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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
双竜は眠れない
204/324

静かなる竜、怒れる鬼

 紫の猛牛はゆっくりと鎖つきの斧を回し始めた。ブンブンとタイミングを計るように……。

 それを見たネームレスは……。

(珍しい武器だな。あれがネクロのかつての愛機……シュテンとは全然違う。きっと部下を失ったことで、より破壊力を求め、スタイル自体を大きく変更したのだな……)

 ネームレスはネクロの悲しき想いの変化に思いを馳せ、切なさに心を震わせていた。

「てめえ……なんか他のこと考えているだろ!!」

 その態度に気を悪くしたシエンタウロスは斧を投擲してきた!両刃のそれは大気を切り裂き、真っ直ぐと黒き竜の首に向かう!


ザンッ!ガガガァン!!


「――ッ!?」

 刹那、まさに刹那の出来事だった。ネームレスガリュウは回避と同時にブレードで鎖を切断、そのまま超スピードで猛牛の懐に入ると、パンチを三発叩き込んだ!そしてまた凄まじい速さで元の位置へ……。まさに神速としか形容できない攻撃であった。

「アウトボクサー気取りのヒットアンドアウェイ……舐めているのか……!!」

「逆だ。中身はともかくマシンはネクロが使っていたものと同一だとすると、油断できないからな、これが最も慎重で最善の策だと判断した」

「最善?ブレードを出したまま攻撃してれば、今ので終わりだったろうが……!!」

「それだと俺の気が晴れない。俺はお前にもう二度とこんなふざけた真似できないくらいの恐怖と絶望を刻み込みたいんだ」

「てめえ……!!」

「刑務所に入り、そして罪を全て償い出て来た時に、同じ過ちを繰り返さないように……俺が徹底的にしつけてやる」

 ネームレスはアルマンサの命を奪うのではなく、心を粉々に砕きたかった。二度と暴力を振るうことに喜びを覚えないように……一番残忍な方法で彼を更正させようとしていたのだ。

 もちろんその上から目線かつ乱暴な肉体的お説教にアルマンサが反発を覚えないわけがない。

「そんなお気遣い、ノーサンキューだ!!」

「お前の意志はどうでもいい。俺がそうすると決めたから実行するまでだ」

「ちっ!決意は固いってわけね。こうなったら、仕方ない……オカベに倣って、おれも切り札を出すか……!!」

 そう言うとシエンタウロスはどこからともなくスイッチのようなものを取り出した。

「なんだ、それは?」

「すぐにわかるさ」


バリバリバリバリ……


「ん?この音?」

 スイッチを押すと、遠くから電流が流れるような音が聞こえた。というより、実際に電流が流れている音だ!巨大な獣に!

「グルアァァァァァッ!!」

「!!?」

 悲痛な声を上げながら、舞台袖から現れたのは首輪をかけられた一本角の灰色の獣であった。

「一本角アベルウス……その角がいい薬になるってんで、グノスで保護されている上級オリジンズだ」

「こいつもオークションに出品するつもりだったのか?」

「あぁ、下手したら今回一番のレア物かもな。だからできる限り傷つけたくないんだが……ほら、値段が下がるだろ?」

「貴様……!!」

 命までもを金稼ぎの道具としか考えていないアルマンサ、そしてこのオークションに関わった全ての者達に軽蔑の念を覚える。どこまでクズなのだと。

「シエンタウロスならいけるかもと思ったが、無理そうなんでな……持てる手札を全て切らせてもらうぜ」

「どんな手段を取ろうと、俺がお前のようなゴミ虫に遅れを取ることはない」

「言ってくれるね!!その言葉が事実かどうか確かめてみようじゃないか!一本角アベルウス!!」

「グルアァァァァァッ!!」


ボンッ!ボンッ!ボンッ!!


「!!?」

 黒き竜の視界が僅かに歪む。それは獣が自慢の角から空気弾を発射し、それが大気を湾曲させながらこちらに向かって来ているんだと、ネームレスは本能で理解した。

「そんなこともできるのか!?」

 黒竜は得体の知れない攻撃に、大事を取っていつもより大きな動きで回避。その先に……。

「オラァ!!」

 シエンタウロスが回り込んでいた!斧を振りかぶり、突進してくる……が。

「そんな浅知恵で、このネームレスガリュウをどうにかできると思うな!!」


ビシュウ!!


「――ッ!?危ねぇ!!」

 黒き竜が額から光線を出して反撃してきたので、あっさりと攻撃は中断させられてしまった。

「ちっ!くそが!元はと言えば、てめえがちゃんとやらねぇから!!」


ポチッ!バリバリバリバリバリバリ!!


「グルアァァァァァッ!!?」

 攻撃に失敗し、苛立つシエンタウロスがスイッチを再び押すと、そこから発信された信号を受け取り、一本角アベルウスの首輪から電流が迸った。完全なる八つ当たりである。

「お前という奴はどこまで……」

「だからてめえだけには言われたくねぇんだよ、先輩!!目的を遂行するためには手段は選らばない!犠牲も厭わない!それが本来のあんた!!ネクロ事変に加担したGR02だろうが!!」

「耳が痛いな……だが!だからこそ俺はお前のような奴の横暴を見逃すわけにはいかんのだ!!」


スッ……


「「!!?」」

 黒き竜の姿が一瞬で景色に溶け込み、見えなくなった。

「ついに十八番を出しやがったか!!だが!これすりゃ簡単に手を出せねぇだろ!!」


ブンブンブンブンブンブンブンブン!!


 シエンタウロスは鎖つき斧を振り回し、斬撃のバリアを作り出した!確かにこれではアルマンサの言う通り、簡単に攻略できないように思えるが……。

(お前の相手は後回しだ。まずはこの憐れな獣を救う……!)

