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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
259/324

近衛の頂点と猛る獅子①

 止翼荘の最奥、詫び錆びの感じる造形の離れの屋敷こそが日食、月食の前日に帝が過ごす歴史ある場所である。

 当然、ここは他以上に警備が厳重。神凪でも精鋭と呼ばれる近衛兵団の中でも選りすぐりの猛者達が集められていた。

 ここに許しも無しに足を踏み入れることは死を意味し、誰一人として帝の元にはたどり着けない……はずだった。

「な、何なんだこいつは……!?」

 “それ”はそびえ立つ山のように大きかった。

 堂々とした立ち姿は見る者を畏怖させ、萎縮させた。

 しかも今はさらにその迫力を増幅させるように、周りには瀕死の煌亀が何体も倒れている。

「近衛兵団が、煌亀が……こんなに一方的に……!!」

「恐れるな!我らの後ろには帝が控えているんだ!使命を果たせ!!」

「お、おう!!」

 指揮官と思われる男の檄に発奮し、煌亀軍団は銃を召喚する。そして……。

「てぇーーっ!!」


バババババババババババババババッ!!


 一斉に発砲!チカチカと銃口が明滅し、弾丸が闇夜に真っ直ぐと軌跡を描いた。


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


「なっ!?」

 “それ”は最上級の鋼よりも硬かった。

 大切な者を守るために祈りを込めて放たれた弾丸を無慈悲に、その鈍く輝く銀色の肌に傷一つつけることなく、全て弾き返すその姿は更なる恐怖を抱かせる。

「がっかりだぜ。強い奴とやれると聞いて、誘いに乗ったのによ……どいつもこいつも弱っちぃじゃねぇかよ」

「こいつ……!!」

「我らを愚弄するか!!」

「否定したいならよ~、言葉じゃなくて……行動で示してくれよ!!」

「なっ!?」

 “それ”は一陣の風のように速かった。

 地を蹴ったかと思うと、一瞬きもしない間に眼前まで来ていた。生きているスピードが違うということを、容赦なく突きつけてくる。

「くそ!!」

 精鋭と呼ばれる者の意地か、目の前の“それ”に煌亀は槍を繰り出す!しかし……。

「オラアッ!!」


バギィッ!!ドゴオォォォッ!!


「――がっ!!?」

 “それ”は拳一つで槍ごと煌亀を破壊した。

「よくも!!」

 背後からの強襲!けれどこれも……。

「はあっ!!」


ドゴオォォォッ!!


「――ぐはっ!?」

 文字通り一蹴。回し蹴りで、煌亀の強固な装甲を粉々に砕き、それに守られていた中身の骨も粉砕した。

「こいつ……強い、強すぎる!?」

「今更わかりきったこと言ってんじゃねぇよ。そんな暇があるなら頭を動かせ、頭を。このオレを倒す方法もとい楽しませる方法を考えろ。それが出来ないで、何が天下の近衛兵団だ」

