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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
天使は反乱に踊る
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天使は反乱に踊る②

 それはまさに恐怖を形にしたようだった。

 シュライクよりも薄い水色に、世界を拒絶するようなおぞましい異形の姿に、巨大な翼……。

 それはまさに恐怖を形にしたようだった。

「最高だ……これがルミラウーガ……オレの力、世界に死を届ける黙示録の獣……!!」

 もう一人のフィーアはさらに高揚した。念願が叶ったのもあるが、初めて特級ピースプレイヤーに完全適合した者はこうなることが多い。

 目に見えない不確かな感情というものが物理的な力に変換され、行使できる感覚というのは、超常的かつ神秘的で、ある種の全能感を感じるのだろう。

「フィーアが二重人格で……そのもう一つの人格が特級を手に入れてしまった……」

 対照的にアインスは絶望の淵にいた。同胞を立て続けに失い、それがまた別の友のせいであり、そいつがさらに世界に牙を剥こうとしている……彼の心はとうにキャパシティを越えて、処理できていなかった。

 一方、ツヴァイは……。

「……やるぞ、アインス」

 彼はやはり冷静だった。冷静に、いや冷酷に自らのやるべきことを見極め、剣を構えた。

「やるって……フィーアを?」

「それ以外に何がある」

「そんなの……フィーアと戦うなんてできるわけない!!」

「奴は最早俺達の知っているフィーアじゃない!!」

「!!?」

「俺達の知っている臆病で優しいフィーアは……死んだんだ。目の前にいるあいつはむしろフィーアの仇と言っていい存在……!!」

「でも、もしかしたらひょんなことでまたフィーアの人格が戻ってくるかも……」

「そのひょんなこととは何だ?」

「そ、それは……」

「希望を持ちたいのはわかるが、不確定要素に賭ける時間はない!奴が死を振り撒くと言ったんだ!きっとこの近くの村や町から手当たり次第殺していくぞ!武器を持っていないただの一般市民をだ!!」

「その通り」

「「!!」」

 

ガシッ!!


「――がっ!?」

「速い!?」

 声が聞こえ、ルミラウーガの方を見た瞬間、急に視界が暗くなる。頭部に感じる圧迫感から、一瞬で接近され、頭を掴まれたのだとすぐに理解した。

「さすがツヴァイだ。この状況で冷静に頭を使えている」

「くっ!?」

「ただ一つだけ間違いがある。村や町を焼く前に……まずはお前らだろ!!」


ドゴオォォォォォン!!ガガガガガッ!!


「――がっ!?」

「ぐあっ!?」

 晶鶴とファルコーネを持ったままルミラウーガ飛翔!

 天井に二人を叩きつけ、そのまま彼らを使い、城壁を掘り進んでいく!そして……。


ドゴオォォォォォォン!!


「到着!!」

 外に出た。しかし、ミドレイン城周辺は相変わらず暗雲が漂っており、彼らを日の光が照らすことはなかった。

「せっかく全員飛べるんだからよ……やるんなら、空だよな!!」


ブゥン!!


「ぐうぅ!」

「ちっ!!」

 ルミラウーガに投げ飛ばされるが、白と金色の翼を羽ばたかせ、空中で体勢を立て直した。

「これでわかったろ!お前がやる気がなくとも、あいつは俺達を殺すつもりだ!!」

「くっ……!」

「覚悟を決めろ!アインス!!もう……もう俺とお前しかいないんだ!!」

「くそ……くそぉぉぉぉっ!!」

「それでいい……!」

 覚悟を決めたというより、半ば自棄になった感じだが、晶鶴は二本の刀を召喚しながら、ルミラウーガへと向かい、ファルコーネもそれに続いた。

「手加減は無用だ!殺す気でやらないと、こいつは止められないぞ!!」

「わかってる……わかってるよ!!」

「ならばよし!一気に決めるぞ!」

「天剣……!」

「二重葬!!」

 連携技発動!計三本の刃が凄まじいスピードでルミラウーガに襲いかか……。

「思ったより……遅いな」


ガンガンガンガンガンガンガァン!!


「――ッ!?」

「ぐはっ!?」

 ルミラウーガはそれ以上に速かった。

 振り下ろされる刃を裏拳で弾き、さらにそのまま両者のボディーにパンチを叩き込む……これを文字通りの目にも止まらぬスピードで行い、二人を吹き飛ばした!

「くっ!?今……俺は何をされた……!?」

 黄金の翼と各部についたスラスターを使い、急ブレーキをかけるファルコーネ。

「悲しいな~」

「!!?」

 そんな彼の背後から声が聞こえた。圧倒的スピードでルミラウーガは先に回り込んでいたのだ。

「同じように作られたのに、ここまで差ができるなんてな」

「この!!」


ブゥン!


