入城
ミドレイン城――元々そこはグノスではなかった。
そこはグノスの隣国の王の城であり、ことあるごとにちょっかいを出してくるその国に当時のグノス皇帝はほとほと嫌気が差していた。
ある日、ミドレインの先祖が皇帝の前に現れ……。
「鬱陶しいと思うなら、私に軍をおまかせください。三ヶ月も立たずにあの城を落とし、王を気取る愚か者をこの場に縛って連れて来て見せましょう」
そう高らかに宣言した。そして言葉通り、ミドレインは三ヶ月で城を落とし、王を捕縛した。
皇帝はその働きに大いに感動し、落とした城をそのまま彼の物として分け与えた……。
「そんな立派な先祖がいるというのに……親子二代で血迷ったかミドレインよ……」
暗雲立ち込めるミドレイン城を見上げながら、ツヴァイは呆れたように呟いた。
「むしろ今まで良く耐えたって感じじゃねぇ?あんな立派な城を持って、人望もあっただろうし、反乱を企てるなって方がおかしいと思うけどね」
「だな。某の読んでいる小説なら、間違いなく増長し、最終的に兵を起こす。それをこの代までしなかったのは褒めるべきだ」
フュンフとドライはその威容を見て、むしろ良く我慢したなと、妙な感心を覚えた。
「それよりも本当にボクら五人だけで行くんですか?当時のミドレインが大軍を率いて、三ヶ月かけたものをたった五人で」
フィーアは不安そう……というより本来はこれが正しいリアクションだ。
「あの時と違い、今は片田舎にあるただのデカい家だ。しかも主はピークを過ぎた老人、そいつの脇を固めるのは、下らない妄言に騙され、集まった烏合の衆……我らだけで何も問題ない。お前もそう思うだろ?アインス」
「………」
「アインス?」
「えっ?何か言った?」
「貴様は……!」
心ここにあらずといった感じの同胞の姿に、ツヴァイは思わず顔をしかめた。
「ちょ、ちょっと考え事をしていたんだよ……」
「それはいくらなんでも余裕を持ち過ぎだ。老いたとはいえ、相手は元十二骸将、側近達はそれなりに実力があることは今までの戦いでよくわかってるだろうに」
「わかってるよ!だから……気合入れ直します!!」
アインスは頬を両手で叩き、頭の中を支配する不安と恐怖を追い出した。
(ツヴァイの言う通り、上の空で勝てる相手じゃない。身体が、寿命がとか考えるのは後回しだ。ここで負けたら。元も子もないんだから……!)
「……少しはマシな顔になったな」
「おかげ様で」
「では参ろうか。この下らない茶番劇を考えた三流作家の元に」
五人はミドレイン城へと足を進めた。隠れることもなく堂々と正門に向かって。
その正門の前には多くのピースプレイヤーが彼らを待ち構えていた。
「まるで博覧会だな。よくもまぁ、あれだけの種類を集めたものだ」
「あれ、全部回収してネットオークションで売ったらいくらになるんだろ?」
「盗品も混ざっているでしょうから、そんな真似したら、面倒なことになるだけだと思いますよ」
「そもそも今から我らにズタボロにされて負ける縁起の悪いピースプレイヤーを誰が買うと言うんだ?」
「違いねぇ」
五人の顔に戦場には場違いな笑みが溢れた。
けれど、それも一瞬のこと。気高き戦士の表情に戻ると腕輪を着けた手を顔の前に翳した。そして……。
「こんな不毛な戦いなど一時間で終わらせてやろうぞ!!」
「「「おう!!」」」
「オーロファルコーネ!!」
「プロジェルグラウクス」
「プロジェルシュライク!!」
「プロジェル……ペンギーノ!!」
「晶鶴……!!」
愛機の名前を高らかに叫ぶ!ブレスレットは光の粒子に、機械鎧に変わり、それぞれの全身を覆った。
「こういう場合……開幕の一撃はわたしだな!!」
ペンギーノが羽を模した腕を敵の集団に向けると、先が開き、砲口が露出。そこにエネルギーを集めて……。
「ド派手にいこうか」
ババシュウゥゥゥッ!
「――ッ!!?」
発射する!放たれた光線は二体、三体とまとめて敵機を一気に貫いた!
「いきなり……!?」
「怯むな!相手は五人だけだ!!」
「そうだ!物量で押せ!!」
「は、はい!!」
リーダー格の檄に当てられ、ピースプレイヤー軍団はそれぞれ武器を召喚する。
ババババババババババババッ!!
銃を手にしたもの達は、お返しにと一斉に発砲!薄暗い曇り空がチカチカと明滅した!しかし……。
「くだらん」
キンキンキンキンキンキンキンキン!!
グラウクスは灰色の翼で前面を覆い、それを盾に強引に前進する。
「まったくです」
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
対照的にシュライクは華麗な身のこなしで弾丸の間をすり抜けた。そして……。
「潰れろ!!」
ザブシュ!バシュッ!!
「があっ!?」「ぎやあぁぁぁぁっ!?」
灰色の梟は集団の中に降り立つと、その自慢の握力で近くにいる者から次々と握り潰していき……。
「安易に武器なんて手にするから!」
ザシュ!ザシュ!ザシュ!!
「「「――ッ!?」」」
「命を無駄にすることになるんです!!」
水色の百舌はナイフを投げ、的確に急所に命中させていく!
結果、あっという間に敵の陣形はボロボロに。
「慌てるな!数ではまだ我らが勝っているんだ!囲んでしまえ――」
ヒュッ!ザシュ!!
「――ばっ!?」
「なっ!?」
「部隊長が……!!?」
「ひえぇっ!!?」
遂には指揮官までやられ、最早収拾のつかない事態に陥ってしまった。
「頭をやられただけで瓦解するか。それでこそ烏合の衆」
「無駄に数を揃えてもしょうがないってことだね」
「見ていて哀れになる……さっさと終わらせてやろう!!」
「ひっ!?」
「また来た!?」
ダメ出しのファルコーネと晶鶴!これを防ぐ手立てには恐慌状態の彼らにはない。
「天剣……!!」
「三連!!」
ザザザンッ!!
「――がっ!?」「ぐあっ!?」
そこからは消化試合だった。淡々と目の前にいる者を各々の得意技で始末していくだけ……。
結果、三分も立たずに敵集団は壊滅した。
「ふん!準備運動にもならなかったな」
そう吐き捨てながら、ファルコーネは剣についた血液を払い、地面に赤い斑点を描く。そして……。
「雑魚との戯れは終わり……本命の首を獲りに行くぞ」
猛々しい隼を先頭に一行は門をくぐりミドレイン城に入城した。




