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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
反逆の拳
256/324

近衛を束ねる者達

「壱の隊は大体……おい、あれ」

「ん?急にどう……噂の朱の隊の……」

「あいつがネクサスの未来を見るっていう……」

「十三の隊の格闘家……」

「朱の……」

「アイム・イラブ……」

「十三……」

 隊長達の打ち合わせ場所に向かう途中、アイムは近衛隊員達とすれ違う度に怪訝な表情で見られ、ひそひそ話で色々と言われた。

「……いい気分ではないな、こそこそと値踏みされるこの感じは」

「すいません……ですが、先ほどアイムさん自身が仰ったように皆さんナイーブになっているんで、大目に見てください」

「あくまで職務を全うするために、異分子をチェックしてるだけか……」

「はい、そういうことにしておいてください」

「そういうことにしておくか」

 アイムは小さくため息をついて、しぶしぶ今の不愉快な状況を受け入れた。

「……ところで、さっきも言われたが、わたしを見て、朱の隊とか言うのは何なんだ?」

「タイランの人間がいる部隊に所属しているからですよ」

「ナナシの?」

「ええ。昔から近衛ではタイランの人間が所属する軍の部隊を“朱の隊”とか“十三の隊”とか呼ぶんですよ。自分達が壱の隊とかって名乗っているのになぞらえて」

「なるほど。朱ってのは、あの赤い竜の家紋が由来か。だが、十三ってのは?」

「今は四の隊までしかいませんが、時代によって隊数は多少増減します。歴代最高が十二部隊だったんですよ」

「それでタイランの部隊は幻の十三の隊というわけか」

「はい。ちなみに十二まで増えたのは、グノスの十二骸将に張り合ったからだと言われています」

「ええ……」

 アイムは眉を八の字にし、眉間に深いシワを寄せて、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。

「気にいらないですか?」

「気にいらないというか、阿保じゃないかというか……そんなガキみたいな理由で帝を守る隊の数を決めるなよって」

「思いますよね」

「しかも十二骸将に対抗して、十二の隊って……どうせなら十三の隊まで作って追い越せよ」

「仰る通り」

「あれか、それこそタイランの部隊を入れて十三だからOKなのか?それとも秘密の(ゼロ)の隊とかいるから、実際は超えてますとかなのか?」

「それは……漫画やアニメの見すぎですね。あたし的にはカッコいいのでいて欲しいですけど、零の隊」

 チヨは肩を揺らして笑った。するとぶかぶかの制服がアイムには波打っているように見えて、違う疑問が沸き上がって来た。

「……確かチヨは四の隊なんだよな?」

「はい。それが何か?」

「いや……失礼だが、あまり強そうに見えないんでな。大丈夫かなって」

「でしょうね。あたしは戦闘要員じゃないんで」

「え?」

「どこの軍だってそうでしょ。前線で戦う兵士だけじゃなく、後方で彼らを支援する事務やらオペレーターやら色々の人がいます」

「そう言われれば……うちの隊にもいるな……」

 アイムの脳裏にケニーとリンダの親子と、マインの顔が思い浮かんだ。

「今や自分も軍属のはしくれだというのに、全員が全員戦闘要員だなんて素人みたいな勘違い……恥ずかしい」

「気持ちはわかりますけどね。あたしもイメージの中のネクサスは筋骨隆々のマッチョの集まりですもん」

「わたしを見て、がっかりしたか?」

「いえ、むしろ本当に強い人は余計な筋肉とかついてないんだな~って、なんか感動しました」

「それなら良かった。ちなみにこれから行く打ち合わせには壱から参の隊の隊長が集まるんだよな?」

「はい、そうです」

「近衛のトップの団長と君の上司の四の隊の隊長は来ないのか?」

「ナンブ団長は警備に関しては全て隊長達に任せて、自分は帝の側から離れません。うちの隊長というか四の隊自体そもそもこの止翼荘に来ていません」

「何?近衛総出ではないのか?」

「何かあった時のために外にも動ける人がいた方がいいということで、四の隊は隊舎で待機です。元々、兵団に伝わる貴重な資料の管理なんかも任せられていますし、自然とこういう形に」

