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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
274/324

獅竜激突

 夜を閉じ込めたような漆黒のボディーにマントを羽織り、額から勾玉を彷彿とさせる二本の角を生やし、黄色の二つの眼は月明かりのように優しく、気高く光輝く……。

 その姿はまさにラミロが会いたくて会いたくて仕方なかった最高の遊び相手そのものだった。

「ヨリミツとの戦いが最悪の終わり方して萎えに萎えていたが……一気にテンション上がって来たぜ!!」

「俺はお前の喧しさに、テンション爆下がり中だ」

「はっ!連れないこと言うなよ、GR02……いや、ネームレスガリュウ!オレはお前に会いに遥々グノスからやって来たんだ!!ラエンに勝ったお前にな!!」

「ラエンだと……!!」

 その名前を聞いた瞬間、黒き竜の中で戦闘スイッチが入り、ただでさえ厳かでひんやりとした空気がもう一段階冷たくなった。

「その反応……最高のバトルだったみたいだな」

「思い出したくもない。というか俺がラエンに勝ったなど嘘八百だ。奴は俺やナナシとその仲間、そしてネクロを命を懸けて、なんとか退けられた。俺個人としては奴にはむしろ完敗だと思っている」

「それでもオレよりマシだ。マジで手も足も出なかったからな……」

「貴様、ラエンと……」

「あぁ……!強い奴と戦うことが生き甲斐のオレは奴に戦いを挑んだ……だが、結果は惨敗。このオレが生きるために逃げ出すことになるとは……!!」

 話しているうちに屈辱を思い出したのかラミロの額には山脈のように青筋が浮かび、目は血走り始めた。

「あの日からオレの人生は奴へのリベンジのためのものになった。身体を苛め抜き、奴に対抗するマシンを求め、そして漸くネメオス・レオーンを手に入れ、再戦の時だと思っていたら……」

「俺達に先を越されたのか」

「マジで気が狂いそうだったぜ!人生の目標を失っちまったんだからな!だけど、すぐにこう思ったんだ!この力、あいつを倒した奴らにぶつければいいってな!!」

「そのために遠路遥々神凪まで……ご苦労なことだ……」

 ネームレスは心底呆れた……が。

(……まぁ情けないが、ちょっと気持ちはわかるな。同じ立場なら自分もそうしたと嫌な確信がある……)

 けれど呆れながらも彼の行為を完全に否定できなかった。ラミロに自分と同じ匂いを感じてしまったのだ。

「あんたからしたらとばっちりなのはわかる……わかるが!オレの有り余るパッションをぶつけさせてもらうぜ!」

 そう言うと、指輪を嵌めた手を顔の前に翳した。そして……。

「猛り狂え!ネメオス・レオーン!!」

 咆哮と共に指輪の真の姿を解放する!光と共に出現した銀色の装甲は鍛え抜かれたラミロの身体に装着されていった。

 山のように大きく、鋼のように硬い、強さだけが存在証明な銀の獅子、ネメオス・レオーン、再び平魂京に顕現!

「それがラエンに勝つために手に入れた力か……」

「あんたの見立てだとどうだい?あの最強の皇帝陛下様に勝てたと思うかい?」

「無理だな」

「はっきり言うね~、んじゃあんた自身には?」

「……無理だな」

「ちょっとだけ迷ったなぁ!!」

 N・レオーン突撃!昂る気持ちを爆発させて、黒き竜に向かって駆け出した!

「はしゃぎやがって……これでも食らって頭を冷やせ」


ビシュッ!!!


 ネームレスガリュウは額のサードアイと呼ばれる機関から光線を発射した!それはいつもより激しく太く強い輝きを放っていた!しかし……。


バシュウ……!


 獅子の硬い皮膚はそれをいとも簡単に弾き飛ばした。

「いつもより威力が出ていた気がするのだが……」

「はっ!てめえがパワーアップしたように、こっちも龍穴の力で強化されているんだよ!!」

「それは厄介な……はてさてどうするか」

「ごちゃごちゃ言ってないで、地獄に落ちろよ!」

 勢いそのままにN・レオーンは拳を撃ち込んだ!しかし……。


ブゥン!!ガァン!!


