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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
天使は反乱に踊る
240/324

聖なる泉に抱かれて

「ごぽっ!?」

「ごっ!」

 突如として泉に引きずり込まれたアインスとツヴァイ。口から気泡を昇らせていたが、慌てて口を真一文字につぐんで空気の流出を防いだ。さらに……。

(晶鶴!!)

(オーロファルコーネ!!)

 腕輪に意識を集中し、愛機を解放する。全身が機械鎧に覆われ、大幅に戦闘能力が向上する……が。

(とりあえずこれで息は大丈夫だけど……)

(根本的な問題の解決にはならんか……ちっとも動けん)

 ピースプレイヤーを纏ったことで膂力も生身の時と比べものにならないほど増加したはずなのに全く身体は動かず。拘束は決して解けなかった。

(翼を展開することも無理くさいな)

(武器を召喚しても、腕がこの様じゃ意味はない)

(これは……)

(詰んだか……!?)

 二人の脳裏に“死”が過る。その時!


ポチャン!!


「「!!?」」

 頭上から音が!顔上げると、見慣れた黒いピースプレイヤーが高速でこちらに向かって来ていた!

(フュンフ!!)

(ペンギーノか……あいつなら……!)

「おいおい黙ってないで、もっと声出して喜べよ。ピースプレイヤーを装着してるなら通信が使えるだろって!!」

 ペンギーノはあっという間に強制的に気を付けポーズを取らされている晶鶴の前にやって来た。

「フュンフ!何かに絡みつかれてる!」

「らしいな。今すぐ助けてやるよ」

 黒のマシンは羽のような腕を尖らせ、刃とし、振りかぶった。しかし……。


ユラッ……


「!!?」

 突如、ペンギーノは動きを止め、せっかく近づいたというのに仲間の元から離れた。

「フュンフ!?どうしたの!?」

「水流が変な揺らぎ方をした」

「ぼくも!ぼくも見た!泉の上で!そしたら次の瞬間……」

「そうか……見えない攻撃、晶鶴とファルコーネを捕まえてさらにわたしまで……お前ら!絡みついてるものに弾力を感じるだろ!?」

 捕まっている二人はがむしゃらに暴れるのを止め、神経を研ぎ澄まし、装甲越しに見えない何かの感触を改めて確かめた。

「そう言えば……」

「お前の通りだ!俺の身動きを封じているのは、ぐにゃぐにゃと柔らかく弾力がある!」

「やはり……敵の正体がだいたいわかってきた……ぞっと!!」

 敵の正体に察しがついたフュンフは改めて仲間の元……ではなく、さらに深く泉に潜行していき、水草が大量に生えている場所で止まった。そして……。

「これだけ周りに草があれば見えない攻撃も……」


ユラッ……


「見えるようになる!!」


ボウン!!


「ビンゴ」

 狙い通り完璧なタイミングで見えない攻撃を弾き飛ばした!すると……。

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!?」

 周囲の景色に溶け込んでいた敵が反撃を受け、ついに姿を現した!

 それは太く、それでいて柔らかな大量の触腕を大量に持つ巨大なオリジンズであった。

「やはり『ティラーマーピ』か」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 ティラーマーピは今度こそと触腕を伸ばすが……。

「見えていれば、どうということはない」

 ペンギーノは捕らえられず。黒いピースプレイヤーは再び仲間の元、今度は金色の方に向かおうとする……が。

「ショクウゥゥッ!!」

「ちっ!!」

 軟体の獣はさらに残りの触腕も全て差し向け、邪魔をする。行く先を予測し、先回りするその動きにペンギーノはなんとか必死に逃げることしかできなかった。

(わたしの行動をちゃんと読めているな。記憶の中にあるティラーマーピよりも遥かに大きく、そして賢い。本来海に棲んでいるはずなのに、何故か淡水にいるし……こいつは……!!)

 普段は飄々としているフュンフの心に沸々と怒りが沸き上がり、マスクの下の顔を強張らせた。彼の推測が正しければ、彼だけでなくアインスもツヴァイも同じ気持ちを抱くだろう。

 それだけ目の前にいるものは彼らにとって嫌悪感を抱くものだった。

(普通のオリジンズだったら、あいつらを助けた後は何もせず見逃してやるつもりだったが……やめだ。お前はここで確実に葬ってやる。それが似た者同士であるわたしにできる……せめてもの優しさだ……!!)

 決意を固めたペンギーノはティラーマーピに突撃!もちろん相手も黙って見ているわけもなく、自慢の触腕で迎撃を試みる。

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「遅えよ」

 けれどペンギーノには当たらず、触れることすらできずに、するすると容易くくぐり抜けられてしまう。

 そしてあっという間に本体の前へ。

「もらった!!」

 仲間を助けるために放てなかった一撃を、敵を屠るために今放つ!


グニッ!ボウン!!


「何!?」

 けれど渾身の斬撃はティラーマーピの弾力性のある身体によって包まれ、衝撃を吸収され、そして弾き返された。

(斬撃が通じないだと……!?)

