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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
力の行き場
287/324

立ち塞がる獣人①

「旧友との再会を懐かしんでいるところ悪いが、さっさと片付けよう。彼らは私の期待には応えられそうにない」

「なんだと……?」

 クシミヤの発言にエーベルスは青筋を立てる。すると彼の怒りに呼応して、指輪が震え、周囲に風が吹き荒れた。

「ん?まさか特級使いか?それならそうと言え。ちょっとだけ楽しくなってきたぞ」

 クシミヤもまた感情を昂らせると、それに比例するように筋肉が隆起し始めた。

「やれやれ、しょうがない奴め。まぁ、確かにのんびりしている場合ではないか。本番まで時間がない」

「本番?」

「カトウさん……あんたもグノスも神凪も無能なりによくやったよ。おかげでおれ達は計画を前倒しする羽目になった」

「計画?貴様らはこれ以上何をやろうとしているんですか!?」

「本当にどこまでもお優しいことで……欲しいものがあったら力ずくで手に入れてみろよ……!」

「ノクボォォォォォォォッ!!」

 荒ぶるカトウは形を変えながら突撃!身体が一回り大きくなり、全身からは真っ白な毛が生え、頭には髭と角が……その姿は古代にいた山羊のようであった。

「懐かしい姿だ……これで見納めだと思うと残念で仕方ないよ!!」

 ノクボも変身!全身が鱗で覆われ、鋭い牙と爪、そして太い尻尾が生え、あっという間に古代の蜥蜴のような姿へと様変わりした。

「はあぁぁぁぁっ!!」

「ふん!!」


ドォン!!


「うわあぁぁぁっ!?」

 ぶつかり合う古兵の、ブラッドビーストの拳と拳。そこから生じた大気を揺らすほどの衝撃はフナトをビビらせ、隣のもう一組のバトル開始のゴングとなった。



「降臨せよ、ラファエル!」

 月明かりを反射していた指輪は一瞬のうちに、その輝きに勝るとも劣らない金色に煌めく鎧になってエーベルスの全身を包んだ。

「ほう……もしやと思ったが噂に名高いグノスの天使型のマシンか。予想以上の獲物が釣れたな」

 そう言いながらクシミヤはまるでご馳走を前にした時のように舌なめずりをした。

「余裕ぶっていられるのも今のうちだ!この金色の輝きの前にひれ伏せ!!」

 ラファエルは杖を召喚、その先に豪風を纏わせて殴りかかる。その破壊力は並みのピースプレイヤーなら一撃で戦闘不能にしてしまうほど……なのだが。

「気が合うな。私も同じ台詞を吐こうと思っていたところだったんだよ。ふん!!」

「!!?」

 クシミヤの腕が巨大な鋏に、その筋骨隆々な肉体は真っ赤な甲殻に覆われたかと思ったら、向かって来るラファエルと同じ眩い金色へと体色を変化させた。

「はあッ!!」


ゴォン!!


「――ッ!?」

 金色の甲殻は真っ正面からラファエルの攻撃を受け止める。粉砕どころかかすり傷一つつけられていない。

「お前、その姿は!?」

「そうだ!スーパーブラッドビーストだ!!私はオリジンズの血液と極限まで順応し、人間にはたどり着けない高みに到達したのだ!!」

 スーパークシミヤの反撃!一際目を引く巨大な鋏を下から振り上げる!


ザンッ!!


「ッ!?」

 鋏から放たれた衝撃波は深々と傷を刻みつけた……屋上の床に。

「なんつう威力だ……!」

 危機を察知したラファエルは黄金の翼を羽ばたかせ、空中に退避していた。しかし上から俯瞰で見たスーパークシミヤの攻撃の凄まじさに精神的動揺は隠し切れない。

(ラファエルは負担がデカいからできることなら短期決戦で終わらせたかったが、ここは慎重に遠くから削っていくか……!)

