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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
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祈帝の社

 日食まで後二、三時間。アタッシュケースを片手にナナシ・タイランはとある男と祈帝の社にやって来ていた。

「いいところだな。身が清められてる感じだ」

 緑に溢れ、若干霧で白みがかった社はとても厳かで、鼻から入って来る空気の純度が違う気がした。

「このまま何もなければ、ここからさらに奥、普段は禁足地になっている神樹の中に帝が入るんだよな?」

 ナナシは隣にいる男に問いかける。頭に包帯を巻いた優しそうな男に……。

「ええ、もうすぐです」

 男は近衛兵団弐の隊隊長ヒデアキ・キクタ。その顔は相も変わらず穏やかな笑顔に覆われていた。

「もうすぐ……もうすぐ全て終わります」

「色々あった今回の任務がか?それとも……近衛自体がか?」

「……はい?何を言ってるんだい?タイラン殿。というか……何で武装しているの?」

 黒髪の男は赤い竜の姿になって、黄色い二つの眼でこちらをじっと見つめていた。

「もしかして竜穴で特級ピースプレイヤーがパワーアップするってアレ、体験してみたくなった?」

「その気持ちもあるが、これはあんたを捕まえるためさ。裏切り者のあんたを」

「ボクが裏切り者?冗談」

 キクタは鼻で笑った。

「勝手にユーモア溢れる人だと思ってたけど……全然面白くないよ」

「笑えないのはお互い様だ。ベニ」

「はい」

 紅き竜に呼ばれ、彼を手のひらサイズにしたような小型の竜メカが飛んで来た。

「お初にお目にかかります、キクタ隊長。ワタクシ、ナナシガリュウのサポートAIをさせてもらっているベニというものです」

「お噂はかねがね。で、そのベニさんが何?」

「ワタクシ、失礼なことだと思いながらも、この事件の真相を探るために近衛兵団の兵舎に忍び込み、所属団員達の個人情報を調べさせていただきました」

「人のことを勝手に……あまりいい趣味とは言えないね」

「ごもっとも。ですが緊急事態だったので、どうかご容赦を」

「それで調べた結果、僕が裏切り者だと思ったの?」

「ええ……キクタ隊長、あなた弟さんがいますよね?」

「………」

 穏やかな顔をしていたキクタが一変、笑顔が消え、苦虫を噛み潰しているような険しい顔になった。

「データを閲覧したなら、誤魔化しても仕方ないよね。いるよ弟、一緒に育ってないけど」

「あなたの両親はあなた達兄弟が幼い頃に離婚。それぞれに引き取られ、名字も別々になり、あなたは平魂京に、弟さんは鈴都で暮らすことになった」

「あぁ……で、それがどうした?」

「成長したあなた方は示し合わせていたのか、はたまたただの偶然か、同じような道を歩むことになる。国を守るために戦う……あなたは近衛、弟さんは軍に」

「あいつが軍に入ったことは知っているよ。入隊の時に連絡が来た。誇らしいと思ったよ」

「そんな自慢の弟さんは獣ヶ原の戦いに従軍し、そして……亡くなった」

「…………」

 キクタは思わず拳を痛いほど握りしめた。

「まさか……まさかそれが僕が裏切り者だという証拠だと?」

「証拠というには弱いですが、動機にはなります。あなたは掟に縛られ、戦いに参戦しなかった近衛を恨んだ。もし自分達が最初からいたら、もっと早く援軍に行っていたら、弟は死ななかったんじゃないかと」

「それじゃあ、ただの逆恨みじゃないか。僕がそんな愚かな真似をすると?」

「頭では愚かと理解しても、止まれない、止められない……復讐に囚われるとはそういうことだ」

「ナナシ・タイラン……」

「俺はそういう人間を見て来た……」

 ナナシの脳裏にかつて相対した男達の顔が浮かび、マスクの下の顔に影がかかった。

「今のところは動機と状況証拠……ナンブ団長のヨリミツに細工できる人物となると隊長クラスではないと無理だということから、あなたが一番怪しいと判断したわけですが……」

「弁明なら聞くぞ。ただし取り調べ室でな。それでシロってことになったら土下座でも何でもしてやる。今は切羽詰まってるんでな」

「あなた達の流儀に従って……」

「疑わしきは罰する」

「無茶苦茶だな」

「大人しく投降しろ、キクタ隊長」

「断る」

 キクタは不敵な笑みを浮かべながら、紅き竜の優しさに背を向けた。

「いずれバレるとは思っていたが……ここでか……」

「認めるのか?」

「下らないしきたりで弟を見殺した近衛、そして弟を殺したグノス、どちらにも復讐できるいい策だと思ったんだけどな~」

「やはりグノスを、前皇帝シンパを装ったのは、両国の関係を悪化させるためにですか……」

「むしろあれだけやり合っておいて、何ですぐに仲良くできると思うんだよ。遺族の気持ちを何だと……!」

「キクタ……」

「……今さら言っても仕方ないか。僕がやるべきことは最後の悪あがきだ」

 場の空気が変わったとナナシガリュウは感じ取った。戦いの前のあの独特の緊張感を……。

「……ベニ」

「クレナイクロス起動」

 ベニの言葉、正確には彼女の発した信号に反応して、アタッシュケースが宙に浮きながら、X状の機械へと完全変形。

 そしてナナシガリュウの背後に回り込むと、ガチャリと音を立てて接続された。

「ドッキング成功、リンク完了、システム……オールグリーン」

「ナナシガリュウ・クレナイクロス」

「おお……これが……!!」

 キクタは噂に聞いていた紅き竜の最新最強の姿に感嘆した。

「実はナナシガリュウの話を聞いてから、ずっと注目していたんだ。どんな強敵にもボロボロになりながらも、決して挫けず立ち向かい続ける不撓不屈を体現したようなあなたの活躍を」

「そうしないと生き残れなかっただけだがな。俺のファンなら、サインやろうか?」

「いいえ、結構。その代わり……そんな神凪一のタフガイを完膚なきまで叩き潰した戦士の称号をいただきたい……!」

「……やれるもんならやってみろ……!!」


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