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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
やっぱり眠れない
212/324

前兆

 ナナシはスマホとメガネをポケットにしまい立ち上がると、腕を、正確には手首にくくりつけてある赤い勾玉を掲げた。

「かみ砕け、ナナシガリュウ」

 光と共に勾玉は真紅の機械鎧へと変形、ナナシの全身を覆った。

「クレナイクロス起動」

 続いてベニも小竜からカードに変形しながら、車に積んであったアタッシュケースを呼び出した。X状に姿を変えたそれと一つになると、ナナシガリュウの背部に合体する。

「ドッキング成功、リンク完了、システムオールグリーン」

「準備完了。やるかい?けだものさんよ」

「ギョ……!」

「ギョギョ……!!」

 紅き竜が木漏れ日を思わせる黄色い二つの眼で睨み付け、威嚇すると二匹のオリジンズは仲良くたじろいだ。

「力の差を理解できるくらいの知性はあるようですね」

「こういうのは野生の獣の方が敏感だ。このまま逃げてくれるならいいが」

「いえ、ワタクシのデータベースで調べたところ、あれは中級の『アユリーム』。本来なら、この辺りに生息していないオリジンズです」

「強い……というより危険なのか?」

「高圧水流と刃のような鰭を持った難敵です」

「駆除しとかないとダメか」

「ええ。そうすべきかと」

「じゃあとっとと終わらせよう」

 ナナシガリュウはゆっくりとまるで握手やハグを求めに行くように、アユリームに近づいていった。

「「ギョォォ!!」」


ビシュウッ!!ビシュウッ!!


 それに対し、二匹の獣は口から高圧水流を噴射して応える!

「絶対防御気光展開」


バシュウン!!


「!!?」

 けれどもそれは紅き竜の背部のX状の器官が発生させた力場によっていとも簡単に防がれてしまう。

「生憎、水で攻撃するもっと凄い奴を知っている」

「彼の攻撃に比べたら、そんなもの屁でもないです」

「ギョ!」

「ギョギョォォ!!」

 言葉が通じた訳ではないだろうが、自分達をバカにしているのは十分伝わったようで、頭に血を昇らせた二匹のアユリームは挟み込むように紅き竜に飛びかかり、腕から生えた鰭の刃を振り下ろした!しかし……。


ヒュン!ヒュン!!


「!!?」

 ナナシガリュウには当たらず。これまた容易く回避されてしまった。

「ギョォォ!!」

「ギョギョォォ!!」


ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!!


 自棄になっても結果は変わらず。むしろ最初よりも簡単に躱され続けた。

「……こいつらのどこが難敵なんだ?」

「あくまで一般人目線の話です。プロのハンターやそれに類する者にとってはカモでしかないです」

「カモ?弱い割に狩る旨味があるのか?」

「文字通り、油が乗ってて美味しいらしいですよ、アユリーム」

「ほう……じゃあ、あまり傷つけないようにしないとな」

「ギョォォ!!」


ヒュン!!


 ナナシガリュウはまた攻撃を回避。いや、今回は回避だけに飽き足らず……。

「ガリュウナイフ」


ザンッ!!


「……ギョっ?」

 ナイフを召喚し、一閃!アユリームの首を切り落とした!

「ギョォォ!!」

 同胞を目の前でやられもう一匹の怒りは最高潮!背後から襲いかかる……が。


ビシュウッ!!


「大人しくやられなさい」

「――ギョ!?」

 竜が振り返り様に額のサードアイと呼ばれる器官から発射した一筋の光に額を貫かれ、復讐を遂げずに同胞と同じところに旅立った。

「村のみんなにいい土産ができたな」

「はい。運びやすいようにもっと細かくして、車に詰め込みましょう」

「でも、その前に……」

「タニィ……!!」

 いつの間にか別のオリジンズ、殻のようなもので全身を覆った怪物が出現していた、しかも三体も。

「こいつらは?」

「中級オリジンズ『タニシム』。アユリームと同じくこの辺りでは本来は見かけない種です」

「中級ってことは、今のと同レベルか。なら、さっさと終わらせよう」

「ナナシ様!まだ説明の途中……」

「ガリュウマシンガン!」


ババババババババババババッ!!


 電子音声をけたたましい銃声が遮る!話を最後まで聞かずにせっかちなナナシガリュウは機関銃を呼び出し、乱射したのだ!


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


「タニィ?」

「……あれ?」

 しかし、豪雨のように降り注いだ弾丸は全てタニシムの殻に弾かれ、地面や川、虚空に飲み込まれていった。

「言わんこっちゃない。説明を最後まで聞かないから。あの強固な殻は生半可な攻撃は効きませんよ」

「すいません」

「謙虚でよろしいですが、反省は彼らを倒してからにしましょう。来ますよ」

「「「タニィィィィッ!!」」」

 三匹のタニシムの同時突撃!アユリームと同様、獲物を囲い込むように三方向から強襲する。けれど……。

「タニィ!!」

「気合はいいが……」

「タニィ!!」


ブゥン!


