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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
やっぱり眠れない
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もしもの相棒 後編

 ネジレは視線を紅き竜から二体の天使に移動、下から上へ懐かしむように観察した。

「ガーディアンエンジェル……まさかこんなところでお目にかかれるとは」

「知っているのか?」

「当然。あれは俺のミカエルやガブのガブリエルを普通の人間でも使えるようにデチューンしたマシンだ」

「その割にはかなり強い気がするが」

「それもまた当然。一体作るのに、素材も時間もガーディアントの何倍もかかるんだからな。結果、神凪との戦いに十分な数を製造できなかった。使いこなせるような人間もいなかったしな」

「もしあいつらが参戦していたら、結果は変わっていたか?」

「……俺も大概だが、お前も相当嫌味な奴だな」

「事実だとしても面と向かって情けないとか言われたらな。少し意地悪もしたくなるさ」

「まったく人間というのは本当に愚かだな」

 呆れながらネジレはまたエンジェルを改めて見直した。

「どうやら俺の知っている状態からカスタムした形跡はないな」

「つまり?」

「問題なく対処できる」

「あ?」

「何を~!!」

 傲慢な乱入者の態度に、呆けていたリーヌスとルーペルトも正気を取り戻し、食ってかかった。

「事実を言ったまでだ」

「二対二になったくらいで、いい気になりやがって……!」

「勘違いするな、俺は貴様らのような雑魚なら、二人まとめてかかって来ても問題ないと言っているんだ」

「こいつ!耳だけじゃなく、心が尖りまくってやがる!」

「ふん。俺の心は関係無い。ただ客観的事実を言っているだけだ」

「減らず口を……!」

「こうして叩けるくらい、貴様らは愚図でのろまということだな」

「この……!!」

「俺の言っている意味がわかるか。そう言えば、多少馬鹿っぽいが、会話が成立している。写真でお前らの顔を見た瞬間に諦めていたのだが……ちゃんとその軽そうな頭に脳ミソが詰まっているんだな」

「「ぐうぅ……!!」」

 徐々に、いやかなり急激にヒートアップしていく天使と元天使。

 それに対し、紅き竜の取った行動は……

「ネジレ、それぐらいにしておけ」

「止めるな、ナナシ・タイラン。これからがいいところなんだ」

「いいから、俺のダブルピースでも見て落ち着けよ。イエーイ」

「突如奇行に走る同僚!俺の職場環境終わってるな!!」

 この状況で両手でピースするナナシガリュウに、ネジレは全身全霊でツッコミを入れた!

「気色悪い!急にどうした!?気色悪い!!気色悪いの神凪代表にでもなるつもりか!?気色悪い!!」

「そこまで言わんでも……」

「ここで言わんでいつ言うんだ!ええ!!」

「わかったわかった……とにかく落ち着けって。無駄に煽るなよ、せっかく油断してたのに……ほれ」

「あぁ……おかげさまで……!!」

「今まで感じたことのないくらいやる気に満ち溢れているよ……!!」

 どこか優しげなガーディアンエンジェルのマスクの下で、リーヌスとルーペルトは目をバッキバキに血走らせ、それが端から見てもわかるほど、刺々しい雰囲気を纏っていた。

「ふん!奴らがやる気を出そうが、出すまいが結果は変わらんさ……!!」

「だとしても楽に片付けられるなら、そっちの方がいいだろうが」

「めんどくさがりめが」

「効率的にいこうって言ってるだけなんだがな」

「効率的ね……ナナシガリュウ、お前の言う通りだ」

「リーヌス、あれも出すのか?」

「あぁ。大切な商品を傷つけたくなかったが……プライドをこれ以上傷つけられるよりマシだ!出て来い!ロボラット!!」

 リーヌスの言葉と共に、工場の物陰からゾロゾロと自立稼働型のピースプレイヤーが姿を現した。

「こんな末端の売人まで、AI自立型か……世も末だな」

「まさに多勢に無勢……この数相手でもまだ強がれるか!ええ!!」

「機械仕掛けの人形など、いくら揃えたところで問題ない」

 ネジレは強気の姿勢を崩さず一歩前に出た。

「じゃあ、あいつらはお前に任せるわ」

 隣のナナシガリュウもまた一歩、二人再び並び立った。

「休んでいてもいいんだぞ?」

「そうしたいのは山々だが……これ以上お前に借りを作りたくない」

「俺はそんな小さなことは気にしない」

「俺は気にするの。ケチな男だから」

「フッ……ならば片方だけでいいから引き付けていてくれ。人形と片割れは俺がこいつで叩き潰す」

 そう言うとネジレはさらに前に出て、数珠を巻き付けた腕を突き出した。

「裁け……『ミツヒデ』……!!」

 数珠から放たれた光がネジレを包む!そして次の瞬間!

