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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
265/324

最も効果的な方法

「マキハラ隊長……?」

「はっ!?」

 思わず全力でツッコミを入れてしまったマキハラは戸惑う部下の声で我に返り、顔を赤らめた。

「えーと……見つけたぞ、反逆者ども」

「そこからやり直しても、余計変な感じになるだけだぞ、クライド・マキハラ隊長」

「うるさい!貴様が私の名前を覚えていれば……!!」

「それに関しては悪かったと思っているが、会ったばっかだし、まともに話してないし、色々あったしで、こっちも思考回路がショート寸前なんだ」

「余計な悩みを抱えることになったのは、君自身にも原因があるだろ。大人しくサシマに従っていればいいものを。奴なら決して悪いようにはしかったはず。なのに、あろうことかぶちのめして逃亡を図るとは……」

 マキハラは額に手を当て、やれやれと首を横に振った。

「サシマとはあまりいい関係ではないと聞いていたが、意外と信頼しているんだな」

「個人的感情を仕事に持ち込むほど愚かじゃありません。サシマの性格はともかく隊長としてのあり方は、一応尊重しているつもりですよ」

「……いい組織なんだな、近衛兵団というのは」

 アイムは神凪国民の一人として、マキハラの発言が嬉しかった。だが、それ以上にサシマをあんな風にしたことを申し訳なく感じ、僅かに表情を陰らせた。

「……罪悪感を感じる心はあるようですね」

「これでも感受性豊かな方だと自分では思っている。特に一度生死の境をさ迷ってからは尚更にな」

「ならば、これ以上我らを刺激しない方がいいことはおわかりでしょ?」

「あぁ……わかった上で、拒絶させてもらう……!!」

 アイムの心に呼応し、未だ傷が修復し切っていないサリエルが彼女の全身を覆った。

「ですよね。むしろあれだけのことをやっておいて、今更許してくれと泣きついて来たら、ボコボコにしていたところです。あっ、それじゃ結局受け入れようと、拒絶しようと何も変わりませんか」

 口角は上がっているが眼鏡の奥の目は全く笑っていないマキハラは制服の前を開け、首に下げたお守りを露出させた。

「『伊佐々(いささおう)』」

 お守りが光を放つと、鎧が出現。マキハラの全身に装着されていった。

 緑と白の身体、頭からは木の枝のように分かれた角が二本、どこか厳かな雰囲気を纏いし特級ピースプレイヤー伊佐々王、ここに見参。

「この感じに、勾玉の意匠……また花山の特級か」

「飽き飽きですか?」

「あぁ、飽き飽きだな」

「安心してください。この伊佐々王……ヤタガラスよりも強くて面白いですから!!」

 先手を取ったのは緑の鹿!地面を抉れるほど蹴り出し、一気に距離を詰めた!

「はあっ!!」

 そして勢いそのままにパンチ!

「ふん!」

 それに黄金の天使はカウンターで合わせ……。

「おっと」


ヒュッ!!


「――な!?」

 伊佐々王急停止!カウンターは不発に終わり、空を切る!

「この!」

 だが、その程度で落ち込むことなくサリエルは足を振り上げた!

(ハイキック……に見せかけて、ガードを上げさせたところに、脇腹をズドンだ!!)

「当たりませんよ」

 アイムの狙い通り両腕を上げる伊佐々王。黄金のマスクの下で格闘姫はほくそ笑んだ。

(今度こそドンピシャ!!)

「なんてね」


ヒュッ!!


「は!?」

 緑の鹿は腰を引いて、天使の蹴りをまた空振りさせた。

「どうしましたか?全然ダメじゃないですか」

「この!!」

 挑発に乗り、サリエルはラッシュを仕掛ける!しかし……。


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


「ッ!?」

 その全てを伊佐々王は涼しい顔で避け続けた。まるでそこに攻撃が来ることを知っているかのように……。

「わたしの攻撃を読んでいるのか!?」

「はい」

「まさかお前も予知能力を……!?」

「いいえ。伊佐々王は素晴らしいマシンですが、さすがにそんな超常的な力はありませんよ」

「なら……」

「答えて上げる義理なんてありま――」

「伊佐々王は感覚能力が鋭いんです!相手が特級ピースプレイヤーなら、精神力の流れで、予知ほど正確でないにしろ先を読めます!」

「――せん!?」

 あっさりと情報をバラされ、マキハラは狼狽えた。

「今だ!!」


ゴォン!!


「――ぐあっ!?」

 その隙にパンチ!ファーストヒットはサリエルだ!