「おっと」

「くっ!?」

 振り返り様に剣を横薙ぎするが、軽く仰け反り回避されてしまう。圧倒的なスピード差が為せる技。それはまさに……。

「オレとお前じゃ見えている世界が違う……なんて不平等で理不尽なんだろうなぁ!!」


ガァン!!ドゴオォォォォォォン!!


 反撃のパンチは見事に顔面を捉え、ファルコーネの仮面を砕き、屋上へと叩き落とした!

「フッ……いざ戦闘になると、キョドっていたのが、嘘のように苛烈な攻めを見せる……」

「天剣!!」

「お前のそういうところ、表のオレは尊敬していたぜ」

「鶴翼刃!!」


ガギィィィィン!!


「――ッ!?」

 必殺の太刀は不発どころか、逆に刀を砕かれてしまった。キラキラと銀色の破片が目の前を舞い散り、自らの顔を映すと、背筋が凍った。

「ちいっ!!刀が無理なら!!」

 晶鶴は柄だけになった刀を投げ捨てると、拳を繰り出した。しかし……。


パンッ!


「な!?」

 いとも簡単に捌かれてしまう。

「だが、オレからしたらお前もそこら辺にいる有象無象と変わらん。ただの雑魚だ」

「うるさい!!」

 恐怖を振り払うように、ハイキックを放つ……が。


ガァン!!


「――ッ!?」

 やはり届かず。これもまた腕であっさりガードされた。

「これが現実だ」

「くそ……!!」

「さぁ、悔しがっている暇はないぞ。ここからは……オレの!ルミラウーガのターンだ!!」


ガンガンガンガンガンガンガァン!!


「ぐうぅ……!!」

 雨霰のように降り注ぐ拳と蹴り!晶鶴はどうすることもできず、身体をできるだけ小さく丸めるだけだ!

「情けないな。戦うために生まれたのに、こんな一方的に……手も足も出ない」

「ぼくの存在意義は……それだけじゃ……!」

「そこだよ、アインス。そこがオレとお前らの決定的な違いだ。お前は自分を否定している」

「ぼくとお前が違うのは当然だ!ぼくはお前のように力を罪無き者に向けたりしない!!」

「オレと同じく、世界を恨んでいるのに?」

「――ッ!?」

「オレとお前の奥底にあるものは同じ。だが一方はそれを無理矢理押し止め、一方は解放している!それだけの違いが、これだけの差になる!!常識や倫理に縛られ、自らに嘘をつき続けるお前と、欲望に忠実なオレでは出力されるパワーが違う!感情をエネルギーに変換する特級ピースプレイヤーを装着しているなら尚更な!!」


ガシッ!!


「ぐっ!?」

 晶鶴はルミラウーガに首を掴まれる。脱出しようとじたばたと暴れ、蹴りを繰り出すが敵は意に介さず。罠にかかった鶴の如く無力だった。

「知ってるか?そういうの無駄な足掻きって言うんだぜ!!」


バギィ!!


「ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」

 翼を掴まれ、もぎ取られる!千切れた根元から血のように噴き出す火花が片翼となった鶴の悲痛な姿を殊更強調する!

「遂にはご自慢の翼も一つ失ってしまったな」

「そんな風に……!」

「ん?」

「そんな風に敵を嬲るような真似、フィーアなら絶対にしない……!」

「だ~か~ら!オレもフィーアだっての!!お前が見ようしなかっただけで、奴は心に闇を抱えていた!この目を覆いたくなるような嗜虐趣味も奴の一部だ!!」

「だとしても……その感情を彼は無垢の民に向けたりなんて……」

「無垢な奴なんていないんだよ!人はオレ達のことを生まれただけで罪だと蔑むが、命とはそうだ!皆、罪を抱えて生まれて来る!オレがそれを思い出させてやる!そのためにオレは存在する!オレは黙示録の獣!偽の神を殺し、この世界に終焉をもたらす滅びの魔獣!!」


ガンガンガンガンガンガンガァン!!


「――ぐっ!?」

 首を掴んだまま、殴る!殴る!殴る!

 晶鶴のマスクもまた割れ、戸惑い怯えるようなアインスの眼が露出した。

「そうだ!怯えろ!戦け!オレこそ恐怖!!フィーアであり、Fearだ!!」


ドゴオォォォォォォン!!


「――がっ!?」

「アインス!!」

 晶鶴は力任せに、ファルコーネの隣に投げつけられた!まるで隕石が落下したようなクレーターを屋上に作り、美しい白いボディーは汚れ、亀裂が迸り、今にも崩れそうだ。いや……。

「大……丈夫!!ぼくはまだ……!!」

 風前の灯火であったが、アインスの闘争心は折れてはいなかった……なかったが。


バギィン!!


