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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
天使は反乱に踊る
244/324

ペンギンは狂気を泳ぐ

 ティラーマーピは相変わらずうねうねと蠢いていた。人によっては不気味と表されるその姿は本来生きてはいけないはずの地上で見せられると、さらに異様さが加わり、近寄り難かった。

 だが、フュンフはそんな感情で手を出さないわけではない。

「来ないんですか?あれだけ威勢のいい啖呵を切っておいて」

「なんつーか、あんたを倒す気にはなるんだが、そいつをどうこうする気にはちょっとな。だけどあんたをどうにかするためにはティラーマーピを倒さないといけないし……どうしたものかなッ!!」


ビシュウッ!!


 ノールックビーム!ペンギーノはティルダキュリオッサーを見ずに、彼女を狙撃した。しかし……。

「危ない危ない」

 狂気のメイドは軽々と回避した。

「ちっ!気づいていたか」

「操作してる方を狙うのは定石ですからね。わたくしの気を逸らそうと下手な芝居してるのバレバレでした」

「自分では中々うまいと思ったんだがな。まぁ、そう簡単に終わらせてくれるわけないか。ここはやはりペットから始末しないとダメか!!」

 ペンギーノ駆ける!真っ直ぐと宣言通りティラーマーピに向かう……と、見せかけて!

「やっぱやめた!!」

「!?」

 方向転換!石畳を踏み抜き、キュリオッサーの方に全力で突っ込む!

「切り裂かれろ!くそメイド!!」


チッ!!


「くっ!?」

 勢いそのままに撃ち下ろされた刃はキュリオッサーの装甲を僅かに削り取っただけだった。メイドはなんとかかろうじてギリギリで反応できたのだ。

「しつこいですね……!」

「コントロールしてる奴を倒すのが、定石だってあんたも言ってたじゃない。わたしはめんどうは嫌いだし、何よりお前のようなイカれぽんち相手に無駄に労力を割きたくない!」

 追撃にかかるペンギーノ!腕に装備された羽のような刃を地面と平行にし、踏み込むと同時に……薙ぐ!


ぐにっ……


「ッ!?」

 ティラーマーピの触腕のカットイン!その全ての衝撃を包み込む柔らかい皮膚で、斬撃を受け止め、弾き飛ばした。

「ショクゥッ……!!」

「そんなこと言わないで、この子と戦ってくださいよ。せっかく作ったんだから!!」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 攻守逆転!ティラーマーピは無数の触腕を伸ばし、ペンギーノを掴みにかかる!

「くそ!!」

 もちろん黙って捕まるつもりはない黒のマシンは全力で逃げた。

(さすがにそう簡単にはいかないか……だけど)

 触腕は次々と迫るが触れることさえできず。悠々と海を泳ぐ如く、ペンギーノは軽やかに全てを躱した。

(散々見せられたからね。水中だろうが地上だろうが、もうその腕じゃわたしを捉えることはできない。そして……)


ヒュッ!!


 ペンギーノは触腕を躱すと、今度は離れなかった。回り込み、腕を引き、狙いを定める。

(そして前回と違い、弱点はわかっている!斬れないなら貫けばいい!!)

「とりゃあぁぁぁッ!!」

 空気さえ貫く高速にして剛力の突き!

 切っ先はティラーマーピの皮膚を突き破り、ペンギーノは返り血と獣の悲鳴を全身に浴びる……はずだった。


ガギィン!!


「ぐ、ぐあぁぁっ!!?」

 悲鳴を上げたのは攻撃したフュンフの方だった。攻撃を放った右の切っ先は砕け、そこから腕の装甲全体に亀裂が走り、本体の肉体にも激しい衝撃が迸る。

「何が……!?何をしたんだ!?」

 痛みを堪え、脂汗をかきながらも、そうなってしまった答えを求め、攻撃をした触腕を見る。

「一体……なっ!?」

 フュンフは目を疑った。触腕は先ほどまでとは色も変わり、そよ風でも波打つほどの柔らかさだったのに、鋼の如く硬い表面に変化していたのだ。

「皮膚の質を変化できるのか……!?」

「そうよ!地上でも活動できるように、調整していたら、何故か触腕を硬質化できるようになったの!!これはわたくしも想定していなかった副産物!この子は我が才能と天からのギフトを合わせ持った最強の怪物よ!!」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 嬉々とする母親にさらに喜んでもらえるように、ティラーマーピは触腕を伸ばした……皮膚を鋼へと変えながら。


ガチ!ガチィン!!


「くっ!?速い!?」

 触腕は今迄よりも遥かに速いスピードを誇っていた!ペンギーノは回避運動を取るが、避け切れず、黒い破片を撒き散らす。

(さっきまでが鞭なら今は槍だな、それも達人が振るう。表面を変化する力を利用してるのか?他の奴らならともかく地上でスピードが出せないペンギーノでは……)


ガチィ!ガチィ!ガチィン!!