「くっ!?卑怯な……!!」

「勝手に油断したんだろ!」

「そうですね……気を引き締め直しますか!!」


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


 ここから形勢逆転……とはいかなかった。当たったのはさっきの一発だけで、またいくら撃てども当たらない状態に逆戻りしてしまった。

「くっ!?」

「あのお嬢さんの言う通り、伊佐々王は優れた感知能力を持っています。集中すれば、ある程度の力を持った者限定ですが、その者の位置を探り当てることも」

「じゃあ、わたし達を見つけたのも……」

「ええ、この伊佐々王の力。もう少し離れていれば、索敵範囲外だったのに、惜しかったですね」

「何!?」

 サリエルはチヨの方を向いて「ちゃんと言ってくれよ」と視線で訴えた。

 チヨは「いや、言ったでしょうが!もっと離れましょうって!」とこれまた視線で返した。

「余所見していていいんですか?」

「!?」

「もらった!!」

 伊佐々王のパンチ!完全に油断していたサリエルは回避が間に合わない!

「そんな攻撃!!」

 なので、防御することにした。両手をがっちりとクロスさせて、衝撃に備える……が。


ペタッ……


 伊佐々王は拳を開き、ただ優しく手のひらで触れて来ただけだった。

「……え?」

 完全にパンチの衝撃が来ることを予想していたアイムは予想だにしない行動に呆気に取られる。

「何――」

「アイムさん!触られたところを削ぎ落として!!」

「――ヲ!?」

 指示の意味を理解する前に身体が動いていた。触れられた方ではない手で手刀を作り、それで……。


ザシュッ!!


 言われるがまま該当箇所を削ぎ落とした。

「なんだと!?何故……いや!考えるのは後回しだ!!」

 伊佐々王もまた予想だにしない展開に思考停止に陥りそうになったが、そこは精鋭部隊の隊長というべきかすぐに切り替えて、追撃に移った……が。


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


「くっ!?」

 サリエルには通じず。先ほどとは攻守が逆転した光景が繰り広げられることになった。

(一体チヨは何故あんなことを……?)

 サリエルは伊佐々王のラッシュを凌ぎながら、自ら切り落とした腕の表面に目をやった。

(ん?)

 すると、伊佐々王が触れた部分からゾワゾワと何か緑色のものが生え、あっという間に広がると、金色が全く見えなくなった。

「あれは……苔か?」

「ふん!あのお嬢さんは私の思っている以上に見識があるようなんで、今回は素直に教えてやる。伊佐々王は触れたものに苔を生やす力がある。そしてその苔は生えたものから勝手にエネルギー放出する特性を持っている」

「……つまりあのままだったら、苔によってサリエルのエネルギーとわたしの精神力、体力が一気に失われていたというわけか」

「弱らせてから捕まえるのが、一番穏便かと思ってな」

「気遣いはありがたいが、もうその手は使えんな。そんな話を聞いたら、絶対に触らせてやるもんか!!」

「私もあのアイム・イラブ相手なら最初の不意打ちで仕留めないと、その後はノーチャンスだと思っていた……こうして手合わせする前まではな」

「……今は違うというのか……?」

「あぁ……思ったよりずっと……大したことない!!」

 伊佐々王加速!ハンドスピードを一気に上げた!

「ちいっ!!」


ヒュッ!ヒュッ!ガッ!ヒュッ!ガッ!!


 サリエルは回避だけでなく、手のひらに触れないように、伊佐々王の腕を捌いて、防御し始めた。そうしなければ対応できないのである。

「くそ!?」

「さぁ、いつまでもつかな?」

「いつまでだってもたせてみせるさ!だが、わたしはそんなことをしている時間はない!!」


ガッ!ガァン!ガァン!!


「――ぐっ!?」

 伊佐々王の腕を最高のタイミングで弾いてからのワンツーパンチ!きれいに決まったコンビネーションに、緑の鹿は為す術はなく、強制的に後退させられた。

「私が対応できない完璧なタイミング……噂の予知能力か!!」

「そうだ!お前のような紛い物ではなく、本物のな!!」

「くっ!腐っても接近戦ではそちらが上か!ならば!!」


バササササササササッ!!


「なんだ!!?」

 伊佐々王の周囲に笹……に、似せた小型メカが大量に召喚される。

「“角笹(つのささ)”……これが君の超常的な能力を攻略する最も効果的な方法だ!!」


バササササササササッ!!


 伊佐々王が指揮者のように手を振ると、それに呼応して、角笹と呼ばれる小型メカが一斉にサリエルを四方から取り囲むようにして、襲いかかった!

「こんなもの!!」


ヒュッ!ガァン!ヒュッ!ヒュッ!ガァン!!


 対するサリエルは細かくステップを踏みながら基本は回避しつつ、隙があれば拳で撃ち落としていく。しかし……。

「ちっ!鬱陶しい!シルバーを開発したブリなんとか社のヤーなんとかと同じ武器か……!」

「ブリードン社の……あれだ。あんなのと我が伊佐々王を一緒にしないでもらいたい!位が違う!位がな!!」

(確かにこれはちょっと……レベルが違う!数が多すぎる!)


ヒュッ!ガァン!ヒュッ!ヒュッ!ザシュッ!!


