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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
天使は反乱に踊る
232/324

純白と黄金①

「……レーダーに反応あり。何者かが高速で接近してきます」

「レーダーがなくてもわかるわ。あれだけ目立っていればな」

 遊覧船の上で警戒飛行を続けていたピースプレイヤー達の目線が一点に集中する……こちらに飛んで来る金と白、二体のピースプレイヤーに。

「やっぱりバレちゃったか……」

 晶鶴は後ろからファルコーネに向けて、責めるような視線を送った。

「嫌味ったらしいぞ」

「でも、どう考えてもそっちのせいだし。これ見よがしにキラキラして」

 空には爛々と輝く太陽、その光を反射する湖面、上下から光を受け、オーロ・ファルコーネの黄金のボディーは目を覆いたくなるほど煌めいていた。

「ちっ!ならば奴らは俺がやる!手出しはするな!」

「え?相手は四体だよ?」

「たった四体だ。しかも三体は『ローレンス・エアロ』の『ゲイム・S』。あれは訓練で使ったことがある。特徴は嫌というほど理解している!カスタムされた様子もない!つまり何ら……問題はない!!」

 ファルコーネは今まで以上に強く羽ばたき、さらに全身から炎を噴射し、加速した!

「仕掛けて来たぞ!!弾幕を張れ!!」

「「「はっ!!」」」

 リーダー機と思われるピースプレイヤーに命じられ、ゲイム・Sは機関銃を召喚、トリガーを押し込んだ。


ババババババババババババババッ!!


 行楽地に似つかわしくない音がけたたましくこだまする。一方、その音と共に放たれた弾丸の軌跡は青空を彩り、とてもきれいだった。

「だからどうした」

 そんな情緒を持ち合わせていないツヴァイはくるくるときりもみ回転をしながら、それらを全て容易く回避した。

「ちっ!マシンガンじゃ捉えられない!」

「ならばゲイム・Sのスピードを生かして……」

「接近戦だ!!」

 視認性の悪いグレーのマシンは銃を消すと、代わりに手の甲から剣を伸ばし、黄金の隼を取り囲むように、散開した!

 それを見て黄金のマスクの下、ツヴァイは……嗤った。

「わざわざ各個撃破しやすいようにしてくれるとは、気が利いているじゃないか」

「はあっ!!」

 正面から斬りかかる一体目!それをファルコーネは……。

「遅い」


ザンッ!!


 回避し、通り過ぎ様に剣を召喚、そのまま胴を斬り裂いた!

「まずは一人。そして……」


ザシュッ!!


「――がっ!?」

 僅かに身体を横に移動させながら、剣をそのまま肩越しに背後に。すると奇襲をかけようとしていた二体目の突きは空振りし、逆に隼の切っ先はゲイム・Sの額を貫いた。

 ほぼ同時に撃破された二体の猟鳥は赤い線を引き、落下。湖にド派手な水柱を立てて沈んでいった。

「て、てめえよくも!!」

 距離を取っていた残った三体目は急旋回!弓のように剣を引きながら、突っ込んで来た……が。

「ふん」


ヒュッ!ザンッ!!


「――ぐあっ!?」

 ファルコーネは渾身の突きを嘲笑うかのように、軽やかに頭上を取り、猟鳥の翼、そしてそのまま胴体を斬り捨てた。

「仲間の一人や二人、殺されたぐらいで取り乱すな。みっともない」

 その言葉を最後のゲイムが聞くことはなかった。すでに事切れていたし、重力に引き寄せられ、物理的にも声の届かないところまですでに離れていたから……。

「さて……残るはヴァレンボロスのダーティピジョンか」

 隼が目線と殺気を送るが、鳩はホバリングしながら、その場を動かなかった。

(こいつが飛行部隊のリーダーだな。俺の殺気に当てられても、微動だにしない)

(感情的になって飛び出したら、あいつらの二の舞になるだけだ。ましてや速度重視のゲイム・Sを翻弄するスピードを持つ相手……下手に先に動いても、後だしで返り打ちにされる)

 両者にらみ合いの時間が続く……かに思われたが。

「まともな敵にはそれなりの礼儀を持ってじっくり相手してやりたいところだが……生憎今俺は急いでいる!!」

 ツヴァイは膠着状態をよしとしなかった!黄金の翼を広げ、全速力で鳩を仕留めにかかる!

