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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
276/324

リベンジエンジェル

「きっとアイムちゃんなら来てくれると思ってた!アイムちゃんなら絶対――」

「はっ!!」

「――に!?」

 サリエルは言葉よりも一刻も早く拳を交わしたかったようだ。ベティーナの会話を聞かずにいきなり距離を詰めて来た。

「でやあっ!」

「イロウル!!」

 慌てて武装を装着しようと叫ぶ!指輪が機械鎧に代わり、ベティーナの全身に装着されると同時に……。


ガァン!!


「――ッ!?」

 ファーストヒット!顔面をおもいっきり殴られた!

「くっ!?さすがにアイムちゃん、せっかち過ぎ……」

「はっ!!」

 間髪入れずにキック!脇腹を狙う!


ゴォン!!


「ぐっ!?」

「ちっ!」

 けれど、これはガードされてしまう……が。

「ならぁ!!」

 めげずに足を速攻引いて再キック!今度は太腿狙い!


ガァン!!


「ぐうっ!!?」

 見事にヒット!膝が折れ、イロウルの身体が沈み込む!そこに……。

「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 ラッシュを叩き込む!黄金の天使の拳が!蹴りが!打撃が!雨霰のように降り注ぐ!

(イケる!!よくわからんがここではサリエルの力が増幅されるんだろう!だったら身体の使い方が無茶苦茶になった分を補填できる!これなら発作が出る前にこいつを……仕留められる!!)


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 それは希望というより願望といったほうが正確だろう。アイム・イラブとあろう者が自分の力よりも外部の力を頼りにした時点で決してうまくいくはずがないのだ。

「そろそろ……反撃いいかな?」

「ッ!?させる――」


ガァン!!


「――かっ!?」

 視界が強制的に上に!イロウルはパンチを回避すると同時にサリエルの顎に蹴りを入れてきた!

「問答無用なんて寂し過ぎるよ、アイムちゃん」

「お前となんか話したく……!!」

「しかも龍穴の力頼りなんて……らしくないんじゃない?」

「ぐっ!?」

「情けないよ……奇襲にしか勝機を見出だせないなんて……ワタシの好きなアイムちゃんじゃないわ」

「わたしは……!」

 心を見透かされ、肉体に続いて精神にもダメージを与えられる。彼女自身誰よりも情けないことをやっている自覚があったのだ。

「けれど、気持ちはわかるわ。ワタシに、イロウルにリベンジしようとする人はみんなそうだから。自分のスタイルを崩して、形振り構わずなんとか戦おうとする……だけど、最後は結局また勝てないんだけどね~」

「わたしは違う!絶対にお前に!!」

 サリエルは再び拳を繰り出そうとした……が。


「ギシャアァァァァァァァァァッ!!!」


「――ッ!?」

 甦る忌まわしき記憶!シムゴスに与えられたトラウマが身体を硬直させ、拳を振り抜かせることをさせなかった。

「あらら……やっぱりダメだった!!」


ガァン!!


「ぐあっ!?」

 難なく前蹴り成功。もろに腹に蹴りを受けたサリエルは地面を転がった。

「くっ!くそ……また!!」

「イロウルによって目覚めた恐怖をちょっとやそっとで克服できるわけないでしょ。っていうか、アイムちゃんの感じからして一生無理だね」

「一生……いや、わたしは必ず……」

 立ち上がり、再びファイティングポーズを取るが、それは力強さは全く感じない弱々しいものであった。

「構えを取るのもギリギリみたいね。健気で素敵よ!」

「どこまでも気色悪い……!」

「怒った顔もまた素敵……でもやっぱり一番アイムちゃんに似合うのは、絶望に打ちのめされた顔……」

 イロウルもまた両手に鎌を召喚し、構えを取った。

「そろそろこっちからも本格的に攻めさせてもらおうかしら!!」

(来るか!!)

 未来予知能力発動!アイムの瞳が金色に輝き、ほんの少し先の未来を幻視させる。



「はいぃぃぃぃッ!!」

 鎌を右左と振るう!そこでプツリと能力は途切れた。



(予知が短い!?やはり体力の問題ではなく、精神的なもののせいか!!)

「はいぃぃぃぃッ!!」


ヒュッ!ヒュッ!!


 右左から鎌を撃ち込まれるが、予知のおかげで回避。

(ここからはわたしの本来の反射神経次第!)

「よいしょおッ!!」

 斜め下からの斬り上げ!しかし……。

(この程度なら……!)

 サリエルは難なく回……。


ドゴオォン!!


「――がっ!?」

 突然の爆発!衝撃がアイムの身体に痛みを与え、目の前に黄金の欠片がキラキラと舞った。

(な、何が……!?)

「もう一回!いくわよ!!」

 畳みかけるイロウル!今度は撃ち下ろしだ!

(くそ!ここは一旦距離を取る!)

 持てる全ての力を使ってのバックステップ!

 サリエルは見た、遠ざかるイロウルの鎌が空振りし、地面にぶつかる瞬間を……黒いオーラを纏った鎌が。


ドゴオォォォォォン!!


 鎌と地面が接触すると爆発!それが巻き起こす頬を撫でる熱と風がアイムの中の記憶を呼び覚ました。

(そうだ!すっかり忘れていたが、イロウルには爆破攻撃もあったんだ!爆発する黒いオーラ!止翼荘では球にして射出していたが、鎌に纏わせて、直接殴りつけることもできるのか!!)

「あら……逃げないでよ!アイムちゃん!」

 イロウル前進!からの斬撃!

(さっきはオーラの分、間合いをミスったが、からくりがわかれば……!!)

 サリエルは先ほどとは違い、オーラの分だけ伸びた間合いを計算し、余裕を持って後退した。しかし……。


ズズッ!!


