鬼獅子舞い
「………」
「………」
竜の鎌はレオーンの力とラミロの意識を刈り取り、この激闘に決着をつける……はずだった。
「……まだ」
「ん?」
「まだ!終わってねぇぇぇぇッ!!!」
意地の再起動!N・レオーンの闘志はまだ折れていない!
「本当タフだな。だが、結果は変わらん!苦しみが長引くだけだ!!」
ネームレスガリュウは鎌を投げ捨て、拳を握り込む!そして……。
「……月影連舞」
ガッガッガッガッガッガッガァン!!
「――!!?」
まさに神速の攻撃!目にも止まらぬ速さで獅子の急所に拳を叩き込んだ!しかし……。
「まだ……!!」
「……いいだろう。その根性に免じて、俺も加減はしない!ネームレスシュテン!!」
黒き竜から紫の鬼に瞬間変身!そしてそのまま流れるように……。
ガンガンガンガンガンガンガァン!!
殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!
ガリュウ二号機を遥かに越える膂力でひたすらに殴る!しかし……。
「この!!」
ガァン!!
「おっ」
それでも獅子は倒れず!それどころか殴り返して来た……ネームレスシュテンの装甲には全く効いていないが。
「さすがに殴り返して来るとは思いもしなかった」
「舐めんなよ……オレはラエンに勝つために……!最強になるために!」
「鬼火纏い」
ブオオォォォォォォォッ!!ジュウッ!!
「ぐあっ!?」
鬼は炎を口から、自分の腕に吹きつける!灼熱の炎はそこから燃え広がり、鬼の全身を覆い、殴って来た獅子に逆にダメージを与えた!
「これで俺に貴様の攻撃は通じない」
「チクショウ……!!」
「お前は強い。だが、今回は相手が悪かったな」
鬼は炎を纏いし拳を獅子に撃ち込んだ!
「炎月鬼神拳!!」
ドゴオォォォォォォォォォン!!
「――がはっ!!?」
凄まじい衝撃と熱がN・レオーンの装甲を粉々に粉砕し、待機状態の指輪に戻した。
放り出された装着者ラミロ・バレンスエラは煙を纏いながら、ゴロゴロと転がり続け、最終的に仰向けになって止まる。
「ぐっ……くそ……くそ……」
ラミロの視界に広がる空。不思議とそれを見つめていると嫌な感じがしなかった。
「………負けたか……」
ラミロの身体を包むのは、全力を出したことで得られる心地良い倦怠感、その表情は清々しさに満ちていた。
「あれだけ殴られてまだ意識があるとは……大した奴だ」
突然、視界の中に呆れ顔の金髪の男が入って来た。
「その声……あんたがネームレスか?」
「本来ならあまり素顔を晒したくないんだが、龍穴のせいか鬼火纏いの、あの炎を自らにつける技の反動が大きくてな。シュテンを早々に休ませてやらないとダメになった」
「GR02の方は?」
「言うまでもないだろ。やり過ぎだ、お前」
「はっ!」
「フッ……」
言葉を交わせば交わすほど、ラミロという男に好感が持てた。それはきっと最初に感じたように戦いに人生を投じた似た者同士だからだろうと思うとネームレスは嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
「……一つ訊いていいか?」
「なんだ?答えられるものは答えるぞ」
「じゃあ遠慮なく……煙幕の中で二つ気配を感じた。デカいのと小さいの。小さいのは切り落とした腕だったわけだが、デカい方はやはり本体であるあんた自身か?」
「そうだ」
「なら、もしオレがそっちを選んでいたら……オレは勝てていたか?」
ネームレスは首を横に振った。
「ほぼ同時に爆発したから、気づいていないだろうが、爆弾は腕の方だけでなく、俺の方にも仕掛けてあった」
「……はい?」
「腕を切り落とした時点で、フルリペアを使うことは確定だからな。突っ込んで来るお前ごと自爆したところで別にな」
「イカれてるな、オレ以上に……」
