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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nexus
23/324

義兄弟

 時を少し遡り、コマチルシファーが激しい……と言うべきか、少し躊躇を覚えるが、激しい戦いをしていたのとほぼ同じ頃、傭兵ダブル・フェイスも二人の敵と激闘を繰り広げていた。

「ハイッー!!」

 顔の右半分を仮面で隠したようなデザインをした細身のピースプレイヤーが槍による高速の連続突きを披露する。星が瞬くように煌めく刃が真っ直ぐと傭兵に襲いかかる。

「ほい、ほいっと……お返し!」

 その目にも止まらぬ突きを、ダブル・フェイスは紙一重でかわす!……だけではなく、貫手で反撃をした!

「ハイッ!」

 “細身”は回転しながら飛び上がり、その貫手を紙一重で避けた!その姿は体操選手や踊り子のように優雅で、見とれてしまいそうになる。しかし、当然、そんな暇はない!

「うぉおおおっ!!!」

 “細身”の影から真逆の、大柄で見るからにたくましい、左の顔に仮面を着けたピースプレイヤーがすごい迫力と猛スピードで傭兵に向かって突撃してきた!

「ウラアッ!!!」

 勢いそのままに、手に持った長い柄の先に分厚い刃を取り付けた常人なら振るうどころか持っていることさえままならないであろう大斧を斜め下から斬り上げた!あまりの力に風圧で土煙が一緒に巻き上がる。


ガンッ!


「くッ!?」

「やるな……だがぁ!!!」

「――ッ!?」

 ダブル・フェイスはライフルを使って防御するが、威力を殺し切れずに空中に放り出される。

「ハイッ!ハイッ!ハイッー!!!」


ビシュ!ビシュ!ビシュウッ!!


 空中にかち上げられた傭兵に向かって、その瞬間を待ちかねていた“細身”がきらびやかな弓で光の矢、まさに光速の矢を連続で放つ!

「よっと……!」

 しかしダブル・フェイスは空中で器用に体勢を変え、最小限の動きで光の矢を回避した。全てを避け、地面に着地すると……。

「ウウウゥラララァアー!!!」

 なんとも形容し難い地鳴りのような声を上げ、“大柄”がその身に似合った巨大で、無骨な弓から、これまた巨大な矢を放つ!

「うおっと!?」

 ダブル・フェイスは身体を限界まで反らし、矢を躱す!目の前を!鼻先を!矢が通過する!

「よいしょっと」


ドッゴォオーーーン!!!


 ダブル・フェイスが体勢を戻したと同時に、後方から爆発音がした。回避した矢が白バイか何かに当たり、引火したのだろう。

 真っ赤な火柱を背に佇むダブル・フェイス……夜の闇に溶け込んでいた漆黒のボディーが赤く縁取られる。

「まさか……我ら義兄弟の連携攻撃を全て捌くとは……」

 “細身”が驚く……というより感心したように呟く。あれだけの怒涛の攻撃を全て躱されたのだから、そう思うのも当然だろうが、それを素直に言葉にできるのは、余裕がまだまだ残っているからか、それとも内心相手を見下しているからか。

「いやいや、お宅らすごいよ。俺じゃなかったら五回は死んでたね、マジで」

 傭兵は傭兵で謙遜しているようで、まったくしていない。だが、あまりに自然に軽く言うもんだから、嫌な感じもしない。

 ダブル・フェイスという男には憎みたくても、憎み切れない妙な愛嬌があるのだ。

「ははははははっ!確かに、おれの骸装機『文醜』と義兄弟の『顔良』!連携を前提に設計された二体のコンビネーション攻撃を受けた今までの奴らは、みんなあっさりやられおったわ!それに耐えた!つまり、ぬしは強い!ははははははっ!!!」

 大柄な方、『文醜』が豪快に笑いながら、傭兵を褒める。これも嫌味ではなく素直な感想なのだろう。そもそもそんな器用なことができるタイプには見えない。

「……骸装機って……お前ら『猛華大陸』出身か?嫌いじゃないぜ、その呼び名。個人的にピースプレイヤーよりはるかにマシだ」

「フッ、“平和を祈る者”なんて……」

「バカみてぇだよなぁ!!!」

 きっと根っこの部分では彼らは同じ、似た者同士なのだろう。どこかで戦いの輪廻から未だ抜け出せずにいる人類を見下しながら、同時にその中でしか生きることのできない自分たちを自嘲している哀れでみっともない愚者、それが彼らの正体だ。

 命を懸けた攻防の中でシンパシーを感じた三人を、まるで居酒屋で談笑しているような戦場には似つかわしくない和やかな雰囲気が包み込む……が、ダブル・フェイスの一言が空気を一変させる。

「なんか気が合うな~。戦いたくないな~。でも幸いそんなに強くないからな~。だから……殺さないで済みそうだ……!」

「なっ!?」

「なんだと!?」

 一気に何故か穏やかだった空気が張り詰めた戦場のものに引き戻された。

 誇りを真っ正面から傷つけられた義兄弟二人とも今にも傭兵に飛びかかりそうだ。そんな怒りを込めた眼差しを二人分、真っ正面から受けても、傭兵は動じない。

 彼が今、言った通り目の前で憤る彼らを敵だとは思っていないのだ、そう思える価値も実力もないのだ。

「いや、だからよ~。俺が本気出さなきゃいけないくらい強かったら、殺すつもりでやんねぇといけなかったけど……お前らはそこまでじゃないから、助かるよ。手加減してやる。良かったね。つー話さ」

「ぐっ!?」

「貴様……!!」

 完全なる挑発、見事な煽り。義兄弟はあっさりと我慢の限界を越える!

