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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
268/324

お忍び①

 真夜中の公園、当然人はいない……アイム達以外は。

 一行は近衛兵団の兵舎に繋がる秘密の通路を知っているというチヨに連れられ、平魂京のとある公園にやって来ていた。

「本当にこんなところにあるのか?」

「はい……ナンブ団長の話が本当ならば。確かあの茂みの奥に」

 チヨは木々の合間を進んで行くと、膝をついた。

「少し待っていてください。入口は……」

 そして地面を軽く擦りながら、周辺を探って行く……。

「えーと……どこだどこだ……ん?」

 突然動きが止まると、目の前の草の生い茂った地面に顔を近づけた。

「おい?大丈夫か?」

「はい。入口を見つけました。今、ロックを解除……できました」


ガコッ……


 チヨが立ち上がり、その場から離れると、地面が大きな音を立てて開いて、地下に続く穴と階段が出現した。

「マジであったのか……」

「あたしの話、信じてなかったんですか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「別にいいですよ。あたしも正直、半信半疑でしたから。アイムさんと同じくマジであったのか状態です」

「なんかそう言われると、この中に入るのが怖くなってくるんだけど……」

「それもあたしもですよ。けれど、入らないとあたし達に未来はない」

「神凪にもです。お二人の話が本当ならば、早急に近衛の中の裏切り者を特定しないと、帝の御身が危うい。そうなるとイザナギがどうなるか……」

 ベニの言葉に、アイムは思わずゴクリと喉を鳴らした。

「……ビビってる場合じゃないってことだな」

「はい。さっさと行って、欲しいものを獲って、とっとと退散しましょう」

「その言い方はやめろ、チヨ。泥棒みたいだ……」

「みたいじゃなくて、泥棒なんですよ、今のあたし達」

「それはそうなんだけどさ……」

「きっと全てがまるっといい感じに治まれば、ドラマとか漫画のいい泥棒さんみたいに思われますから」

「では、そうなることを祈って……ワタクシがライトで照らしますんで、付いて来てください」

「はい」

「おう……」

 ベニは宣言通り、ライトを点灯させると、躊躇なく地下へと入って行った。それに人間二人は恐る恐る続く。

「ここが秘密の通路……」

 地下通路は一本道でずっと奥まで真っ直ぐとどこまでも伸びているように見えた。

「兵舎までどれくらいかかる?」

「普通に歩いて行けば、十分くらいじゃないでしょうか」

「そうか。ならダッシュで五分……って、何があるかわからないから慎重に行った方がいいよな」

「賢明な判断です。ここは焦らずに行きましょう」

 二人と一AIは周りを警戒しながら、ゆっくりと歩を進めて行った。結果、通路の果て、行き止まりまで十三分かかった。

「これ以上は進めないみたいだが……」

「はい。ちょっと待っていてください。ロックを解除しますから」

 そう言うとチヨは行き止まりの右の壁についている装置を手際良く操作し始めた。

「これで……!」


ガコッ!ズズズズズッ!!


 行き止まりの壁が半回転、向こう側への道が開ける。

 壁の向こうは古びた鎧や刀が飾られているというか、放置されている空間であった。

「ここは……?」

「昔の近衛が使っていた装備を保管している物置小屋です。基本的に団員が入ってくることはないですね。貴重なものはもっとちゃんとした場所に保管されたり、博物館なんかに寄贈されているんで、ここにあるのは売っても二束三文です」

「誰も興味を持たない場所……秘密の出入口にはもってこいですね」

「はい。ですが、ここから先、団員の個人情報が記録されたデータベースまでには、確実に何人かは警備がいます」

「強行手段に出るしかないというわけですね」

「ええ、アイムさん、気が進まないでしょうけど……」

「今更だ。見つけ次第速やかに制圧してやるよ」

 アイムは気合十分と拳を鳴らした。

「頼りにさせてもらいますよ。では……」

「行こう!!」

「声大きいです」

「すいません」

 一行は息を潜め、チヨを先頭に部屋から出た。そのまましばらく何事もなく廊下を進んで行ったのだが……。

「………」

 遂に警備の人間がいる場所に……。

(どうしますか?)

(ベニ、隙を作ってくれ。目の前をバーッと飛んでくれればいい。そしたらわたしが……)

(了解しました)

 指示に従い、ベニは最高速まで一気に加速!


バーッ!!


「ん?」

 目の前を通り過ぎる“何か”を警備の男の眼球が反射的に追いかける。

 その隙に背後からアイムは忍び寄り……。


ガッ!!


「――ッ!!?」

 チョークスリーパー!がっちりと首をホールドし、一気に締め落としにかかる!

「だ、誰……!!?」

「通りすがりの美人だ。わたしの腕の中で眠りにつけるなんて幸せなことなんだぞ。だから……じたばたしてないで、とっとと落ちろ……!」

「ふざけ!ぐっ……ぐうぅ……うっ……」

「ッ!!」

「………」

 首の動脈を封鎖され、脳への酸素の供給を断たれる。激しかった男の動きは徐々に緩慢になっていき、遂には止まり、だらりと腕が垂れ下がり、一人では立っていることもできなくなる。彼の意識は深い闇の底に沈んだのだ。

「……すまんな。あんたはただ真面目に仕事をしていただけなのに」

「アイムさん」

「あぁ、この蛮行を無駄にしないためにも先を急ごう」

 警備の男を壁に寄り掛からせると、一行は廊下を進み、角を曲が……。

「おい、今何か言った――」

「「いっ!?」」

「――か!!?」

 角を曲がった途端、騒ぎを感知した新しい警備員と鉢合わせ!