「まったくだ。こういう無茶は赤い方の領分なのにな」
ネームレスは思わず苦笑いを浮かべた。
「ちなみにオレがヴリヒスモス、全身から放つあれを使っていたら?」
「お前ほどじゃないが、オレもこの場所では感覚が鋭敏になっている。もしあれだけの大技を使おうとしたらわかるから、発動前に射程外に逃げて、発動後に狙撃なり奇襲なりしていただろうな」
「もしどちらも選ばなかったり、遠距離から対処しようとしたら?」
「その時は爆発に乗じてやっぱり奇襲。けれどお前の性格上、それはないと思っていた。攻め気の強いお前なら、必ずどちらか選び自らの手で仕留めに来ると」
「そうか……こりゃ完敗だな。結局あの状況になった時点で勝敗は決してたってことかよ。ここまで来ると笑えて来るぜ……!」
そう言いながらラミロは起き上がる。
笑顔だった顔は立ち上がった時には真剣なものに変わっていた。
「一つだけじゃなくたくさん訊いちまったが、本当に最後に一つ……あんたに追い付くにはどうしたらいい?」
「強くなる手段は一つではないからなんとも言えんが……俺は死んでもいいと思いながら、戦う奴には負ける気がしない。生きる意志こそが強さの源だと教えられたからな」
「生きる意志……ピンと来ねぇな。オレは戦えさえできればいいからよ」
「俺もかつてはそうだった。とりあえずわからないなら、故郷に戻ってみればいいんじゃないか?」
「グノスに?」
「今、大変な時期だろう。お前の力はきっとあの国の役に立つはずだ。せっかくだから十二骸将でも目指してみればいいんじゃないか?試練とか受けるんだろ、あれ?それをこなしている間に何かわかるかも」
「オレが十二骸将ね……まっ、あんたにリベンジするためにはそんくらいの肩書きが必要か。よっしゃ!このラミロ・バレンスエラ、十二骸将になってみるか!!」
ラミロは反転すると、半身だけ振り返った。
「色々と世話になったな。必ずリベンジに来るから、それまで絶対に負けるなよ」
「お前に言われるまでもなく、俺は誰にも負けるつもりはない」
「はっ!それでこそだ!んじゃ、再会できる日を楽しみにしてるぜ!ネームレス!!」
ラミロはピッと敬礼すると、その場から去って行った。
「……いいんすか、あれ?」
そして入れ替わるように情報屋シュショットマンが怪訝な顔してネームレスの隣にやって来た。
「ん?何か不味かったか?」
「いや、あの人、帝を殺そうとした大罪人っすよ。それを見逃すなんて」
「……まぁ、根は悪い奴じゃないっぽいから……」
「十二骸将を目指す話にしても、グノスの前皇帝に喧嘩をふっかけた奴を採用しますかね?」
「今のグノスの中心は反ラエンの人達だから大丈夫だろ……多分」
「それで十二骸将になったら、何でうちの帝を殺そうとした奴が要職についてんだって、また両国間にいや~な雰囲気が……」
「………」
「それがきっかけでまた戦争が……」
「まっ!なるようになるだろ!いや、絶対になる!!」
ネームレスは思考を放棄した。
「ネムさん……あなたって人は……」
「とにかく君の情報のおかげでヤバい奴を神凪国外に追い出すことができた!今はそれで十分じゃないか!!」
「まぁ、戦いについては自分の専門外なんで、ネムさんがそれでいいならいいっすけど」
「なら、この話はもうおしまい!軽く観光してから鈴都に帰ろう!」
「まだ敵が残ってるみたいっすけど、それはいいんすか?」
「そうは言っても、俺は奴との戦いで限界だからな。後は任せるしかない。だが、それこそなるようになるだろ。奴は俺の知る中でラエンの次に強い女だからな」
「わかっていたけど……最高過ぎでしょ……!!」
帝襲撃のため、祈帝の社に隠れていたベティーナ・オーピッツは歓喜に打ち震えていた。
再び目の前に恋い焦がれた存在が現れたのだ。
「リベンジマッチと行こうか……!」
そう言うと黄金の天使サリエルは拳を握りしめた。




