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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
やっぱり眠れない
216/324

伝説再現

「ドシャアァァァァァァッ」

「ひぃぃぃっ!!?」

「怪物がここまで!!?」

 土上村は正に阿鼻叫喚。家のすぐ隣を、得体の知れない怪物が歩き、吠える……その恐怖と絶望は言葉にできない。

「神様仏様、どうか命だけは……!」

「トシャア……!!」

「ひっ!?」

 腰を抜かしたおばあさんの祈りは天に届かなかった。トシャドロウはその恐れおののいた声に反応し、彼女に向けて大口を開けた。

「わしを食うのか!?」

「ドシャアァァァァァァッ!!」


ババババババババババババッ!!


 否!トシャドロウは鋼の硬度を超える泥団子を発射!骨と皮だけの痩せ細ったおばあさんは怪獣にとっては食う価値はないと判断されたようだ。

「じいさん……どうやらまた会えそうだよ……」

 死を目前として、亡き伴侶との思い出がとめどなく溢れ出す。この記憶に酔いしれている間に、痛みなき最期を……。

「まだそっちにはいかせないっす!」

「絶対防御気光発動」


バシュ!バシュ!!


「……え?」

「トシャ!?」

 突如、老婆の前に舞い降りた十字架を背負った竜が光の膜を展開!雨粒と一緒に泥団子を弾き飛ばした。

「りゅ、竜神様?」

「ノー!リンちゃん様です!もう安心っすよ!」

 リンガリュエムは横目でおばあさんの無事を確認しながら、大丈夫だよと親指を立てた。

「リンちゃん、あんたこんなに立派になって……」

「お褒めいただき光栄っすけど、急ぎの用があるんで行かせてもらうっす!」

「あっ!?危ないよ!!」

「承知の上!!」

 おばあさんの制止を振り切り、リンガリュエムはトシャドロウの目の前に……目は見えてないのだが。

 そして手に持ったスマホの上に指を……。

「では、マサミさんの推測が当たっているのか……」

「スイッチオン!!」


♪~♪~♪♪~


「トシャア!!?」

 スマホから土上音頭が流れると、あからさまにトシャドロウは反応した。つまり……。

「ビンゴっす!マサミ姉!!」

「ドシャアァァァァァァッ!!」

 リンガリュエムは土上音頭を最大ボリュームで流しながら、後退。トシャドロウはそれに一目散についていった。

「無我夢中って感じですね」

「不快に感じてるのか、それとも好ましいと思っているのか……どっちなんすかね?」

「さぁ?そういうのはそれこそマサミさんの領分でしょう」

「そうっすね。マサミ姉がゆっくり調査できるように、早くこいつを退治しないと」

「ドシャアァァァァァァッ!!」


ババババババババババババッ!!


 再びの泥団子乱射!今回ももちろん……。

「ベニさん!!」

「絶対防御気光再展開」


バシュ!バシュ!!


 光の膜が無慈悲に弾き飛ばす!

「凄いっすね、これ。でも、ちゃんと発動するかどうかちょっと不安になるっす」

「そう思うなら、周りに被害が出ない時は回避してください。絶対防御気光は完全適合したナナシガリュウの使用を前提にしたもの、今のガリュエムとクレナイクロスの残存エネルギーではあと一回か二回が限界です」

「そういう大事なことはもっと早く言ってくださいよ!!」

「ワタクシはそこまで大事だと判断しませんでした。今のリンさんなら絶対防御気光は必要ないだろうと、完全にトシャドロウの攻撃を見切っているだろうと」

「くっ!?そう褒められると、文句が言い辛い……」

「それも必要ないです。ワタクシ達がすべきは一つ」

「訓練場で待っているナナシガリュウの下にこいつを連れていく!」

「イエス」

「わかっていますとも!さぁ来い、トシャドロウ!!地獄へと案内してやる!!」

「ドシャアァァァァァァッ!!」



「順調順調!」

 リンガリュエムは冷静に役割を遂行していた。

 土上音頭を使い、できるだけ被害の出ないルートを通り、居住区を抜け、約束の訓練場の目前までトシャドロウを誘導することに成功したのだ。

「あともう少し……!」

 しかし、物事が順調に進む時ほど、最後の最後でトラブルが起きるものである。今回もまたそうであった。


♪~♪~プツン!!


「……へ?」

「あ」

「トシャ……」

 突然、本当に突然に森中に響いていた珍妙なメロディーが消える。

「これって……」

 リンは恐る恐る手に持ったスマホを見てみると、画面が真っ黒に染まり、うんともすんとも言わなくなっていた。

「まさかこのタイミングで壊れた!?」

「いえ、多分充電が切れただけだと思います」

「あのズボラ!充電くらいしておけよ!!」

 土上音頭の代わりにマサミ姉に対する辛辣な意見が響き渡る。当然、そして残念ながらそれにはトシャドロウを誘き寄せるような効果はない。

「トシャ……」

「あ!?トシャドロウが!?」

 怪獣はくるりと反転、また居住区の方に歩き出し始めてしまった。

「冷静になったことで、この先にいるナナシガリュウの気配を感知したのでしょう。これ以上進むとまずいことになると」

「ちょっとやられただけで何諦めてるんすか!!人生はチャレンジっすよ!!」

「トシャ……」

 リンの熱弁、しかしこれまた怪獣には響かない。一瞥もせずにトシャドロウは黙々と来た道を戻る。

「くそ~!ここまで来たっていうのに……」

「こうなったら逆にナナシガリュウを呼び寄せますか。ここならなんとか……」

「いや!初志貫徹だ!奴は訓練場で仕留める!!」

「――!!?この声は……」

 響き渡ったその声には聞き覚えがあった、聞き覚えしかなかった!子供の頃から聞き続け、さっきまでいた広場でも聞いた声だ!