 ネームレスガリュウが向かったのは、一本角アベルウスの方だった。背後から息を潜め、忍び寄り、諸悪の根源である首輪に手を伸ば……。


ユラァ……


「――!!?グルアァァァァァッ!!!」

「何!?」

 首輪に手をかけようとしたその瞬間、一本角アベルウスが見えないはずの竜の方を振り返り、勢いそのままに鋭い爪で薙ぎ払った!


ガァン!!


「――ぐうぅ!!?」

 だが、かろうじてネームレスガリュウはガード……し切れずに、吹き飛ばされ、ステルス状態を解きながら、床を転がった。

「残念だったな!おれが簡単には手を出せないって言ったのは、そいつも含めてだ!一本角アベルウスはその角で空気の流れを敏感に察知できるから、透明になっても意味ねぇんだよ!!」

「ちっ!!」

「今だ!アベルウス!そいつを叩き潰せ!!」

「グルアァァァァァッ!!」

 膝立ち状態の黒竜に今度こそと灰色の獣は豪腕を振り下ろした!

「生憎、俺は不意打ちと力押しだけの男じゃない」


ガシッ!!バゴォン!!


「――グルアァッ!?」

「一本背負いだと!!?」

 黒き竜は獣の攻撃の勢いを利用して、その巨体を投げ飛ばした!背中を強打し、意識が一瞬飛ぶ一本角アベルウス!その隙に今度こそ……。


ガシッ!!


「取った!!」

 ネームレスガリュウは首輪を掴むことに成功した!しかし……。

「それならこうするまでよ!!」


ポチッ!バリバリバリバリバリバリ!!


「――グルッ!?」

 再び首輪から電流が放出され、一本角アベルウスだけでなく掴んでいるネームレスガリュウまでまとめて感電させた!

「このまま二匹まとめて痺れちまい……」


バキィン!!


「――な!?」

 黒き竜は電撃などものともせず、力任せに首輪を引き千切った。

「俺はやったことがないが、ガリュウは角から雷を出せるんだ。そんなマシンがこの程度の電気で怯むと思うか?」

「ぐうぅ……!!」

「まぁ、少しピリピリとして……不愉快は不愉快だったが!!」

「――!!?」

 また目にも止まらぬスピードで黒竜はシエンタウロスの眼前まで接近した!

「こ、このくそがぁぁぁぁっ!!」

 全ての手をあっさりと打ち砕かれて、恐慌状態に陥った猛牛は反射的に斧を竜の頭に撃ち下ろす……が。


グシャアァァァァァン!!


「……え?」

「ネームレスシュテン」

「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?おれの腕がぁぁぁぁっ!?」

 黒き竜が紫の鬼に、その鬼がカウンターパンチで斧ごとシエンタウロスの腕を粉砕した。

「これがネクロの本当の力だ」

「ひっ!!?」

 鬼は腕と共にアルマンサの心も砕いた。さっきまでの威勢はどこへやら、マスクの下の彼の顔は恐怖と絶望で醜く歪んでいた。

「こ、降参する!おれはもう……」

「暴力が好きなんじゃないのか?」

「自分が振るうのはな!他人に殴られるのは好きなわけじゃない!!」

「初めて気が合ったな。俺も他人を一方的に蹂躙するのが好きだ……お前のようなクズをな……!!」

「ま、待て!!?」

「待たない」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 鬼ラッシュ発動!鈍器のような拳が雨霰のようにシエンタウロスに振り注ぐ!あっという間にボコボコのベコベコ、とてもじゃないが、オークションに出せる見た目ではなくなってしまった!

「鬼天棒!!」

 さらに鬼は身の丈もある金棒を召喚!

「はあっ!!」


ボオォォォォォォォォォォッ!!


 その金棒に口から出した炎を吹きかける!結果、金棒は燃え盛る真紅の炎を灯した凶悪過ぎる武器へと変化する!

「炎月破砕撃!!」

 その灼熱の棒をシエンタウロスに……。


ピタッ!!


 叩き込まなかった。そんなことするまでもなく、すでにアルマンサの意識は断たれていて、金棒の風圧を受けただけで、受け身も取らずに無様に仰向けに倒れた。

「これに懲りたら、もう二度と悪事に手を染めるな。真面目が一番……それこそ俺に言われたくないだろうが」

 自虐を言いながら、金棒を振り、炎を消す。そして肩に担ぐと、敗者に背を向けた。

「……ん?」

 ネームレスシュテンが反転するとそこには一本角アベルウスが頭を垂れていた。

「あの下劣な首輪の支配から解放したことへの礼のつもりか?」

「グルアァァ」

 獣は角の生えた頭をブンブンと横に振った。そうではないと、自分は……。

「もしかして俺についてきたいのか?」

「グルアァッ!!」

 そうだ!と、今度は首を縦に振った。獣はネームレスに感謝と同時に敬意と忠誠の念を抱いたのだ。

「なるほど……そっちがその気なら、こちらとしては拒絶するつもりはない。お前の力は今しがた嫌というほど味わわせてもらったからな」

「グルアァァァッ!!」

「では……契約と行こうか」

 ネームレスシュテンは銀色の小瓶を取り出すと、蓋を開け、一本角アベルウスに向けた。そして……。

「強く気高き獣よ、我が友となるために汝に新たな名を与えよう。汝の名は……『グレイ丸』!!」

「グルアァァァァァッ!!」

 一本角アベルウス改めグレイ丸は光の粒子に分解されると、銀色の小瓶の中に入っていった。全てが収まるとネームレスは蓋を閉め、マスクの下で穏やかな笑みを浮かべる。

「これから宜しくな、グレイ丸」

 ネームレスはピンク丸に続く頼れる僕を手に入れた。


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