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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
やっぱり眠れない
226/324

断ち切ろうとする竜①

「オレを助けに来ただと……!!」

 カルヴァートは顔を歪め、不快感を露にした。

「……狂っているのか、お前は?ブラックドラゴン」

 エミジオも同様。マスクの下で怪訝な表情を浮かべた。

 だが、それでもネームレスは揺るがない。

「お前達が意味がわからないと思うのも、無理はない。俺もこの感情と行動の意味を理解できたのは、ついさっきのことだからな」

「……お前は本当に何を?」

「ただこの無意味な戦いを終わらせたいだけだ。お前らだって、心の底ではわかっているはずだ。どちらが勝ってもそこに救いはないということを」

「………」

「………」

 無言の二人の間にすきま風が吹いた。

 ネームレスの言った通り、彼らも理解しているのだ、この先にあるのが、更なる絶望だということに。しかし、それでも……。

「……無理だ。おれは止まるつもりはない。奴を殺す……!」

 カマエルは再び戦闘態勢を取った。

「やめろ、スルバラン」

「そいつはカポウンの仇だ!あいつはおれにとって弟のような存在だったんだ!!」

 ネームレスの脳裏に、かつて自らの手でとどめを差した弟分の顔が過った。

「気持ちはわかる……などというつもりはない。それでも耐えろ」

「人の命を奪ったこいつを野放しにしろというのか!!」

「そうは言っていない。カルヴァートにはきちんと罪を償わせる」

「それをおれがやってやるって言ってんだ!!」

「違う!それはお前の役目ではない!法の判断に任せろ!」

「法だと……!!」

 エミジオの脳裏に過ったのは、法によって無罪が証明されたのに、罵詈雑言を浴びせて来る民衆、白い目で見て来る同僚、そしてそれによって疲弊するカポウンの姿……。

「法など意味はなかったじゃないか!!法が認めても、奴らは執拗におれ達のことを許さなかった!一度疑惑をかけられたら、終わりなんだよ!!」

「スルバラン……」

「おれはもう法も人も信じない!!決着は……このおれの手で着ける!!」

(こいつもやはりあの時の俺と同じ……)

 ネームレスは思わず目を背けそうになった……なったが、必死に堪え、月明かりのような黄色い二つの眼で激情迸る赤の天使を見つめ続ける。

「俺と同じ過ちを犯すな、スルバラン……!!」

「間違っているのは、この世界の方だろ!!」

「世界を呪うな!その呪詛の言葉は、いずれお前に返って来るぞ!!」

「もうお前と下らない問答を続けるつもりはない!邪魔立てするなら……まずお前から倒す!!」

「馬鹿野郎が!!」

 悲痛な叫びと共に、示し合わせたかのように、両者はお互いに向かって走り出す!

「でりゃあ!!」

「ガリュウブレード!!」


ガキィン!!


 そして衝突!つばぜり合い!丁寧に力を込めて、刃を押し合う……かと思ったら!

「ウラァッ!!」

「はあっ!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 またお互いに合図したように、金属音をかき鳴らし、火花を散らしながら、ひたすらに斬り結ぶ!


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 目にも止まらぬ一進一退の攻防……いや!


チッ!!


「くっ!?」

 押し勝ったのはカマエル!刃が黒竜の鎖骨付近の装甲をわずかに削り取った!

「はっ!結局口だけか!!」

「くそ!?」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 そしてまた刃のぶつけ合い。しかし、先ほどよりも明らかにカマエルの方が優勢に見える。

「どうしたブラックドラゴン?噂で聞いたほどの力を感じないぞ」

「噂なんてそんなもんさ……!」

「違うな。お前ならもっとやれるはずだ。きっと天使型の中で基本スペックの強化に重点を置いたカマエルとも、その技術と経験で対抗できる。なのに、現実では!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


「ぐっ!!?」

「こうして一方的に押されている!それは何故だ!後に控えるカルヴァート戦に向けて、余力を残そうとしているのか!?それとも昨日の疲れが残っているのか!?はたまたこのおれをできるだけ傷つけずに制圧しようとしているのか!?その全部か!!」

「俺はお前を……!!」

「迷いがある奴にカマエルは倒せん!!」


ガギィン!!ザンッ!!


「ちいっ!?」

 ブレードを跳ね上げられ、無防備となった胴体に深々と傷が刻みつけられた!

「おれは迷わない!おれは必ずカポウンの仇を!!」

 そのまま一気に決めてしまおうと、追撃にかかるカマエル!


ガァン!!


「……え?」

 けれど、お返しと言わんばかりに剣を蹴り上げられ……。

「はあっ!!」


ドゴッ!!


「――ぐはっ!!?」

 もう一方の足で腹部を力いっぱい蹴り込まれた!

 吹っ飛ぶ赤い天使。だがある程度進むと、くるりと回転しながら、体勢を立て直し、宙に浮かんだ。

「この!本領発揮というわけか……!!」

「そんなつもりはないんだが」

「ふん!何だっていいさ!至近距離での殴り合いはお前に分があるなら、こっちは……ヒット&アウェイだ!!」

 カマエルは剣を突き出し、盾を構えながら、急加速!黒き竜へと猛スピードで突っ込んでいく!


チッ!!


「布切れだけか!!」

 ファーストアタックの戦果はマントの先だけであった。だが、それに落ち込むことなく、すぐにUターン!再アタックを仕掛ける!