「テツじぃ!!」

「おう!待たせたな!!」

 声のした方向を向くと、傷だらけの火狸がいつものように銃を、レールガンを構えていた。

「遅れた分はきっちり仕事する!何よりこのままバカを晒したままじゃ、飯が不味い!!」

 火狸はスコープを覗き、狙いを定める。ターゲットはさっき潰した眼……の少し後方!

「そこだ」


バシュウン!!ズシュッ!!


「――ド!?ドシャアァァァァァッ!?」

 電磁力で加速された弾丸は寸分もずれずにトシャドロウの耳の穴に侵入、鼓膜を潰し、聴力を奪い取った。怪獣は痛みと周りが見えなくなった恐怖でのたうち回る。

「これで今度こそお前は暗闇の中……改めてグッドスナイプ、ワシ!」

「流石っす!テツじぃ!!」

「ですが、事態は完全に好転したわけではありません。むしろ見ようによっては訓練場に連れて行くのがより困難になったようにも」

「心配はご無用。奴がきっちり送り届けてくれるさ。なぁ!カンジ!!」

「おうよ!!」

「カンじぃ!!」

 続いて再登場したのは力自慢のブラッドビースト、カンジ・オオタワラ!彼もまた傷を負っていたが、そんな風には思わせない豪快な走りでトシャドロウに近づくと……。


ガシッ!!


「トシャ!?」

「捕まえた……!!」

 あの時のように尻尾を全身で掴んだ!

「まさかとは思いますが……」

「花山の最新AIは察しがいいな!そうだ!このまま訓練場までぶん投げる!」

「いやいや無理でしょ!さっきも同じ場所にとどまらせるだけで精一杯だったのに!?」

「さっきはさっき……今は今だ!!」


グゥン!ドン!!


「なっ!?」

 カンジ獣人態がありったけの力を込めると、僅かにトシャドロウの身体が浮いた!少し前にはびくともしなかったあの巨体が浮いたのだ!

「何でいきなり……?」

「……なるほど。今のトシャドロウは脱皮して一回り小さくなっています。しかも、大量にあの粘り気のある重そうな血液を体外に流出させた」

「そうか!さっきよりも遥かに軽くなっているんすね!!」

 AIの推測通り、トシャドロウの体重は初めて姿を現した時の半分ほどまで減少していた。だが……。

「ドシャアァァァァァァッ!!」

「ぐおっ!?」

「カンじぃ!?」

 それでもただのブラッドビースト一体がどうにかできる重さ、そして膂力ではない。ドタバタと節操なく動いていればいつか拘束が解けてしまう。

 ただのブラッドビーストのままでは……。

「ちっ!もう少し軽くなってくれていれば、良かったんだが……仕方ねぇ!こうなったら老体に鞭を打つかぁッ!!」

 カンジ、決意の咆哮!すると、それに呼応するように彼の全身は眩い金色へと変化していった!

「スーパーブラッドビースト!カンジ様だ!!」

「え!?スーパー化できるっての嘘じゃなかったんすか!?」

「嘘だと思っていたのか!?」

「思ってました!サーセン!!」

 頭を下げ、全力で謝意を示すリンガリュエムの姿にスーパーカンジは苦笑いを浮かべながらも、心を燃やした。

「はっ!だったらその両目に!脳ミソに!そして魂に刻みつけておけ!これが!」


ググッ!!


「トシャア!?」

「スーパーカンジのフルパワーだ!!」


ブォン!!


「ドシャアァァァァァァッ!!?」

 一本背負い投げの要領でトシャドロウを空中に撃ち出す!

 それを木漏れ日のような黄色い二つの眼で見上げる竜が一匹……。

「空に打ち上げられたんなら、わざわざここに呼び寄せなくても良かったな」

 苦笑いを浮かべながら紅き竜は自身の最も愛する得物を両手で包み、銃口を雨空をバックに宙を舞う伝説に向けると、彼の祈りが、想いがその骸の鎧によってエネルギーに変換され、銃に集中する。

「太陽の弾丸」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「――ト?」

 放たれた光の奔流はトシャドロウの巨体を跡形もなく消し飛ばすと、そのまま天に昇り、分厚い雨雲をも貫いた。

「今回もなるようになったな」

 全身を伝う雨粒が雲に空いた穴から差す太陽の光を反射させ、キラキラと輝くナナシガリュウはいつにも増して神々しかった。その姿はまさに……。

「ナナシさん!!」

「リン、みんな」

「ご先祖様の伝説の再現っすね!!」

 駆けつけたリンガリュエム、テツジ火狸、スーパーカンジは彼を褒め称えるように親指を立てた。

「……おう」

 ナナシガリュウもそれにサムズアップで返したのだった。



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