騒乱と再会の夜①
「ヒヤッハー!!」
「オラオラァッ!!逃げろ!逃げろ!!」
ババババババババババババババッ!!
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「うあぁぁぁぁっ!!?」
「あいつらか……!!」
レストランの外の大通りではピースプレイヤーが銃を乱射していた。
そのはしゃいだ声と、けたたましい発砲音が、それに恐怖し阿鼻叫喚の様子で逃げ惑う罪無き民の姿がランボ達の心を刺激し、怒りの炎をさらに燃え滾らせる。
「どうやら『ミェフタ』の主力量産モデルの『ヴォーイン』のようだな」
「そいつが二体……いや」
ランボが頭上を見上げると夜空に紛れて見えづらいが、確かに灰色のマシンが上空を旋回していた。
「データベース照合。同じくミェフタの飛行型モデル『クリウーフ』のようだ」
「あいつのことは頼めるか、シルバーウイング?」
「誰に言ってる。奴に本当の空での戦いというものを教えてやるさ!!」
そう言うとシルバーウイングはその名の通り、美しい銀色の翼を持った鳥型へと変形すると、そのまま空中の敵に向かって突撃して行った!
「では、我らも!!」
「あぁ!グノスを守るのがワタシの使命!そのワタシの前でこんなふざけた真似をしたこと、後悔させてやる!!」
地上に残った二人はそれぞれヴォーインに向かって走り出す!光に包まれながら!
「シルルギリュウ!!」
シルルは胸にⅣと刻まれた灰色の竜に姿を変えるとその手に弓を召喚した。
「ん?もう警察が来たのか?それとも近くにヤクザの事務所もあったのか?まぁ……どっちでもいいか!!おれの前に立った奴は誰であろうと五体満足で帰さねぇ!!」
「下衆が」
「その下衆に為す術なく殺されるんだよ!てめえは!!」
ババババババババババババババッ!
ヴォーインは向かって来る灰色の竜に狙いを定めると躊躇うことなく引き金を押し込み、無数の弾丸を発射した。しかし……。
「ふん」
「なっ!?」
シルルギリュウはまるでフィギュアスケートのように地面を滑らかに、鮮やかに移動し、銃弾の間隙を縫い、距離を詰めて行く。
「為す術なく殺されるんじゃなかったのか、ワタシは?」
「く!?このぉ!!」
「遅い!!」
ヴォーインが改めて銃を構え直す前に灰色の竜はさらに急加速!からの勢いそのままにスライディング!ヴォーインの足元を通り過ぎ様……。
ザンッ!!
「――がっ!?」
斬りつけた!深々とふくらはぎに切り込みを入れられたヴォーインは為す術なく崩れ落ちる!
「はっ!!」
そこにさらに追い討ち!シルルギリュウは振り返ると同時に目にも止まらぬスピードで光の矢を発射する……三発も。
ザシュ!ザシュ!ザシュッ!!
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
矢は見事にヴォーインの両腕と、先ほど斬りつけた方とは逆の脚を貫き、一瞬で全ての戦闘能力を奪い取った。
「さっきの言葉そっくりそのまま返すぞ……グノスに仇為す者は五体満足でいられると思うな……!!」
「こいつ……なんなんだ!!?」
クリウーフは自分の周りを縦横無尽に動き回る銀色の翼を目で追うことさえできなかった。
「はっはー!その目に焼きつけるがいい!人間には不可能な超速機動という奴をな!!」
「舐めるな!たかが機械人形ごときに遅れを取るおれではない!!」
クリウーフは両腕にマシンガンを召喚。狙いもつけずに乱射した……が。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
シルバーウイングの煌めく装甲には掠りもせず。全てあっさりと回避されてしまった。
「そんな破れかぶれの攻撃では我は落とせんよ。わかったら速やかに降参しろ。これ以上は時間とエネルギーの無駄だ」
「くそ……!!」
クリウーフの装着者はマスクの下で悔しさで顔を歪みながらも逆転の一手を探すために視線を地上に這わせていた。
(こいつに勝つためにはあれしかない……!!あれさえ見つけられればこんな奴……!!)
「パパ、ママ……」
(いた!!)
クリウーフのカメラが!その裏に潜む腐った性根の男の目が!看板らしきものの裏に隠れ、恐怖で小さな身体を震わしていた少女の姿を捉えた!