(嬲り殺しだ……!!)

 痛みと共に溢れ出た脂汗とはまた違う種類の水滴が頬を伝った。

(勝ち筋が見当たらない……このままでは……!)

「さっきまでの饒舌はどうしたの?ナンバー05」

「ッ!?」

 絶望し、黙るフュンフとは対照的にティルダはキュリオッサー越しでもわかるほど上機嫌だった。マスクの下で嫌らしい笑みを浮かべているのが透けて見える。

「正直あなたの存在を知らされた時はショックだったのよ。ちょっとルールを破った実験をして、学会どころか故郷さえ追い出されたわたくしが流浪の旅をしている間にわたくし以上に無茶苦茶やっている科学者がいたなんて」

「羨ましかったのか?」

「ええ!心の底から!!だからミドレインの提案を受け入れた!メイドとして働く傍ら、あなた達を倒せる兵器を作ってくれって提案をね!まさに渡りに船だったわ……わたくしの才能を最高の形で世界に知らしめることができるんですからね!!」

 最初に会った時の慎み深いメイドの姿は最早見る影もなかった。今の彼女は狂気に溺れたマッドサイエンティスト、そしてそれこそが彼女の“素”なのである。

(気に食わねぇな……!)

 そのご機嫌な立ち振舞いを見て、今も触腕に装甲を削られ続けているフュンフは強い苛立ちを覚えた。

 彼がよく知り、そして嫌っている人物とティルダの姿がぴったりと重なったのだ。

(こいつはゲスナーと同じだ。この世の全てが自分のためにあると思い込んでいる……創作物の命さえな……!!)

 創造主の意志のままに荒ぶる改造ティラーマーピ、その姿がフュンフには……。(わたしにはお前が悶え苦しんでいるように見える。そんなことを考える意識さえ封じられているのかもしれんが、わたしが過剰にセンチメンタルになってるだけなのかもしれんが……必ず解放してやる!!)

 フュンフもまた自分のためにしか戦わない者だった。それが正しいと思っていたから、特に罪悪感も疑問も持たなかった。

 だが、聖なる泉と今回の戦いだけは彼は自らを殺そうとする敵のために闘志の炎を燃やした。

「最後に一つだけ訊きたい」

「何?美肌の秘訣かしら?」

「こいつは……元々水中に棲んでいたのを無理矢理陸に引き上げ、本来あり得ない体組織の変化まで身につけてしまったこのティラーマーピはどれぐらい生きられる……?」

「かなり無茶をしたからね……一月くらいじゃない?きっと戦闘に対応できるのは、もっと短いわね。でも安心して、そうなる前に処分するし、作り方はばっちりメモしてるから、新しいのを作るわ」

「そうか……それが聞けて決意が固まったよ!!」

 怒りと切なさ、そして確固たる殺意を抱きながら、ペンギーノはティラーマーピの本体へと突撃した!

「本体狙い……まさか!?」

「口を滑らしたなイカれメイド!お前はさっき“触腕を硬質化”と言った!つまり本体は……硬くできないんだろ!!」

「あっ!?」

 今さらながら、ティルダは思わず口を覆った。本当に今さらであり、そんなことをしたら、推測が確信に変わるだけなのに。

「その反応……マジで口を滑らしたのか。ノーリアクション決め込んでいたら、誤魔化せたかもしれないのによ!!」

「くそ!?」

「科学者としてはそれなりなんだろうが、戦士としては三流もいいとこ!それがお前の敗因だ!!」

 ペンギーノは姿勢を低く、前のめりになると、さらに加速した!

「だとしても近づけなければ!!ティラーマーピ!!」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 対して、ティルダは自慢の創作物に迎撃の命令を下す!しかし……。


ガチィ!ガギィ!ガギィン!!


「何!?」

 ペンギーノは止まらず。硬質化した触腕の槍を受けながらも、決してスピードを緩めなかった。

「文字通り痛いほど見せられてきたからな……完全に避けられなくとも、致命傷を外すくらいはできる!!」

 高らかにそう叫ぶと同時に仕上げの跳躍!ペンギーノは無事な左の刃で突きを……。

「これで!!」

「おしまいね……あなたが」


シュル!ガシッ!!グイッ!!