「「!!?」」

 晶鶴の方が限界だった。まるで粉雪のように白い装甲が弾け飛び、さらに待機状態である腕輪もまた……。


バギバギィン!!


 砕け散り、地面へとこぼれ落ちた。

「修復限界……完全破壊……これじゃあもう……」

 これは堪えた。ギリギリで持ちこたえていたアインスの心も大きく揺れる。仮に心は無事でも、彼には力が……。

「ルシファーだ」

「!?」

 上空で不愉快なにやけ面でこちらを見下ろしているルミラウーガを見据えながら、ファルコーネがそっと呟くと、アインスはその指にある“力”のことを思い出した。

「特級には、特級だ。しかも設計者も同じなのだから、必ず対抗できる、そのルシファーなら」

「でも!ぼくはまだこれを使えたことが……」

「ならば、今使えるようになれ」

「無茶な!!」

「無茶でもなんでもやらなければ、俺達が死ぬだけだ……二人だけになった俺達が……」

「ツヴァイ……」

「長くはもたん……とっとと使えるようになれ!俺が死ぬ前にな!!」

「ツヴァイ!待って!!」

 金色の隼は待たなかった!傷だらけの心と身体に鞭打ち、心と身体も変貌した兄弟に向かって、飛んで行く!

「よくも俺に……よくも俺にあいつに頼らせるようなことをさせたな!しかもあまつさえ自分の命を人質にするような真似を……許さん!お前には必ず報いを受けさせる!!」

「報いを受けるのは、世界の方だ!!オレ達を生んだ罪を償わせてやる!!」


ガァン!!ガンガンガンガンガンガン!!


「ぐっ!!?」

「ははぁ!!」

 悲しいかな先ほどとほぼ同じ展開が繰り返された。金色の隼の攻撃は全て躱され、防がれ、逆に水色の狂天使の攻撃は全て当たる……。

 ファルコーネのボディーはメッキが剥がれるように、どんどんとくすんでいった。

「このままじゃ本当に……ぼくがなんとかしないと……!」

 仲間の死を予感したアインスは指輪を見つめ、意識を集中した!

「力を貸してくれ……ルシファー!!」


………………


 だが、指輪は応えてくれない……。

「そんな……何で……」

 焦りに震え、疑問で凍えるアインス。

 瞬間、彼の脳裏に先ほどのルミラウーガの言葉がフラッシュバックした。


「常識や倫理に縛られ、自らに嘘をつき続けるお前と、欲望に忠実なオレでは出力されるパワーが違う!感情をエネルギーに変換する特級ピースプレイヤーを装着しているなら尚更な!!」


「……もしかしてぼくが迷っているから……ぼくがフィーアと戦うことを……倒すことを望んでいないからなのか……?」

 特級ピースプレイヤーは意志や感情を力に変える。故に心の底で望んでいないこと、納得していないことに手を貸してくれないのは当然のことであった。

「だけど……ぼくがフィーアを……兄弟を手にかけるなんて……!」

 涙目になって頭上を見上げると、相変わらずルミラウーガは荒ぶっていた。それはまさに恐怖を具現化したよう……しかし、アインスには全く真逆のようにも見えた。

「……泣いているのか?フィーア……」

 自分以外の全てに怒りを向けるその姿は悲しげだった。アインスにはルミラウーガが泣きじゃくっている子供のように見えたのだ。

「君は、ぼくの知っているあの優しい君はこれ以上誰かの命を奪うことなんて望んでいないんだね……きっと君なら止めて欲しいと思ってるはずだ……結果、自らの命を失うことになっても!だとしたらぼくは、ぼくにできることは!!」

 指輪が熱を帯び、輝いた!まるで星が宿ったように、眩く、それでいて優しく輝いたのだ!

「ぼくは心の底から望む……兄弟の願いを叶えることを!!これがぼくの祈りだ!応えて見せろ!Peaceprayer!!応えておくれ……ルシファー!!」



「はあ……はあ……!!」

 ファルコーネはもう高度を維持するだけで精一杯だった。剣も砕け、手足を上げる体力もない。意識を保つことがやっとだったのである。

「はっ!人間を超えた存在ってのもこの程度か。本当……嫌になるね!!」

 そんな満身創痍の隼に、狂天使は容赦なく拳を繰り出した!


バシッ!!


「……何?」

 拳はファルコーネに命中することはなかった。両者の間に割り込んで来た者が、パンチを軽々と片手で受け止めたのだ。

 白と金色の装甲、背中の左側から翼の生えた神々しいピースプレイヤーが……。

「ルシファー……」

「助けにきたよ、ツヴァイ。そして……フィーア!!」


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