「――ッ!?」

「お前に送ってもらわなくても、いずれ落ちるさ」

 黒き竜は拳を跳躍して回避。さらに立派な鬣の生えた獅子の頭を踏みつけ、後方に。

「このオレの頭を……!!ッ!?」

 獅子が振り返ると、そこに竜の姿は見る影もなかった。

「話に聞いていた透明になる能力か……だけどオレには通じん!!」

 ラミロの意志が感情が血のようにN・レオーンの全身に漲る。

「ヴリヒスモス!!」


ドゴオォォォォォォォォォン!!


「――ぐっ!?」

 透明化したネームレスガリュウが獅子の鬣に拳をぶち込もうとした瞬間、その銀色の身体から凄まじい衝撃波が放たれ、黒竜は全身にひびを入れながら、吹き飛ばされてしまった。

「ちっ……!少し焦り過ぎたか……フルリペア!!」

 けれど、地面に着地する前に亀裂は無くなった。まるで今の出来事が夢幻かと錯覚してしまうほどきれいさっぱりと。

「お次は再生能力か!いいもんが立て続けに見れたぜ!!」

「見せ物じゃないんだがな」

「もったいねぇな!十分金が取れるぞ!!」

 N・レオーン再強襲!今度こそと拳を撃ち込む……が。

「ガリュウトンファー!!」


ガァン!!


 獅子の拳を回転しながら躱しつつ、その勢いを利用し打撃を叩き込んだ!しかし……。

「痛……くねぇな!!」

 獅子には全くダメージを与えられず。むしろトンファーの方にひびが入った。

「ちっ!アホみたいに硬いな!」

「おう!そんな攻撃、何度撃っても無駄だぜ!」

 三度目の正直なるか!獅子は再び拳を……。

「なら!!」


ガシッ!!


「――ッ!?」

 N・レオーンが振りかぶった瞬間、ネームレスガリュウはトンファーを投げ捨て、その腕に絡みついた。

(なら、関節技で……!!)

「させるか!!」

「ッ!?」


ドゴオォォォォォォン!!


「――がはっ!?」

 絡みついた黒竜ごと力任せに腕を叩きつける!凄まじい衝撃でネームレスの肺の中から強制的に空気を押し出され、黒い装甲に再び亀裂が走る!

 身体から力も抜け、腕を離し、ネームレスガリュウは地面に仰向けに転がった。

「くそ……!?」

「パワー勝負じゃてめえに勝ち目はない……ぞ!!」

 今度こそ……今度こそはとN・レオーンは拳を……。


ビシュッ!!


「――ッ!?」

 また拳を振りかぶった瞬間、倒れている黒き竜の額から再びビームが発射!獅子の顔面に直撃し、視界を白く染める。

「目潰しか!構いやしねぇ!!」


ドゴオォォォォォォォォォン!!


 知ったことかと獅子は拳を叩きつけた……地面に。

 ネームレスガリュウの姿はまたまた見る影もなく消え、N・レオーンの目の前にあるのは何の価値もないクレーターが虚しくあるだけ……。

「ちっ!また透明化か!芸がねぇな。つーかてめえの気配はもう覚えたぜ……!」

 ラミロは神経を研ぎ澄まし、すでに一体化したと言っても過言ではないN・レオーンとさらに深く繋がる……。

「……そこか!獅子斬衝!!」


ザンッ!!


「――くっ!?」

 N・レオーンも渾身の力で腕を振り抜くと、爪から衝撃波が発射され、それが竜のマントの端を切り裂き、透明化を強制的に解除する。フルリペアを使ったのかその姿は傷一つ無くなっていた。

「惜しい!もうちょっとだったのによ!つーか、また再生してるし!」

「龍穴で五感が強化されているのもあるだろうが、気配だけで俺のステルスアタックを破るとは……」

「無駄な努力ご苦労……って、これブーメランか?いや、再生に使うエネルギーを消費させたんだから、オレのやったことには意味あるか!」

「そうだな」

「認めるのかい?潔いね~」

(俺にも成果があったからな)

 ネームレスは二回のステルスアタックの破られ方の違いで、とある仮説を立てていた。

(そもそも奴は気配を探る必要などない、全方位に攻撃できるあの衝撃波があるのだから。けれど、奴は使ってこなかった。腕を掴んだ時だって、あれを使った方が速かったはず。なのに使わなかったということは、あの技にはインターバルが必要か、もしくはエネルギー消費が激しく連発できないということ。ならば……!)