「当てられないなら、あっちから当たってもらいに来てもらうだけだ!!さぁ、いたいけな少女の盾になれよ、正義の味方さん!!それとも我が身かわいさに見て見ぬ振りをするか!!」
灰色のマシンは銃口を少女に向け……。
ザンッ!ザンッ!!
「…………え?」
銃口を下に向けた瞬間、目の前を銀色の影が通過し、持っていた二丁のマシンガンが四つになった。
「我のトップスピードがあんなものだと思ったか?我がいたいけな少女が隠れていることに気づいていないと思っていたのか?」
「お前……全部わかった上で……」
「貴様がすべき最善の策は素直に自らの非と弱さを認めて投降すること。次点で正々堂々と我に挑み返り討ちに合うことだった」
「じゃあ……今、おれがやったことは……?」
「最悪の選択だ……!!」
ビュウッ!ガキッ!!グンッ!!
「――ッ!!?」
銀色の翼は一瞬でクリウーフの背後に回るとその鋭い爪を灰色の装甲に食い込ませてがっしりと掴み、そのまま猛スピードで急降下!地面へと凄まじい勢いで落下していく!
「まさかこのまま地面に叩きつけるつもりじゃ!!?」
「そうしたいのは山々だが、貴様には訊きたいことがあるんでな……擦りつけるだけで許してやる」
「擦り――」
ガッ!!ガガガガガガガガガガガガガガッ!!
「――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
シルバーウイングは宣言通りクリウーフを顔面から石畳の道に擦りつけた!火花を散らしながら灰色の装甲は削れ、砕け、破片を撒き散らし、内部にまで届く衝撃と熱と痛みに装着者の顔は苦痛に歪む!
「この道は我が正義を執行し、見事に勝利を掴み取った場所としてシルバージャスティスウイニングロードと名付けるべきだ。貴様もそう思うだろ?」
「もう止め――」
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!
「――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
一瞬だけ持ち上げてくるりとターン。そしてすぐにまたクリウーフは火花が散るほど熱々のキスを地面とさせられる。
「そうかそうか!さらに鮮明に我の余韻を刻みつけたいのか!ならばその想いに応えて、あと三往復してやろう!!」
「か、勘弁してくれ!!俺はただここを通りがかっただけなんだ!!」
腰を抜かした通行人は涙を滲ませ、全身をガクガクと震わせながら、こちらに銃口を向けるヴォーインに必死になって命乞いをした。けれども……。
「そりゃ残念。よりによって今日という日、この時間にこの道を通るなんて……自分のついてなさを恨みながら逝きな」
けれどもヴォーインは意に介さず。むしろ通行人の言動全てが彼の嗜虐心と征服欲を駆り立てるのか、嬉々として引き金を引いた。
バァン!ガァン!!
「――ッ!?」
「……なんだてめえは?」
「アールベアー」
間一髪、深緑のボディーにオレンジ色の差し色を走らせた重装甲のマシンが割って入り、肩に装備されているシールドで弾丸を弾いたので通行人は事なきを得た。
「あ、ありがとうございます……!!」
「礼を言う暇があったらさっさとこの場から立ち去れ。そうしてくれることが一番助かる」
「わ、わかりました!!」
やはり腰が抜けて立ち上がることはできなかった通行人はそれでも手足をじたばたと動かし、獣や虫のように地面を這って、路地裏へと消えて行った。
「無様だね~」
「そんなことはない。生きるために必死になることに恥ずかしいことなど何もない」
「おれとは流儀が違うな。恥をかくくらいなら死んだ方がマシだ」
「実際死の淵に立ったことのない奴の台詞だな。では、オレとアールベアーが教えてやろう……死の恐怖という奴を……!」
「へぇ、それは楽しみだ……」
そう言いながらヴォーインはアールベアーの背後、離れたところで長大なライフルを構えている仲間にアイコンタクトを送った。
(おれが引き付ける。隙を見て、狙撃しろ)
(了解……!)
「さてどう料理してやろうか……そうだな……とりあえず一発殴るか!」
((今だ!!))
バシュウン!!
アールベアーが拳を引いた瞬間、狙撃手はライフルを発射した!それは真っ直ぐ大きな緑色の背中に……。
「バレバレだ、アホ」
ヒュッ!!
「「え!!?」」
命中直前、アールベアーはその巨体を翻し、狙撃を回避!
弾丸はターゲットを通り過ぎると、そのまま事態を飲み込めていないヴォーインの元へ……。
バシュウン!!!
