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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
双竜は眠れない
199/324

怪盗と罪人

 白と黒、怪盗と罪人の初邂逅を月は雲から顔を出して、静かに見下ろしている。ただただ静かに、善意も悪意もなく、静かに……。

「データ通り……ずいぶんと自己主張の激しい見た目だな」

「そんな邪魔くさそうな角を二本も付けているような人に言われたくはありませんね」

「奴が言うには、これがガリュウのチャームポイントらしい。俺も最近愛着が湧いて来た」

 黒き竜は自らの角をスッと軽く撫でた。

「それは失礼を」

「気にするな。俺はこれからもっと失礼な……お前の人生において最も屈辱的なことをするつもりだからな……!」

 ネームレスガリュウは拳を握り直す、レイラの依頼を完璧にこなすために。

「おお!怖い怖い!どうやらワタシは今日は厄日のようです!」

「らしいな」

 わざとらしくジェスチャーする怪盗の姿にネームレスは苛立ちを覚えた。その一瞬の変化をマレフィキウムは見逃さなかった!

「ですので……今日のところは失礼させてもらいます!」


ブシュウゥゥゥゥゥッ!!


「――!?しまった!?煙幕か!?」

 マレフィキウムのマントの下から、大量の煙が放出され、辺り一面、ネームレスガリュウを含めてまるごと飲み込んだ!

「ちっ!俺としたことが!だが!ガリュウファン!!」

 黒き竜は両手に巨大な鉄扇を召喚!それを広げて……。

「吹き飛べ!」


ブオオォォォォォォォォォン!!


 高速で一回転!巻き起こった豪風はせっかくの煙幕を一撃で消し飛ばしてしまった。

 そして再び自己主張の激しい白いピースプレイヤーが姿を現す……さっきまでいたところと真逆の場所に。

「いつの間に!?いや、どうだっていい!!」

 黒き竜は扇をマレフィキウムに投げつけた!しかし……。


スッ……


「何!?」

 扇が当たった瞬間、マレフィキウムの姿が先ほどの煙のように、きれいさっぱり消えてしまった。

「奴め、一体何を……というより、どこに!?」

 ネームレスガリュウはチャームポイントの角が生えた頭をブンブンと振り回し、消えた怪盗を捜索した。

「――!?そこか!!」

 黄色い二つの眼がまた別の遠い場所に佇んでいる怪盗の姿を捉えた。そして刹那、ネームレスは意識を額へと集中させる。

「これなら……どうだ!!」


ビシュゥッ!!


 額のクリスタル状のパーツ、サードアイと呼ばれるそこから一筋の光線を発射する!当然、扇投げとは比べものにならない速度!けれども……。


スッ……


「くっ!?」

 またも攻撃が当たるとマレフィキウムは霧の如く消えてしまう。

(あれは……まさかワープか?奴もラエンのように瞬間移動を……!!)