「何!?」

 撃ち下ろしの瞬間、鎌にまとわりついていた黒いオーラが薄く伸びた!結果……。


ドゴォン!!


「――ぐうっ!?」

 攻撃をもらってしまう。けれど幸いにも先ほどよりも衝撃は少なかった。

「球にしたり、纏わせることもできるなら、オーラの形なんていくらでも変えられるか……!!」

「イエス。けど、薄く伸ばすと肝心の威力が落ちちゃうから、できることならもっと近くで当たってくれないかな!!」

 追撃するイロウル!

「サリエル!緊急離脱だ!!」

 対して翼を広げ、サリエルは全力で逃走した!

(このわたしが逃げることしかできないとは!だが、機動力ではまだこちらに分がある!今は逃げながら、なんとか活路を……)

「いいこと教えて上げる、アイムちゃん……爆発にはこういう使い方もあるのよ!!」

 イロウルも翼を広げると、その後方に黒い球体を射出し、爆発させた。


ドゴオォォォォォォォォォン!!


「な!?」

「ヒャッハァァァァァァァッ!!」

 イロウル超加速!一気にまたサリエルを鎌の射程内に収めた!

「爆風を翼で受けて……!!」

「推しの顔を間近で見るために試行錯誤は惜しまないのよ!ワタシは!!」


ドゴオォ!ドゴオォ!ドゴオォォン!!


「――ッ!?」

 爆破鎌の網に黄金の天使が捕まってしまった!容赦なく全身に襲いかかる衝撃!それでもなんとか意識を失わずいられるのは、オーラを伸ばさないといけない距離をかろうじて保ち、さらに致命的なダメージにならないようにガードできているからだ。

「本当健気!何もできないとわかっているのに、必死に生に執着して!!」

(悔しいが、こいつの言う通りだ……このままだと嬲り殺しになるだけだとわかっているが、状況を打開する方法が一向に思いつかん!僅かなリーチの差が今のわたしには大き過ぎる……本来のわたしならば、この程度の攻撃、いくらでも捌け――)


「ギシャアァァァァァァァァァッ!!!」


「――るッ!?」

 防御行動をシムゴスの記憶が中断させた!サリエルはその場でピタリと立ち止まる!

「もらった!!」

「しまっ――」


ドゴオォォォォォン!!


「――た!!?」

 恐れていたことが起こってしまった……クリティカルヒットをもらってしまった!

 サリエルは自身の破片を撒き散らしながら吹き飛び、受け身も取らずに地面に落下した。

「ぐっ!?がっ!?」

 全身の骨が軋み、痛んだ。けれど、アイムが最も痛かったのは、身体の痛みではなかった。彼女が身体以上にダメージを受けたのは……。

(攻撃する瞬間だけじゃなく、防御の時にも発作が……!?この感じ……ヤバい!?)


「ギシャアァァァァァァァァァッ!!!」

「ギシャアァァァァァァァァァッ!!!」

「ギシャアァァァァァァァァァッ!!!」


「――ひっ!?」

 アイムは周りに大量のシムゴスがいる幻覚を見始めた。その姿が目に入れば身がすくみ、その声が聞こえれば、血が凍った。もはやこうなって戦うことなど……。

「うわぁぁぁっ!?」

「おしまいね、アイムちゃん。あなたは完全に恐怖に飲み込まれた」

「くっ!?来るな!?」

「それ、ワタシに言ってるの?それともあなただけに見えてる誰かさんに?」

「わたしは……!!」

「もう誰と話しているかもわかってないようね。ここまで来たら……仕上げと行きましょうか!!」

 みっともなく取り乱す愛しのアイムちゃんを尻目に、ベティーナは精神集中し、イロウルの両手のひらの間に漆黒の球を生成した。

「アイムちゃん風に名付けるなら、イロウルエクスプロージョンってところかしら」

「ひっ!?あぁ……!?」

「リアクションがないのは寂しいものね。でもそれがいい!!その自分を見失い、身体の隅々まで恐怖に蝕まれた極限の状態!絶望が一番顔に美しくにじみ出た時に葬ってあげるのが……最高なのよ!!」


バシュウッ!!


 無慈悲に発射される黒い球!

「……あ」

 その球を見て、アイムは一瞬我に返り、そして死を覚悟し、走馬灯を見た。


「一番の武器を失ったお前に勝ち目はない」


(結局、ナナシの言う通り予知も格闘もできなくなったわたしにはあいつに勝つことはできなかったってわけか……わたしの一番の武器は……)


「強い相手と戦う君はプレッシャーを楽しみ、恐怖を楽しみ、闘争心と好奇心がきれいに調和し、最高のパフォーマンスを発揮する。君にとって最大の長所だよ」


(……ん?グノスを出る前にシルルが言っていたあの言葉が本当なら、もしかしてナナシが言っていたわたしの一番の武器は……わたしは大きな思い違いを……)


ドゴオォォォォォォォォォン!!


 黒い球体がサリエルの一部に触れて大爆発を起こした!爆煙が山のようにそびえ立つ!

「……最高だったわよ、アイムちゃん。あなたのことは永遠に忘れない。あなたの恐怖で歪んだ表情はね」

 満足したイロウルは踵を返し、その場から去ろうと……。


ザッ……


「!!?」

 物音を聞き、再び反転!音の出所、爆煙の山を睨み付ける!

「まさか……」

 そんなはずはないと頭では思っていたが、心ではもうすでに理解していた。あの音は……。

「そのまさかだよ、この野郎……」

「なっ!?」

 爆煙の中から、それは出て来た!自慢の翼を半壊させた黄金の天使が再び姿を現したのだ!

「アイムちゃん……!?」

「さぁ、第二ラウンド……いや、ファイナルラウンドと行こうか!イロウル!!」


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