闇に駆ける①
一行がギヤハ村に着いたのは、夜になってからだった。星も一切見えず、特に闇が深い夜だった……。
「……明かりが一切見えない。そういう習わしの村じゃない限り何かあったのは確定だな。ったく……!」
入口の前でフュンフは面倒くさそうに呟くと耳の後ろを雑に掻いた。
「問題は敵が待ち構えているかどうかだ」
対照的にドライは表情を崩さず、淡々と周囲を警戒している。
「それって罠の可能性もあるってことですか?だったら、ここは一旦退いて、日が出るのを待った方が……?」
メンバーの中でも良く言えば慎重、悪く言えば臆病なフィーアはびくびくしながら、リーダーであるツヴァイに撤退を提案する。しかし……。
「退くだと?あり得んな」
リーダーは鼻で笑って却下した。
「でも、敵が潜んでいて、策を張り巡らせていたら……」
「その下らん策ごと叩き潰してやればいい。我ら上位種が下等な者どもの何を恐れる」
「それは……」
「奴らの狙いはわからない……が、何であれやることは変わらん。我らに喧嘩を売ったことを後悔させてやろうぞ」
そう言うとツヴァイは腕輪の嵌まった手を突き出した。
「傲慢だな。けれど今回は……賛同する」
「同じく。とにかくこんな下らないこととっとと終わらせたい」
ドライとフュンフも続く。それぞれ腕輪を顔の前に翳す。
「みんな……」
「フィーア、ここに残るんなら残ってもいいよ?」
いまだに覚悟が決まらないフィーアの肩に手を置き、アインスが優しく語りかけた。
「アインス……」
「別に君をバカにしてるんじゃなくて、
外で待機する人もいた方がいいかなって。ぼくも自分たちの安全を考えるだけなら、朝まで待った方がいいと思うんだけどね……」
「自分たちだけ……あっ!?」
アインスの言葉でフィーアはこの村に住んでいる人のこと、自分たちに先んじて派遣された部隊のことを思い出して……自らを恥じた。
「だから……」
「ボクは……いえ、ボクも行きます」
「でも……」
「別に自棄になったとかじゃなくて、どうやらボクは大局が見えていないみたいなんで。だから残るんなら、アインスが残ってください」
「え?ぼくが?」
「あなたの方が冷静だ。そういう人間が残った方がいい」
フィーアはそっとアインスの手をどけると、一歩前に出て、兄弟達と同じく腕輪を突き出した。
「決まったようだな。アインス、お前は残れ」
「え!?本当にそうする流れ!?」
「お前自身がそうした方がいいって言ったんだろうが」
「それはそうだけど……」
アインスは口を尖らせ、不満を露にした。
「自分がやりたくないことを、他人に強要するのは良くないぞ」
「うぐっ!?」
「一本取られたな、アインス。お主の負けだ」
「わかったよ。ぼくはここで、村の外で待機している。だけど一つだけお願いが……」
「村人や先遣部隊が生きていたら丁寧に保護する、生きていたらな」
「お見通しだね」
「お前の言いたいことなど手に取るようにわかる」
「なら、もうぼくから言うことはないよ」
ツヴァイの返事に満足したアインスは他の四人の後ろに下がる。
彼の視線を背に受け、四人は改めて構えを取った。そして……。
「準備はいいか!お前ら!!」
「「「おう!!」」」
「ならば……武装展開!オーロ・ファルコーネ!!」
「『プロジェルグラウクス』!!」
「『プロジェルシュライク』!!」
「『プロジェルペンギーノ』!!」
愛機の名を高らかに叫ぶ!腕輪は光の粒子に変わり、それがさらに機械鎧になり、四人を包んだ。
ツヴァイはご存知きらびやかな黄金、ドライは灰色、フィーアは水色で背中に翼の生えたマシンを装着した。
一人だけフュンフは黒色で腕自体が羽になったような異色のピースプレイヤーを身に纏う。
「………前々から思ってたけど、わたしのだけなんか違くない?」
「気のせいだろ」
「気のせいだな」
「気のせいですね」
「いや、でもわたしのだけ背中に翼生えてないし、というか飛べないし」
「気のせいだろ」
「気のせいだな」
「気のせいですね」
「いやいや具体的に相違点を挙げたよね!?それを気のせいで終わらせるのは……」
「アインス、何かあったら連絡する」
「いつでも出れるように準備しておくよ!!」
「おい!話を勝手に進めるな!!」
「では、我ら四人はギヤハ村に突入するぞ」
「うむ」
「はい!」
「無視するなよ!つーか、先に行くなって!!自慢の耳は飾りか!おい!!」
声の届かない翼を持った兄弟達を追って、異色のペンギーノも漆黒に包まれた村内に足を踏み入れた。
しばらくフォーメーションを組んで周囲を警戒しながら歩いていたが、人影どころか物音一つも彼らの自慢の耳には聞こえなかった。
「……このままみんな揃ってうろちょろしていても時間を浪費するだけだな」
「では、別れるか?」
「あぁ、そうしよう」
「でも、何があるかわからないですし、みんなで集まっていた方が……」
「某たちは単騎での戦闘を想定されて作られ、そういう風に訓練されて来た。初期にロールアウトしたアインスとツヴァイ以外はな」
「まともに連携できないなら、雁首揃えていても仕方ないつーことよ。むしろ邪魔」
「多数決は別れる派の勝ちだ。というわけで、俺は好きに動かさせてもらう」
「ツヴァイ!」
取り付く島もなく黄金の隼はすたすたと闇の中に消えてしまった。
「では某も」
「わたしはこっち」
続いてグラウクスとペンギーノも左右に分かれ、すぐに姿が見えなくなる。
「みんな勝手なんだから……五人だけの種族なんだからもっと仲良くできないのかな……」
意見を強引に押しきられたフィーアは肩を落とし、とぼとぼと三人とは別の方向に進んで行った。
「……悪趣味な」
いち早く異変に遭遇したのはグラウクス、ドライであった。
村一番の大木の枝にピースプレイヤーが何体も首を吊られて、ぶら下がっているのを見つけてしまった。
「ガーディアントと『ガーディアンルースター』……先遣部隊のマシンと一致。問題は中身が入っているかどうか……後は数か」
グラウクスは大木をゆっくりと回りながら、吊るされた機械鎧を数えていった。
その背後、住居の屋根の上に寝そびれ、彼を見つめている者が一人……。
(かかったな間抜け……!)
闇に紛れる黒色のピースプレイヤーは音を立てないようにライフルのスコープを覗き込み、銃口をグラウクスの後頭部に向けた。
(今すぐそいつらの仲間にしてやるよ……!)
トリガーの上に置いた指にゆっくりと確実に力を込めた。そして……。
(喰らえ!)
バシュ!!
発砲。最小限の音で発射された弾丸は真っ直ぐと寸分の狂いもなく、グラウクスの頭部に飛んで行った。




