プロローグ:力の行き場
ここはグノスでも知る人ぞ知る隠れ家的レストラン。独自のルートで手に入れた新鮮なオリジンズを熟練のシェフによる確かなテクニックで調理されたメニューはどれも絶品だと評判だ。
「本当美味いな、これ……」
ランボ・ウカタはその噂に違わぬ極上の料理に舌鼓を打っていた。先ほどから何度も同じような賛辞を呟きながら、ひたすらナイフとフォークを動かし、一口大に切り分けた肉を口に運ぶと、感動で身体を震わせる。
「お気に召したようで何よりだ」
対面に座るシルルは彼の様子を見てご満悦。この店を選んだ正しさを噛み締めるように肉を咀嚼し、溢れる汁に酔い知れる。
「こんな非効率なやり方でしかエネルギーを摂取できないとは、人間とはなんと不便な」
二人の間に座るシルバーはなんだか退屈そう。食事という手段を必要としないP.P.ドロイドの彼にとっては二人の感情は何一つ理解できないのだ。
「そう思うんならわざわざ付いて来なくとも良かったのに」
「そうだ。ワタシが誘ったのはあくまでランボ・ウカタだけだ」
「今日じゃなかったらそうしたさ。だが、今日は我がグノスにいる最後の日だからな。明日には我が生まれ故郷ブリードン社で新装備を受領しに、神凪に戻らなくてはならないのでな」
「そう言えばそんなことを言っていたな。すっかり忘れていたよ」
「ひどいぞシルル!名前が似た者同士、我は貴様に目をかけてやったというのに!」
「冗談だ。寂しくなるよ、シルバーウイング」
「そ、そうだよな!この優秀な我と離れ離れになるのは誰だって寂しいよな!!」
(毎度、このAIの感情の豊かさに驚かされる。ワタシなんかよりよっぽど人間っぽいんじゃないか?やはり神凪の技術は凄いな。もう少し近くで観察したかった)
新たな肉を口に入れながら、シルルはここまで来ると神秘的にすら見えてきた銀色の機械人形をこの目に焼きつけようと、まじまじと見つめた。
「で、これがシルバーのお別れ会じゃないならなんなんだ?オレもそろそろ神凪に戻って来いと言われているんだが」
「それもわかっている。だからこれはゲスナーの隠れ家を探すのを手伝ってくれたお礼というのが一つ」
「仕事をこなしただけだ。それに協力したのはゲスナーの技術は神凪にとっても有用だったから。実際オレが送ったデータに花山重工は大喜びだ。なので借りがどうこうなどと思わなくてもいいぞ」
「そうはいかん。助けられたのは事実なのだから誇り高きグノス国民としてはきちんと礼はしなくては」
「そこら辺の人間の感情は特に理解できないが、ここは変に気遣いなどせずに素直に感謝を受け取った方がスマートだと思うぞ、ランボ」
「ふむ……確かに少し野暮だったか。まさかAIに人の礼節を教えられることになるとは」
ランボは思わず顔をしかめた。それなりに年を取ったが、まだ立派な大人には程遠いなと。
「……では、改めて君の感謝は素直に受け取るとしよう。こんな美味しいものをご馳走してくれてありがとう」
「それでいいんだよ、それで」
「あぁ、こちらもご馳走し甲斐があったというものだ」
「で、話は戻るがこの食事会の真の目的はなんだ?オレへの礼はあくまでついでだろ?」
「ついでというわけではないが……いや、ワタシ的にはこちらが本命だな」
シルルはナイフとフォークを置くと、テーブルに肘をつき、ランボに顔を近づけた。
「実は君に頼みがある。とある人物に会って欲しいんだ」
「その人物が誰かによるな……どんな奴だ?」
「彼は元――」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「――じゅっ!?」
「「!!!」」
突然の悲鳴!二人とAIは即座に会話を止め、意識を戦闘モードに切り替えながら立ち上がった。
「どうやら話もデザートも後回しのようだな」
「残念だ。ここのミルクレープは絶品なのに」
「ならばとっとと終わらせよう!どんな奴かは知らんが、我らの団らんを邪魔した罪は重いぞ!!」
「あぁ……!!」
「食べ物の恨み……きっちり晴らしてやる!!」
つかの間の平和を脅かす輩に怒りを燃やし、戦士達は外に、新たな戦場に向かって走り出した!