「――ッ!?うおっ!!?」

 刃の先がティラーマーピ本体の皮膚に触れようとした瞬間、ペンギーノ後退!もちろんフュンフの意思ではなく、身体が、足が引っ張られて、強制された結果だ。

 そしてそのままペンギーノは“何か”に足を吊るされ、逆さまになって空中に浮いた。

「こいつは……!」

「単純に忘れていたのか、それとも勝手に地上適応と硬質化能力を得た代償で失われたと思っていたのかは知らないけど……生憎ティラーマーピの擬態能力は健在よ」

 周囲に溶け込み、文字通りペンギーノの足を掬った触腕が姿を現すと、マスクの下でフュンフは眉間にシワを寄せ、ティルダは口角を上げた。

「ずっとこれを狙っていたのか……!」

「そうよ。確かに触腕しか変化できないことをバラしてしまったのは失言だったわ。けれど、怪我の功名と言うべきでしょうか、本体に狙いを定めてくれたことで、動きが読み易くなり、想定していたプランを完遂することができたわ」

「泉の時と同じシチュエーションを作って、完璧なリベンジを果たそうと言うわけか……」

「せっかくだからね。どうせならドラマチックな方がいいでしょ?」

「ドラマチック?そんな下らない感傷のために、一度破られた策を使うか!!」

 ペンギーノは人間離れした腹筋で身体を起こし、切っ先を足首に絡みつく触腕に伸ばした。あの時と同じように……。

「わたくしが同じヘマをすると思っているなら……舐めるのも大概にして欲しいわね!!」


グイッ!!


「――ッ!?」

 また刃が皮膚に触れそうになった刹那、おもいっきり引っ張られる……空に向かって。

(この高さは……まずい!?)

 改造獣の頭上、最も高い所でほんの一瞬静止し、下を見下ろすことができた。

 ついさっきまで足で踏みしめていた城に続く道の石畳が遥か遠くに見えた。

 それはフュンフにとって絶望的な景色であった。

「水の抵抗がない地上なら、筋肉の塊であるティラーマーピの触腕の力を100%発揮できる!この子が全力で振り回したら、人を超えた存在でも抵抗することはできない!!」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


ドゴオォォォォォォォォン!!!


「――がっ!!?」

 背中から伝わる衝撃の凄まじさは、人を凌駕するフュンフの認知機能でさえ測ることができなかった。

 ただただ痛い……痛いはずなのだが、痛いを通り越して、何も感じない……それがフュンフにとって唯一の救いだったのである。

「泉の中で食らった比じゃないでしょ?答えなくてもいいわ、どうせ答えられないでしょうし」

「………」

「完全に意識はないみたいね」

 だらりと両腕を下げて、吊り上げられるペンギーノの姿は目を覆いたくなるほど無惨なものだった。普通の感性を持っている者なら、これ以上攻撃を加えることを躊躇するくらいに。

 けれども悲しいかなティルダという女は普通ではない。

「人間だったら間違いなく今の一撃で死んでいるでしょうけど、相手は人間じゃないから……念には念を入れておきましょう。そして、これでも一応ミドレインに仕えるメイドだから、フィナーレはミドレイン流に……ティラーマーピ!!」

「ショクウゥ……!!」

 創造主に命じられた下僕は残った触腕を一ヶ所に集め、上に向けた。そして……。

「ショクッ!!」


ガキィン!!


 その全てを硬質化させる。それはまさしく剣山と呼ぶべきものだった。

「ミドレインと言ったら、串刺し、針千本よね。あなたの身体を穴だらけにしてあげるわ!!」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「やれ!ティラーマーピ!!そいつの飛び散る血が勝利のシャンパンよ!!」

 再びペンギーノを振り下ろす!剣山に向かって!

 その時だった。

「プロジェルペンギーノ!解除!!」

「!!?」

 聞こえないはずの声が響き渡り、その発生源が光輝いた!そしてそこからボロボロのフュンフが落ちて来る!下には硬質化した触腕が……。

「穴なんて……ピアス一つも開けたくねぇ!!」


チッ!


「――ッ!?」

 フュンフはなんとか体重移動だけで、空中を動き、処刑用の針となった触腕の先を掠めるだけで済ます。

 そしてそのまま側面を転がり、地面に舞い戻ると……。

「これがわたしの最後の悪あがき……!」

 懐から見たこともない特殊な形状の銃を取り出し、膝立ちになってティラーマーピの本体に向けた。

「さぁ……鬼が出るか蛇が出るか……勝負!!」


バァン!!


 発射されたのは弾丸……ではなく、もっと細いもの。矢というか針、ダーツの針のようなものだった。


ブスッ!


