正体判明
「……ん……んん?」
「もう起きたか。言っても隊長……タフだな」
目覚めたホソカワを出迎えたのは、彼を深い闇に沈めた張本人、アイム・イラブだった。
「お前!!ぐっ!?うおっ!?」
飛びかかろうとしたが、腕も足も縛られていたので、立つどころか、逆に床を転がることに。
「くっ!?そりゃそうか……ピースプレイヤーも……」
「全部回収させてもらったよ」
アイムの視線の先には札にデバイスに指輪にタグに手裏剣に……大量の待機状態のピースプレイヤーが一ヶ所に集められ、小さな山を形成していた。
「よくあれだけ……全部使いこなせるのか?」
「まぁね。これでも近衛の隊長……じゃなくて!!」
「さっきの忍者はもうちょっとできたはずだ。まだポテンシャルを引き出し切れてない」
「そんなこと!……あるのか?」
「あるある。100%の力を出せていたら、もう少し苦戦していただろう。まぁ、勝敗は変わらんと思うが」
「こいつ~生意気な~……じゃなくて!!」
「何だ?データベースを調べている二人の邪魔になるから静かにしろ」
アイムの後ろではチヨとベニがカタカタと機械を指で弾き、ディスプレイと真剣な顔でにらめっこしていた。
「お構い無く~」
「ワタクシには高性能なノイズキャンセリング機能が搭載されていますので、何も問題ありません」
「だそうだ。良かったな、いくらでも泣きわめいてもいいぞ」
「データよりも性格が悪いね、君……」
「自分ではそうは思わないが……そもそもそのデータとやら信用できるのか?わたしの弱点とか全部的外れだったじゃないか」
「そんなことない!あれは間違いなく……そうだ!何で最後の攻撃!あれは完璧に君の悪癖を!!」
「確かに最後のあれだけはヤバかったかもな……グノスにわたしが行ってなかったら」
「え?グノス?」
「神凪に戻る前に、グノスのシルルという奴に言われたんだ」
「少し迷ったが……君の悪癖について指摘しておきたいと思う」
「わたしの悪癖?そんなものあるのか?自分ではさっぱり……」
「自覚があったら、悪癖とは言わないさ」
「それもそうか。で、何なんだ?その悪癖とやらは」
「君の格闘技の試合を見せてもらったが、君は格上と言われる相手にも物怖じせず、むしろ楽しんでいるように見えた」
「強い奴と戦うのは怖いよ……だけど、それ以上にワクワクする。それがいけないのか?」
「それは別にいい。強い相手と戦う君はプレッシャーを楽しみ、恐怖を楽しみ、闘争心と好奇心がきれいに調和し、最高のパフォーマンスを発揮する。君にとって最大の長所だよ。問題は格下相手だ」
「格下?」
「格下を相手にする時、君は時折集中力を切らし、本来なら当たるはずのない攻撃をもらったりしていた」
「わたしが対戦相手を見下し、油断していると……?」
アイムは思わず顔をしかめた。
「そうじゃない。君がそんな傲慢なタイプじゃないのはわかっている」
「なら、どうして……?」
「格闘家としての矜持か、エンターテイナーとしてのサービス精神か、はたまた両方か……君は相手の力を引き出そうと、とどめをさせるのに、しばらく様子見してしまうきらいがあるんだよ」
「それはちょっと……心当たりがあるかも」
「だろ?まぁ、格闘技の試合ならそれでも構わない。むしろ興行第一と考えたら好ましいくらいだ。だが、その結果、もらう必要のない攻撃をもらうなんて言語道断。実戦なら、そんなことをしていたら痛い目どころじゃないひどいことになるのは必然」
「だよな……」
「もっと言うと予知という体力消耗の激しい能力を得たことによって、省エネ思考が強まっている気がする。それ自体は悪くないが判断を誤るとむしろ余計な体力を使って、状況が悪化することがあるのも忘れるな」
「そう言えば、ナナシがこの宮殿に侵入した時、皇帝と戦うことを考え過ぎて、お前達ギリュウ隊に余計な時間を使い過ぎたとか言ってたな」
「あそこで足止めされてなければ、コマチからルシファーを託されることもなく、ネームレスより前にダブル・フェイスと戦うことになり、より悲惨なことになっていた可能性もあるから、あの時に関しては結果オーライだったと思うがな」
「そう考えると、いつ全力を出すか予知を使うかの判断は本当に難しいな……」
「そこはもう経験を積むしかないが、今の君なら迷ったら出し惜しみせずに戦うことをおすすめする。余力を残して負けるのが一番悔しいからな」
「格下との試合でもそうだった。負けた奴の中でも特に練習の成果を出せなかった奴が、一番落ち込む」
「ワタシが伝えたいのは、そういうことだ。格下だと思っても全力。迷ったら全力。それが今の君にとっては最善」
「心に刻んでおくよ」
「……ってな」
思い出話を終え、アイムが視線を下ろすとホソカワは床に突っ伏しながら、プルプルと震えていた。
「くそぉ……僕より先に気づいている奴がいたとは……!」
「正直、こんな無茶苦茶な状況で、わたし自身今の今まで忘れてたんだけどな。あんたが弱点どうこう言うから、シルルの言ってたアレかって」
「くっ!心を揺さぶろうとしたのが裏目に出たか!まさに策士、策に溺れる!」
「っていうか、話してて思ったんだが、この策ってわたしにもっと時間的に余裕ある時じゃなきゃ意味なくない?できるだけ速やかに侵入・脱出しないといけないのに……格上とか格下とか、相手の力を引き出すとか言ってる場合じゃないでしょ」
「あ……」
自らの渾身の作戦が最初から破綻していたことを指摘された隊長様は口を開けて間抜け面を晒した。
「……頭がいいのか悪いのか判断に困る奴だな……こんな奴が隊長でいいのか?チヨ」
「全て終わったら、帝とナンブ団長にクビにするように提言しておきます」
「だとさ」
「ぐうぅ……こんなことなら、素直に協力しておくんだった……」
「御愁傷様」
アイムはホソカワにそう吐き捨てると、チヨの隣に移動した。
「首尾は?」
「ここまでは上々ですかね。なんとかロックを解除できたところです」
「すごいな」
「こういうのは得意なんで。ベニさんもいますし」
「ええ……」
「ん?どうしたベニ?」
「いえ、別に……」
「何もないように見えないんだが……」
「アイムさん!」
「ん!どうした!?」
「これ、この人のここの情報を見てください……!」
チヨに言われるがまま、彼女が指差す画面に目を通した。
文字を読んでいけばいくほど、アイムの顔は険しくなっていった。
「これは……ベニ!」
「はい!今すぐ確認します」
「これが事実だとしたら、今回の事件の目的は……!!」
一同は画面の男の顔を睨み付けた。




