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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
やっぱり眠れない
223/324

あの時の言葉

「……ん!んん……!」

「気がつきましたか?」

「ハタケヤマさん……」

 意識が戻ったネームレスはベッドに寝ていて、その横でハタケヤマが本を読んでいた。

「……なんか余裕だな」

「わたくしが焦ったところでどうにもなりませんので」

「それでここはどこだ?」

「近場にあったホテルですよ。あなたを病院に運ぶわけにはいかないので」

「カルヴァートは?あとソニヤは?」

「エヴォリストさんはあなたが投げ飛ばした後に戻ってくることはありませんでした。ソニヤさんは異変を察して、わたくし達があなたの下に行った時に、もしもの時に用意していた薬やら包帯やらを渡してくると、なんか他に寝ていた人達を回収してどこかに」

「そうか……」

「引き止めるべきでしたか?」

「いや、もう奴から聞くことはないだろうからな。サディアス・カルヴァートという名さえ分かれば、シュショットマンが何かしらの情報を掴むだろ」

「いえ……もう掴んでいます」

 ハタケヤマは微笑みながらピースした。

「さすがだな。その優秀な情報屋は?」

「朝ご飯を買いに行ってます。執事であるわたくしが行くと言ったんですが、あなたについていてくれ、自分は医療とかわからないからと。多分そろそろ……」


ガチャ!


「ただいまっす……って、ネムさん目が覚めたんすか!?」

 噂をすると何とやら、コンビニのレジ袋を持った少女が部屋に戻って来た。

「見ての通りだ」

「傷の方は?」

「今は問題あるが、すぐに問題なくなる」

 そう言いながら、布団の中から黒い勾玉をくくりつけた手を引き出し、挙げた。

「ハタケヤマさんとソニヤ・ウイットの言う通りっすね。起きたらすぐにネームレスガリュウになってすぐフルリペアするから大丈夫だって」

「あぁ、それで傷は塞がり、すぐに元気になる。もう少し精神を整えたらすぐに発動するから、心配するな」

「してませんよ。神凪に住むガリュウは最高にしぶといって自信満々に言っていたのを聞いてましたから」

「そうか。では……」

「ご飯っすか?色々買ってきたっすよ。辛いものは避けて」

 そう言いながら、レジ袋をネームレスの寝ている横の棚に置くと、もう一つあるベッドに腰をかけた。

「俺の好みを知っているのか……?さすが物知りだな」

「え?辛いもの苦手なんですか?わたしはただ病み上がりに刺激はあるものはやめた方がいいと思った」

「ただの偶然か……」

「情報屋として、情けないところを見せちゃったっすね」

「別になんとも思わんさ。それよりも俺が聞きたいのは……」

「サディアス・カルヴァートについてっすね。その名前がわかったことで、この事件がどういうものか理解できたっすよ」

 シュショットマンはスマホを取り出すと、横になっているネームレスにもわかるように傾けて、彼の目の前に提示した。

 画面には『二台の飛行機が巨大飛行オリジンズによって墜落!!』という記事が映し出されていた。

「この記事は?」

「三年前の事故の記事です。見出しに書かれているように、気まぐれに現れた巨大飛行オリジンズとすれ違ったことで、二台の飛行機が故障、国際中立保護地域に不時着したんです」

「……このニュース、覚えている。そうか、俺はこの時にトミサブロウ・コミノの名前を聞いたんだな」

「ええ。神凪で散々話題になりましたから」

 シュショットマンがスマホをスワイプすると、新たに『トミサブロウ・コミノ議員、奇跡の生還!!』という記事が表示された。

「これだ。俺はこのニュースを見て、奴の顔と名前を知ったんだ」

「これは助かったすぐ後の記事です。プライベートジェットの墜落から助かったコミノ議員に最初は好意的なものが多かったんですけど……」

 さらにスワイプ。『コミノ議員、国際レスキューを買収疑惑!?自分が助かるためにもう一方の飛行機を犠牲にしたのか!?』という記事を出した。

「ご存知の通り、国際中立保護地域っていうのは、大層な名前が付いてますけど、実際は各国が自分のものにする価値がないと判断した土地、もしくは統治できないほど凶暴なオリジンズが跋扈していて、放置せざるを得なくなった場所っす」

「そこで救助活動を行うのが、国際レスキュー……ソニヤの前職」

「この時、コミノ議員を助けたのがまさにそのソニヤ・ウイットです」

「もしかして殺されたチェスラフ・カポウンも……?」

 シュショットマンは頷いた。

「その二人に加えてもう一人『エミジオ・スルバラン』という人物がいまして、この人も今はコミノのボディーガードをやっていますが、その三人が救助を行いました……けれど、後々この記事のようにお金で買収されて、コミノを優先したんじゃないかって疑惑が出たんですよね」

「実際はどうなんだ?」

「コミノはもちろん、ソニヤ側も否定。確かに自分達がいた位置からはもう一つの方が近かったが、コミノ議員の方が乗員が少なく、かつ危険なオリジンズがいる地域に不時着していたため、そちらを優先した。時間をかけず速やかにコミノ達を回収し、戻ってくる途中でもう一方を助けるのがベストだと思って動いていたんだけど、運悪く本来はあまり危険がないもう一方の飛行機の方にオリジンズが……と供述しています」