「今度こそ!!」


ヒュ!


「――な!?」

 さらに気合の入ったセカンドアタックの結果はファーストよりも悲惨なものになった。なんとあっさりと完全回避をされてしまったのである。

(まさかもうカマエルの最高速度の攻撃を見切ったというのか!?あり得ん!あのGR02がどれだけ優秀であろうと、たった二回見ただけで対応できるはずがない!そもそも一回目がマントだけというのが、そもそもおかしいんだ!!)

 エミジオの考えは基本的には正しい。さすがのネームレスでも、今の攻撃を初見で捌き切るなど不可能であったはずだ。だがしかし……。

「俺はその攻撃を、いやそれ以上の攻撃を知っている」

「なんだと!?」

「ずっとイメージトレーニングし続けていた……俺は毎日のように、頭の中でそいつよりも速く厄介な天使を持つ二人の友と戦って来たんだ……!!」

 あのグノスでの最終決戦で見たナナシルシファーの動き、それを元に同等の能力を持っているとされるネジレのミカエルを脳内で構築、そしてその二体と想像の中で激しいバトル……それを数え切れないほど何度も繰り返していたネームレスにとって、カマエルの動きは単調かつスローであったのだ。

「そのマシンが奴らに勝っているのは憎らしさだけだ。色と形の組み合わせが、俺にとっては最高に虫酸が走る」

(本当にイメトレだけで、グノスの天使型の動きを見切ったというのか!?……いや、GR02ならそれぐらいしてもおかしくはないか……)

「ならば!!」

 カマエルは剣を天に掲げると、意識を集中、刃に光を纏わせた!

「遠距離から削り取る!!」


ザンッ!ザンッ!ザンッ!!


 剣を振るうと、刃を覆っていた光が、三日月状のエネルギー波となって射出された!しかし……。


ザンッ!ザンッ!ザンッ!!


 エネルギー波は切り裂いた……グリーンを。ネームレスガリュウは涼しい顔をして全ての斬撃を躱し切ったのだ。

「これも通じないのか……!?」

「あぁ、通じない。遠距離攻撃なら、ナナシガリュウやランボのプロトベアーの方がバリエーション豊かで避け難い」

「だとしても、飛んでいるおれにお前も攻撃は……はっ!?」

 エミジオは話している途中で気づいた、気づいてしまった、自分が今まさに言おうとしていることを、ついさっき口にして、無様に負けた者達を見たことを。

(アシットードが負ける直前と同じことをおれは口走っているのか!?あの時はカルヴァートが予想以上の成長を見せた結果だったが、GR02ほどの戦士なら、天使型を相手にするイメトレをし続けていたというのなら!!)

「奴らに勝つために、飛んでいる相手の対策も考えてある……ガリュウファン!!」

 ネームレスガリュウは愛用のブレードを扇に持ち替えると、身体を限界まで捻った。そして……。

「黒竜巻」


ブオォォォォォォォォォォン!!


 凄まじい勢いで扇を振るい、竜巻を発生させた!

 それは飛んでいるカマエルを飲み込み……。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 乱気流で赤の天使を、中身のエミジオの三半規管を上下左右に揺さぶり、飛行能力を奪い、遂にはグリーンへと墜落させた。

「ぐっ!?やはり飛行能力持ちの対抗策を……!」

 朦朧とする頭に鞭を打ち、なんとか立ち上がるカマエル。

 そんな彼の元に黒き竜がゆっくりと歩み寄ってくる。

「武器を置け、エミジオ・スルバラン。もう終わりだ」

「はっ!もう勝った気でいるのかよ……!」

「そもそもこの戦いに勝ち負けなどない。あえて言うなら、ここで矛を収める勇気を持てた者こそが勝者だ」

「そうか……そんな勝利ならおれはいらない!!」

 カマエルは最後の力を振り絞り、黒き竜に斬りかかった……が。

「……月影連舞(つきかげれんぶ)


ガッガッガッガッガッガッガァン!!


「――!!?」

 まさに神速の攻撃!目にも止まらぬ速さでカマエルの急所に拳を叩き込み、抵抗する間も与えずに意識を断ち切った。


ドサッ!


「お前は迷わないと言ったが、俺にはお前が誰よりも迷っているようにしか見えなかったよ。それでは俺は、ネームレスガリュウは倒せない」

 こちらに向かって倒れるカマエルをネームレスガリュウは受け止めると、そのままグリーンの上に優しく寝かせる。

「……話を聞いていただろう?矛を引くんだ、カルヴァート」

 そして背後に忍び寄る銀色の異形を牽制した。

「せっかくあんたがお膳立てしてくれたんだ。ここでやめるつもりはない」

「静観していたのは、俺との戦いでスルバランが消耗するのを願ってか」

「卑怯だと笑いたければ笑え、セコいと軽蔑したいなら、軽蔑すればいい……オレは復讐のためなら手段は選ばん……!」

 少しの間だが休めたおかげで、弱りきっていたカルヴァートに覇気が戻っていた。

 だからといってネームレスガリュウが怯むことはないが。

「スルバランは殺させない。それがきっといずれお前を絶望から救うと信じて……最後の勝負といこうか、サディアス・カルヴァート……!!」

 覚悟を決めた黒き竜は振り返り、再び昨晩のように覚醒カルヴァートと対峙した。


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