「今のうちに全力で攻めるべき。ガリュウブレード」

 黒き竜が最も信頼する得物を召喚!両腕自体がまるで巨大な刃になったかと錯覚するような、銀色の剣を広げて身体を捻る。

「その予備動作……知ってるぜ……!!」

 N・レオーンはさらに冷たくなった空気を肌に感じながら、腰を落とし、若干前かがみになると、身震いした。

 それが恐れからではなく、武者震いだと、銀色のマスクの下でラミロが笑っていると、ネームレスにはすぐに理解できた。

「この技を知った上で、笑うか」

「神凪が誇る罪深き牙、ネームレスガリュウの最強奥義を間近で見ることができ、あまつさえ叩き潰すことができると思えば、そりゃあこんな顔にもなるさ……!」

「思い上がりも甚だしいな。お前ごときにこの月光螺旋撃は破れんよ!!」

 両腕の刃を前方に突き出しながら、高速できりもみ回転!黒色のドリル弾丸となって、銀色の獅子に突撃する!

「速い!だがぁ!!」


ギャルルルルルルルルルルルッ!!


「ぐっ!!」

 獅子は地面を転がり、なんとか黒色のドリルを回避した!

(ギリギリ!だが、避けられた!これで奴の無防備な背後を……!)

 N・レオーンは振り返った。そこには黒竜の足裏が見えているはずだった……はずだったのだが。

「な!!?」

 ネームレスガリュウはすでにUターン!切っ先をこちらに向けて、突っ込んで来ていた!

「自分の技の弱点ぐらい把握している!そして当然改善も!ましてやこの場所ではスピードが通常よりも遥かに上がっている!避けたいなら、何度でも避けろ!いつか限界が来るだろうがな!!」

「ちっ!そう簡単にはいかないか……それでこそオレのターゲット!!」

 N・レオーンはあろうことか回避するどころか、仁王立ちになり、月光螺旋撃を待ち構えた!

「バカが!死にたいのか!!」

「そんな気ねぇよ!!オレはただ自分の力とN・レオーンを信じているだけだ!!」

 ラミロは闘争心を限界まで昂らせ、獅子の装甲を可能な限り硬質化する!

「来い!!これがオレのマキシマム!!」

「ちいっ!!」


ギャルルルルルルルルルルルッ!!


「ぐうぅ!!」

 銀色の獅子はその胸でドリルの切っ先を受け止めた!火花を散らしながらもなんとか貫かれずにいる。さらに……。

「止めて……オレが止めてやるよ!」

 両手で高速回転するネームレスガリュウを掴もうと腕を伸ばす!


バギィン!!


「――ッ!?」

 けれどあまりの回転力に肩の関節がすっぽ抜けそうになるくらい勢い良く弾かれる!それでも……。

「まだまだぁ!!」


バギィン!バギィン!バギィン!!


 獅子は何度も何度も何度も諦めずに腕を伸ばす!傷だらけになりながらも何度も何度も……。

 その結果、徐々にだが確実に回転力が落ちていき……。

「こいつ……!!」

「これならぁッ!!」


ガギィッ!!


「――ッ!?」

 遂にはブレードをその両手で掴み取った!

「あともう少し……あともう少しでレオーンの装甲を貫けたのになぁ!!」


バギバギィン!!


「ッ!?」

 掴まれ止まったブレードなど、N・レオーンにとっては砂糖菓子と変わらない。易々と握り潰し、雪のように銀色の破片が両者の間に舞い散った。

「まさか……螺旋撃が止められるとは」

 ネームレスは恨めしそうに、獅子の胸の傷を見つめながら、後退した。

「どんなもんだ……!って言いたいが、龍穴による強化がなかったら、負けてたな……」

「謙遜するな。今はこの俺の必殺技を破ったことを素直に喜べ。どうせすぐにまた絶望することになる」

「何……?」

「ネクロに匹敵する体格とそれに伴うパワー、それに似合わぬ敏捷性。ダブル・フェイスを彷彿とさせる好戦的な性格と天賦の才……お前の強さは疑いようがない」

「あ?オレのことを褒めたいのか貶したいのかどっちなんだ?」

「俺はただ客観的事実を言っているだけに過ぎない。お前はまだ荒削りだが、いずれは俺に並ぶ強さを手に入れることになるだろう」

「いずれ……だと……!!」

 月光螺旋撃を破り、上機嫌だったラミロはどこへやら、今の彼はネームレスと対峙してから一番険しい顔になっていた。それほどネームレスの言葉は彼にとって気に障るものであった。