 予想だにしない結果に、フュンフの思考も動きも止まった。

「ショクウゥゥゥッ!!」


ボオォォォォォッ!!


「な!!?」

 ティラーマーピが反撃に転じる。口とおぼしき箇所から黒いモヤのようなものを吐き出して、ペンギーノの視界を漆黒に染め上げた。

(そうだ!まだこいつにはこれがあった!だが……)


 ユラッ……


 再びフュンフが視界の端に妙な揺らぎを捉える。

「はっ!逆に墨のおかげで感知しやすくなったわ!!」


ヒュッ!!


 墨に紛れての触腕の奇襲を易々と回避。勢いそのままに黒い霧の中から飛び出す!

「ショクウッ!!」

「!!」

 飛び出した先にまた触腕!決して動かず水流を乱さないように、じっと待ち構えていた。

「ちっ!賢いというか……性格が悪い!!」

 ペンギーノはくるりと上下に反転、逃げようとするが……。

「わたしのスピードについて来れないことは嫌というほどわかってい――」

「ショゥッ!!」


シュル!ガシッ!!


「――なんだと!!」

 触腕のスピードは先ほどよりも遥かに速かった。結果、足首に巻き付かれてしまう。そして……。

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「ぐっ!?」

 力任せにおもいっきり振り回す!ペンギーノは自分の意志ではなく、水の中でどんどんと加速していき、それが最高潮に達した瞬間!

「ショックッ!!」


ドゴオォォォォォォン!!


「――がっ!?」

 泉の底にあった大きな岩に叩きつけられた。その破壊力を物語るように、ペンギーノの全身に亀裂が走る。

「………」

 そしてフュンフの意識は水底よりも深いところに沈んで……。

「フュンフ!」

「おい!しっかりしろ!!」

「起きるんだ!!」

「こんなところで死ぬつもりか!!根性見せてみろ!ヘタレ!!」

「はっ!!?」

 意識は白い闇の中に落ちていきそうになったが、アインスとツヴァイの呼びかけに応じ、再び現世に戻って来た。

「誰が……ヘタレだって……!!特等席で極限の水中バトルを観戦してるだけの奴が……!!」

「特等席だと!変われるものなら変わってやりたいさ!!」

「よく見てよフュンフ!!君が戦い始めてから、どんどんと締め付けがきつくなって……」

 言われた通りよく見てみると、触腕に巻き付かれた晶鶴もファルコーネも自分と同じく亀裂が入っており、今も現在進行形でギチギチと面積を広げていた。

「100%筋肉でできているようなティラーマーピの触腕に握られれば、そうなるのも当然か……」

「当然か……じゃないよ!何納得してるんだよ!!」

「そんな暇がある早く助けろ!!」

「それが助けられる奴の態度かよ……つーか、できるんならとっくにやってるつーの……」

「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「――ッ!?」

 再度ティラーマーピはペンギーノを全力で振り回し始めた。その勢いは凄まじく泉に渦を作るほどであった。

(くそ!!次にあれを食らったら、もう起きられる気がしない……!だが、斬撃が効かず、力も上のこいつの拘束から逃げる方法は……!)

 胸の奥に絶望が広がる。今の彼にはこの状況を打開する策が考えつかなかった。

 彼、フュンフには……。

「まだ寝ぼけているのか貴様は!!」

「斬れないなら、斬らなければいい!剣には他の使い方もあるだろ!」

「!!」

「目眩ましが鬱陶しいなら、視点を変えろ!見えるところから見ればいいだけの話だ!特等席があるんなら、そこから見ろ!!」

「!!!」

 一見するとわかり辛く、抽象的な言葉……。

 しかし、なんだかんだそれなりの時間を過ごした血を分けた兄弟にはそれだけで十分だった。

「ったく……こんな簡単なことも思いつかなかった上に、まんまと敵の手に落ちたバカ二人に気づかされるとは……だが、おかげで勝利が見えた……!よっと!!」

 全てを察したペンギーノは激流の中、人間離れした腹筋で身体を起こし、腕の刃の切っ先を足首に絡みついている触腕に当てた。

「斬れないなら、突けばいい。大事なのは力を一点に集中すること……ゆっくりと、押し込むように……突き刺す!!」


ザシュッ


「ショクウゥゥゥゥゥゥゥッ!!?」

「第一段階完了!」

 狙い通り、渾身の力を注ぎ込んだ切っ先は柔らかい皮膚を突き破り、ティラーマーピに初めてのダメージを与えた。

 真っ赤な血が泉を汚すと、力が抜け、拘束から脱出できた。

「続いて第二段階……いや、最終段階だ!!」

 ペンギーノは耳元に軽く触れると、急加速!またまたティラーマーピの本体に突撃した!

