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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
266/324

天使と竜の再戦

「赤と銀色のボディーに……」

「勾玉を彷彿とさせる二本の角、木漏れ日のような黄色の眼……」

「本当に……ナナシガリュウ!?」

「イエス。アイアムナナシガリュウ」

 右手の人差し指と中指をピンと伸ばすと、紅き竜は驚愕する近衛団員達にピッと敬礼した。

 だが、その黄色い二つの眼に映るのは彼らではなく同僚である黄金の天使の姿……。

「……どうしてお前が平魂京にいる?」

「もち観光」

「空気を読め……冗談言ってる場合じゃないだろうが……!!」

 アイムの苛立ちがにじみ出た言葉にその場にいる紅き竜以外の人間はウンウンと頷いて、同意を示した。

「じゃあ、真面目に……大統領命令で、もしもの時のために待機していた」

「……近衛は知っていたのか?」

「いや……」

 角を無くした鹿は今度は首を横に小さく振った。

「知っているのはナンブ団長だけだ。異変があったら彼から、もしくは団長自身に問題が起こったら俺に連絡が来るようになっていた」

「なるほど……そういうことか。わたし達がここにいるのはどうやって知った?」

「それは……どうでもいいだろ」

「え?」

「今、大切なのは俺がどうやって来たかではなく、何をするために来たか……だろ」

「「「!!?」」」

 空気が一変し、気温が上昇した気がした。

 アイムはその現象をよく知っている。ナナシガリュウが本気の戦闘態勢に移行した合図だと……。

「お前もわたしを力づくで連れ戻しに来たのか……!?」

「ネクサスの仲間として当然だろ。身内の不始末は身内がつける」

「アイムさんは!!」

「チヨ!!」

「!!?」

 弁明しようとするチヨを一喝すると、サリエルは肩越しに戸惑う彼女を見つめた。

「アイムさん……?」

「それなりに付き合いがあるからわかる……こいつは覚悟を持ってここに来ている説得は無理だ」

「そんな……」

「だから君がやるべきことは逃げることだ。今すぐここから全力で」

「アイムさんを置いていけっていうんですか!?」

「そうだ。わたしはこいつの相手をしなくちゃいけないんでな……!!」

 サリエルは再び前を向き直し、熱を帯びる紅き竜を睨み付けた。

「でもアイムさん!」

「いいから早く!やろうと思えば、ここら一帯をまとめて吹き飛ばせる相手だ!お前を安全を守るために集中力を使わせないでくれ!そんなことを考えながら相手できる奴じゃない!足手纏いなんだよ!」

「ッ!?」

 さすがにそこまで言われては何も言い返せない。チヨはくるりと反転し、天使に背を向けた。

「ご武運を……!」

「あぁ……」

「ッ!!」

 後ろ髪を引かれながらも、チヨは駆け出した。宛もなく暗闇に向かって全力で走って行った。

「……おい」

「「はっ!!」」

 マキハラ隊長はアイコンタクトで部下二人に少女の追跡を命じた。

 団員達はその命令自体には文句はなかったが、ターゲットを追うためには紅き竜と黄金の天使の横を通り過ぎなくてはいけない。それが不安だったのだが……。

「…………」

「…………」

 恐る恐る横を通る団員達を、ナナシガリュウもサリエルもガン無視のスルー。特に何もなく通り過ぎることができた。

「……いいのか?」

「あいつも腐っても近衛の団員なら逃げ切れるだろ。仮に捕まってもそこまでひどいことには……同僚同士なら酷い扱いはされないはず」

「なら、存分にやり合えるな」

「あぁ、いずれお前にはリベンジしたいと思っていたが、まさかこんなところ――」


ビシュウッ!!


 光線一閃!ナナシガリュウは額のサードアイからビームを発射し、サリエルの目を狙った!

「――で!?」

 しかし、すんでのところで天使は顔を反らし、事なきを得た。

「貴様……!!」

「俺達のやってるのは徒競走じゃない……よーいドンの合図で始まると思うな!!」

 ナナシガリュウ突撃!ダッシュからシームレスに殴りかかる!


パン!!


 それをサリエルははたき、そして……。

「そうだな……これはスポーツじゃないんだよな!!」

 反撃のナックル!竜の顔面に……。


ブゥン!!


 当たらず!ナナシガリュウは高速でターンしながら回避……からの裏拳!

「ウラッ!!」


ブゥン!!


 それをサリエルもしゃがんで回避……からの足払い!

「はあッ!!」


ピョン!ヒュッ!!


 それをナナシガリュウは跳躍して回避……からのキック!

「ほっ!!」


ヒュッ!


 それをサリエルはバックステップで回避……から再びパンチ!

