表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No Name's Nexus  作者: 大道福丸
双竜は眠れない
195/324

お約束

「ナナシガリュウ」

「クレナイクロス再ドッキング」

 天使は再び竜に、十字架も背負い直して、エートラの予言にある姿に戻ると、魔皇帝だったものの方を振り返った。

「長き戦いもようやく……」

「一日も経ってないですけどね」

「俺の感覚ではもっと……ん?」


ユラァ……


 魔皇帝の死体から滴る血のような真っ赤なサッカーボール大の球体が浮かび上がって来た。

 それを見た瞬間、ナナシとベニの緩んでいた精神が一気に引き締まり直す。

「ベニ!」

「はい、直ちに撃滅することを推奨します」

「マグナム!」

「アーム展開、ショットガン、マシンガン・オン。スペシャルマニューバ、クレナイフルクロスシュート」


バババババババババッ!!


 六丁の銃の火力をその球体に一点集中させる!しかし……。


キンキンキンキンキンキンキンキン……


「何!?」

 球体は全て弾き飛ばしてしまう。弾丸の雨など意に介せず。

「なら!太陽の弾丸!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「非常に残念です……」

「これでも無理か……」

 必殺の光の奔流でも傷つけられず。そのままどんどんと上昇していくと……。


ズムッ!ズムッズムッ!!


 漆黒の肉が中から溢れ出してくる!

「これは……」

「状況を判断するのには、データが足りません。とりあえず少し距離を取るべきだと判断します」

「……それしかないか」

 ナナシガリュウは決して赤い球体から目を離さずに後退した。だが、すぐにそれは見えなくなってしまった。

 新たに作られた竜の三倍はあろうかという巨大な魔皇帝の身体に隠れて……。

「……ナナシ様が大好きなお約束、ラスボスの第二形態ですね」

「だからそれは漫画やゲームの時の話だって……」

 何倍もの大きさにもなった顔を見上げながら、ナナシは心の底から辟易した。

「ふん!まさか余が真の姿を晒すことになろうとはな」

「元々はそのサイズだったのか?」

「あぁ、だが色々と不便であったから、肉体を縮小していたのだ」

「ご苦労なさったのですね」

「しかし、やはりこの姿が一番いいと思い直したよ」

「その心は?」

「貴様をゴミのように踏み潰せるからだよ!」

 巨大魔皇帝は足を上げた!ナナシガリュウをすっぽりと覆うほどの足裏を持った大きさのそれを!

「靴のサイズで苦労しそうだな」

「言ってる場合ですか」

「わかってる……ちゃんと避けますよ」


ヒョイ!ドスゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


 巨大魔皇帝の足が勢い良く再び床に接地すると、エートラ王城全体が激しく揺れた。空中に逃げた紅き竜には関係ないが。

「逃がすか!!」

 続いて魔皇帝はこれまた竜を包めるほど大きくなった手のひらを伸ばして来た!

「サムライソード!」

「フル・オン。クレナイ旋風斬」


ザザザザザンッ!!


「ちっ!!」

 しかし、逆に五本の刀によって新たな手相が刻まれてしまう。怯んでいる間に紅き竜は着地して、再び距離を取った。

「猪口才な……ならば、これはどうだ!!」


ドゴッ……ドゴドゴドゴッ!!


 巨大魔皇帝の背中から再び触手が!しかも今度は四本だけでなく、もっと多くの数が生えて来た!さらに……。


パカッ!


「シャアァァァァァッ!!」

「シャアァァッ!!」

 触手の先端が口のように開く!それは野生の獣の如く獲物を威嚇するような声を上げながら、口の中にエネルギーを集中させる。そして……。

「「シャアァァァァァッ!!」」


バババババババババババババババッ!!


 それを光の弾丸として発射する!無数の触手の口から放たれた無数の光の弾!それが全て紅き竜に降り注ぐ!

「絶対防御気光!」


バシュ!バシュ!バシュン!!


 けれども、それら全てを背中の真紅の十字架が発生させた力場が防ぐ!

「ベニ!もう一度!」

「スペシャルマニューバ、クレナイフルクロスシュート」


ババババババババババババババババッ!!


「シャアァァァッ!!?」

「シャッ!?」

 やられたらやり返す……倍返しだ!と、言わんばかりに逆に圧倒的な弾丸で触手を貫き、破壊する!しかし……。


ズズズッ……


「シャアァァァァァッ!!」

 破壊したとたんに新たな触手が生まれて来て、全然数は減らない、いやむしろ増えているくらいだった。

「キリがないな……」

「末端の触手はいくら相手にしても無駄……本体、あの赤い球体がそうだと仮定し、撃破するべきだと提案します」

「簡単に言うが、サンバレでも無事だったくらい硬いぞ、あれ」

「ならば、こんどこそ“アレ”の出番じゃないですか」

「アレか……確かにアレなら……」


ドゴッ!!


「「!!?」」

 下からの強襲!ナナシガリュウの足下の床を突き破り、触手が飛び出して来た!巨大魔皇帝は密かに足裏から床下に触手を伸ばしていたのだ!

「シャアァァァァァッ!!」

「寄るな!」


ドゴォ!!


「――シャァ!!?」

 しかし、かろうじて直前で襲撃に気づいた紅き竜はそれを蹴り飛ばし、その場から離脱した。壁の方に……。

「創造主だけあって、オルスパと思考が似ているな。だが……!」

「ナナシ様!床の下に忍ばせることができるなら、壁からも!」

「!!」


ドゴッ!


「シャアァァァァァッ!!」

 ベニの言葉通り、今度は壁から触手が!