「四の隊がいないのはわかったが、なら何でそこに所属している君は一人ここにいるんだ?」

「それは……」

「それは……?」

「あたしが超スーパーエリート隊員だからです!!」

 チヨは腰に手を当て、胸を張り、鼻を鳴らした。

 対してアイムは……。

「……言っちゃなんだが、そうは見えないな」

 対してアイムは冷めた態度で、一言で切り捨てた。

「……やっぱり騙せませんか。お察しの通り、あたしはただの下っ端隊員。ただ若い女性のアイムさんをエスコートするなら、あたし以上の人はいません」

「同性で年齢が近い方が気を遣わなくていいってことか」

「ええ、今まで見てきた通り、ほとんど強面の男の人なんで近衛は。そんな人達よりもあたしの方がいいだろうというのが、帝のお考えです」

「帝にそこまで気を遣わせるとは……申し訳ない」

「きっと帝は気にしてませんよ。それでも悪いと思うなら、頑張って警備してください」

「そうだな」

「話が纏まったところで、ちょうど到着しましたよ」

 チヨとアイムは宿の宴会場と思われる場所の前で立ち止まった。

「この中に隊長達が……」

「約束の時間まで、まだ少しありますから全員いるかはどうかはわかりませんがね。まぁ、とにかく入りましょう」

「あぁ」

「では……失礼します」

「あ?」

 襖を開けると、粗暴そうな大柄の男がぽつんと一人、凄まじい威圧感を放ちながら座っていた。

「奴は……」

「あの人は……」

「壱の隊隊長、『ヨウスケ・サシマ』だ」

 サシマは名乗りながら立ち上がると、アイム達の前まで歩いて来た。

 近くで見るとさらにサシマはでかく、迫力があったが、アイムもチヨも一切狼狽えなかった。

「ほう……このおれを前にして、身じろぎ一つしないとは、二人とも肝が座っているな」

「幸か不幸か、あんたほどでかくて強い奴を何人も知っている」

「あたしも知り合いに結構な圧力の人がいるんで」

「その知り合いを含めて、我が隊に欲しいな」

「わたしをネクサスから引き抜くために、隊長殿はわざわざ立ち上がって、側まで来てくれたのですか?」

「違う。おれはこれをしに来た」

「「え?」」

 サシマは頭を下げた。全くそんなことをすると予想していなかったアイム達は思わずたじろいだ。

「急にどうした!?」

「ここに入る時、うちの部下が失礼を働いたと聞いた。部下の失態は上司であるおれの失態だ……悪かったな」

「いや!あれはわたしも悪かった!喧嘩腰で!だから頭を上げてくれ!」

「君がそう言うなら……」

 サシマが頭を上げ、再び顔を合わせると、アイムはさらに心の中で罪悪感を募らせる。

「本当に……知らなかったとはいえ、横柄な態度を取って、悪かったな」

「おれに気にするなと言うなら、君ももう気にするな。喧嘩両成敗じゃないが、それで手打ちにしよう」

「わかった」

「では、警備の話は皆が揃った後に」

「あぁ……」

 サシマは軽く会釈をすると、元いた位置に戻り、座った。

「なんか……見た目と違って、ちゃんとしてたな」

「昔はかなりやんちゃだったらしいですけど、隊長になってからは面倒見のいい素敵な上司だって評判です。グノスとの獣ヶ原の決戦にも近衛の掟を破って、参戦させてくれと提言したんですよ」

「あの戦いに?」

「ええ、一刻も早くグノスとのいざこざを終わらせることが、帝の身を守ることになる。だから壱の隊だけでもいいから行かせてくれと」

「そうだったのか。はっきり言って、あれだけの国難に静観を決め込もうとしていたのは、気に食わなかったんだ。何のための力だって」

「近衛の中でも、あの件に関しては意見が分かれました。サシマ隊長のように、戦いたいと思う人もいれば……」

「失礼します」

 話の途中で、別の襖から二人の男が入って来た。一人は優しそうな顔をしていて、一人はメガネをかけていた。だが、どちらも体格が良く、サシマ同様強者のオーラを醸し出していた。