 それに着地と同時に紅き竜も拳を繰り出し、迎え撃つ!

「ナナシガリュウ!!」

「サリエル!!」


ドゴオォォォォォォッ!!!


「「「――ッ!!?」」」

 竜と天使のナックルが正面衝突!衝撃が大気を揺らし、砂利を巻き上げ、木の葉を散らし、神凪の精鋭近衛団員を絶句させた。

「まだまだぁ!!」

「だよな!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 そこから両者の戦いは超至近距離、超高速の殴り合いへと移行していく。



「スゴ……」

 その様子を遠目で見ていた近衛団員は、思わず目を丸くして呟いた。その顔はどこか憧れのスターを間近で見れた子供のように歓喜がにじみ出ている。

「スゴいですか?あれ」

 一方の緑と白のマスクの下のマキハラは対照的なものだった。二人の攻防を苦々しい表情で観察している。

「お言葉ですが、あれはスゴいと感心するしかありませんよ。完全に隊長格の動きです」

「そこは否定しませんよ」

「でしたら……」

「だからこそ歯痒いというか、呆れる」

「え?」

「感心して褒めるより先に、何やってんだと蔑むべきなんですよ」

「えーと、何を?というよりどちらに対して言っているんですか?」

「どちらにもですよ……」



 マキハラの心など露知らず、竜と天使のどつき合いは続いていた。いや……。

「オラ!」


ガギィン!!


「――ッ!?」

 若干だがサリエルが押され始めていた。

(このままだと押し切られるな。ただでさえ継戦能力はあちらが上……この状態が続くのはまずい……!)

(初めて会った時よりもマシンを着こなしている。だが……!)

(初めて会った時の荒々しさはない。けれどあれこそナナシガリュウの本質!今はまだ内に秘めているが、攻めると決めたら一気呵成に仕掛けてく――)


ビシュウッ!!


「――る!!?」

 僅かに気が緩んだところに額からビーム!けれどこれもなんとかサリエルは反応し、光線は文字通り眼前を通り過ぎて行った。

「危な――」

「せいっ!!」

「――いっ!!?」

 竜の指が大きくなったように見えた。もちろん指が巨大化しているわけではない。凄まじい勢いで目に向かって来ているのだ!


ガリッ!!


「――ッ!!?」

 これも超反応で間一髪、紙一重でなんとか目の下、頬の装甲が抉られるだけで済ました……済ましたが。

「お前!それはないだろ!!」


ガァン!!


「――ッ!?」

 だからといって許せるわけもなく、サリエルは怒りを込めて反撃のパンチを撃ち込んだ!

「お前!なんで目ばっかり狙うんだよ!!」

「そりゃあ予知能力が厄介だから」

「わかるけど!わかるけど、一応これでも現在進行形の同僚にするか普通!!?」

「……勘違いするな。俺はあくまでカメラだけを破壊するつもりだった」

「本当にか!?ビームも目突きも結構な威力だったぞ!命中していたら、カメラ貫通して、わたし自身の目も潰れてたんじゃないか!!?」

「………」

「黙るなよ!!」


ドゴオォォッ!!


「――ぐあっ!!?」

 怒りの前蹴り!紅き竜の腹に蹴りを入れ、強制的に後退させた。

「自分が再生できるからって、感覚バグってんぞ!」

「それでもリンダならなんとかしてくれる!!」

「無理だよバカ!!こればっかりはなるようにならないんだよ!バカ!!」

 怒りに身を任せ、未来予知能力発動!アイムの瞳が金色に輝き、ほんの少し先の未来を幻視させる。



「バカって言った方がバカなんだよ!!」

 子供みたいなことを言いながら、相も変わらずしつこく目を狙ってくる紅き竜。

 しかし、それは囮だ。

「てやあっ!!」

 本命は右ローキッ……。

 そこでプツリと予知が途切れた。



(短い!?予知できる時間が減っている!?)

「バカって言った方がバカなんだよ!!」

「!!?」

 異変の原因を見つける暇など敵が与えてくれるはずもなく、輝きを失った目をしつこく狙って来る。


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


(目潰しする気は本当はない!わかっているんだよ!!)

 サリエルはそれを軽快に躱しつつ、意識は足に。本命の攻撃に備える……。

「てやあっ!!」

(来た!!)


ブゥン!!


「ドンピシャ!!」

 タイミングバッチリ!サリエルは左脚を上げ、ローキックを躱した……が。

「!!?」

 ナナシガリュウは振り抜いた右脚を折り畳んだ!その足裏の延長線上にはサリエルの右膝が……。

(本命は軸足!!膝関節か!!)

「はあッ!!」

 バネを存分に使い、天使の膝に撃ち下ろされる紅き竜の足!


ゴォン!!


