純白と黄金②
「撃て!撃て!撃ち落とせ!!」
船上に待機していた水中用のピースプレイヤーは晶鶴とファルコーネを迎撃しようと、両手から弾丸を連射した!けれど……。
「よっと」
「のろまが」
一迅の風となった二人には掠りもせず。弾丸の隙間を縫う白と金の翼は軽やかで、それでいて神々しく、見とれてしまうほど美しかった。
「数は六。マシンは……ツムシュテークの水中用ピースプレイヤー、『ツムキール』だな」
「バルテン&プレーツ社の『BPメーア』じゃないの?」
「どっちでもいいさ。大事なのは陸に上がった水中用のマシンなど……」
「恐るるに足らず!!」
ガァン!ガァン!!
「「――ぐあっ!?」」
「ってことだね」
急降下からのファルコーネは飛び蹴り、晶鶴は膝蹴りがツムキールの顔面に炸裂!あっという間に二体を撃破した。
「続いて……」
「この野郎!!」
ツムキールの一体が着地直後の晶鶴を狙う……が。
ヒョイ!ゴォン!!
「――ッ!?」
パンチを回避してからの流れるように横から顎先に掌底!衝撃で脳ミソが頭蓋骨に何度も叩きつけられ、一瞬で夢の中。
「二体撃破っと」
(いい気になるなよ!!)
一息ついたように見える晶鶴の後ろからさらにツムキール!
だけどあくまで見えるだけで、アインスは決して警戒は怠っていない。
(捕まえ――)
「捕まえた」
「た?」
ブゥン!!ドゴォン!!
「――ぐはっ!?」
息を潜め、後ろから羽交い締めにしようとしたツムキールだったが、逆に腕を掴まれ、そのままぶん投げられ、船に叩きつけられた!さらに……。
「念には念を!!」
ドッ!!
「――がっ!?」
仰向けになったツムキールの無防備な腹にまた掌底!すでに投げで朦朧としていた意識は完全にこの一撃で肉体と分離させられた。
「これで半分……ツヴァイ!そっちは大丈夫?」
「誰に向かって言っているんだ?」
白き鶴が黄金の隼の方を向くと、彼の足下には頭部装甲に深々と亀裂が入り、へこまされたツムキールが二体横たわっていた。どうやら盾か剣の柄でおもいっきり殴られたようだ。
「死んでないよね?」
「こいつらが人並みに丈夫だったらな。貧弱なら知らん」
そうぶっきらぼうに言い捨てながらファルコーネは周囲を見回し、端っこで抱き合っているカップルを見つけた。
「おいお前ら!」
カップルはゆっくりと左右を確認してから、自らを指差した。
「ワ、ワタシ達ですか……?」
「お前ら以外に誰がいる?下らない返事しかしないつもりなら、その舌を斬り落とすぞ」
「ひっ!?」
「すいません!無駄なお手間をかけさせてしまいました!ワタシ達に何か御用で……!?」
「人を探している。不快な老人の見本みたいな不気味なジジイを見なかったか?」
(ぼく達の親と言っても過言ではない人なのにひどい言われようだな……)
アインスはなんだかとても切なくなった。
「えーと、その人ならさっきまでここにいました」
「ワタシ達の邪魔をして、船の中に戻って行きましたよ……」
(通じてるし。っていうか何やってんのあの人……)
アインスはなんだかとても切なくなった。
「船の中か……」
「お役に立てたでしょうか?」
「あぁ、人間にしては上出来だ」
「人間?あなたも人間じゃないの?」
「あ?」
「「ひっ!?」」
不用意な一言がツヴァイの地雷を踏み抜いてしまう。ゲイムやツムキール相手でも放たないプレッシャーが身体中からにじみ出て、カップルは恐怖で縮み上がった。
「ツヴァイ!もういいだろ!そんなことで目くじら立てない!!」
そこに慣れた様子でアインスが宥めに入る。きっとこういうことは日常茶飯事なのだろう。
「ふん。確かにこんな奴らに感情を逆撫でされたとあっては、俺の品格が疑われるな」
「そうそう!もう聞くこと聞いたんだから行くよ!」
「いや、もう一つだけお前らに頼みがある」
「頼み?命令の間違いじゃ――ふぐっ!?」
「ちょっと!!余計なこと言わない!」
彼氏が慌てて彼女の口を塞ぐが、もう九割方言ってしまっているので、手遅れとしか言いようがない。
「す、すいません!!色々あって混乱しているんです」
「まぁ、せっかくの休みがこんなことになってるんじゃね」
「日頃の行いが良くないんだろうな」
「むうぅ!むうぅ!!」
「だから大人しくしてって!お願いだから!!」
これにはカチンと来たのか彼女が顔を赤くして暴れ出し、それを悲壮な表情の彼氏が必死に止めた。
「それだけ元気があるなら上等だ。ここに寝ているピースプレイヤーが起きたら大声を出して、俺達に知らせろ」
「え?声を上げて?」
「そうだ。不服か?」
「でも、そんなことをしたら逆上したこいつらにボク達に襲いかかってくるんじゃ……?」
「かもな。だが、それは俺には関係無い。自分でなんとかしろ。ちなみに知らせなかったら、命はないと思え」
「ええ……」
(ここで口を出したら、やっぱりツムキールを殺していこうってなるよな……しばらく目を覚まさないように念入りにやったし、ここは黙っておこう。ごめんね、お二人さん)
アインスは心の中で手を合わせて平謝りをした。
「これでここは一段落。それではターゲットの確保に船の中に入ろうか」
「うん。きっとゲスナー博士も怖がって……は、いないだろうけど、他の乗客が心配だ。早くこの無礼者達を鎮圧しよう」
二人は階段を下り、船の中へ。そこに人影は……。
ゴォン!!