「――ッ!?」

 しかし、遂には捌き切れずに攻撃を食らってしまった!

(このままだとまずい!ここはまた予知で……!!)

 未来予知能力発動!アイムの瞳が金色に輝き、ほんの少し先の未来を幻視させる。



 視界一面を覆う角笹の群れ……。

 回避しようにも避け切れず、叩き落とそうにもキリがなく、包囲から逃げ出そうにも逃げ道がない……。



(打開策が見えない!!?)

「その様子……能力を使ったか。けれど、何も得られなかったみたいだな」

「ッ!?」

「いくら未来を見ようと、それに対してどう行動するかわからなければ意味はない。そう!対処できない攻撃をすれば予知など怖くないのだ!君の絶対的な能力に対抗できる数少ない存在がこの伊佐々王!格闘戦しかできない君には高貴なる新緑の包囲網を打ち破ることはできない!運命の皮肉か!?はたまた必然か!?無敵の君の唯一の天敵とも言える私と戦うことになるとは……運がなかったな!!」


ヒュッ!ザンッ!ガァン!ヒュッ!ザシュッ!!


「くっ!?」

 緑色の角笹のドームに覆われ、為す術なくいたぶられるサリエル。

「これが無敵を超える至高の妙技!!」

 その姿を見て、マキハラは勝利を確信する。

「悔しいが、これはさすがにわたし自身が培った技術ではどうにもできんな……」

 アイムもまた今回ばかりは素直に敗北を認めた……格闘家としては。

「おっ?遂に降参する気になったか?」

「いいや。不愉快極まりないが、格闘家アイム・イラブとしてはどうしようもない……だから悔しいが!本当に悔しいが!今日だけは流儀を捨てさせてもらう!!」

 サリエルは両腕を前にして、身体を僅かに丸める。

 すると両腕、両脚、両肩、翼の装甲が展開し、レンズのようなものが無数に露出した。

「え?何それ知らない」

「だろうな!なんてったってわたし自身、初めて使う武器だからな!喰らえ!サリエルデストロイ!!」


ビビビビビビビビビビビビビシュウッ!!


「なにぃぃっ!?」

 黄金の天使の全身に配置されたレンズから一斉に発射される光線!隙間なく、間断なく放たれたそれは角笹を次々と貫き……。


ドゴオォォォォォォォォン!!


 爆散させた!緑色のドームは一瞬で灰色の煙へと様変わりした。

「そんな!?まさかあんな武装があったなんて!?切り札として隠していたのか!?」

「そんなんじゃない!!」

「!!?」

 爆煙を突き破り、再び装甲を閉じ、レンズを隠したサリエルが登場!

 必殺の策が敗れ、取り乱す伊佐々王の眼前まで一気に迫ると……。


ガシッ!!


 その自慢の角を両腕で二本とも掴んだ!

「しまった!?」

「格闘家として、愛機にレーザーなんて付いていても、絶対に使う気がなかった!プライドが許さなかった!それを使わせやがって!!」

「それは君の勝手だろ!?」

「うるさい!サリエルインパクト!“蹴”!!」


グンッ!!バギイィィィィィィン!!


「――ッ!!?」

 角を掴み、引き寄せると、エネルギーを纏わせた膝蹴りをおもいっきり叩き込む!

 凄まじい衝撃で角は二本ともへし折れ、緑と白で彩られたマスクには稲妻のような亀裂が走り、中身のマキハラの脳みそが揺れに揺れ、伊佐々王は吹き飛び……倒れた。

「「「隊長!!?」」」

 明らかにヤバい吹き飛び方をした上司に、慌てて駆け寄る部下!けれど……。

「来るな!!」

「「「!!?」」」

「……大丈夫だ……!」

 角を失い、みすぼらしくなった伊佐々王はヨロヨロとなんとかかんとか力を振り絞り、立ち上がると、部下を制止した。

「まだ終わってないぞ……!サリエル……!」

「格闘家として、最後はきっちり打撃でKOできて、溜飲が下がったと思ったんだが……ダメダメだな、わたし」

 アイムはスッキリするどころか苛立ちを募らせた……不甲斐ない自分に対して。

「フッ……どうやら双方決着に納得いってないようだな……!」

「だからといってこれ以上続ける気はない。今のお前に追い討ちをかけても余計虚しくなるだけだ。このわたしに武器を使わせたことを誇りに眠っていろ」

「ふざけるな!まだ私は戦える!私がやらねば誰が貴様を止めると言うんだ!!」


「俺が止める」


「「「!!?」」」

 再び廃寺に響く男の声。その声の方を向くと、全員が全員驚きの表情を見せた。

「な……!!?」

 その中でも一際アイム・イラブは驚愕した。まさかこんなところで彼と会うことになるなど、想像も予知もしてなかったから……。

「ナナシガリュウ……!!?」

「久しぶりだな、アイム」


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