「ちっ!時間稼ぎさえさせてくれんか!ならば!!」

 対照的に膠着状態を望んでいたピジョンはその場で向かってくるファルコーネに対して翼を羽ばたかせた。すると翼から光る羽根が射出!それが隼の近くまで寄ると……。


ボボボボボボボボボボボボボッ!!


 爆発!爆発!連鎖爆発!

 光る羽根は炎と煙へと一瞬で姿を変え、目立って仕方なかった黄金の隼を覆い尽くし、隠してしまった!

「やったか!?」

 きれいにカウンターが決まり、勝利の二文字が脳裏に浮かんだ。しかし……。

「何をだ」

「!!?」

 それはとんだ勘違い。いつの間にか盾を構えていたファルコーネが煙のカーテンを突っ切って、再び姿を現した!

 当然、勝利がちらついていたピジョンは大ショック!まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「くそ!!だったら!!」

 それでもさすがリーダーといったところか、ピジョンはすぐに気持ちを切り替えると、槍を召喚、猛スピードのファルコーネにカウンターを繰り出す!


ヒュッ!ザシュッ!!


「……がはっ!!?」

 けれども部下と同じくその切っ先は隼を捉えられなかった。

 一方のファルコーネの剣はピジョンの胴体を貫通し、鮮血を滴らせている。

「ゲイムの戦いを見て、スピード勝負を挑まなかったのは賢明だったが、どんな手段を取ろうと結果は変わらん。マシンではなく俺と貴様らじゃ、生きている速度が違うのだから……」

 そう語るツヴァイの目はどこか寂しげだった。だが、もちろんマスクを着けているのでピジョンには見えない。彼は不敵に笑うこの世にはいない誰かを夢想しながら、剣からスルリと抜け落ち、部下達の下へと落ちていった。

「ツヴァイ!」

 戦いを終えた黄金の隼に純白の鶴が合流する。彼の顔もまた神妙な面持ちであった。

「……殺す必要があったの?あれだけの実力差があるなら、生かしたまま無力化できただろうに……」

 アインスの顔が曇っている理由はひとえに目の前で命が散るのを見たからだ。心優しい彼は敵だとしても死にゆく者を見るのは……辛かった。

「確かに俺なら奴らを殺さずに意識だけ奪うのも容易い」

「なら!!」

「だが、そのあとどうする?わざわざ拘束するか?ピースプレイヤーを奪うか?目を覚ました奴らに援軍に来られるなんて間抜けを晒さないためには、それだけの手間暇をかけなくてはいけない……そんな時間が我らにあるか?」

「それは……」

「殺すのが最善だ。下らん感情で状況を見誤るな」

「くっ……!!」

 アインスは何も言い返せなかった。ツヴァイの言っていることが客観的に見て、正しいことは理解できる……できた上で、死人を出したくないという気持ちは変わらないので、ただただ苦しかった。

「お前と『フィーア』は甘過ぎるんだよ。人間ごときに肩入れして」

「そういう性分に生まれてしまったんだから、しょうがないだろ。ぼくだってこんなことなら、感情なんて欲しくなかった……」

「ふん!泣き言を言いたいなら、他所でやれ。俺はゲスナー博士の救出に向かう」

「ぼくも行くよ。受けた任務は最後まで全うする」

「責任感はあるようだな」

「ただ遊覧船にいる敵はできるだけ殺さない」

「まだそんなことを言っているのか?」

 ツヴァイは正直呆れた。どこまでお人好しなんだと。しかし……。

「違うよ。今回の騒動の理由を知るために生け捕りにした方がいい。遊覧船の中なら、ぼくらの目も届くし、そっちの方が……」

 アインスはあくまで今回は合理的な判断の下での意見だと訴えた……裏には非合理的な感情が見え隠れしているし、ツヴァイにはそのことがお見通しだが。

「物は言い様だな。いいだろう、船の中の敵は殺害ではなく、捕縛する」

「ツヴァイ!!」

「だが、きっとそうはうまくはいかんだろう。お前は今、言ったことが夢物語だと思い知らされることになる」

「かもね。だとしてもぼくは……!」

 決意を固めるようにアインスは拳を握る。

(ぼく達と違って長く生きられる命……こんなことで散らさないで……)

 実際ツヴァイの言っていることは悲しいかな的中することになり、アインスもそうなると心のどこかではわかっていたのだが、それでもその時の彼は祈らずにはいられなかった。


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