 それは見事に本体に 刺さった……刺さったが、ティラーマーピは特に痛がりもせず、何の変化も見せなかった。

「驚いた……まさか死んだ振りなんて古典的な方法を取るなんてね」

 言葉に嘘偽りもなく、フュンフの行動にはティルダは心の底から驚き、肝を冷やしていた。しかし、その結果を目の当たりにしたことで、すでに落ち着きを取り戻している。

「ピースプレイヤーを解除して、できた隙間から抜け出すアイディアも悪くなかったわ。ただ詰めがダメ。あんなちっちゃな針でわたくしのティラーマーピを倒せると思った?あれだったら、画ビョウでもばらまいた方がマシよ」

「そう思うんなら、そう思っておけよ」

「あ?」

 妙に強気なフュンフの態度にティルダはカチンと来た。

「打つ手無しの絶望的な状況で開き直ったの?意地を張るのがカッコいいと思っているなら、とんだ思い違いよ」

「そんなつもりは更々ない。わたしはただ考えているんだ……お前をどう始末しようかね」

 そう言ってフュンフは微笑みかけた。その笑みはとても自然で穏やかで、無理矢理作ったものには見えなかった。それがティルダには腹が立って仕方なかった。

「……なるほど。地面に頭を打って、おかしくなったのね。こんな哀れな姿を晒すことになるなら、あの一撃で死んでいれば良かったのに」

「だが、わたしは生きている」

「今はね。すぐに、今度こそ地獄に送ってあげるわ」

 キュリオッサーはゆっくりと腕を振り被った。そして!

「串刺しはやめよ!叩き潰しなさい!ティラーマーピ!!」

 勢い良く振り下ろし、配下の獣をけしかけた!


……………


「……え?」

 しかし、ティラーマーピは微動だにせず。触腕一本も動かさないで、立ち尽くしていた。

「どういうこと!?ティラーマーピ!わたくしの命令が聞けないの!?」

「…………」

「ティラーマーピ……どうして……!?」

「わたしが撃ったあれのせいさ」

「え!?」

 ティルダが再びフュンフの方を向くと、彼は先ほどとは打って変わって、不敵で嫌らしい、見た者に不快感を与える威圧的な笑みを浮かべていた。

「あんなちっぽけなものが何だというの……!?」

「まだわからないのか?あれはアンテナだよ、アンテナ」

「アンテナ?」

「お前と我らを作ったゲスナーは思考が良く似ている。あいつもオリジンズを操る方法を考えていた。半分オリジンズであるネオヒューマンなら、人間が機械越しにやるよりも上手く操れるだろうってな」

「じゃああれは……あのアンテナは……!!」

「命令系統をお前からわたしに上書きするためのものだ」

「だとしても!わたくしだって操作をハッキングされることぐらい想定している!!そのための対策だって……!!」

「だからその対策とやらは人間を想定したものだろう?半分同類であり、しかもそういう用途で使うために感応能力を強化されているわたしには無意味なんだよ」

 フュンフはこめかみをトントンとタップして見せた。

「そもそもその小細工がダメなんだ。さすがのわたしでも野生のオリジンズにアンテナを刺せば操れるわけではない」

「じゃあ……」

「お前がきちんとそういう風に処置していたから……これから起きることは、お前ごとき雑魚がこいつの意識を奪い取ったからだ!!」


グイッ!!


「――キャッ!?」

 こっそりと背後に回していた触腕でキュリオッサーの足を絡め取り、宙吊りにした。

「立場が逆になったな。まぁ、自業自得って奴だ」

「待って……!落ち着いて話し合いましょう」

「悪いが、わたしはお前ともう言葉を交わしたくない」

「お願い!!話を聞いて!!」

「せめてもの情けだ。ミドレインのメイドらしく、ミドレイン流に葬ってやろう」

「ひっ!?」

 ティルダの下に触腕の剣山が設置され、全身から血の気が引いた。

「わたしがやったようにピースプレイヤーを解除し、隙間を作って逃げてもいいぞ。ただの人間であるお前が頭からその高さを落下しても無事でいられる自信があるならな」

「そんなの……できるわけない……!!」

「なら、自慢の我が子の手にかかるんだな、バッドマザー」

「やめ――」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


ザシュウッ!!!


「――てっ!!?」

 腹に穴が空いた。そこから溢れ出した真っ赤な液体が触腕伝いに大地を汚した。もう二度とキュリオッサーは、ティルダは動かなかった。

「ショクウゥゥゥッ……!」

「気分が晴れたか?なら、そんなバッチいもん捨てて、前を向け」

 命令通りティラーマーピはキュリオッサーを雑に投げ捨て、城門の方を向いた。

「この先に河がある。流れに乗っていけば、海に戻れるだろう。短い命、最後は故郷で過ごせ」

「ショクウゥゥゥ……」

 ティラーマーピはうねうねと触腕を動かしながら、門をくぐり外に出て行く。背中で「ありがとう」と言っているようにフュンフには見えた。

「……ダメだな。本当に変にセンチメンタルになってる」

 照れくさそうに頭を掻いてフュンフは去っていく獣に背を向け、ミドレイン城を見上げた……内部で同胞達が戦っているであろう城を。

「できることなら、全部終わっていて欲しいね。満身創痍のわたしをこれ以上働かせてくれるなよ」

 ぶつぶつと文句を言いながら、フュンフは仲間の元に歩き出した。


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