「貴様ぁぁぁぁっ!!」

「ふん」

 “それ”は猛り狂う嵐のように強かった。

 向かって来る煌亀を拳で砕き、爪で抉り、足で吹き飛ばす。

 “それ”はまさに生きている暴風雨だった。

「がっ……!?」

「そんな……我らがたった一人の賊に……」

「無念……!!」

「無念なのは、オレの方だっつーの。せめてもうちょっと頑張ってくれよ。不完全燃焼で気持ち悪い」

 “それ”はどこまでも黒く深い闇のように貪欲だった。

 煌亀の一団を壊滅させても満足などせず、新たな獲物を探して、目をぎらつかせる。

 だが、彼のお眼鏡にかなう者などどこにも……。

「まだ血が欲しいか、言葉を話す獣よ。ならば儂が相手をしてやろう」

「はっ!あんたは……!!」

 いた!いつの間にか“それ”の前に立っていたのは、首にお守りを下げ、腰に刀を差した白髪の老人。

 髭を撫でながら歩いて来るその姿はそびえ立つ山のように大きく堂々としたもので、全身から溢れ出す威圧感に“それ”は狂喜した。

「儂を知っているか、獣よ」

「あぁ!あんたはオレのターゲットの一人だ、近衛兵団団長マサオミ・ナンブ!!」

「ターゲットの一人?本命は帝ということか?」

「そっちも興味があるが別の奴らだ」

「気になるのう、儂と肩を並べる者など、早々いないはずなんだが」

「オレも自信家だが、あんたも大概だな」

「自分も他人も信じられるなら信じた方がいい。その方が人生楽しいぞ」

「かもな。けど、あんたのは過信だ。この『ラミロ・バレンスエラ』とその愛機『ネメオス・レオーン』を前にして、余裕かましてんじゃねぇよ」

「そこまで言うなら、ちょっとばかし……マジになるかの……!!」

 ナンブの感情の高ぶりに呼応し、首にかけていたお守りが光の粒子、そして機械鎧へと変化し、彼の身体を覆っていった。

 ほんの一瞬で白髪混じりの老人は重厚な鎧を纏う武者へと様変わりしたのだった。

「これが近衛の頂点……!」

「改めて自己紹介しようか。儂はマサオミ・ナンブ、神凪近衛兵団の団長。そしてこれが帝を守る最強の刃『ヨリミツ』だ」

 名乗り終わるとヨリミツは腰に差している刀とは別の刀を召喚した。

「老い先短い身、後悔は残したくない。儂以外のターゲットとやらを教えてくれるか?儂が勝ったらな」

「その条件だと、百パー後悔が残るぜ、じいさん」

「すぐにわかるさ、どっちが間違っているか」

「あんたさ」

「いいや、お主だ。儂に喧嘩売るなんて、帝を脅かすなんて、神凪に牙を剥くなんて……どう考えても間違っているだろうが!!」

 ヨリミツがN・レオーンの間合いに踏み込む!そして勢いそのままに刀を撃ち下ろす!


ブゥン!!


 けれど、それは残念、空振りに終わる。獅子はその荒々しい態度と、大きな体躯には似合わぬ冷静かつ俊敏な動きで容易く躱した。

「血気盛んだな、じいさん!!」

「生涯現役、生きている限り成長期が儂のモットーだ!」

 続いて横薙ぎ!しかしこれも……。


ブゥン!!


 N・レオーンは跳躍、足を折り畳んで斬撃を飛び越した。

「その精神嫌いじゃないぜ!そういうこと言ってる奴を叩きのめすのが最高なんだ!!」

 折り畳んだ両足を凄まじい勢いで伸ばす!ヨリミツに向かって!


ブゥン!!


 反撃のドロップキックは鎧武者を捉えることはできなかった。ヨリミツもまた俊敏な動きで回避、獅子の側面に回り込む。

「儂もお主のような命知らずに現実を教えるのは好きだぞ!!」

 再度放たれる剣撃!着地間際の無防備を狙った完璧な一太刀……に思われたが。

「はっ!」

 N・レオーンは地面に足を着くや否や全身のバネを使い旋回!ヨリミツの刃を爪で迎え撃つ!


ガギィン!!


「「――ッ!?」」

 武者の刀と獅子の爪の勝負は引き分けに終わった。両者衝撃で弾かれ、腕に電撃が走る。

「今のに反応するか」

「せっかくの極上のバトル……すぐに終わらせるのはもったいねぇ!!」

「どこまでも闘争を求めるか……早々に駆除せんとな!」

「やれるもんならやってみろ!!」


ブゥン!ガギィン!ブゥン!ブゥン!ガギィン!!


 さらに上昇するボルテージに反して、戦いは今までと変わらず、お互いに刀と爪を振るい、それを回避するなり、防御するなりを繰り返す膠着状態に陥った。

「恵まれた体格から繰り出される圧倒的なパワーとスピード……このレベルは中々お目にかかれん。神凪だと儂とカツミぐらいだ」

「はっ!まどろっこしい自画自賛してるんじゃねぇよ!だが……実際にこのオレとここまでやり合えてるんだから、否定はできねぇな」

「自分に匹敵する相手に出会えて嬉しいか?」

「あぁ!嬉しいね!遥々神凪まで来た甲斐があった!カツミとかいう奴もオレのターゲットの一人!あんたと同等だっていうなら最高過ぎるぜ!」

「カツミと死合うことを考えるなど……もう儂に勝った気か!さすがに自惚れ過ぎだ!!」

 ヨリミツは爪を躱しながら、突きを放った!切っ先は獅子の顔面に……。

「ふん!!」


バギィバギィンッ!!


「何!?」

 刀は獅子の眉間に見事に命中した……したのだが、逆に粉々に粉砕されてしまった。

 得物を失ったヨリミツは迷うことなく後退を選択。間合いを取った。

「煌亀相手に傷一つつけられていないから硬いことは覚悟していたが……ここまでとは」

「レオーンはタフだぜ。少なくともそんななまくらじゃどうにもできないくらいには」

「なまくらか……これでもピースプレイヤーの携行武器としては最高峰なんだがな」

「レオーンの皮膚の前じゃ、他の刀と変わらん。だから、とっとと本命を抜けよ。ご自慢のアーティファクト『童子切(どうじぎり)』をな」

「ずいぶんと儂のことを調べたようだな」

「ある意味じゃ、あんたの熱烈なファンみたいなもんだからな、オレは」

「ファンか……では、サービスしてやろうかの。ただ儂のファンサは類を見ないほど激しい……後悔するなよな……!」

「――ッ!?」

 ヨリミツは凄み、N・レオーンを気圧すと同時に折れた得物を投げ捨て、そして腰の鞘から元々差していた刀を引き抜いた……。


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