「さぁ……一気に終わらせようか!」

 錆色をした鎧武者のようなピースプレイヤーが、光の中から刀を構えて飛び出し、勢いそのままロボラットの群れに突っ込んだ!

「はあっ!!」


ザンッ!ザンッ!ザンッ!!


「「「……!!?」」」

 すれ違い様に切り捨てる!あっという間に三体の商品をただのゴミへと変貌させた。

「速い!?くそ!接近戦は不利か!だったら!!」

 ロボラット軍団はリーヌスの意を汲み、銃を召喚……したのだが。

「生憎……万能という言葉は俺とこのミツヒデのためにあるんだ」

「なっ!?」

 すでにミツヒデは長大な銃を召喚済み、さらに狙いもばっちりつけていた!そして……。

「ここはあの時のナナシガリュウの言葉を拝借させてもらおう……ハート撃ち抜かせてもらうぜ」


バン!バン!バァン!!


 キザったらしくケツがむず痒くなるようなセリフと共に放たれた光の弾丸は、宣言通りに三発とも胴体に命中!そして貫通!分厚い胸板をいとも簡単に貫通する威力……この銃は見かけ倒しじゃない!

 またまたロボラットは何もできずにスクラップになり下がった。

「こいつ……口だけじゃない……!」

「漸くわかったか、下等な人間よ」

「くっ!?」

「悔しがる暇があるなら、とっとと次の一手を仕掛けて来い。ハンデとして俺はこの円から動かないでやるから」

「なっ!?」

 ミツヒデは刀の切っ先を地面に下ろすと、くるりと一回転、地面に円を描き、あろうことかそこから出ないと言い放った。

 あからさまで相変わらずな挑発……それにまんまとリーヌスは引っかかる!

「てめえ!だったらその円が貴様の墓場だ!この野郎!!」

 リーヌスの怒りの咆哮と共に、ロボラットの群れがミツヒデを円形になって取り囲み、そのまま飛びかかった!

 それを見て、仮面の下でネジレは……口角を上げた。

「思った通りに動いてくれて、助かるよ」

 ミツヒデは姿勢を低くし、刀を地面に水平に。すると刃が赤く輝き、遂には炎を噴き出した!

「炎浄・天灰(てんかい)


ボオォォォォォォォォォォォォン!!


「「「!!?」」」

 ミツヒデが再度一回転!炎の刀が円を描くと、その軌道にいた機械人形達を皆一様に上半身と下半身に真っ二つに溶断した。

「な、なんだと……!?」

「俺も人のことを言えんな……面倒だったので、まとめて処理させてもらったよ」

「ぐうぅ……!」

「残ったのはリーヌス……ルーペルトだったっけ?まぁ、どっちでもいい……かかって来い」

「くそがあぁぁぁぁっ!!オレはリーヌスだぁぁぁっ!!」

 頭に血が昇り、冷静な判断ができなくなっているリーヌスエンジェルは剣を突き出しながら、全速力でミツヒデに突進した。

「そういうとこだぞ、お前」

「へ?」

 それをミツヒデは体操選手のようにくるりと空中を回転しながら、飛び越した。いや、それだけには飽き足らず……。

「だからいつまでもセコい売人にしかなれないんだ」


ザンッ!!


「――ぐあっ!!?」

 刀をそっと全力突進するリーヌスエンジェルの翼の前に置く……置くだけ。それだけで勝手に天使は自らのスピードで、翼を切り落とし、自慢のスピードを奪われることになったのだ。

 ミツヒデは華麗に着地すると、対照的に片方の翼を失い無様に墜落する天使に容赦なく銃を向けた。

「フィナーレだ」

「まだ……!」


ドン!!


