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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
やっぱり眠れない
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受け継がれた音色

「トシャ……」

 トシャドロウは紅き竜が現れても何もしなかった。野生の本能がこいつには迂闊に手を出すなと訴え、それに従っているのだろう。

「意外と慎重だな、レジェンドモンスター」

「かなりワタクシ達を警戒していますね」

「なら……遠慮なくこっちから仕掛けさせてもらうか!」

 ナナシガリュウは泥を跳ね上げ、雨粒を弾きながらトシャドロウへと走り出した!

「あ!ヤバ!?」

 その遠ざかる赤い背中を見て、リンは自分がやるべきことをやってないことに気づく。

「ナナシさん、ちょっと待って!そいつは!」

「スペシャルマニューバ、クレナイ旋風斬」

「斬ッ!!」


ザシュウッ!!


「――ドシャアァァ!!?」

 独楽のように回転しながらすれ違い様に五本の刀で斬る!トシャドロウの巨体に深々と傷が刻まれた……刻まれてしまった。

 傷口から大量に泥のような粘性を持った血液が流れ出す。もちろんそれは先ほどのように……。

「トシャ……」

「は?」

「トシャトシャ」

「なんですか、これは……!?」

「トシャトシャトシャ!!」

 集まると、人型の怪物になり、動き出す!

「これはあの巻物にあった……!」

「自らの血液で分体を作れるのですかこの怪物は……!?」

「それ!さっきやったっす!」

 リンは愚かにも行われた再放送に全力でツッコミを入れた。

「こうなることがわかっていたのですか……」

「だったら先に教えてくれよ……」

「サーセン!でも、取りつく島もなく飛び出していくから……」

「今回の教訓は人の話を聞いてから行動しようだな」

「ええ、ワタクシもナナシ様のことを責める資格はありませんでしたね。せっかちなAIです」

「「トシャトシャ!!」」

「ナナシさん!ベニさん!反省は後で!来てるっす!!」

「わかっている。こいつは攻撃しても?」

「OKっす!」

「なら!!」

「アーム1、アーム2、ショットガン・オン。アーム3、4、マシンガン・オン」

 クレナイクロスは腕に握っていた刀を銃火器に変更。

「ガリュウマグナム」

 本体のナナシガリュウもまた二丁拳銃を装備。

 計六丁の銃はこちらに向かってくる泥人形に照準を合わせた。

「スペシャルマニューバ、クレナイフルクロスシュート」

「ファイア」


ババババババババババババババババッ!!


