項燕
ガキンッ!ガン!ガキョンッ!!!
静寂に包まれていたはずの闇夜に、甲高い音が立て続けに何度も何度も響き渡る……。
それは二つの刃が一合、二合、三合とぶつかり合う音……。
ガン! ガン! ガキンッ!!!
音がなる度に闇夜に火花が舞い、ほんの一瞬だけ僅かに戦士達を照らす……。
「はっ!」
「ラァッ!!」
ガキンッ!!!
傭兵とコマチと別れてからナナシガリュウはずっと項燕とやらとこうやってひたすら刃を打ち合っていた。
(~~~ッ!?腕が痛ぇな、ちくしょう……!)
もはや数を数えるのが馬鹿らしくなるぐらい何度も打ち合い、その結果ナナシガリュウの腕は痺れ始めていた。
(……腕もヤバいが、コマチ達からだいぶ離されちまった……)
さらに厄介なことに猛攻を防いでいるうちに、仲間からもどんどんと引き離されてしまった。これでは助けを期待はできないし、逆に彼らをナナシが助けに行くことも不可能だ。
(……あいつら……大丈夫だよな……?あれだけ大口叩いたんだから……)
だが、ナナシの心配は取り越し苦労。トレーラーで宣言した通り、むしろそれ以上の実力を示して、傭兵達はすでに勝利を手にしている。
ナナシは他人の心配より自分の心配をすべきなのだ。だってこうしている間にも、項燕が、彼の乗ったオリジンズがUターンし、再度……。
「フンッ!」
「くっ!?」
ガチン!!!
また火花が散る!先ほどから延々と続くやり取り。ついにナナシは我慢の限界を迎えた。
「つーか!卑怯だぞ!オリジンズに乗って、せこせこ、ヒット&アウェイ繰り返しやがって!!」
ほんの少し前に、自身が同じように“卑怯者”と罵られ、“それがどうした!”と開き直った挙句、最終的には仲間を使って闇討ち銃撃した男とは思えないセリフである。
けれど、この状況に文句の一つも言いたくなるのもわかる。それだけ防戦一方だった。
「オリジンズから降りて、正々堂々戦えよ!!」
尚も、自分のことを棚に上げ、相手を非難する。ここまで来ると逆に清々しい。
「何故、おれが敵であるお前の言葉を聞かねばならんのだ」
「うっ!?」
あっさり言い負かされる。そもそも、この論戦には必要性もなければ、ナナシの勝ち目も最初からなかったのだ。
眼前の敵は確固たる信念の下、この戦法を取り、この攻防を続けていたのだから。
「お前はおれ達のことを卑怯と罵るが、自身が有利で万全の状態で、戦いに望むのは当然のこと!ましてやおれ、『蓮雲』!上級骸装機『項燕』!そして、起源獣マウ『黒嵐』!三つ揃って一つ!文字通り、三位一体!一心同体!だから卑怯でもなんでもない!!」
ナナシガリュウの周りを起源獣……神凪の言葉ではオリジンズの黒嵐が旋回しながら、上に乗っていた蓮雲と名乗る男が吼えた!彼から言わせれば、彼が騎乗しているオリジンズは自分の一部なのだ。また、彼がそう思えるのはこのオリジンズが人間と共に歩んできた長い歴史があるからだ。 マウは下級オリジンズに分類されるが、それは野生の状態でも、人間にあまり危害を加えないからであり、その能力自体はかなり高い。むしろ人間になつき、言うことをよく聞く為、古来より移動用や戦闘用として飼育され、人間と共に多くの人命を奪って来たのだ。
「フン、あれだけの強者、刺客を退けてここまで来る奴が、まさか、こんなにも情けないとは……なッ!」
「ヒヒー!!!」
ナナシに失望した蓮雲は攻撃を再開するため相棒であり、彼曰く、自分自身でもある黒嵐の腹を蹴り、加速させる。そして紅き竜に真っ直ぐ向かって行く!
「このッ!なら、こいつはどうだ!」
バンッ!
「無駄だ!」
キンッ!
紅き竜は苦し紛れにマグナムを撃つが、項燕の左腕に装備された円形の盾に防がれる!
「その程度か!紅竜!はっ!」
ガキンッ!
「ぐっ!?」
そのまま、槍でナナシガリュウを突く!こちらも負けていられないとハルバードで防ぐ!……が、防戦一方の今ままでは、いずれ紅竜に限界が来る。そして、それはそんなに先のことではないとナナシ自身、重々承知している。
(……どうする……?このままじゃなぶり殺されるだけだ……連戦で疲労も溜まってるし……!)
どうにかしなきゃいけない。けど、どうにもならない。戦いが始まってからずっとナナシは打開策を考えているがこれといったいい案は出て来やしない。もとより、そんな暇を相対する一人と一匹は与えてくれなかった。
「為す術無しか……ならばもう十分だ……!そろそろ終わらせようか!!」
黒嵐が折り返し、項燕がとどめを刺すために体勢を整える。ナナシほどじゃないが、この戦いに彼も嫌気がさしているのだ。
「来んじゃねぇよ!!」
ババババババババババババババッ!!
今度はマシンガンを乱射する紅き竜!だが、盾を構えた項燕と黒嵐は弾丸の雨などものともせず、むしろ勢いを増して突進してくる!
「ハーァッ!!」
ガン!! ドォオオーン!!!
「――ッ!?」
今までで一番、最強の一撃!
食らったナナシガリュウは白バイの残骸へ勢いよく吹っ飛ばされた!アスファルトの欠片や何かの部品を撒き散らし、辺り一面に土煙が舞い上がる。
「フン。この程度か……期待外れだったな。まぁ、他に二人いたからな……そいつらがおれ達を満足させてくれることを祈ろう……なぁ、黒嵐……」
「ヒヒン!!!」
「――ッ!?黒嵐?」
完全に勝利を確信した蓮雲が黒嵐に話しかけた。が、黒嵐の様子がおかしい。警告しているのだ!主人に……まだ終わっていないと!
ブルン!ブルブルルンンン!!!
「!?」
土煙の中から音……獣が唸るようなエンジン音がした!
項燕が音のした方向を向くと、煙の奥に淡い光が見えた……ナナシガリュウの黄色い二つの眼。そしてもう一つ、先ほどまで主人を失い無様に転がっていた白バイのヘッドライトの輝きだ!
一陣の風が土煙を吹き飛ばすと、そこにいたのは白い鋼の獣に股がった紅の竜だった!
「……紹介するぜ……俺の愛しの……『ジョセフィーヌ』ちゃんだ!!」