「――がっ!?」
裏拳一発!ファルコーネが忍び寄る黒いピースプレイヤーの顔面を殴り飛ばした。
「『クイエート』……音楽メーカーでもある『HIDAKA』のマシンは静音能力が高いが、特に隠密活動を念頭において作られたそいつは並みのピースプレイヤーの聴覚センサーさえ駆動音を感知できない優れものだ。しかし、装着者の殺気や恐怖心がだだ漏れだと……何の意味もない」
「多分、聞こえてないよ」
「わかっている。ただあまりにひどかったんでな。説教の一つでもしたくなった」
ファルコーネは軽口を叩きながらも、神経を研ぎ澄まし、周囲を観察した。
「さすがにこの雑魚のように簡単に気取られるような奴はもういないか」
「何人いるかわからないのは嫌だね」
「そこまで大きな船ではないから、推測通りゲスナー狙いなら、そこまで多くもないだろう」
「じゃあ……」
晶鶴と顔を見合わせるとファルコーネは力強く頷いた。
「ここからは別れて探索しよう。狭い空間だと一緒にいると逆に動き辛いしな」
「異議なし。ぼくは船の……客室を探すよ」
「では、俺は操舵室に。船長やコントロールシステムに何かあったら厄介だ。そちらの安全も確保しておく。まだ無事ならな」
「了解。武運を」
「お前もな」
二人は敬礼し合うと、逆方向に歩き出した。
晶鶴はそのまま客室に入っていった。すると……。
「「「ひいっ!!?」」」
遊覧船に乗っていた観光客が船の後方に一纏めにされていた。その顔は総じて恐怖でひきつっていた。
「皆さん!ぼくは敵じゃありません!政府のものです!」
晶鶴は敵意の無さを示すために両手を上げようとした。その時!
シュルシュル!!ガチィン!!
何かに巻き付かれ、両手を上げることはできなかった。
「残念。君の大活躍もここまでだ」
背後からの声。肩越しにそちらを見ると、鞭を持ったピースプレイヤーが立っていた。
「ヴァレンボロスのペリグロソアンギーラか」
「ご名答。こいつの名前を知っているってことは能力も……知っているよな!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
鞭に電流が流れ、けたたましい音と共に晶鶴を襲う!
「痺れちまいな!カス役人!!」
「……残念」
「……え?」
「ぼく達は電撃なんかにも人間より耐性があるんだ……よ!!」
ブゥン!!ガァン!!
「――ぐあっ!?」
晶鶴は鞭を掴むとそのまま反転!その先にいるアンギーラを力任せに壁に叩きつけた!
「く!?くそ……おっ!?」
「はあっ!!」
ドゴッ!!
「――ぎっ!?」
緩んだ鞭から脱出した晶鶴は間髪入れずに接近からの鳩尾パンチ!アンギーラもまた今までのお仲間同様夢の世界に旅立った。
「よし……これでお客さん達は……」
「動くな!!」
「ッ!?」
「ううっ……」
再び振り返ると観光客を背に黒いピースプレイヤーがいた。その腕の中に幼い子供を抱き抱え、こめかみに銃を当てながら……。