「――トシャ!?」

 六門の砲口が火を噴き、無数の弾丸が発射されるとあっという間に怪獣の分体は細切れにされ、短い生涯を終えた。

「凄い……これがナナシガリュウの本気……アタシもまだまだっすね……!」

 リンはその圧倒的な力に見とれ、そして奮起した。少し前の彼女であったら、自信を喪失していたところだが、今の彼女にとってはむしろ前に進むための最高のエネルギーだ。

「いや、全然だ……今、俺は怪我をしてるからな」

「え!?まさか調査中に!?」

「昨日の夜、深爪した」

「ほとんど支障ないでしょ、それ!!」

「通常の三割の力しか出せない」

「深爪のデバフ凄っ!?」

「ふざけてないで、他に説明することはないのですか……?」

 その電子音声からは明らかに怒りがにじみ出ていた。

「あっ!すいません、ついというかアタシのせいじゃない気がしますが……えーと、そいつ脱皮して今までのダメージをなかったことにするっす」

「脱皮?」

 ナナシとベニは改めてトシャドロウを観察した。言われて見れば、怪獣の周りには奇妙な殻のようなものが……。

「あの周辺にあるのが、古い身体だと?」

「はい!アタシがボコったら、着ぐるみみたいに背中の亀裂から一回り小さいトシャドロウが!」

「だとしたら難儀だな」

「はい。傷をつけると分身を生成、生半可なダメージは脱皮で仕切り直し……つまり奴を倒すには、それらができなくなるまで延々攻撃を続けるか」

「一撃で跡形もなく消し去るかだが」

「ナナシガリュウはそれができます」

「サンバレだな」

 そう言いながら、紅き竜は手に持った拳銃に力を伝達した。

「俺のご先祖様もきっと同じような方法で奴を倒したんだろうな」

「ええ、広範囲破壊攻撃はタイランのお家芸ですからね」

「で、この辺りに人は?」

「リンさんとマサミさんだけのようです。うまいこと当てれば、居住区にも影響はほとんど出ないかと」

「なら、注意しながら撃ちますか……」

 ナナシガリュウは必殺の一撃をどう撃つか考えながら、銃をゆっくりと構え……。

「ドシャアァァァァァァッ!!」

「え?」

 その時、トシャドロウはくるりと竜に背を向け、全速力でその場から逃げ出した。

「あいつ!」

「危険を察知したみたいですね。この方向だと居住区に」

「ちっ!サンバレは撃てないか……!」

 ナナシガリュウは銃に感情を変換したエネルギーを充填するのを中断した。

「どうしましょうか……居住区ではサンバレどころか銃火器も易々とは使えません」

「どうにか人のいないところに誘き出したいが……」

「そんな都合のいい方法……」

「ある!!」

「「!!?」」

「マサミ姉!?」

 紅き竜の下にワカミヤの二人が集まる。一番最初にトシャドロウの話をした時の三人と一AIがまた一同に会した。

「今の話、本当か?」

「あぁ!こんな状況で冗談を言うほど悪趣味でもないし、メンタル強くないよ」

「では、その方法とは?」

「土上音頭だ」

「土上音頭?あれでトシャドロウを誘き出すなんて……」

 言いながら、リンの頭にはこれまでのトシャドロウの不可思議な行動が甦った。

「……そう言えば、あいつが地面から出てきた時は土上音頭が流れるスピーカーの下からだったし、誤作動を起こして音頭を流したラジカセに異常な反応を見せていた」

「そうだ!そうなんだよ!きっとあれはそれこそトシャドロウを誘導するための音楽だったんだ!それが八百年の間に本来の使い方が失伝して、ただの祭りを盛り上げる出し物になってしまったんだ!」

「なるほど。筋は通っているな」

「でも、その土上音頭を流す方法が……」

「それもある!」

 マサミはポケットからスマホを取り出すと、手早く操作して、ナナシガリュウに手渡した。

 画面には“土上音頭”という文字とスピーカーのマークが描かれていた。

「録音してあるのか?」

「あぁ!」

「あんな変な音楽を!?」

「こう見えてわたしは郷土愛が強いんだ。自分の研究しか興味のない薄情な女だと思っていたか?」

「思ってたっす!サーセン!!」

「俺も思っていた」

「ワタクシも思っていました」

「うぐっ!?マジでそんな風に……」

 マサミは結構マジでショックを受けて、しんどかった。

「まぁ、マサミさんのことは置いといて」

「あぁ、これを使えばトシャドロウを人のいない場所に……」

「訓練場だな。あそこなら遠慮なくサンバレを撃てる」

「はいっす!おもいっきりやってください!」

「そのためにお前がもう一働きするんだよ」

「え?」

 紅き竜は青緑の竜にスマホを差し出した。

「アタシが誘導するんすか?」

「土地勘はお前の方があるからな」

「ナナシ様よりスムーズに、被害を抑えることができると思います」

「そう言われると、アタシがやった方がいいのか?」

「いいんだよ」

「安心してください。ワタクシがサポートにつきます。クレナイクロスパージ」

 ナナシガリュウの背中からX状のパーツが分離、そのままもう一匹の竜の後ろに回り込むと……。

「再ドッキング、ガリュエム・クレナイクロス」

 リンガリュエムと合体した!

「え?こんなことできるんすか?」

「できるんです。というわけでワタクシとリンさんが訓練場まで、あの怪物を連れていくんで」

「おう。いつでも倒せるように準備して、待ってる」

 ナナシガリュウは敬礼をすると、ピョンピョンと軽快に飛び跳ね、あっという間に消えてしまった。

「では行きましょうか、リンさん」

「なんかまた大役を任されてしまった……」

「実力があるってことですよ」

「そうっすね……ポジティブに、自分を信じてみましょうか!」

「その意気です」

「というわけで、マサミ姉!」

「わたしのことは気にするな。今度こそお前に迷惑かけないところに退避するよ」

「なら、もう何も心配ない!ラストミッションに取りかかります!」

「はい、あなたの気持ちのままに」

「リンガリュエム・クレナイクロス!行きます!!」

 赤い十字架を背負った青緑の竜は雨の中、故郷を襲う災厄を追跡するために疾走した!


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