断ち切ろうとする竜②
「ガリュウブレード」
ネームレスガリュウは再度数ある武器の中で最も信頼する得物を装備した……と思ったら。
「トンファー」
「ん?」
すぐに別の武器にチェンジ!さらに……。
「マグナム」
「は!?」
また変更。そして……。
「……ブレード」
「な!!?」
再び最初に召喚した刃に。
カルヴァートはその不可思議な行動に混乱する。
「……あれ、何やってるんすか?」
木に隠れて戦いを見守っていたシュショットマンも同様で、小首を傾げながら隣にいるハタケヤマに竜の意図がわかるかと尋ねた。
「多分……今のあなたのように何をやっているんだ、こいつは……って思わせたいんじゃないでしょうか」
「混乱させることが目的のただの嫌がらせってことっすか?」
「わたくしにはそうとしか。もしかしたらもっと深いお考えがあるのかもしれませんがね」
「超が頭に付く一流の戦士であるネムさんの思考なんて、わたし達では理解できないってことっすか」
「そういうことですね。ただひとつだけわかるのは、ネームレス様はあのカルヴァートというエヴォリストのことを、何らかの搦め手を使わないといけない相手だと認識していることは確かです」
「ネムさん、基本スペックが高いから、大抵の相手は何も考えずにゴリ押しの通常攻撃ぶっぱでどうにかなりますもんね」
「ええ、昨晩の戦いの疲労や、生きたまま制圧するという制約のせいもあるでしょうから……あの意味不明な行動も一気に勝負を決める布石なのかも……」
「ブレード……」
二人が話し終わる頃、ネームレスガリュウの武器リレーは三週目に突入していた。
(この流れなら次は……)
「トンファー」
(やはり……!そうなるとお次はマグナム……)
「ナイフ」
(……え!?変えて来ただと!?)
「ブレード」
(またブレード!?今のはなんだ!?まさか間違えたのか!?というか、どれで、いつ仕掛けてくるつもりなんだ!?)
カルヴァートは完全に翻弄されていた。黒き竜の手元に集中し、次に何を装備するのか、それでいつ攻撃をしてくるのかだけが頭を支配している。
その状態に陥らせることが、ネームレスの策であった。
「ロッド」
(新しいパターン!?あいつは一体何を……)
ビシュウッ!!
「――ッ!?」
意識が完全に武器のことにしかなくなった瞬間、ネームレスガリュウは額からビームを発射した!
完全に不意を突かれたカルヴァートは顔面にもろに喰らい、視界を潰された!
「それがあったっすか!!」
「彼のことをよく知っているわたし達でも引っかかったのだから、情報の少ないカルヴァートがわかるはずもない!」
「そして一瞬でも、視界を潰せたなら……」
「十八番が最高の状態で発動できる!!」
「くそ!?何をされたんだ、オレは!?」
カルヴァートは頭をブンブンと振り、なんとか視力を回復させようとする。そしてなんとかおぼろげながら見えるようになった視界には……。
「――!!?いない!!?」
黒き竜の姿はなかった。
「どこだ!?どこにいる!?」
周囲を必死になって見回すが、影さえ見つけられず。ただただグリーンが広がっているだけだった。
「まさか逃げたのか?いや、奴に限って……」
ゴォン!!
「――ッ!?」
背後からの強襲!突如として再び姿を現したネームレスガリュウにトンファーでおもいっきりぶん殴られた。
「がっ……この!!」
ブゥン!!
「くっ!?」
朦朧とする意識を引き止めながら、高速旋回!裏拳を放ったが、それはあっさり避けられてしまった。
「無駄だ」
「貴様一体どこに……!?」
「俺はずっとそばにいたよ」
「!!?」
そう言うと、黒き竜の姿は徐々に景色と溶け込み、あっという間に消えてしまった。
「こいつ……姿を消せるのか!?」
また周囲を見回すが、結果もまた同じ、どんなに必死に探しても、竜を視界に捉えることはできなかった。
「……いくら目を凝らしたところで無駄か。だったら!!」
カルヴァートは両腕を鞭状に変形!それを……。
ブォン!ブォン!ブォン!ブオオォン!!
がむしゃらに振り回す!それはまさに銀色の嵐!竜がどこから来ようと、迎撃できる今の彼にできる最善の策!
「……やはりセンスがあるな、カルヴァート」
「ネームレス!?」
「その方法は悪くない。GR02対策としては何も間違っていない」
「その割に……ずいぶんと余裕があるじゃないか……!」
「余裕さ。完全適合したネームレスガリュウを撃ち落とすには……速度も密度も足りん!!」
黒き竜……いや、姿を消しているので、今は色のない竜は銀色の鞭の間を掻い潜り、一気にカルヴァートの懐まで潜り込んだ。
そして、そこで透明化解除。
「な!!?」
突如、文字通り目の前に現れた黒き竜の姿にカルヴァートは驚愕し、思考も動きも止めてしまう。
「はあっ!!」
ドゴッ!!ドゴッ!!
「――がはっ!?」
そこに容赦なく、トンファー二連!胸と腹部をぶっ叩き、吹き飛ばした!