「奴らが弐と参の……」

「優しそうな方が弐の隊隊長『ヒデアキ・キクタ』隊長。メガネの方が参の隊の『クライド・マキハラ』隊長です。このマキハラ隊長は掟こそ絶対、帝を守ることが何よりの使命とし、グノスとの戦いに参戦することに反対の立場を示していました」

「どうりで……奴らの間に重い空気が流れている」

 サシマとマキハラは対面で離れて座っていたが、両者は決して目を合わせようとしなかった。

「あれ以来、かなり険悪で……」

「どちらの言い分も間違ってるとも思えんし、結果としてイザナギ稼働案件と認められて参戦することになったんだから、水に流せばいいと、第三者からしたら思うのだが」

「そう簡単には割り切れませんよ。そもそもその前からことごとく意見が対立して、折り合いが悪かったらしいですから。それをなんとか穏やかなキクタ隊長と『マサオミ・ナンブ』団長が諌めていたって感じで」

「まぁ、サークル活動でもないし、仲が悪くとも仕事がきちっとできていればいいか」

「周りにいる人間からしたら、たまったもんじゃないですけどね」

「ちなみに君のところのボスはグノスとの戦いについてはどういう見解だったんだ?」

「ええと……うちの隊長は、良く言えば中立、悪く言えば流れに身を任せていたって感じですかね。弐の隊のキクタ隊長も似たようなもんだったと聞いています」

「ホソカワと一緒にされるのは侵害だな」

 否定の声を上げたのは、今まさに話題に上がったキクタであった。

「我関せずの彼と違って、ボクはうまい落としどころを必死になって探していたよ。まぁ端から見ると、どっち付かずに見えたかもだけど」

「すいません!何も知らないのに、生意気言って!」

 チヨはペコペコと何度も頭を上下させた。

「別に謝って欲しいわけじゃないよ。ただ……打ち合わせ始めたいから、ボクらの紹介が終わったなら、座ってくれるかなって」

「あ!あたしとしたことが、皆さんをお待たせしてしまって、本当にすいません」

 チヨは再び頭を上下させた。

「だから、そういうのはいいって隊長殿は言ってるだろ」

「いや、でも……」

「それでも謝りたいなら、後にしよう。わたしも打ち合わせなんて面倒ごとはとっとと終わらせたい」

「了解しました」

 アイムはすたすたと畳の上を歩き、隊長達の側へ。チヨはその後をとぼとぼと付いて行った。その時!

「失礼します!!」

 また部屋に人が!息を切らした隊員が入って来た!

 そのただ事じゃない姿を見て、三人の隊長とアイムの顔つきが一瞬で真剣なものへと変わる。

「どうした?イノウエ」

「マキハラ隊長……あの!て、敵襲です!ピースプレイヤーの集団が攻めて来ました!!!」

「「「!!!」」」

「アイムさん!」

 三隊長とアイムはチヨと報告してきた隊員を置いて、勢い良く部屋から飛び出す!すでに肉体と精神も戦闘体勢に移行している!

「嫌な胸騒ぎがしていたが……いきなりか!」

「ふん!誰であろうと、おれがぶっ倒してやる!!」

「勘違いするなサシマ。我らの使命は帝を守ること。敵を倒すことは手段の一つでしかない」

「マキハラ……!てめえがごときが偉そうに……!!」

「二人とも……さすがに今は喧嘩してる場合じゃないって……」

「「ふん!!」」

(大丈夫なのか、こいつら?まぁ、今さら言っても仕方ないか。ここはネクサスらしく……)

「なるようになるだ!!」

 アイム達はさらに加速し、すっかり暗くなった夜の闇を駆け抜けた。


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