「「え?」」

 立ち上がったとたんに背後に新たな衝撃!振り返ると、そこには自分に負けず劣らずボロボロになったルーペルトエンジェルの姿があった。

「ルーペルト……お前も!?」

「リーヌス……あいつは!ナナシガリュウは!!」

「タイマンなら負けねぇよ」

「「!!?」」

 ナナシガリュウもまたこちらを木漏れ日のように優しく輝く黄色い二つの眼で見据え、銃口を向けていた。

「ちょっ!?」

「ちょっとタイム!!!」

「「断る」」

「太陽の弾丸」

「炎浄・雅羅射(がらしゃ)


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 二人の銃から放たれた光の奔流が二体の天使を飲み込み、クロスする!

 圧倒的な光と熱が通り過ぎた後に残ったのは、自慢の機械鎧を破壊され、白目を向いて倒れるちゃちな売人二人であった。

「なるようになったな」

「このネジレのおかげでな」

「そうそう、元金ぴか傲慢ゴミくず野郎のおかげ」

「さては貴様、俺は傷つかないと思っているな!?」

「まぁまぁ、お疲れ様」

「ふん……本当に気に食わない奴だ」

 ナナシガリュウとミツヒデは歩み寄ると、お互いを労うように拳を合わせた。



「……なんてことになってたかもな」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


「こいつ!?」

「この状況で考え事をしている!?」

 妄想から現実へ……。

 実際にはナナシガリュウはガーディアンエンジェルに後れを取ることなく、防御を刀を持った四本のサブアームに任せて、本体は腕組しながら、もしもの世界にトリップするぐらい余裕綽々であった。

「ナナシ様……物思いに耽るのは、全部片付けてからにしませんか?」

「だな」


ガギィン!!


「――がっ!?」

「ぐあっ!?」

 妄想の中のネジレのように紅き竜もその場で一回転!力任せに天使二人を弾き飛ばした。

「これが阿修羅ドラゴンの力……!」

「また知らぬ間に異名が増えてますね」

「ちゃんとした奴な」

「けれど、残念ながら彼らにとどめを刺すのは、竜ではないのですがね」

「俺の考えがわかるか」

「ワタクシはナナシ様の相棒ですから」

「なら!」

「はい!クレナイクロスパージします!!」

 紅き竜の背部から十字架にも見えるパーツが外れる!そして……。

「気高く堕ちろ、ナナシルシファー」

 紅き竜の姿が一瞬で白い片翼の天使に!友から受け継いだナナシ・タイラン、もう一体の愛機の降臨だ!

「グノス製にはグノス製……」

「天使には天使ってわけか……!」

「だが!同じ土俵なら!」

「おれ達にだって勝機は……」

「ないね」

「「………え?」」

 瞬く間に、文字通り二人が瞬きする間にナナシルシファーは柄を連結させた剣を手に、背後に移動していた。

「夜明けを告げる刃」


ザザザザザザザザザザザザザンッ!!


「「――ッ!?」」

 二体のガーディアンエンジェルがほぼ同時に切り刻まれる!そしてそのまま鎧を貫通した斬撃の衝撃がリーヌスとルーペルトの意識も断ち切ったのだった。

「任務完了」

 ナナシはルシファーを指輪に戻すと、アタッシュケースに戻ったクレナイクロスと、小さなドラゴンメカに変形した相棒の下へ歩き出した。

「お疲れ様です。後始末は警察の方に連絡しておきましたので大丈夫です」

「ありがとう」

 ナナシはそのままケースを回収し、肩にベニを乗せた。

「それにしても驚きました、ナナシ様がAOFの隊長に推薦しようとしていたのがあのネジレだったなんて」

「そうか?」

「そうですよ。ワタクシはてっきりコマチ様の方かと」

「あいつは俺との喧嘩で満足したから、戦うこと自体もう興味ないと思う。仮にあってもオリジンズ相手は嫌がるはず」

「だからネジレですか」

「なんとなくな……」

 話していて、寂しさを感じたのか、ナナシは微かに表情を曇らせた。

「……AIのワタクシには完璧には理解できない感情ですが、もしも何かが違っていたらと……思わずにはいられないのですね」

「あぁ、意味なんてないのにな」

「いえ……きっとこうしてあなたが思い出してくれるだけで、あちらでお二人は喜んでくれているはずです」

「コマチはともかく……ネジレはどうかな……」

 廃工場の外に出て、空を見上げると、星がムカつくほど爛々と輝いていた。


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