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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nexus
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矛と盾

「ハァーッ!!」


ガキンッ!!ガキンッ!!ガキン!!


 ルシファーが両手の剣で絶え間無く攻め続ける。だが、残念ながらその全てが相手の分厚い装甲に弾かれた。

「無駄、無駄。そんな貧弱な攻撃じゃ、我が『ヤーテン』の強固な防御は破れない!!」

 ヤーテンとやらの装着者は余裕綽々、まるでその自慢の防御力を誇示するように先ほどから避ける素振りも見せずに、ルシファーの攻撃を受け続けていた。

(くそ!こんな珍妙なピースプレイヤーに……!)

 しかし、コマチが真に屈辱を感じていたのは、攻撃が通じないことより、相手の変わった……ぶっちゃけ、ヘンテコ、マヌケ、くそダサイ姿、彼からはそう見える奇妙な形のピースプレイヤーにいいようにされていることだった。

 立方体を重ねたような、子供が積み木で作った人形のような、どんなに絵が下手な人間でも描けそうな、シンプルなデザイン。コマチ的には絶対に“ナシ”なデザインである。

「この……くそダサ立方体が……!」

「ほれぇ!!」

「!!」


ドォン!!!


「あくびが出るような攻撃……そんなもの、ルシファーに掠りもしないよ」

 ヤーテンの背中から伸びたアームがルシファーを襲った。けれど、あっさり避けられてしまう。ルシファーからしたら攻撃ですらないスローモーションのお遊戯だ。

 しかしヤーテンは懲りずに次の手を打つ!

「まだぁまだぁ!!!」


チュン!チュン!


「だから無駄だって」

 今度はアームからレーザーを飛ばす……が、それも難なくルシファーはまるで踊るように軽やかに回避した。

 むしろ闇の中で振り注ぐ光が元々神々しかったルシファーを更に彩り、そのミステリアスで神々しい魅力を際立たせているようだった。

「くっ!?やるな!!我が攻撃をかわすとは……しか~し!お前の攻撃もワタシには通じない!最強の“盾”を目指して設計されたこのヤーテンにはな!!」

 自慢気に語る自称最強の盾らしいヤーテンの装着者。だが、コマチは聴いていない。そんなことよりもやはり、ダサ……独特のデザインが気になる。

(あの背中のアーム……デザイン的にすごい浮いてる……でも、あれのおかげでどっちが前か後ろか、かろうじてわかる……そのためについているのか……いや…肘や膝、腰の……というか主な関節ほとんどない……全部装甲に覆われている……もしかして……)

「オレのこと!忘れてんじゃ!ねぇーよ!!」

「!!?」


ドシュウゥゥー!!!


「――ッ!?なんだ、今の……?」

 凄まじい熱線が油断していたルシファーに向かって放たれた!けれど、発射直後に普段のおっとりした彼からは想像ができないような人間離れした鋭敏な感覚で感知し、類い稀なる反射神経で反応、結果これもまた先ほどと同じようにいとも簡単に躱すことができた。

「一体……何が……?」


ブシュー!


 攻撃が来た方向を見ると真っ白い蒸気を吹き出すピースプレイヤーがいた。

 コマチが担当するもう一人の敵。今の熱線はどうやらそいつの腕から発射されたようだった。

「くっ!?やるな!!オレの攻撃を躱すとは……だがしか~し!一撃でも食らったら、即アウト!一瞬で蒸発、消し炭だ!それが最強の“矛”!『ヤーカツ』の力だ!!」

 ものすごいデジャブを感じるセリフを気持ち良さそうにしゃべる。正直、バカみたいだ。

「フッフッフッ、されどもこの威力を実現するために、ピースプレイヤーの内部は殺人的暑さになってしまう……結果、ヤーカツは人間蒸し器などと揶揄され、失敗作として闇に葬られることに……が!生憎オレは南国育ちで!サウナ好き!暑さにはめちゃくちゃ強い!まさに運命!オレのための!オレだけの!最強のピースプレイヤー!それがこのヤーカツだ!!!」

 訂正、バカみたいじゃなくて、バカだった。

「フッフッフッ、恐ろしくて声も出ないか?」

 違う。コマチが声を出さないのは、呆れているからだ。

(聞いてもいないのに、ペラペラと……もしかして、ぼく、面倒な二人を押し付けられた……?)

 ダブル・フェイスへの疑念が生まれる。彼の言う通りならば、この二人が自分にふさわしい相手ということになる。それは、認められない、認めたくない。

「どうした?戦意喪失か?降参か?」

 勝ち誇ったように『人間蒸し機』が言う。

「恥じることはない。相手が悪かったのさ」

 『立方体』が続く。こちらはすでに勝ったと思っているようだ。

「はぁ……」

 コマチがため息をつく。あまりに間抜けな敵の言動に嫌気がさし、何もかもがめんどくさくなったのだ。

「もういい……終わらせよう……」

「なっ!?」

「なんだと!!!」

 コマチの発言に激昂する自称最強の矛と盾。余裕が吹き飛び、一気に敵意が剥き出しになる!