「やるぞ!!」

「おう!八つ裂きにして……」

 言葉を言い終わる前に文醜が飛び出……。


ズシン


「な……ん……!?」

 飛び出せなかった!文醜は突然、何かに上から押さえつけられたようにその場から一歩も動けなくなっていた。

「お前は後だ」

 文醜を無視してダブル・フェイスが顔良に突っ込む!一気に最高速度に到達!お互いの射程距離に入り込む!

「くっ!?速い!?だが!!!」

 しかしスピード自慢は顔良もだ!流れるように弓を構え、再び無数の光の矢を放つ!


ヒュン!ヒュン!ヒュン!

バンッ!バンッ!バンッ!


「何ぃ!?」

 あろうことか傭兵は自分に迫り来る矢を全て、ライフルで撃ち落とした!神業というしかない超絶スナイプ!

 そして、ダブル・フェイス本人もすでに顔良の目の前まで迫っていた。

「このォ!!」

 即座に弓を投げ捨て、新たに召喚した槍に持ち替えると、再び高速の突きの連打!けれども、悲しいかな今回もあっさり……いや、さっきよりも簡単に避けられる

「こいつ!?速くなって!?」

「違う。お前が遅くなったんだよ」


ゴスッ!


「グホォッ!?」

 傭兵の拳を腹部にもらい、顔良の身体が“く”の字に曲がる!そして、頭が、視線が下がったことによって気付く。

 自身の脇腹の装甲が溶けていることに……。

(……なん……で……今の攻撃……いや、違う……最初のだ……最初の………攻撃が……かすって……いた…………)

 薄れ行く意識の中、疑問を解決させる為、必死に頭を回す。

(……でも……何故……溶け……!まさか……“毒”……動きを……鈍らせ…る…ウイルス……さっき…の………会話…も…効果…が出る……まで…の……時間…稼………………)


ドサッ……


 最後まで自身の敗因を探りながら、顔良の装着者の意識は深い闇の底に沈んでいった。



「きょォだぁいぃ!!!」

 文醜が吠える!身体中から怒りのオーラが迸っている。その威圧感は一流の戦士ですら圧倒するだろう。

 だが、生憎この傭兵は超一流!心も身体も微動だにしない。

「待たせたな。約束通り、今度はお前だ。もう動けるだろ、来いよ」

「ぐっ!?」

 傭兵の言う通り、文醜は動けるようになっていた。理由はわからない。が、そんな事はもうどうでもいい!

「グルルアァァアッ!!!」

 獣のような唸り声を上げて、一直線に傭兵に向かって行く!その勢い!義兄弟をやられた怒り!そして、自身の全体重とパワーを大斧に乗せ、振り下ろす!

「しぃいいねえぇい!!!」


ガンッ!!!


 全身全霊を込めた大斧の一撃!それをいとも簡単に、いつの間にか背中から抜いていたとてもそんなことはできそうにない細長い刃の長刀であっさりと受け止める。

「――ッ!?そんな!そんな、ひょろ長い刀なんてぇ!!!」

 文醜はそのまま刀をへし折ってやろうとさらに力を込めた。身体中の筋肉が膨れ上がり、そこから生まれた力を纏っている機械鎧が増幅させる!……が。

「そいつは無理さ」


スパッ


「……えっ!?」

 大斧がまるで紙のようにあっさりと引き裂かれた。もちろん、それを実行したのは傭兵の長刀……いや、妖刀だ!

「こいつは俺が古代遺跡で見つけたアーティファクト、妖刀『不忠(ふちゅう)』。切れ味は……見ての通りさ。それとも、見るだけじゃ足りないか?だったら、そのムキムキボディーで確かめてみるかい?」

「くそォオォ!!!」

 傭兵はそのまま逆に文醜へ頭上に掲げた不忠を振り下ろす!

「うらぁ!」


ゴンッ!!!


「がっ!?」

「……なんてな。峰打ちだ。できる限り殺すなって契約だからな」

 振り下ろす途中でくるりと刃を回転させ、斬るのではなくおもいっきり妖刀の“背”を頭に叩きつけた。峰打ち……確かに命は奪っていない。けれども、屈強な戦士を一撃で昏倒させるだけの破壊力はあった。


ドサッ……


 義兄弟と同じように地面に突っ伏す文醜。ピクピクと小刻みに動いているが立ち上がる気配は感じられない。

 この瞬間、傭兵ダブル・フェイスの仕事が完了、勝利が確定する。

「お前ら悪くなかったぜ。もし次があったら、本気を出してやっていいって思うくらいにはな。そん時ゃ、俺の本当の名前、そして、俺のピース……骸装機の真名、教えてやるよ」

 彼なりの最大の賛辞を二人の敗者に送る。だが当然、残念ながら、敗者には届かない……だから敗者なのだ。

「つーか、適当に言ったけど、大正解だったな。今のお坊ちゃんじゃ、多分、こいつらのコンビネーションには手も足も出なかっただろうな。最強の駒である俺を当てられて良かった、良かった」

 やはり、対戦相手決めは適当だった。けれど、どうやら結果オーライらしい。とは言え不安がない訳でもないようで……。

「まぁ……タイマンならお坊ちゃんの相手……オリジンズに跨がっていたあいつが一番強いっぽいけどな……」


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