 かつての強敵を頭に浮かべながら、ネームレスガリュウは辺りをくまなく探した。しかし、残念ながら、再びマレフィキウムと相対することはできなかった。

「……逃がしたか」

「シャア……」

 悔しさを滲ませる主人の足下に寄って来て、ピンク丸は頬ずりをする。

「慰めてくれているのか?」

「シャア!!」

「ありがとう。だが、お前にはやってもらいたいことが……奴を“覚えて”おいてくれ」

「シャアッ!!」

 新たな命令を下されると、ピンク丸はマレフィキウムが最初に現れた場所に行き、そこをゆっくりと這いずり回った。

「ネムさん」

「シュショットマンか……」

 また少女の声が聞こえると、竜は耳元に手を当てる……彼女に謝罪するために。

「すまないな、お前の情報は正しかったのに、しくじってしまった」

「いえいえ!わたしもあんな能力があるなんて知りませんでしたし、お互い様です。それよりもできる限り、早くそこから離れてください」

「俺としてはまだもうちょっと調査したいのだが……」

「さっきあの野郎は“あなたも”って言ったっす。つまりネムさんと会う前に同じようなことがあったんですよ」

「……確かに」

 ネームレスは記憶を巻き戻し、先ほどの怪盗との初対面の場面を確認した。

「つまり自分達と違う何者かが奴を追っている。チンピラ同士の小競り合いなら、問題ないっすけど、それがもし神凪政府の手の者だとしたら……」

「面倒なことになるな。俺自身はともかくレイラやキリサキファウンデーションに迷惑はかけたくない」

「チンピラ達はネムさんが離れたら、警察に通報するんでお気になさらずに」

「了解した。ピンク丸!もう覚えたか?」

「シャアッ!!」

「そうか。ならば戻れ」

 黒き竜が銅色の瓶を僕に向かって、突き出すとピンク丸は光の粒子になって、その中に入って行った。

「結局手がかりはピンク丸だけ。依頼は振り出しか……」

 マスクの下で悔しさで歯噛みをする。結局、今夜の出来事は彼にとっては骨折り損のくたびれ儲けでしかなかったと。

「ネムさん、ちょっとわたしのこと舐めてやしませんか?」

 ネームレスの耳元で、妙に高揚したような声が響く。そして実際に遠く離れた車の中では、シュショットマンは高揚し、顔を赤らめ、鼻息を荒くしていた。

「その言い方だと……奴の動きを掴んでいるのか?」

「ええ。まぁ、100%ってわけじゃないですけど、奴の今後の動向について一応の目星はつけています。ネムさん、倒れているチンピラのスーツにあるバッチが見えますか?」

「ん?あれか?」

 黒竜は視線を落とし、未だにピクピクと痙攣しているチンピラに視線を向けた。その胸元には少女の言う通り、下品な金色のバッチが付けられていた。

「これがなんだ?」

「これは『ラックブックファミリー』っていうマフィアの構成員の証です。こいつらは闇オークションをしのぎにしているんですよ」

「闇オークション?」

「表社会じゃ出品できないような盗品や非合法なもの……それを売買する場所を仕切っているんです。今度やる闇オークションにあのくそ野郎が盗んだものが出品されるという情報を聞いて、そこから色々と探って、今日の取引を突き止めたんすよ」

「なるほど。マレフィキウムではなく、その商売相手から……だから、今まで警察も手も足も出なかった奴にたどり着くことができたと」

「その通りっす。そもそも少し前までのマレフィキウムはマフィアから盗むことはあっても、取引するような奴じゃなかったんですけどね……!」

 少女の声色に悲しみ……いや、憤りが滲み出ていた。

「奴の心変わりの理由はわからんし、どうでもいい。大事なのは……」

「はい。今夜の取引が潰された奴は、別の盗品を納めに、直接オークション会場に現れるかも……ってことっす」

「希望的観測が強めだな」

「でも、わたし達が奴を追い詰めるには、今はその方法しかないと思うっす」

「そうだな……わかった。その闇オークション会場とやらに行って見よう。日時と場所はもちろんわかっているんだよな?」

「当然!日時は三日後の夜、場所は神凪の小さな無人島、『羅武居島』です。今、データをガリュウのディスプレイに映します」

 そう言うとほぼ同時に黒いマスク裏の画面に地図が映し出された。

「羅武居島はラックブックファミリー所有の島っす。もちろん記録上は真っ当ってことになってるフロント企業のものになってますけど。そこに建てられた施設でオークションが行われてます。もちろんその施設も政府には保養所って報告してます」

「無人島か……警備も厳重そうだな……」

 だが、自分なら、ステルス能力の高いネームレスガリュウならなんとかなるだろうと、高を括っていた。しかし……。

「ネムさん、もしかしてそれこそ泥棒のようにこっそりと忍び込もうとしてません?」

「ん?それしかないだろうが?」

「わたし的にはオークション目当ての人を装って正面から突破した方がスマートだと思っているんすけど」

「そっちの方がいいかもしれんが……できるのか?」

「できますよ。名前と身分を偽装するなんてお手の物です」

「だったら、それでいこう」

「はい。偽名のリクエストはありますか?ないならこっちで勝手に決めちゃいますけど」

「『ノードゥス』で頼む。最近は身分を偽る時にはその名前を使っている」

「ノードゥスですね。船の方は……」

 シュショットマンがチラリと隣の運転席で黙って会話を聞いていたハタケヤマの方に視線を向けると、彼は指でOKサインを作った。

「船はハタケヤマさんが用意してくれるようです」

「了解……では今夜の借りを返すのは、三日後、羅武居島で……!!」

 黒き竜が決意と拳を固めると、周囲の気温が少しだけ下がった。


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