「煌亀!!」

 伊達に精鋭と呼ばれてるわけじゃない!即座に警備の男は愛機を纏った……が。

「ジャガン!!はあッ!!」


ガァン!!


「――がっ!!?」

 アイムの方が僅かに速かった。

 黄金……ではなく黄色い機械鎧を装着するや否や警備の顎に向かって、躊躇することなくパンチを放つ。本来の威力が出せていれば、それで一発ノックアウトだ……本来の威力が出せていれば。

(やったか……?)

「ッ!!この!!」

「!!?」

 意識を断つまでには至らず!煌亀は反撃に……。

「ていっ!!」


ガンガンガァン!!


「――ッ!?」

 右フック!左フック!そして右肘!電光石火の三連撃を顎に食らい、煌亀は今度こそ沈黙した。やはり両者の見ている世界の速度は全く違ったのだ。

「……ちっ!!」

 多少もたついたとはいえ、勝負としては完勝と言っていい内容。けれどアイムの胸の内は……最悪の気分だった。

(最初の一撃で倒せたはずだ……!やはり完全にパンチのフォームが崩れている……)

「アイムさん?」

「どうしたんですか?自分の手を睨み付けなんかしちゃって」

「あぁ、いや……あっ!久しぶりにジャガンを使ったから、こんな感じだったかなぁ~って思って。ただそれだけだよ」

「それなら別にいいんですが……そもそも何故ジャガン?サリエルじゃ駄目何ですか?」

「節約だよ、節約。戦い続きで大分エネルギーを消耗したから。特に消費のデカいデストロイを使ったのが痛い。だから燃費のいいジャガンの方で。それに室内だと翼が邪魔になるしな」

「そういうことでしたか」

「だから何にも心配いらないよ。今の戦いでジャガンの感覚を思い出したし、煌亀相手なら負けることはない」

「では、改めて先を急ぎましょうか」

「おう。もうあんな不意打ち食らわないように気をつけながらな」

 内に渦巻く不安を誤魔化し、アイムは気丈に振る舞いながら、今まで以上に慎重に歩みを進める。

 その甲斐あって、その後は誰とも会わずにデータベースのある部屋に続く一本道まで、たどり着いた。

「あの扉の奥にお目当てのものが……」

「アイムさん、ストップ」

「ん?どうした?」

「ジャガンなら見えるはずですよ。サーチモードを起動してください」

「サーチモード?そんなものがあるのか?」

「……今度アイムさんにもワタクシの兄弟であるサポートAIを送るようにと、花山重工に戻ったら、提言しておきます」

「悪かったな。メカに疎くて。えーと……言えばいいのか?」

「はい。音声認識でいけると思います」

「じゃあ……サーチモード起動!」

 ジャガンのマスク裏のディスプレイが薄暗くなったかと思うと、通路に縦横無尽に赤い光線が張ってあるのが浮かび上がった。

「これは……」

「赤外線トラップですね。あの赤い線に触れると警報がなるなり、壁が降りて来て閉じ込められるなりするのでしょう」

「じゃあそうならないようにわたし達は身体をくねらせて、リンボーしなきゃならんのか?」

「いいえ。あなた達にはワタクシがいますから」

 そう言うとベニは壁についている装置の近くまで行って、それとにらめっこし始めた。

「えーと、ここはこうで、あそこは……はい、解除」

 言葉は現実のものとなり、たちまち張り巡らされていた赤外線は一つ残らず消え去った。

「さすが花山が誇る最新AI。あんたがいて助かったよ」

「お礼なら、ワタクシにあなた方の助力をするように命じたナナシ様に」

「それは嫌」

「ですよね」

「ははっ」

 下らない談笑をしながら、一行はただの通路と化した道を通り抜け、データベース室の扉の前に……。

「ここの鍵も解除できますか、ベニさん?」

「もうやっています」

「素晴らしい」

「ですが……」

「え?もしかして無理ですか?」

「いえ、解除を試みたら、その前に中から鍵を開けられて」

「え?」

 チヨはジャガンと顔を見合わせた。

「これって……入って来いってことですよね?」

「だろうな」

「というか何で人が……」

「直接訊いてみればいい。わたし達の存在はバレているようだし、じたばたしたところで今更どうしようもない」

「覚悟を決めろってことですね……」

「もうとっくに決まってるだろ、わたし達は」

「そうでした……もう止まることはできない……!」

「あぁ、だから今回も……出たとこ勝負だ!!」

 勢い良く扉を開けると、そこにはデカい画面と無数の機械、そして一人の男がポツンと椅子に座っていた。

 その顔を見た瞬間、チヨの顔はみるみる青ざめる。

「あなたは四の隊隊長の……!!」

「お初にお目にかかる、反逆者の皆さん。僕が近衛兵団四の隊隊長、ミツル・ホソカワだよ」


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