「さっきの奴より遅い攻撃なんて……」

「タニ!!」


ブゥン!!


「怖くねぇよ」


ブゥン!ブゥン!!


「タニィ!!?」

 ナナシガリュウにはやっぱり当たらず。まるで優雅にダンスを踊るようにスルスルと三匹の怪物の豪腕を躱す。

「……いつまでそうしているつもりですか?硬いと言っても、あなたならいくらでも攻略法が思いつくでしょ?」

「当然。三つ思いついて、どれにするか迷っているところだ」

「だったら、ちょうど三匹いるんでそれぞれにその三つの方法とやらをぶつけてみては?」

「採用。ガリュウトマホーク」

「タニィ!!?」

 決断するや否やナナシガリュウは手斧を召喚し、一体のタニシムに狙いをつけた。

「攻略法その一」

「殻のないところを狙う」


ザンザンザンッ!!


「――タニッ!?」

 紅き竜は動き回っているタニシムの関節部分に的確に斧を繰り出した!結果、獣の身体は一瞬でバラバラに解体されることになった。

「攻略法その二」

「電撃で内部から焼き尽くす」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「――ッ!?」

 間髪入れず勾玉を彷彿とさせる二本の角から雷を放射!二匹目のタニシムを痺れさせ、内臓を焦がし、あっという間に駆除。ミスターローリングサンダーの面目躍如だ。

「攻略法その三」

「殻を砕けるだけの力で……蹴る!!」


ドゴォ!バキッ!!


「!!?」


ドボオォォォォン!!


 最後の一匹はシンプルに完全適合して、おもいっきり蹴飛ばした。パラパラと殻の破片を撒き散らしながら吹っ飛び、大きな水柱を立てて川底に沈んでいった。

「これでおしまいかな」

 戦いが一段落したと思っているナナシガリュウは特に何も意識せずにフラッと振り返る。

「ゲロォ!!」

「「!!?」」

 すると、目の前にまた新たな獣の顔が!!

「ゲロゲロォ!!」


ビシャビシャ!!


「うおっ!!?」

 そいつは口から液体を吐き出し、紅き竜の顔面にぶち撒けると、ピョンピョンと後退し、距離を取った。

「野郎、ナナシガリュウのハンサムフェイスにゲロをかけやがった!?」

「あれは中級オリジンズ『ドクエカル』。この辺りでは以下略。今かけられたのは身体を麻痺させる神経毒です」

「何!?じゃあヤバいじゃないか!?特級のナナシガリュウには効き目がある!」

「ゲロォ!!」

 慌てふためくナナシを嘲笑うようにドクエカルは舌を伸ばした。

「毒で痺れた相手を、あの筋肉の塊のような舌で撲殺もしくは絞殺するのがこの獣の必殺戦法ですね」

「言ってる場合か!」

「場合です。普通に動けるでしょ」

「え?」


バゴォン!!


「ゲロォ!!?」

 舌は粉々に砕いた……大きめな石を。

 本来のターゲットであるナナシガリュウは毒などものともせずに回避運動を取り、事なきを得ていた。

「なんで……?」

「いや、暇を見ては花山でやっているでしょ、ナナシガリュウの抗体作り」

 瞬間、ナナシの脳裏に甦るめんどくさかったある日の思い出……。


「毒を撃ち込むんで、食らったら即フルリペアを発動してください。それでその毒に対しての耐性がつくはずです」

「あいよ」


「……あれ、無駄じゃなかったのか」

「人生に無駄なことなんてないですよ」

「ゲロォ!!」

 自分を無視して、人生なんて語ってるんじゃないと言わんばかりにドクエカルは再び舌を伸ばした……が。


ザンッ!!


「ゲロォ!?」

 万全の状態、元気モリモリのナナシガリュウによってあっさり切り落とされてしまう。

「ゲロォ……!!」

 最大の武器を失った獣は体表を変化、周囲の風景に溶け込もうとする。

「擬態能力か」

「あれでワタクシ達の背後まで忍び寄ったのですね。ですが、あのゆっくりとしたスピード……」

「奇襲用だな。つまり……」

「無駄な足掻きって奴ですね」

「イエス」


ブゥン!ザクッ!!


