る!」


ガッ!ギィン!ガッ!!


「くっ!!」

 けれどノクボはスーパー化したことで生えた角で刃を受け止めると、器用にサイゾウの手から絡め取った!主人から離れた刀は天井に突き刺さる。

「惜しかったな」

 スーパーノクボ、反撃のミドルキック!


ヒュッ!ガシッ!!


「――ッ!!?」

「惜しかったな」

 サイゾウは跳躍して回避!さらに天井に刺さった刀を再び手に取った!

「キックってのはこう撃つんだよ!!」


ガンガンガンガンガンガン!!


「ぐっ!?」

 そのまま刀にぶら下がり、ノクボの頭に蹴りを浴びせかけるサイゾウ!


ガシッ!!


「――うおっ!?」

「人の頭をずけずけと……!!」

 だが数発で見切られ、足首を掴まれてしまう。

「これだから神凪人は嫌いなんだ!!」


ブゥン!ドゴォン!!


「――がはっ!!?」

 そして力任せに畳に叩きつけられる!刀が天井からすっぽ抜けたと思ったら、強い衝撃が背中を貫き、肺の中の空気を押し出した!

「やられたらやり返す……それがおれの流儀だ!!」

 倒れるサイゾウに追い打ちの踏みつけ!スーパーノクボの全体重とそれを支える筋力をもろに食らえば内臓が潰され、絶命必至だ!

「獣に踏まれて喜ぶ趣味はない!!」


ブシュウゥゥッ!!


「――ッ!?」

 ならば当たるわけにはいかないと忍者は腰の横から煙を噴射し、蜥蜴獣人の視界を塞いだ!


ドゴォン!!


(生き物を潰した感触が……ない)

 踏みつけ攻撃は結局、重要文化財の畳一枚を粉砕するだけで終わった。

 では、本来のターゲットはというと……。

(ここから攻めるのが、一番いいかな?)

 サイゾウはとある理由で背後ではなく、スーパーノクボのサイドに回り込んでいた。

(見慣れてない尻尾よりも腕の方が対処しやすい。ストレート、アッパー、フック、裏拳……何でも来いってんだ!!)

 対人間は嫌というほど経験している自分なら腕から繰り出される攻撃には十分対応できる。その考えは決して間違っていなかった。尻尾を避けたのも正しい。

 ただアツヒト・サンゼンの唯一にして最大の失態は、ここが畳の上であることを軽視していたこと……。

(もらった!!)

 首の横、頸動脈を貫くように、真っ直ぐと切っ先を突き出すサイゾウ!

「そこか!!」

 その殺気を察知したスーパーノクボは……畳と畳の間に足の指の爪をねじ込んだ。

「おりゃあッ!!」


グオン!!


「――な!?」

 爪を引っかけ、サイゾウの乗っている畳をひっくり返す!青い忍者は体勢を崩し、さらには畳が壁となったことで、スーパーノクボの姿を見失った。

(ミスった!文字通り足元を掬われた……って言ってる場合か!!奴はどう出る!?右か?左か?いや、奴なら!!)

 サイゾウは身動きが取れない空中で刀を投げ捨て、両手を身体の前に出した。

「オラァッ!!」


ドォン!!


 金色の蜥蜴が畳を腕で払いのけ、再び忍者の前に姿を現す。もう一方の手を固く握りしめながら……。

(やはり正面!予想通――)

「どりゃあぁっ!!」


ドゴォン!!


「――り!!?」

 ノクボの拳はサイゾウの両腕の間を通り抜け、見事命中!青の忍者は砕けた追加装甲を身体からばらまきながら、襖を壊し、情緒溢れる庭まで吹き飛んだ!

(くっ!?予想以上のパワーだ……これは肋骨が折れたな……)

 スーパーノクボのパンチの衝撃は皆伝の装を貫通し、サイゾウ本体、さらにその奥のアツヒトの骨にまでひびを入れていた。身体を起こすが、ちょっと胴体を動かすだけで激しい痛みが全身に走る。

「予想以上だな、神凪の……」

 そんな彼の前にゆっくりとノクボが歩いて来る。屋敷から庭に、腕から血を垂れ流しながら。

 先ほどサイゾウを殴った腕は何と肘近くまでぱっくりと裂けているのだ。

「さっきのは……ワイヤーか?」

「ご名答。さすがに目がいいな」

 サイゾウは手の内側からだらりと目を凝らさないと見えないほどの極細のワイヤーを出した。

 攻撃を受ける直前、彼は回避は不可能と判断。ならばと両手の間にこの細いが強靭なワイヤーを張り、それをパンチにぶつけることで威力を弱めつつ、相手の力を利用して腕を裂くことに成功したのだ。