「まぁまぁ筋が通っているように聞こえるな。相手はオリジンズだから予想外が起きても仕方ない」

「調査委員会は現場判断として妥当なものだと処分を下しませんでした」

「世間はそれで納得したのか?」

 少女は今度はしんどそうな顔をしながら、首を横に振った。

「それはそれは荒れましたよ。連日連夜国際レスキューとコミノの事務所に罵詈雑言のメールに電話が凄かったらしいっす。まぁ、しばらくしたら飽きて、波が引くように収まったらしいっすけど」

「だが、そいつらと違って怒りを燃やし続けていた男がいた」

「はい。オリジンズに殺されたもう一方の飛行機の乗客名簿に彼の妻子の名前がありました」

「やはり……!」

 ネームレスのやりきれない思いが拳を握る力と、眉間に深いシワとなって現れた。

「なんで今さら……」

「うーん、単純に考えると、国際レスキューの三人が退職して、コミノのボディーガード、しかもかなりの高給で雇われたことを知って、疑念が深まった……とか?」

「もしくは復讐なんて自分には無理だと諦めていたが、突然それを実現できる力が、エヴォリストとして目覚めたから……でしょうかね」

「どちらも考えられるが……いや、今は奴が動いた理由などどうでもいいか……ん!」

「ネムさん!」

 ネームレスは痛みに耐え、上半身を起こした。

「今はまず、こうしている間にも復讐を完遂するために動いているカルヴァートを止める術を考えて……俺も動き出さないと」

「カルヴァートの行方はわからないっすけど、どこに行くかは見当がついています」

「どこだ?」

「『矢村カントリークラブ』、ゴルフ場です。今日この後、コミノは早朝から仲間達とゴルフするつもりなんですけど、そこを狙うかと?」

「コミノにそれを知らせたか?」

「いいえ」

 また情報屋は首を小さく横に振った。

「なぜ知らせない?」

「繋がらないんすよ、コミノの携帯に。それで色々と調べてみたら、今日一緒にゴルフする人達にコミノからキャンセルのメールが送られていて……」

「……ソニヤ、いやエミジオとかいう奴か……!」

「多分……きっとエミジオはコミノと自分を囮にカルヴァートを誘き出し、取るつもりなんだと思います……殺されたカポウンの仇を」

「憎しみの連鎖か……」

「何とまぁ……」

「やるせないっすね……」

 三人の表情が一様に曇った。

 それでもネームレスはすぐにその緑色の瞳に輝きを戻し、ベッドから足を投げ出した

「ネムさん……」

「のんきに寝ている場合じゃない」

「でも……」

「傷なら心配いらないと言っただろ。俺としてはそれよりもシュテンが使えない方が痛い」

「え?あれ、使えないんすか?」

「かなりのダメージを受けたからな。しかも鬼火纏いを使った上で。あれはシュテン自身にも負担が大きい技だから、自己修復にはかなり時間がかかると思う」

 そう言いながら、手についた数珠を見ると、どこかいつもよりくすんでいるように見えた。

「そうですか……なら尚更に……!」

「シュショットマン?」

「すいません……なんか個人的に今回の事件に対するモチベーションが落ちたっていうか……ちょっとカルヴァートに同情しちゃってどうしたらいいかわからなくなっちゃって……」

 シュショットマンは逃げるようにネームレスから目を逸らした。

「君の気持ちはわからないでもない。でもだからこそ行かないと。この復讐をやり遂げても奴の気持ちはきっと晴れない。むしろより深い闇に包まれるだけだ。カルヴァートを助けるためにも……」

 瞬間、ネームレスの脳裏にとある記憶がフラッシュバックした。

 それは紅き竜と初めて会った時の記憶、彼が今は亡き恩師に放ったある言葉のこと……。

「ククク……」

「……ネムさん?」

 突然笑い出したネームレスに、おかしくなってしまったのではないかと不安を覚える。

 恐る恐る覗き込んで見てみたその緑色の瞳には、予想に反してむしろより強い決意の炎が灯っていた。

「大丈夫、俺は正気だ。ただちょっと……ここに来て、ようやくあいつの言葉を本当の意味で理解できたと思って……」

「はい?」

「考えてみれば、政治家を狙うシチュエーションも同じだな。そうか……あいつはあの時、こんな感情を抱いていたんだな……!」

 ネームレスの胸の奥で静かに、だが確かに感情が昂ると、それに呼応するように手首の黒い勾玉の周りの気温が下がっていった。

「ネムさん、本当に大丈夫っすか」

「あぁ……何も問題はない!」

 ネームレスは布団をはね除け、勢いよく立ち上がった!そして……。

「サディアス・カルヴァート、俺が、ネームレスガリュウが!貴様の復讐を止めてやる……!必ず助け出してやるからな!!」

 そう高らかに宣言した!あの時の紅き竜のように。


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