 ラファエルはさらに翼を大きく広げると、それを眼下にいる黄金の蟹に撃ち下ろした。

「でやあっ!!」


ブオォォォォォォォォォォォッ!!


 すると小型の竜巻が発生。クシミヤへ襲いかかる……が。

「いい風を吹かすじゃないか」

「ちっ!」

 けれどこれも通じず。クシミヤは微動だにしなかった。

(結構気合入れて撃ったのに扇風機扱いかよ。やはり最大機動を使わないと無理か。だが、何度も使えるものではないし、やはり今は奴の射程外から様子を……)

「空に居れば私が手を出せないと思っているのか?」

「!!?」

「ただのブラッドビーストならまだしも私は……スーパーだぞ!!」

 スーパーなクシミヤは今度は鋏を大きく開き、上空に佇むラファエルに向けた。そして……。


ビシュウッ!!


「なっ!?」

 水を勢い良く発射!最早弾丸と化したそれは真っ直ぐと黄金の天使に迫る。

「くそが!!」


ガリッ!!


「――ッ!?」

 咄嗟に回避運動を取ったラファエルであったが、避け切れずに脇腹を抉られてしまった。

「わかったか?私に目を付けられた時点でお前に逃げ場などない」

「高々ちっぽけなカルト団体で持て囃された位でいい気になってんじゃねぇよ……!」



 黄金の戦士達が火花を散らすその横でカトウとノクボも老兵とは思えない攻防を繰り広げていた。

「はあッ!!」

「ふん!!」


ドゴッ!!


「「――ぐっ!!?」」

 両者の拳はお互いの胸にヒット!二人の距離が僅かに離れる。

「この!!」

「はっ!!」

 ならばとこれまた両者同じタイミングで脚を振り抜いた。


ガッ!!


 しかし、これは両者腕でガード。ダメージを与えることも与えられることもない。

「技のキレも昔と変わらんな」

「維持できるように日々鍛えていましたからね。下らないお遊びに夢中になっていたお前なんかに負けはしない!!」

 カトウ獣人態はその言葉を証明するように、鋭い突きを放つ。

「下らないね……」


バァン!!


「……な!?」

 それをノクボ獣人態はあっさりと片手で受け止めた。

「カトウさん、あんたもしかして紅涙会が最近までショボい組織だったのは、おれの実務能力がないからだと勘違いしてないか?」

「違うというのか!?」

「まぁ、マットンに比べれば確かに大したことはないよ。だがそれでもやろうと思えばもっと早く大きくすることもできた」

「ならば何故……?」

「力を付けるためさ。権力でも財力でもない最も原始的で最も頼りになる力……暴力を。クシミヤほどの才能がないからずいぶんと苦労したがな」

「まさかお前!?」

「その目に焼きつけろ!我が力の輝きを!!」

 ノクボの感情の昂りに反応し、全身の鱗が金色に。さらに爪や牙もさらに巨大化し、頭部から角まで生えた。

 その姿は蜥蜴というよりむしろ竜のようだった。

「皮肉だろ?誰よりも紅き竜を憎んでいたこのおれがこんな姿になるとは。だが、この姿に、この年になって良くわかる。おれはムツミ・タイランを、ジリュウを誰よりも憎悪していると同時に憧れていたのだと。奴が圧倒的な力で神凪のトップに昇り詰めたように、おれも……ん?」

 聞いてもいない心情をだらだらと語るスーパーノクボは手に振動を感じた。カトウの拳が小刻みに震えていたのだ。

「この震え……我が力に恐怖しているのか?」

「違う!この震えは怒りのせいだ!悲しみのせいだ!!」

「怒りはわかるが、悲しみだと?」

「あぁ!ワシは悲しくて仕方ない!それだけの力があるなら!お前ほどの男なら!力の行き場を無くして苦しんでいたブラッドビースト達や現状に不満を抱く若者達を正しき道に導けたかもしれんのに!!よりによって……こんなバカげたことを!!」

 今にも泣きそうな顔で悲痛な声を上げるカトウを見て、タカトキ・ノクボは……嗤った。

「だから導いてやっているだろうが。再生の前に破壊は不可欠。燻っている力の有効活用法にこれ以上のものはないだろ」

「貴様ぁ!!」

 カトウは震えていた拳を引くと、ありったけの怒りと力を込めてノクボの顔に撃ち込ん……。

「無駄だって」


ドゴオッ!!