「「――ッ!!?」」

 それをサリエルは咄嗟に右膝蹴りを繰り出し、迎え撃った!

 結果は痛み分け、両者の足に衝撃と電流が走る。

(くそ!!あえて自らも蹴りを放つことで、威力を殺され――)

「はあッ!!」

 次の攻撃に移行するのが、早いのは当然、この状態を作り出した天使の方だった。痺れる足で大地を踏み締め、腰を入れてストレートを放つ!


ゴォン!!


「「――ッ!!?」」

 やられたらやり返す!ナナシガリュウは頭突きをすることで、ストレートを振り抜かせなかった。けれど……。

「ぐっ……!!?」

 さすがに頭部にサリエルのパンチをもらったのはまずかった。一瞬目の前が真っ暗になり、僅かによろめく。

(即座にわたしと同じ方法で一発KOを免れたのは流石。だが、勝つのはわたしだ!!)

「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 拳を即引き、即放つ!未だナナシガリュウは回復していない!これは決まっ……。


「ギシャアァァァァァァァァァッ!!!」


「――ッ!!?」

 ここに来て、まさかのシムゴスの幻影!身体は硬直し、フィニッシュブローになっていたはずの拳はナナシガリュウの口元の銀色のマスクにあと数ミリというところで急停止した。

「また……いつも最悪のタイミングで……!!」

「最悪なのは俺の方だ」

「!!?」

 この間にナナシガリュウは復活!最悪の目覚めをプレゼントしてくれたサリエルにお返しのナックルを撃ち下ろす!


ブゥン!!


 けれど、それを天使は回避!そのまま竜の背後に周り込む!

(意識はともかく足はまだ回復していない!この間に後ろから絞めれば……!!)

 とどめは打撃ではなく、絞め技に変更!竜の首に腕を伸ばす天使!

 この判断は……それこそ最悪だ。


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 けたたましい音と共に迸る雷光!ナナシガリュウの勾玉を彷彿とさせる二本の角から激しい電撃が放たれた!

「ッ!?」

 慌てて腕を引っ込め、後退するサリエル。

 そんな彼女の方をゆっくりと振り向き、目を光らせるナナシガリュウ。

 紆余曲折ありながら、せっかく背後を取ったというのに元の木阿弥だ。

「……そう言えば、お前にはそれがあったんだな、ミスターローリングサンダー……!」

「こんな初歩的なことも失念して、俺に組みつこうとしていたのか?」

「くっ!?」

 指摘されるまでもなく、アイムは自分の失策に激しい後悔を抱いていた。

(背後を取れたなら、組み技じゃなくとも、いくらでもやれたのに……!よりによって一番あり得ない選択肢を選んでしまうとは……!!わたしはなんて愚かな……)

 意気消沈する天使の姿を見て、竜もまた苛立ちを募らせた。

「……もういい」

「え?」

「今のお前と戦う価値はない」

「何……!?ふざけたことを!!まだ勝負は終わってないぞ!!」

「終わってんだよ……一番の武器を失ったお前に勝ち目はない」

「!!?」

 一瞬でナナシガリュウはサリエルの懐に!勢いそのままにボディーブローを撃ち込む!


ガッ!!


「――ッ!?お前!?」

 サリエルはなんとか拳を両手で受け止める……が。

「オラアッ!!」


ドッ!!


「くっ!?」

 拳は止まらず!そのまま力任せにサリエルを天高く打ち上げる!そして……。

「ガリュウマグナム」

「!!?」

 最も信頼する得物を召喚すると、頭上の天使に向け、意識を集中させる。ナナシの意志と感情がガリュウを伝い、グリップからマグナムへと浸透した。

「ナナシ!!」

「生まれ変わって出直してこい」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


 一足先に夜明けが来た。

 放たれた光の奔流は周囲を燦々と照らし、世界を白で包み込む!

「「「ッ!?」」」

「これが……太陽の弾丸 (サンシャイン・バレット)……!」

 初めて見るその現象に近衛団員達は絶句し、隊長マキハラは息を飲んだ。

 光が消え、再び夜が訪れる。

 漆黒の空には星が煌めいていたが、それらに負けない輝きを誇っていた黄金の天使の姿は跡形もなくなっていた。

「まさか本当に仲間を……!?」

 非情なる紅き竜に団員達は恐れおののき、一様に狼狽えた。

「ふぅ……」

「ナナシガリュウ……!」

 それとは真逆に伊佐々王は立ち去ろうとする紅き竜の前に堂々と立ち塞がった。

「なんだ?」

「こんなことが許されると思っているのか……!?」

「俺は俺の心に従っただけだ」

 ナナシガリュウはそう言うと、改めて夜空を仰いだ……。


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