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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nexus
25/324

ジョセフィーヌちゃん

ブロン!ブロン!ブロロロン!!!


 ナナシが愛しのジョセフィーヌのエンジンを吹かす。感触を確かめるように……相手を威嚇するように……何より、愛しい彼女の鼓動を感じるために!

「……これで対等だ」

 真っ直ぐと項燕を睨み付けたまま、ナナシがそっと呟く。項燕は動じない。いや、むしろ嬉しそうだ。

「……まさか……おれの渾身の一撃を受けて無事とは……咄嗟に武器で防御しつつ、自ら後ろに飛んで威力を殺したか……おもしろい!!」

 喜びのせいか槍を握る手に自然と力が入る。それは相対するナナシガリュウも同じだ……彼の場合は苛立ちからだが。

「俺はちっともおもしろくねぇよ……」


ブロン……


「ヒヒィン……!」

 張り詰めた空気の中、ジョセフィーヌと黒嵐の“声”だけが静かに響く……。両者、タイミングを測っている。

 今度こそ、この戦いに決着を着けるタイミングを……そして、それは突然、訪れた!


ドッゴォオーーーン!!!


「――!?……はっ!!」

「――!?……おりゃ!!」

 爆発音と共に、遠方で火柱が上がる!そこら中に落ちている白バイかピースプレイヤーに炎が引火したのだ!

 一瞬、両者、意識がそちらに向きそうになる……が、必死にこらえ、心を、そして身体を目の前の敵に向かわせる!

 ジョセフィーヌと黒嵐、アクセル全開!最高速で突っ込んだ!


ガンッ!!!


「ちっ!?」

「ぐっ!?」

 ナナシガリュウのハルバードと項燕の槍がすれ違い様にぶつかり合う!それだけだったら、振り出しに戻ったみたいだが、今の紅い竜の一撃には愛しのジョセフィーヌちゃん、彼女のパワーとスピードが乗っている。

「……これは……イケる!」

 ナナシの心に自信が湧いて来た!この戦いが始まって以来、初めての勝機を感じながら、彼女を見せびらかすように折り返し、再び敵の元へ!もちろん、相手も同じく、こちらへ勝利をその手に収めるために突撃して来る!

「オラァ!」

「でやぁ!」


ガンッ! ガキンッ! ガンッ!


 一合、二合、三合と両者の刃がぶつかり合う。これも、さっきまでと同じ……そう同じだった。

(……腕が……くそッ!?結局、状況は変わってない……?なんでだ……!?ガリュウとあいつのピースプレイヤーのスペックにそこまで差はないはずだ……!仮にパワーはあっちが上だとしても……こんなに……一方的に……!)

 端から見ると互角に見える戦い、ナナシもそうだと思っていた……が、腕の痺れが自身の考えが間違っていたことを物語っている。

 これだけの差が出る理由……一つ目は、ナナシの思っている通り“パワー”の差。推測通り単純にガリュウより項燕の方が腕力に関しては上だった。とは言え、あくまで僅かな差である。

 その差を広げているのは、二つ目の問題、“経験”の差、そして、三つ目“相棒”の差だ。まずは“経験”だが、当然この手の戦いに慣れていないナナシと、むしろ得意として、何度も行っている蓮雲では、どちらに軍配が上がるのかは明らかであろう。

 次に、“相棒”であるが、あくまで犯人を追うことを想定された移動手段でしかない白バイのジョセフィーヌちゃんよりも、こういう戦い方をするために日々鍛えているオリジンズの黒嵐の方がこういう旋回戦では圧倒的にパワーもスピードも上である。

 それに加え、ナナシは当たり前のことだが、いちいちジョセフィーヌちゃんを操縦しているのに対し、蓮雲はまったく、一切黒嵐に指示を出していない……する必要がないのだ。

 黒嵐自身が考え、主人が最も生きる動きをする……蓮雲はそんな黒嵐を信頼し、攻撃だけに集中する。

 今、この場で結成したばかりの即席コンビでどうにかできる相手じゃないのだ。

「はっ!」

「ぐっ!?」


ガキンッ!


(……どうやらこのままじゃ勝ち目がないようだな……戦法を変えねぇと……よし!)

 自身の愚かな勘違いに気づいたナナシが仕掛ける!バイクを横に滑らせ急停止!そして……。

「こいつなら……盾で防ぎ切れねぇだろ!ガリュウバズーカ!」

 バズーカを呼び出す!もちろんそれを、敵に向けて……。

「くら……えっ!?」

 バズーカを向けた先には、同じく停止し、こちらに弓を引いている項燕の姿が!

「読めてるよ」


ヒュン!!


「な!?って、驚いてる場合じゃ!!」


ブルン!!


 主人のピンチにジョセフィーヌちゃんが唸りを上げる!