「……がはっ!!?」

 拳が届く前に、スーパーノクボの金色の拳がカトウの白い体毛に包まれた脇腹に深々と抉り込まれてしまった。身体が“く”の時に曲がり、強制的に酸素が排出され、山羊獣人の身体は苦痛で震える。

「がっ!?ぐっ……!!?」

「高みを目指していた者と現状維持できればいいと思っていた者……どちらが強いかは言うまでもない」

「ノクボ……!!」

「おれ達がまず壊すのは、この国に巣食うあんたのような寄生虫どもだ」


ドゴオッ!!


「――ッ!?」

 アッパーカット炸裂!カトウの頭が夜空にそのまま飛んで行ってしまうかと錯覚するほど勢い良く跳ね上げられた!



 向かいの屋上で激闘が繰り広げられる中、オオスギビルでの戦いの幕も切って落とされた。

「手柄はおれがいただくぜ!!」

 先鋒は豹のような獣人。身体を横倒し、壁を猛スピードで走りながら青の忍者に襲いかかる。

(奴はプロトベアーと戦ったのと同型か。だったら……!!)

 サイゾウは刀を召喚。豹獣人と交錯する瞬間に……。

「手柄ぁッ!!」


ザンッ!!


「………へ?」

 交錯する瞬間に一太刀で斬り伏せた!サイゾウの背後で豹は肩から斜めに分割され、床を真っ赤に汚し、この世を去った。

「ミカエル相手にした俺にその程度のスピードで挑もうなんて……ちゃんちゃら可笑しいんだよ」

「じゃあこれはどうかな!!」

 次鋒は蜂の獣人!目にも止まらぬスピードで半透明の翅を動かし、ジグザグと稲妻のように移動しながら距離を詰める!

(こいつはジャガンとユウとやった奴。トップスピードはさっきの奴ほどじゃないが、敏捷性は上だな。だが、それ以上に厄介なのは)

 サイゾウは再びカウンターで刀を撃ち下ろした……が。

「残念」


ガギン!


 蜂獣人は刀を黄色と黒の甲殻でうまいこと斜めに受け、滑らし、刃を逸らした。

(硬い。それに受け方がうまい。さっきの奴よりも実力は上か)

「オラァッ!!くたばりやがれ!!」


ヒュッ!!


(だが俺が苦戦するレベルではない)

 蜂獣人は拳を撃ち出したが、サイゾウは半歩ほどバックステップして攻撃を躱した……が。

(バカめ……!!)

 それは蜂獣人の想定通り。彼の本命は手の甲から飛び出す針で回避直後の無防備な状態を仕留めること……なのだが。


パンッ!ブゥン!!


「な!!?」

 サイゾウは刀の柄で拳をはたき落とし、必殺の針は何もない空間に突き刺さった。

「悪いな。そいつのことは知っているんだ。あと針の使い方には俺も自信がある!」


ゴォン!!


「――がっ!?」

 サイゾウは蜂獣人の首筋に拳を叩き込むと……。


バシュッ!バシュッ!バシュッ!!


「――ッ!!?」

 甲殻の隙間に光の針をゼロ距離でぶち込む!血管やら気管やらをぶち抜かれた蜂は膝から崩れ落ち、二度と動くことはなかった。

「さてお次は……」


ユラッ……


 サイゾウの目の前で何かが煌めいた。刹那、アツヒトの記憶の引き出しの中から情報がピックアップされる。

(これは糸……ナナシガリュウが戦った奴か。なら!)