「おとなしく降参すればいいものを!そんなに死にたいなら、死なせてやるよ!!」

 ヤーカツの両手の手のひらをルシファーに向け、エネルギーをチャージする。温度が上がっているのか、周囲の空気がグニャリと歪んでいく。

「今なら、まだ間に合うぞ!降参しろ!!」

「………」

 ヤーテンからは最後通牒。だけど、コマチは何も答えない。

「そうか……!!ならば!死……」

「どんなにすごい攻撃でも……当たらないなら意味ないよね」

「――!?」

 ヤーカツが熱線を発射しようとした瞬間!ルシファーが視界から忽然と消えた!……と思ったら、すぐ後ろから声が聞こえた。

 ルシファーはヤーカツの腕を掴み、そのままヤーテンの方へ向ける!


ドシュウゥゥー!!!


「ぎゃばーん!?」

 珍妙な立方体ヤーテンの中から珍妙な悲鳴を上がる。熱線を受けたからではない。熱線は本体から外れて、二本のアームを蒸発させた!その衝撃でうつ伏せにすっ転んだからである。

「く!?この!!!」


ゴッ!


「グッ……!?」

 ヤーカツが振り返って、攻撃をしようとしたが、その前に頭部……正確には顎の先に強烈なパンチをもらい、一撃で意識を刈り取られ、膝から崩れ落ちる。


ブシュー!


 倒れると同時に排熱のための白い蒸気が吹き出した。内部はきっとものすごい暑さになっているはずだが、それを装着者は感じてはいないだろう。

「最強の矛って言っても、もうちょっと防御とかバランスとか考えた方がいいんじゃないかな」

 コマチのアドバイスも聞こえていない。もしかしたら大好きなサウナに入っている夢を見ているかもしれない。

「さて……」

 気を取り直して、もう一人の敵…最強の盾の方に向かう。今度は誰の目からでも視認できるようにゆっくりと……なぜならもう勝負は着いているから。これはウイニングランに他ならないのだ。



「く……くォの!?」

 自称最強の盾、ヤーテンはいまだに起き上がれず、地面に突っ伏したまま、じたばた……というよりモゾモゾしていた。

「くっ!?最強の防御力の為に関節まで装甲で覆ったことによって、一度倒れたら自力で起き上がれないというヤーテン最大の弱点が露呈したか!そのためのアームだったのに!ちくしょうめ!!」

 聞いているだけで目眩がしてきた。開発者はなぜこんなものを作ろうとしたのか、作る前にその致命的な弱点とやらに気付かなかったのか、そして何よりそんな欠点のあるマシンを何故好き好んでこの男は使っているのか……一から百までコマチには理解できなかった……したくないけど。

「……一回脱いで、生身になって立ち上がればいいんじゃないかな?」

「はっ!?その手があったか?よーし!」

 立方体の塊が光を放ち、そこから生身の人間が……。

「えい」

「がフッ!?」

 なんの装甲にも覆われていない、なんの防御力もない、ただの人間のみぞおちに、ルシファーの爪先がめり込む。もちろん、一発でノックアウトだ。

 名も知らない装着者は白目を剥き、よだれを垂らして、どこか幸せそうな顔をして夢の世界に旅立った。

「……殺すな……ってナナシから言われているからね」

 言い付け通りに、二人の敵を生かしたまま無力化したルシファー。言うだけなら簡単だが、実際行うとなると、かなりの実力差がないとできない。それを二対一の不利な状況でやってしまう……コマチの実力は本物だった。

「……あっちは大丈夫かな……中、すごく熱くなるって言ってたけど……」

 コマチはヤーカツの方を確認するとまだ白い蒸気を身体中から吹き出していた。きっと内部はさっき本人がなぜか誇らしげに言っていた通りに殺人的暑さになっているはずだが……。

「……まぁ……ナナシも…“できるだけ”…って言ってたし……ほっといていいか。南国育ちで、サウナ好きだから大丈夫でしょう……多分」

 さすがに、そこまで自分を殺そうとした敵のことを考えてられない……というか、コマチは一刻も早くこの間抜けな二人のことを記憶から消し去りたかった。

 コマチは気持ちを切り替えて、ナナシの下へと歩き出す……はずだった。

「あんな奴らのことより、早くナナシの……グフッ!?」


ガンッ!


 ルシファーが突然、膝をつく!バカ二人は完全にのびているし、他の敵の気配もない。攻撃を受けてはいない。

 そう、これはコマチとルシファーの問題だ。

「ぐッ!?そんな!?……ルシファーの最大稼働の負担が……けど、今まではこれくらいなら……」

 コマチは頭をフル回転させて、答えを探す。本当は探す必要なんてない。もうすでにわかっている……が、わかりたくない。

「……弱っているのか……ぼくは……この程度……この程度のことに……耐えられないぐらいに……!」

 見つめていた手のひらをギュッと、痛いくらいに握りしめようとした。だが、できない……力が入らず、小刻みに震えるだけだ。

「……行こう。ナナシの元へ……こんなぼくでも……いや、こんな状態だからこそ一刻でも早く……少しでも戦える内に……!」

 コマチは立ち上がり、土埃を軽く払うと、ゆっくりと、地面の感触を確かめるように歩き出した。

 その後ろ姿は勝者のものとはとても見えなかった。


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