「――ぐっ!?ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?痛い!!?痛い!!?」
弾丸は見事にヴォーインの腹を貫く!その痛みと、飛び散る赤い液体に気が動転し、さっきまでの威勢はどこへやら銃を放り投げて奇声を上げながら地面を転がり、悶え苦しんだ。
「経験と実績のない奴ほどしたり顔で人を扱き下ろす。人を馬鹿にできる人間は一生懸命何かに打ち込んだことのないしょうもない人間。それがオレの持論なのだが……お前もそう思うだろ?」
「うっ!?」
アールベアーはもうヴォーインは脅威にならないと判断したようでいまだにのたうち回っている彼に背を向け、対角線上にいる狙撃手の方を振り返った。
「そのマシンもミェフタ製の……確か狙撃特化のアホートニクか?」
「その通りだ……」
「狙撃型として必要な能力を不足なく備えた手堅くいいマシンだと記憶しているが……装着者があれだとどうしようもないな」
「なっ!!?一発避けたくらいでいい気になりやがって!!」
「一発目で決めてこその狙撃型だろうが」
「うっ!!?」
反論の余地無き正論にアホートニクの装着者は思わず口ごもった。
「そもそも狙撃というならもっと離れて、敵の認識外から撃たないと。こんな近くまで来て、しかも味方に流れ弾が当たり易い位置取り……そこのヴォーインもお前もまともに戦闘用ピースプレイヤーの訓練を受けてないだろ?」
「だ、だからどうした!!自分には勝てないと言いたいのか!あ!!」
「こちらの意図を察するくらいの知能はあるか。だったら投降するのが最善だということもわかるよな?」
「おれに白旗を上げろってのか!?冗談!!」
アホートニクは交戦の意志を示すようにスコープを覗き込んだ。
「交渉決裂か……ではこちらも」
深緑のマスクの裏で嘆息を溢しながら、ランボもまたその手にライフルを召喚し、ターゲットに狙いをつけた。
「速撃ち勝負ってわけか……!!」
「別にそれでも構わないが……やはり素人相手に銃を撃つのは気が引けるな」
「はぁ?じゃあそのライフルは何のために出したんだ?」
「何のためと言われたら……こうするためだよ」
ヒョイ
アールベアーは何を思ってかライフルを撃つのではなく投げた!アホートニクに向かって投げつけた!
「はぁ!!?」
予想だにしない行動にアホートニクはスコープから目を離し、放物線を描いて緩やかに落ちて来るライフルに全ての意識を持っていかれた。
「この程度のことでターゲットから目を逸らすとは……つくづくお前、スナイパーに向いてないな」
ガシッ!!
「!!?」
ライフルと夜空だけを映していた視界に深緑のクマさんがカットイン!気を逸らした一瞬で一気に距離を詰めると跳躍し、空中で自ら投げたライフルの銃身を掴んだ!
「しまっ――」
慌てて銃口を目と鼻の先にいるアールベアーに向けようとしたアホートニク。けれど……。
「手遅れだ、アホ」
ドゴオォォッ!!バシュウン!!
「――ッ!!?」
アールベアーはあろうことか銃身を掴んだライフルをそのままハンマーのようにアホートニクに叩きつける!
グリップが鎖骨に命中、粉砕すると反射的に引き金が引かれ、発射された弾丸は明後日の方向に発射され、夜空の闇に飲み込まれてしまった。
「そ、そういう使い方するもんじゃないだろ……!!」
「いいんだよ。偉そうに戦い方云々と講釈垂れたが、最終的に勝てれば……お前のようなゴミを掃除できるならなんでもな!!」
ガアァァァァァン!!
「――ッ!?」
さらに着地と同時にもう一発!おもいっきり振り抜かれたライフルはアホートニクの側頭部を強打し、意識を一瞬でどこかへと吹き飛ばしてしまった。
「これで一件落着か?」
「痛い!?痛い痛い痛い痛いッ!?」
「……うるさいな。害はないが不愉快だ。近所迷惑だし、黙らしておく……かっと!!」
ゴォン!!
「――い、たぁ……」
深緑の熊は気だるげにアホートニクのライフルを拾い上げると、ヴォーインに投げつけ見事に頭部に命中させ、強制的に黙らせた。
「これで今度こそ一件落――」
「まだだ」
「!!?」
ズズズズズズズズズズズズズッ……
突然闇夜に鳴り響く声の方を振り向くと、そこにあった建物のシャッターがゆっくりと上がり始めた。その中にあったものとは……。