「うおりゃあ!!」

 いつの間にかサイゾウの背後に回り込んでいた蜘蛛型の獣人は自らが放出した糸を引っ張ると、サイゾウをがんじがらめに……。


ザンッ!ザンッ!ザンッ!!


「え!?」

 がんじがらめにしようとしたが、サイゾウは迫り来る糸を両腕と膝についた刃で切り裂き、蜘蛛獣人の目論見を無に帰した。

「仲間がやられているのにも目をくれず仕掛けたのは褒めてやる。能力も俺好みで素晴らしい。だが、こんなあからさま刃を配置しているのに、それはないだろうが!!」


ガシッ!グイッ!!


「――うあっ!?」

 サイゾウは蜘蛛獣人から伸びる糸を手に取ると、力一杯引っ張りこちらに引き寄せた。そして……。

「ウラァ!!」


ザシュッ!!


「――が!!?」

 膝の刃を顔面に突き立てた!衝撃で後ろに倒れる蜘蛛獣人の新しくできた穴から噴水のように血液が噴き出し、さらに床を真紅に染め上げる。

(これで残りは二人だが……)

「まさかここまでとは……!おい!!」

「あぁ!一緒に仕掛けましょう!!」

 最後に残った蝙蝠獣人とイカ獣人二人はこれまでの戦いを見て、一対一では勝ち目がないと踏んだのか、前と後ろから同時に飛びかかった!

(ありがたい!手間が省ける!!)

 それに対しサイゾウは胸の増加装甲から手の平大の球を取り出した。

「――!!?何か出したぞ!!」

「その前に潰す!!」

 イカ獣人は口に墨を溜めて発射……。

「遅い」

 発射する前にサイゾウが頭上に球を投げた。


カッ!ドオォォォォォォォン!!


「「――ッ!!?」」

 球は空中で強烈な閃光と爆音を放つ!獣人二人は生物として当然の反射行動としてその場でうずくまってしまう。

(しまった!?スタングレネードか!!早く視力と聴力を回復しなくて――)


ザシュッ……


「――は!!?」

 残念ながらイカ獣人に回復の時間は与えられなかった。容赦なく首の後ろから刀を突き刺され、何が起こったのか理解もできぬままに絶命してしまった。

「一度倒した相手なんかに遅れは取らん」

 サイゾウは刀を引き抜くと、刀身についた血を払いながら振り返った。最後の一人を始末するために。

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?目が!!?耳が!!?」

「うるさいぞ。近所の迷惑になるから黙れ」

「ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?どこだ!!?どこにいる!!?」

「当然だけど聞こえてないか」

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 手をブンブンと振り回し威嚇する蝙蝠の背後に難なく移動。そして……。

「えいや」


ザシュッ!!


「――がっ!!?」

 一刀両断!最初の豹獣人のように斜めに分割され、地面に転がった。

(これで全員撃破か?項燕と戦った奴はいないが……相性的に一番面倒なことになりそうだから、是非ともこのまま出て来ないでいただきたい。つーか、こいつらを倒しても何も解決してないんだよな。はてさてどうするか。ひとまずカトウさん達と合流するかそれとも……)


パチパチパチパチ……


「!!!」

 拍手の音が聞こえた……応接室の中から。サイゾウは気を引き締め、構えを取ったままゆっくりとそちらに歩いて行く。

「まだ生き残りがいたのか。それとももしかしたらこのビルに俺がこうして出向いた目的か……な!!」


ドォン!!


「おっ!豪快だね~」

 サイゾウが扉を蹴破ると、そこには想像通りの小太りの男がテーブルに腰かけ、煙草を吸っていた。

「ここは禁煙だぞ、ジャイルズ・マットン」

「お前に決める権利はないだろうが、アツヒト・サンゼン」


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