戦士 三人
「……うまい……!うますぎる……!生まれてから口にしたモノの中で、一番うまいかもしれない……!」
ナナシが感動に震えながらぶつぶつと呟いた。彼はついに念願の『チョコレートバー』と『コーヒー』を口にすることができ、天にも昇る気持ちだったのだ。
「……なんか、見てるこっちまで幸せになるね」
嬉しそうなナナシの姿を見て、コマチは皮肉ではなく、心の底から本当に幸せを感じていた。
彼?は人の喜びを自分のことのように喜べる優しさを持ち合わせているのだ。しかも、相手は先ほど会ったばかりの自分を信頼できると言ってくれた人物、だから尚更そう感じた。
「コマチさんも食べますか?まだたくさんありますよ」
穏やかに微笑んでいるコマチにマインがナナシが口にしているものと同じチョコレートバーを勧める。ナナシほどじゃないが、彼女もコマチのこと“は”信用しているみたいだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、もらおうかな」
「俺も。もう一本くれ。あとコマチ、言っとくけど俺はめちゃくちゃ疲れてたからすげぇ美味く感じたけど、多分そこまでのモノじゃないぞ」
「そうか……最高のチョコバーを味わうためには、強敵と何連戦もしなきゃダメなのかぁ……それはごめんだな」
「だな」
ナナシとコマチは笑みを浮かべながら、マインから受け取ったチョコバーを口に入れた。ついさっき会ったばかり、お互いの名前を知ったばかりの二人だが、穏やかに語り合うその姿は、まるで長年の親友のように見えた。
この時間がいつまでも続けばいいのに……。二人が、そしてその光景を眺めていたマインが、そう思った時……。
「……いる」
何かを感じたダブル・フェイスが声を上げた。それから一呼吸おいて、ケニーの声がトレーラーに響いた。
「おい!見ろ!火だ!火の手が上がってる!」
ナナシ達が前方を見ると、確かに真っ赤な炎が目に入った。さらに凝視すると、火を上げているのは、無数の壊れた白バイ、そして、警察に配備されているピースプレイヤー、ポリラットであった。
「バカだねぇ~、揃いも揃って。自分の実力ぐらいわかれよ」
ひどい言いようだが、数多の戦場を見て来た傭兵にとってはそれが真理なのだろう。自己の力を、敵の力、その差を見誤った者、そういう奴らから死んでいくのだ。
「……でも……大丈夫だよ。中身……装着者はいないみたいだ……逃げられたならいいけど……」
状況を確認しながら、コマチがフォローした。傭兵のあんまりな発言に対してでははない、勇敢なる神凪の警察を……そして、この光景を見て、ショックを受けるかもしれないマインやリンダを。彼女達に傷ついて欲しくないのだ。
「確かにここら辺に人影は見当たらない……よしケニー、ここで……」
「おう、止まれってんだな。言われなくても、もう止まるぜ」
人影、生存者は勿論、敵の姿も見当たらないことを確認したナナシが指示を出す……前に、既に察していたケニーはブレーキペダルを踏んでいた。
トレーラーは徐々にスピードを落とし、ゆっくりとその巨大な車体が停止した。
「こんな普通に止まれたの今日初めてだな」
「そうだな、急ブレーキはもうご免だ……で、行くのか……?」
「あぁ、嫌で仕方ないが、行くしかないだろ……マインとリンダはトレーラーの中で待ってろ」
「はい」
「ラジャー!」
マインは力強く頷き、リンダは手を額に当てて敬礼した。
「傭兵、コマチ……仕事だ」
「へいへい」
「うん」
ナナシに促され、コマチ、ダブル・フェイスが車を降り、さらにナナシも続き、三人並んで燃え盛る炎を見つめる。そして……。
「まったく……勘弁して欲しいぜ」
ナナシの右手に着いた勾玉が……。
「ふぅ……よしっ!」
コマチの左の人差し指の指輪が……。
「そんじゃ……働きますか」
ダブル・フェイスの左手首の腕輪が……。
光を放つ!
「かみ砕け!ナナシガリュウ!」
「輝け!ルシファー!」
「ダブル・フェイス」
光が収まるとそこにいたのは赤、白、黒の三体のピースプレイヤー。
真ん中に立っている赤が、左の白を見ると、白は力強く頷く。続いて、同様に黒の方を向くと、黒はふんと鼻で笑った。
「よし……行くぞ……!!」
そして、三人揃って再び前を向き、燃え盛る炎に向かって臆することなく歩き出した。