「――ゲ!?」

 身体の半分ほど透明になった獣の頭に向かって、手斧を投擲!見事に頭蓋骨をかち割り、ドクエカルも撃破した。

「気づいているか、ベニ?」

「はい。今、戦ったオリジンズは全てマサミさんに見せてもらった巻物に描かれていたものですね」

 ナナシの頭に鮮明に甦る記憶。

 鱗を持った怪物、鎧のように殻を纏った怪物、舌を伸ばす怪物、そして……翼を持って大口を開けた怪物。

「あの巻物の通りなら……」

 紅き竜は分厚い雲のかかった空を見上げた。するとそこには……。

「キイィィィィィィィッ!!」

 翼を持ったオリジンズが四匹ほど飛んでいた。

「やっぱりな……」

「相変わらず当たって欲しくない予想ほど当たりますね」

「言ってくれるな。それよりもあいつらは?」

「中級オリジンズ『コリモット』。この辺りでは……」

「見かけないんだろ」

「はい」

「ヨハンが変身した姿に似ているな」

「あれの血をベースにした薬剤を注入されたのかもしれませんね」

「特徴は?」

「口から発する超音波で攻撃してきます」

「キイィィィィィィィッ!!」

 その通りだと言うようにコリモットは口を大きく広げ、超音波を発した。

「当たってやるかよ」


バキィン!!


 だけどそれをナナシガリュウは難なく回避。超音波の戦果はドクエカルの舌と同じく大きめの石を粉砕しただけで終わった。

「キイィィィィィィィッ!」

「キイキイィィィィィィィッ!!」

 それにもめげずにコリモット達は叫び続けた……やっぱり当たらなかったが。

「空を飛んでいる相手は本来厄介だが」

「ナナシガリュウは別ですよね」

「あぁ……全力でやれる……!!」

 紅き竜は回避運動を続けながら、四匹がまとめて視界に収まるように移動する。

「この位置なら」

「まとめてやれる。ガリュウマグナム」

 そして彼が最も信頼する武器を召喚、優しく両手でグリップを包み、感情をエネルギーに変換して銃口に集中、それをコリモットの集団に向ける。

「太陽の弾丸」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「!!?」

 トリガーを引くと、光の奔流が放たれる!それに巻き込まれたコリモット達は骨の一欠片も残さずこの世から消滅した。

「ふぅ……これで今度こそ終わりだよな?」

「多分」

「多分か」

「ワタクシのデータベースにもない事象なので。今はワタクシよりもあの古びた巻物を頼った方がよろしいかと」

「あの巻物の通りのことが起きてるからな」

「つまりトシャドロウの復活も近い……」

「……村に戻ろう」

 ナナシガリュウは踵を返し、車に戻ろうとした。


ガサッ……


「……やってらんねぇな」

「激しく同意します」

 そう簡単に事は運ばない。ナナシガリュウは……。

「ギョォォォォォォォォォォッ!!」

「タニィィィィィィィィィィッ!!」

「ゲロォォォォォォォォォッッ!!」

「キイィィィィィィィィィィッ!!」

 今しがた倒したオリジンズの同族達に取り囲まれていた。


ポツリポツリ……


 そんな彼に追い討ちをかけるように、天から滴が落ちて来て、真紅の装甲を濡らす。

「雨まで降ってくるとは……」

「最悪過ぎる……!!」



「ちっ!降って来やがった」

 テツジは頬を伝う雨粒を拭いながら吐き捨てるように、言い放った。

「いやぁ~、我ながら最悪のタイミングで来ちゃったね」

「マサミ姉」

 三人の下に雨と共に、マサミが苦笑いを浮かべながらやって来た。

「珍しいな、いつも祭りの準備は全力でサボるのに」

「肉体労働はできる限り避けると決めているんだ。だけど、今年は……」

「罪悪感を感じているのか?」

 マサミはまた苦笑いしながら、首を縦に振った。

「ナナシさんを始め、みんなわたしの推測を信じて頑張ってくれているんだ。ならわたしにもできることがあるなら……何か力になりたくてね」

「殊勝な心がけだな。だが、雨が降って来たからしばらく休憩、もしくは今日は終わりだな」

「だろうね。だから最悪のタイミングって言った……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……


「「「!!?」」」

 突如、地面が揺れた。大地が激しく振動したのだ。

「地震っすか!?」

 リンがそう思うのは当然だ。地面が揺れたら地震を疑う……それが常識。テツジもカンジだってそうだ。

「いや……違う!!」

 この事態を正確に把握しているのはマサミ・ワカミヤだけだった。ずっと古文書とにらめっこしていた彼女だけが、これが“奴”の現れる前兆だと世界でただ一人理解していた。

「この揺れは!来るぞ!トシャドロウだ!!」


バキバキィン!!


「ドシャアァァァァァァッ!!」

 土上音頭を無限ループしていたスピーカーの下の地面を突き破り、茶色い泥のような色をした六足の巨大な怪獣が姿を現した!


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