「ぐっ!?危ねぇ……ギリギリ…セーフ……って喜んでる場合じゃねぇよな……」

 ジョセフィーヌちゃんを急発進させ、放たれた矢をなんとか回避する。肉体的ダメージは避けることができた……しかし、精神の方はそうはいかない。

(くそッ!今の攻撃……力だけじゃなく、頭でも負けたってことかよ!)

 完全に動きを、考えを、ものの見事に読まれた。強いショックがナナシを襲い、一種の錯乱状態に陥ってしまう。

「どうする?何をする?俺はどうしたらいい?教えてくれ!ジョセフィーヌちゃん!!」

 ナナシの問いかけに、ジョセフィーヌちゃんは答えない。彼女は無口なクールビューティーなのだ。

「別れは済んだか?」

「――ッ!?」

「食らえ!」


ガキッ!


「ちいっ!?こいつ!?いつの間に!?」

「読めていると言っただろう」

 ちょっと目を離しただけ、だけなのに、あっという間に黒嵐がジョセフィーヌちゃんに接近し、あろうことか真横で並走していた。ナナシの行動を予測、というより誘導したのだろう。でなければ、こんな芸当はあり得ない、できるはずがない。

「単純なんだよ、貴様は」

「うるせぇ!あと男とランデブーする趣味はねぇんだよ!離れやがれ!!」


ガンッ!ガンッ!ガン!!!


 両者、並走しながら切り結ぶ!突き放そうとするナナシガリュウ!それを掻い潜り、致命の一撃を与えようとする項燕!

 二人の思惑と意地が火花となって両者の間で咲き誇る!

「諦めろ!おれと黒嵐にたかが白バイに乗ったぐらいで勝てる訳なかろう!!」

「うるせぇ!俺とジョセフィーヌちゃんの絆は永遠だ!別れなんて……別れ……そうか……俺は……バカだ……」

 突如として窮地のナナシの頭にある映像が鮮明に映し出された。

「……?追い詰められておかしくなったか、いいだろう!恐怖から解き放ってやる!!」


ガン!


「ぐっ!?……のォ!」

 一瞬の隙に打ち込まれた槍の一撃に、ナナシがよろめき、ジョセフィーヌちゃんから振り落とされそうになった。だが、耐えられた……耐えられたのは、見えたからだ。勝利のビジョンが見えたからだ!

(……ようやく、まともな案が出て来た。けど、横に並ばれたままじゃ……距離を取らないと……なんとか……いや!なにがなんでもだ!!)

 ナナシガリュウが熱を帯びる。腕の痺れが消え、みるみる力が戻っていく……むしろ、増していく!

「ん!?……急になんだ……?この威圧感は……!?」

「ヒヒーッ!!!」

「――!?……お前も感じたのか……?黒嵐!!」

 蓮雲、黒嵐、どちらも野生の勘で敏感に異変を感じ取る。しかし、良くも悪くも、それに臆する一人と一匹じゃない!

「やるぞ!黒嵐!」

「ヒヒッ!」

 躊躇なく、再攻撃の体勢へ!そして……。

「ハァッ!!!」

 放たれる必殺の一撃!

「でぇりゃあぁッ!!」


ガキャンッ!!!


「ヒ!?」

「――!?な、何!?」

 この短い時間に数え切れないほど切り結んだが、項燕は一度も打ち負けていなかった……が、今日初めて、打ち負け、吹き飛ばされてしまった!

 さっきとは逆に体勢を崩された項燕が振り落とされそうになる。けれど、黒嵐がうまく動き、主人を助けた。

「ぐっ……!助かったぞ…黒嵐……奴は……!?」

 体勢を立て直し、自分達に耐え難い屈辱を与えた敵を探す……必要はなかった。

 真っ正面から猛スピードでこの漆黒の闇夜では目立って仕方ない紅白の弾丸が自分達に迷うことなくこちらへと向かって来ていた。

「再び、正面から打ち合おうというのか……!その意気やよし!いいだろう!受けて立ってやる!!」

 元々の性格もさることながら、今の蓮雲はそれ以上に頭に血が昇っている。激情に身を任せ、敵を今度こそ屠るために、その敵に向かって一直線に走り出す!

「はあぁぁぁっ!!」

「オラアアッ!!」

 両者の渾身の力を込めた一撃がぶつかり合う!……なんてことはなかった。

「……なんてな」


ビヨン


「な!?」

 忽然とナナシガリュウが項燕の視界から消える。

 一方、ジョセフィーヌちゃんはそのまま項燕達に向かって来る。さっきまでナナシが跨がっていたシートに光る球を乗っけて……。

「短い間だったけど、楽しかったよ。ジョセフィーヌちゃん。愛しい、愛しい僕のジョセフィーヌ……」


カッ!ドゴォオオーン!!!


 ジョセフィーヌちゃんはその身に宿る愛を光と熱とともに解き放った。


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