「……これだけやって今はまだてめえの方が上だって言ってんのか?」

「そうだ。俺には勝利の道筋が見えた。もうお前に勝つ見込みはない」

「ほう……だったら、その道筋とやら!オレのパワーで叩き潰してやる!!」

 怒りに身を任せて走り出す獅子。

 それに対し、黒き竜は……。

「ガリュウファン!!」

 扇を召喚!それと同時に身体を限界まで捻った。そして

「黒竜巻!!」


ブオォォォォォォォォォォン!!


「何!?」

 凄まじい勢いで扇を振るい、竜巻を発生させる!地面から土埃を巻き上げ、周囲を茶色いカーテンで覆い隠した。

 それは図らずもN・レオーンに昨日ヨリミツがやったことと全く同じであった。

「どいつもこいつも煙幕って、強い奴ってのは、最終的に目眩ましに行きつくもんなのか?別にそれでもいいけどよ……他の奴らならいざ知らず、オレには通用しねぇんだよ!!」

 ラミロは再び神経を研ぎ澄まし、周囲の気配を探った。

 透明になった敵を感知できる鋭敏な感覚……それを持ってすれば土埃など何の意味もないはずだった。しかし……。

(奴の位置は……ん!?奴の気配が二つあるだと!?)

 繊細かつ正確なレーダーは予想外の結果をもたらし、逆に彼を混乱の渦に突き落とすことになった。

(どういうことだ!?何で反応が二つある!?くそ!もう一度)

 再度精神を集中させるが反応の数は変わらず。けれども、微妙な差異はキャッチすることはできた。

(これ……大きさが違うぞ?大きいのと小さいのがある。普通に考えたらデカい方が本物……だが、そんなことは奴もわかっているはず。だとしたら小さい方か!?チクショウ!!全然わかんねぇ!!)

 N・レオーンは思わず頭を抱え、天を仰いだ!

(ヴリヒスモスでまとめて吹き飛ばすか?いや、あいつならそれも想定しているはず。むしろ空撃ちさせるための策かもしれねぇ。つーか、こうして迷わせて時間を稼ぐのが本当の狙いかも……)

 二択が三択、四択へとどんどん増えていく。ラミロは泥沼に沈むように、疑心暗鬼に陥っていく……ことはなかった。

「……やめだ。こういうのは柄じゃない。奴の必殺技を止めた時のように……オレはオレ自身とレオーンを信じる!!」

 覚悟を決めた獅子は一直線に走り出した!もう迷いは一切ない!

(オレが選ぶのは……!)

「小さい方だ!!」

 獅子の突撃の風圧で土煙が吹き飛び、気配の正体が姿を現した。

「な!!?」

 それはグローブを装備したネームレスガリュウの腕。そう、腕だけだった!

 図らずもネームレスはナナシと似たような手段を取ったのだ!

「あの野郎……!!」

 ラミロがまんまと嵌められたと悟った瞬間、巨大化した手のひらに光の球体が弾け飛んだ。


ドゴオドゴオォォォォォォォォォン!!


「ぐあぁぁっ!!?」

 エネルギーボム爆発!衝撃でN・レオーンの体勢が崩れるが、倒すまでは至らず。

 黒き竜にはそれで十分だった。

「フルリペアからのガリュウサイズ!!」

「!!?」

 再び奴の月明かりのような竜の眼と目が合った……目の前に現れた大きな鎌を振りかぶっている黒き竜の残酷なほど綺麗な眼と。

「我が必殺技はお前を仕留めることはできなかったが最低限の仕事はした。その胸の傷!それがお前に敗北をもたらす致命傷だ!!」

「ちいっ!!ヴリヒス――」

「遅い!!黒竜刃・三日月!!」


ザンッ!!


「――ッ!?」

 三日月状の鎌が三日月の軌跡を描き、胸の傷に命中!そこから一気に銀色の装甲を抉り取った。


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