「そいつで防御と攻撃を同時に行うとは……いやはや天晴れ。神凪人とはいえ、素直に称賛するしかないな」

「そりゃどうも。だけど、人を褒めてる余裕があるのか?俺は肋骨、あんたは腕一本……流れがどっちにあるかは明らかだろ」

「確かにこのままだと貴様の方が有利だろうな。おれの腕がこのまま状態だったらな」

「……何?」

「スーパー化は伊達じゃないんだよ。ふん!!」


ブシュウゥゥ……


 ノクボは気合を入れると、裂けていた腕の傷口が煙を上げながらくっついていった。そしてあっという間に何事もなかったように元通りに……。

「そんなところまでうちのダブルドラゴンにそっくりなのかよ……」

 アツヒトは青いマスクの下で顔を引きつらせた。命懸けで得たアドバンテージが一瞬で無に帰してしまったのだから当然だ。

「残念だったな。もしおれ以外、いやおれとそのダブルドラゴン以外だったら、貴様の勝利だったろうに」

「何、俺がこのまま負ける前提で喋ってくれてるんだ。まだ勝負は終わってないぜ」

「往生際が悪いな。貴様の勝機が潰えたのは明らかだろ。どんな攻撃をしようと、我が身体は直ぐ様再生して、元通りだ」

「それは当たりどころによるだろ。皆伝の装パージ」

 サイゾウは残った追加装備を外し、庭に撒き散らした。

「ん?それ外せるのか?まさかそいつがない方が速くて強いとか?」

「悲しいけどそんなことはない。だからまた改めて装備させてもらうぜ。皆伝の装」

 サイゾウは新たに取り出した巻物を頭上に投げると、それは光の粒子から今しがた外した装備と同じものに再構成されて再び各部に装着されていった。

「予備を持っていたか」

「これで俺も再生完了……だと良かったんだが、やっぱ骨が痛んで仕方ねぇや」

「ならば降参するか?」

「いや、あんたを倒してさっさとお医者さんに診てもらうことにするよ。機巧手裏剣、闇花」

 腕と膝に付いていた刃が分離、そして円形に並んでくっつき、一つの手裏剣を形成するとサイゾウの手に収まった。

「その合体武器が貴様の切り札か」

「あぁ、こいつが決まれば俺の勝ち。防がれれば、負けだ」

「ふむ……わかり易くていいな。シンプルな勝負の方が実力の差が明確になる」

「自信満々だね……じゃあ、そいつごとあんたの命を砕かせてもらう!!」


ブゥン!!


 サイゾウは渾身の力と覚悟を乗せて闇花を投擲した!高速回転する鋭い花弁が大気を切り裂きながら、ノクボへと迫る!

(ナナシやケニーさんにガリュウが超速再生が使えて、同じ素材で作られたルシファーができない理由を聞いた時、魔竜皇の心臓が組み込まれているかどうかの差ではないかと答えていた。ならば狙うは奴の心臓!そこを貫けば俺の勝ちだ!!)

「ふん!何を考えているかは知らんが、スーパーブラッドビーストの反射神経に対応できないものはない!!」

 スーパーノクボは腕を撃ち下ろし、闇花を叩き落とそうとした……したが。

「散れ!闇花!!」


パァン!ブゥン!!


「――何ッ!!?」

 鉄槌の命中直前に再度分離!四つになった刃は腕を掻い潜り、心臓へ!


ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュッ!!


 刃は見事に突き刺った……スーパーノクボの身体に巻き付いた尻尾に。もちろん本来のターゲットである心臓に刃は届いていない……。

「念には念を入れておいて良かったよ」

「俺が心臓を狙うことがわかっていたのか……?」

「わかるさ。こういう時はだいたい心臓か頭だろ?頭の方は角でどうにかなるから、胸を尻尾を守るのが一番合理的」

「で、まんまと防がれたってわけね」

「あぁ、つまり……この勝負、貴様の負けだ!!」

「!!?」


ガシッ!!


「――がっ!?」

 金色の蜥蜴は尻尾を振り下ろし、突き刺さった花弁を地面に叩きつけ粉砕すると、一気にサイゾウの懐まで潜り込み、首ねっこを掴んで持ち上げた。

「ぐうっ……!?」

「貴様は良く頑張ったよ。上級以下のピースプレイヤーでスーパー化したおれにここまで食い下がったんだからな」

「だったら頑張ったご褒美をくれよ……」

「褒美?何が欲しいんだ?聞くだけ聞いてやろう」

「じゃあお言葉に甘えて……結局心臓と頭を狙うのは正しかったのか?もし俺の刃があんたの胸に届いていたら……」

「あぁ、貴様の推察は正しい。再生の指令を送る頭か再生の力を生み出す源、心臓を破壊すればおれを殺せていた。もうちょっとだったのにな」

「そうか……答え合わせができて良かったよ!!」

 瞬間、サイゾウから先ほどパージし、周りに散らばっている皆伝の装に信号が送られる!刃を射出して、油断しているノクボの頭と心臓を貫けと!


バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!!


 指示通り、刃は発射!蜥蜴に四方から襲いかかる……が。

「どこまでも小賢しい」


バギィ!バギィ!ガァン!ガブッ!!


 スーパーノクボは二つは腕と尻尾で粉砕し、一つは角で弾き飛ばし、一つはその大きな口で噛んで受け止めた!


ガギィン!!


「ペッ!!」

 刃を牙で噛み砕くと、さらに細かくなった青い残骸を庭に吐き捨てる。

「口に残る金属の風味……これが勝利の味か。あまりいいものではないな」

「ぐっ!?」

 そう勝ち誇ったように呟くと、スーパーノクボは口角を上げ、サイゾウの首を持っている手に力を込めた。

「またまた残念だったな。作戦としては悪くなかったぞ」

「この状況で言われてもな……つーか、気づいてたのかよ……」

「最初の装備で破壊されたのは胴体の装甲だけ。あの合体手裏剣のパーツは特にダメージを負ってなかったからな。なのに、わざわざ新しいものに付け変えるなんて……警戒するに決まってるだろ」

「やっぱり無理があったか……あわよくば騙せるんじゃないかと淡い希望を抱いていたんだがな……」

「残る希望は目眩ましの振りをして、おれに引っかけた毒ガスか?」

「そっちもバレてんのかよ……」

「いや、もしかしたらと思ってカマをかけて見ただけだ。貴様ほど用意周到な男ならば、ブラッドビースト対策にそれくらいの武装は積んでくるんではないかと」

「正解……今回の任務に当たっての本当の切り札はそっちだった。毒じゃなくて身体を痺れさせるだけどな」

「まったく油断も隙もない。だが生憎、この姿になったおれは免疫力もスーパーだ。毒や痺れ薬の類いは通じない」

「そんなところまでうちのダブルドラゴンそっくりかよ……参ったね」

 青いマスクの下、アツヒトは思わず苦笑した。

「このおれを倒すために手を変え品を変え、貴様は本当によくやった。けれど悲しいかな努力が必ず報われるとは限らない。なぜなら……」

「他の奴も同じかそれ以上に努力しているから……か?」

「そうだ。おれは今日というこの日のために屈辱に耐えながら研鑽を続けてきた。貴様とは積み重ねてきたものが違う」

「確かにあんたは努力したんだろうな……俺なんかよりずっと……」

「あぁ、だから最初から貴様に勝機などなかった」

「逆だろ」

「……は?」

「最初から勝機がなかったのはあんたの方だ……」

「何を……死を目前にして血迷ったか?」

「努力が必ず報われるとは限らない……まったくもってその通りだ……世の中には自分以上に頑張っている奴はごまんといる……あんたのように……」

「そうだ!おれはずっと頑張ってきた!この国のためを思って!だからおれは報われるべき――」

「だとしても悪の道を歩く者の努力が報われるわけないだろ」


ザシュッ!!


「――ッ!?………は?」

 背中に走る鋭い痛み……恐る恐るノクボは振り返ってみると、手裏剣が、闇花が深々と突き刺さっていた。

「な、何で……!?」

 視線をさらに動かし、手裏剣が飛んで来たであろう軌道をなぞっていくと……部屋の中で倒れるヴォーインに到達した。

 瞬間、全てを理解する!

「貴様!予備をもう一つ!!ヴォーインの中に!!」

「そういうこと……味方にさえ教えてない秘密の中の秘密……皆伝の装は三つあったんだよ!!」


ガッ!ガァン!!


「――ぐあっ!?」

 サイゾウはノクボの手を振りほどくと、黄金の身体を駆け上がり、そのまま後ろに回り込んだ!そして……。

「努力が報われるのも、なるようになるのも正しき道を歩いた者だけだ!!どんなに頑張ろうと、他人の命を軽視するあんたが報われることは絶対に……ない!!」


ザシュウンッ!!


「――ッ!!」

 そして闇花を手に取ると心臓まで押し込み、力任せに斬り裂いた!

 血と再生能力を失ったスーパーノクボは力なく倒れる……。

 つまりこの勝負……アツヒト・サンゼンとサイゾウの勝利である。

「なるようになったってことは……俺は正しい道を歩いてるってこったな。良かった良かった……なんてな」


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