「くっ!?くそが!!」
カルヴァートは空中で体勢を立て直し、着地。グリーンに両足と変形した腕の刃でレールを描きながら、停止した。
「はぁ……はぁ……」
「わかっているだろ、スルバランとの戦いでお前はもう限界だ。ちょっと休んだくらいではどうにもならん」
「うるさい!オレはまだ!!」
「そして何よりスルバランと同じくこの戦いに迷いを感じ始めている」
「!!?」
図星だった。エミジオの言葉が、カポウンを殺した時の記憶が、カルヴァートの復讐心を大きく揺さぶり、疲労以上に彼の力を削いでいたのだった。
「これ以上続けても不毛なだけだ。妻子の件で納得がいかないなら、こんな方法ではなく、別の方法で、司法の下で戦え」
「……一人殺した人間の言葉を誰が聞き入れてくれる」
「……そうだな。だからこそお前は復讐などするべきではなかった」
「それでもオレにまた法にすがれというのか!?」
「あぁ……お前が本当に正しいことを訴えているなら、きっと応えてくれるはずさ」
「綺麗事を!」
「だな。だが俺は、法も人も信じずに大きな罪を犯した俺だからこそ綺麗事を言う……言い続けなければいけないんだ!!」
「うっ!?」
黒き竜の覚悟と魂の咆哮に気圧される。しかし、それでも……。
「それでも……それでもオレは!!」
復讐鬼は止まらず!両腕を刃に変えて、身体を捻る。黒き竜を模倣し続けた結果、彼はついに見てもいない彼の奥義にまでたどり着いていたのだ。
「……だろうな。あの時の俺もそうだった」
ネームレスガリュウもブレードを召喚!鏡合わせのように、こちらも身体を捻る。
「だとしても、まさか技まで似るとはな」
「何をわけのわからないことを!!」
両腕の刃を前方に突き出しながら、高速できりもみ回転!銀色のドリル弾丸となって、黒き竜に突撃する!
「月光螺旋撃……!」
対するネームレスガリュウも回転突撃!漆黒のドリルが、大気を引き裂きながら!突き進む!そして……。
ギャリッギャリッギャリッギャリッ!!!
両者激突!けたたましい音をゴルフ場にこだまさせながら、意地と力を真っ正面からぶつけ合う!
ギャ……リィン!!
「ちいっ!?」
「やるな」
結果は引き分け、お互いに弾き飛ばし、再び技を発動した最初の位置に戻る。そうなると……。
「もう一度だぁぁぁッ!!」
「受けて立とう」
再度の必殺技!銀と黒のドリルがまた正面衝……。
「……やっぱやめた」
「!!?」
まさかの黒い方が回転停止!さらに……。
「ガリュウファン」
ブォン!!
空に向かって扇を振り、軌道修正!ドライブシュートのように、フォークボールのように、ガクンと落ち、カルヴァートの下に潜り込む。
「自分の必殺技だからな……やられて嫌なこともわかる。ガリュウウィップ!」
ネームレスガリュウは着地と同時に扇から鞭に持ち替え、遠ざかる銀の弾丸に狙いをつける。そして……。
「そこだ!!」
ビシッ!!
「――な!?」
鞭を伸ばし、カルヴァートの足を絡め取る!
「月光螺旋撃の弱点、それは一度発動すると、急停止できないこと、背後に回り込まれると無防備を晒すこと……こんな風にな!!」
グイッ!!
「――ぐっ!?」
ドスウゥゥゥゥゥゥゥン!!
「ぐはっ!?」
鞭を全力で引っ張り、銀色のドリルをグリーンに叩き落とす!説明の通り、カルヴァートはその間、何の抵抗もできなかった。
「く……ここでも経験の差か……!だが、まだ!!」
カルヴァートはすぐに立ち上がり、再び戦闘態勢を取ろうとした……したのだが。
「ガリュウサイズ」
「!!?」
振り返ると奴がいた……大きな鎌を振りかぶって。
「くそ……」
「決着だ、サディアス・カルヴァート」
「くそおぉぉぉぉぉッ!!」
「黒竜刃・三日月」
ザンッ!!
「――ッ!?」
技名の通り三日月状の鎌が三日月の軌跡を描き、銀色の身体を斬り裂いた。そして肉体だけでなく、カルヴァートを復讐に駆り立てていた歪んだ心も……。
限界を超えたカルヴァートはグリーンに倒れると、元の人間の姿に戻った。
「……わからなくなっていたんだ。何を信じていいのか、何のために生きていけばいいのか……」
「……そうか」
「もういっそのこと家族の元に行こうと、せめて二人と同じ苦しみを味わおうと、凶暴なオリジンズのいる樹海に行ったのに……死ねないどころか、こんな力まで得てしまって……!」
「………」
「そしたらタイミングを見計らったように、コミノのところでソニヤが働いている記事を見つけてしまって……それがとても幸せそうに見えて、どうしても許せなくなって……!」
「………」
「でも、本当はわかっていたんだ。そんなことをしても気なんか晴れないし、後悔するだけだって……なのにどうしても怒りを止められなくて……!」
「そうだな……そういう風になっちゃうんだよな……」
「怒りに身を任せて、オレはカポウンを……!あいつも苦しんでいたのに……もし本当に逆恨みだとしたら、オレは……!」
「今は休め、これからのことを考えるのは、もう少し後でいい……」
「オレは……オレは……!!」
「カルヴァート……」
勝者にも敗者にも笑顔はなかった。ネームレスの言った通り、この戦いにはそもそも勝敗などなかったのだろう。
あるのはどこにぶつけていいかわからない怒りと、虚しさだけ……。
「俺は結局何も……」
ネームレスガリュウが空を見上げると、太陽がムカつくほど爛々と輝いていた。