「ショクウゥゥゥッ!!」


ボオォォォォォッ……


 対するティラーマーピもまたも墨による目眩まし!再び視界を黒に包まれたペンギーノはたまらず攻撃を中断する。いや……。

「残念だがわたしに……わたし達に同じ手は二度と通用しない!!」

 ペンギーノは両手を突き出しながら、さっきまでとは別の方向に再加速!黒い霧の中を弾丸のように猛スピードで泳いだ!そして……。


ザシュッ!!


「手応え……あり!!」

「ショ、ショクウゥゥゥゥッ!!?」

 勢いそのままに本体を突き刺した!

「見えないなら見えるところから見ればいい……というわけで、見させてもらったぜ、特等席からな!!」

 ペンギーノのマスク裏のディスプレイには、二方向から彼とティラーマーピが映っている映像が流れていた。

 それは捕まっている晶鶴とファルコーネが今まさに見ている映像そのものだった。

「わたしからはお前は見えなかったが、お前が捕まえているわたしのツレには、お前の動きが見えていた。なのでリアルタイムでカメラ映像を送ってもらった。つまりこれは三人がかりで掴み取った勝利ということになる」

「ショク……!!」

「誇りに思え。このわたしを望まぬチームプレイをしなければいけないほど追い詰めたのだから。その誇りを胸に、聖なる泉に抱かれて……眠るがいい」

 ティラーマーピに突き刺している切っ先がパカッと開き、砲口が露出、そしてエネルギーを集めると……。


バシュウゥゥゥゥゥッ!!


 ゼロ距離発射!脳天を貫かれたティラーマーピは力を失い、泉の底に沈んでいった。

「おやすみ、哀れな獣よ。わたしはお前に礼を尽くす」

 フュンフは激闘を繰り広げた獣の冥福を祈ると、反転し、水面へと昇って行った。


バシャッ!バシャッ!バシャンッ!!


「みんな!!」

 フィーアの顔に満面の笑顔の花が咲く!仲間三人全員が無事に地上に舞い戻って来てくれたから。

「フィーア!!」

「いっ!?」

 そんな彼とは対照的に、先ほどまでティラーマーピを弔っていた穏やかな表情とは打って変わって、マスクの下で鬼気迫る顔をしたフュンフが詰め寄って来た。

「ど、どうしたんですか!?」

「怪しい奴を見なかったか?」

「怪しい……ボクは見てなないですけど、ドライが人影を見て、追いかけに行きましたよ」

「それはいつの話だ!?」

「え?フュンフが泉に飛び込んですぐのことですけど……」

「じゃあそいつじゃない!!」

 ペンギーノはフィーアの横を通り過ぎると、キョロキョロと辺りを見回し始めた。

「一体何が……」

「俺達を泉に引きずり込んだオリジンズを操っている奴を探しているんだろ」

「ツヴァイ……」

 話している場合じゃないフュンフに代わって、愛機についた水滴を払いながらツヴァイが彼の突然の行動の意図を答えた。

「あのティラーマーピというオリジンズはもっと小さく、海に棲んでいる生物だ」

「でも、淡水である泉に……」

「そういう風に改造されたんだろ」

「な!?」

「そして明らかに動きが人間染みていた。ペンギーノの動きを先読みしたり、初めのうちは手加減しておいて、ハンドスピードを誤認させたりな」

「だから遠隔で人間が操っていると……」

「ドライが追跡している奴とは別のな。追手を撒きながら、操作した動きではなかった」

「それで間違いない。オリジンズを操作するために調整されたわたしがそう思うのだからな」

「逃げられたか」

「あぁ……!」

 悔しさからか、ペンギーノは拳をギュッと握った。

「まだ遠くには行ってないはずですし、分かれて捜索するのはどうですか?」

「それはやめておいた方がいいかな。ぼく達のマシン、結構ダメージもらっちゃってるし……」

 改めて見ると晶鶴の全身は想像以上にひび割れており、もう少し決着が遅かったらと思うと、アインスは背筋が凍った。

「んじゃ、ドライの奴が追っているもう一人を捕まえるのを待つか。わたしはもう一度潜って、敵の痕跡を調べて見るが」

 ペンギーノは再び泉に向かって、歩き出した……が。

「その必要はない」

 ファルコーネが止めた。

「これ以上聖なる泉を汚すな」

「わたしだって、ティラーマーピをそっとしてやりたいのは山々だが、敵の正体と行方を探すためにはそうするしかないだろ」

「いや、敵の正体はわかっている」

「!!?」

「な!?」

「なんですって!!?」

 三人の視線が黄金の隼に集中した。それだけの爆弾発言であった。

「さっきの戦いで何かを見つけたの……?」

「いや、戦いの前だ」

「前?」

「石碑を見て、そこに刻まれた十二骸将の名前を見ていたら思い出した……数年前にクーデターを企てた奴の名前を……!!」

 瞬間、アインス達もその者の名前が記憶の底からサルベージされた。

「そうだ……皇帝に反旗を翻した十二骸将がいた……!」

「確か……」

「そいつの名前は……」



「『レクト・ミドレイン』……」

 森の中で相対するピースプレイヤーに向けて、ドライはそう呟いた。


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