止まらない復讐
その光と熱はキントキの……。
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
キントキには当たらずに、その隣を通り過ぎた!
しかし、凝縮した力の流れは余波と言えど筆舌に尽くし難く、ドロドロに溶けていた金色の装甲を熱でさらに溶かし、風圧で地面に叩きつける!
「ぐあっ!!?」
キントキは金色の破片を撒き散らしながら、地面を一回、二回とバウンドすると、遂には限界を迎え、待機状態であるお守りに戻り、生身のキクタが投げ出された。
「ぐうぅ……!」
「終わりだ、キクタ」
「ナナシガリュウ……!!」
ダメージで立ち上がれずにいるキクタを紅き竜は静かに見下ろした。
「何故、僕を殺さなかった……?あの攻撃、わざと外しただろ……」
「死にたがってる奴の手伝いはしないことにしている」
「……何?僕が死にたがっているだと?」
「お前が本当に許せないのは、兄として助けに行くこともできず、近衛として掟に殉じることにも納得できない半端な自分だろ?」
「それは……」
図星だった。
キクタが何よりも憎悪していたのは、怒りを燃やしていたのは、誰でもない自分であった。だから彼はこの復讐の最後には……。
「死にたいなら、罪を償ってからにしろ。少なくとも今、俺が手を下すつもりはない」
「どこまでも綺麗事ばかり……」
「それがPeacePrayerナナシガリュウの流儀だ」
「こんな奴に……僕の怒りは君の祈りに負けたのか……」
起き上がることを諦めたキクタは仰向けに地面に転がる。空を見上げるその顔は憑き物が落ちたようにどこか清々しかった。
そして、復讐の呪縛から解放されたキクタの姿を見て、ナナシガリュウも臨戦態勢を解除する。
「ふぅ……疲れた……」
「気を抜くのは、まだ早いぞナナシガリュウ」
「ん?まだやる気か?」
「僕はもう指一本動かせないよ。ただ僕が手引きしたグノスの猛者達が残っている」
「サリエルや団長と戦った奴か」
「事態を混乱させるために負けたふりをしたが、仮に本気でやっても僕じゃイロウルには勝てなかっただろう。特級のキントキではあの恐怖を操る能力の格好の餌食だし、激煌亀では単純に力負けする」
「精神攻撃能力を持つ特級の強みですね。同じ特級には能力が刺さり、能力が効かない上級以下には完全適合によるパワーの差で圧倒する」
「ネメオス・レオーンについては言わずもがな。曲がりなりにもナンブ団長と、あのヨリミツとやり合えてるんだから強いとしか表現できない。一人の戦士としては細工なんてせずに正々堂々と戦う姿が見たかったよ」
「あんたほどの人間がそこまで言うんだから、ガチなんだろうな」
「君は強い。だが間違いなく、消耗した君ではあの二人には勝てないよ、絶対にね」
「生憎、そもそも俺はそいつらとは戦うつもりはない。他の奴に任せる」
「……イロウルにはサリエルを、アイム・イラブにリベンジさせるつもりなのだろうが、N・レオーンには誰を……奴とやり合える存在など神凪の中でもカツミ・サカガミとAOFの隊長くらいのもの……」
「一人忘れてないか?これだけ騒ぎになれば、あのお節介は来るはず」
「お節介……まさか!?」
何か気づいた表情のキクタを見て、マスクの下でナナシは不敵に笑った。
「神凪に住む竜は赤だけじゃない。黒いのもいるんだな、これが」
「おいおい……最高かよ……!!」
帝襲撃のため、祈帝の社に隠れていたラミロ・バレンスエラは歓喜に打ち震えていた。
突然、目の前に恋い焦がれていた存在が現れたのだ。
「その様子だと、俺を知っているようだが、礼儀はちゃんとしないとな……俺はネームレスガリュウ、お前を止めに来た」