バキィン!グルッ!


「しまった!?」

 触手は絶対防御気光を貫き、ナナシガリュウの左腕に巻きついた!そして……。


ボキッ!ボキボキボキッ!!


「――ッ!?」

 渾身の力で締め上げ、赤い装甲を、その下に守られていた骨を粉々に粉砕した!

「腕をもらったぞ!予言の竜!!」

 初めてのクリティカルヒットに魔皇帝も大喜び!巨大な口の端をニヤリと上げた。けれども……。

「そんなに欲しいなら……くれてやる!」

 ナナシガリュウは左腕にまとわりつく触手に右手のマグナムの銃口を当てた。そして……。


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「なっ!?」

 自らの腕ごと、必殺技で触手を焼き払った!

「自分の腕を……イカれているのか!!?」

 魔皇帝は目の前で起こった狂気の光景に狼狽えた。けれど、すぐにその感情を塗り潰すほどの信じられないものを目の当たりにするのだった。

「俺は正気だぜ……フルリペア!」

 ナナシの感情をガリュウがエネルギーに変換、そしてそれを糧に新たな細胞、骨、肉、皮、そして装甲を生成!まるで時間を巻き戻したかのように、一瞬で竜の左腕は元に戻ってしまった。

「こやつ……本当に余と、いや再生能力は下手したらこの魔皇帝よりも……!」

 魔皇帝ともあろうものが、その圧倒的な超速再生に戦慄する。自然と一歩、後ろに下がってしまう。

「動揺しているようですね」

「少しだけ気分が晴れたよ……」

「それで満足ですか?」

「もちろんノーだ」

「でしたら!」

「ガリュウシールドバレル!」

 ナナシガリュウは再生した左腕に盾を召喚した。端から見ると、ただの盾を……。

「ふん!何をするかと思ったら、防御を固めるつもりか。臆病な」

 予言の竜の消極的に見える行動を魔皇帝は鼻で笑った。しかし……。

「これはただの盾じゃない」

「何?」

「だが、その前に……太陽の弾丸!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「――ッ!!?」

 再び放たれた光の奔流は巨大魔皇帝の上半身を吹き飛ばした!漆黒の肉は全て溶かされ、焼かれ、残ったのはあの赤い球体だけだった。

「何をするかと思えば……その攻撃では余を倒すことはできん!」

 赤い球体はまた黒い肉を出し始める。このままではまた巨大魔皇帝が世界に顕現することになるが……。

「ナナシ様!」

「おう!シールドバレル!マグナム!セット!」


ガギィン!


 盾は変形し、重厚な砲身へと姿を変えた。それをマグナムに装着し、赤い球体に向ける。

「太陽の弾丸の攻撃範囲は街中などで使うには、あまりにも広すぎます」

「だが、感情の発露であるあの技は器用に加減などできない」

「ならば、テクノロジーの力でどうにかしましょう!」

「このシールドバレルは……太陽の弾丸を収束させる!」

 ナナシの感情がガリュウに伝わり、マグナムに届くと、シールドバレルは内部に特殊な力場を生成する!

「その副次効果として、通常時より貫通力は増大!これが!」

「太陽の収束弾 (サンシャイン・スティングバレット)!!」


ドシュウン!!


 引き金を引くと、毎度お馴染みの膨大な光……ではなく、一筋の光が銃口から発射された!エネルギーを極限まで凝縮したそれは魔皇帝の本体、赤い球体に……。


ドシュウン……


「ん?」

「あれ?」

 当たらなかった。見事に横を通り過ぎ、王城の壁に穴を開け、虚空へと消えて行ってしまった。

「何で外れた?」

「反動で照準がずれたのでしょう」

「そんなこと今まで……いや、今までは気にする必要なかったのか」

「はい。サンバレの攻撃範囲を考えたら、そんなもの誤差の範囲ですから」

「貫通力を上げた分、命中率は低下……」

「完璧なものなんて、この世にはないってことですね」

「あるぞ」

「「え?」」

「この魔皇帝ダーマスだ!!」

「シャアァァァァァッ!!」

「シャアァッ!!」


バババババババババッ!!


「うおっ!?」

 ナナシとベニがのんきにくっちゃべっている間に魔皇帝は完全再生を遂げていた!再び生やした触手から、光弾の雨を降らせ、また竜を捕まえようと突撃させる。

 ナナシガリュウは慌てて、絶対防御気光を張り、全速力で逃げ出した!

「くそ!今ので決めるはずだったのに!」

「次決めればいいだけです」

「だが……」

「ええ……」

 ナナシガリュウはその手に持つ銃、その銃口を見つめる。それは赤熱化していた。

「今の状態ではすぐに撃てません」

「あれだけの威力、無理矢理収束させているからな……」

「命中率以上に連射力が落ちるのが難点ですね」

「で、次に撃てるのは?」

「バレル冷却に67秒、収束フィールドの生成に7秒、計74秒必要です。カウントをディスプレイに表示します」

 ベニが言葉を言い終わると同時にマスク裏に数字が表示された。

「この時間の間、防戦一方か」

「再攻撃の前にあの赤い球体を再び露出させなければいけないので、攻勢をしかけても別によろしいかと」

「なんにせよ、めんどくさいな」

「今まで戦った者達よりもですか?」

「え?」

 ナナシの頭にかつての強敵達との激闘の記憶が過った。改めて思い返して見ても、どれも一癖も二癖もある難敵であった。

「……あいつらよりはマシかな」

「だったら億劫になる必要ないです。魔皇帝だかなんだか知りませんが、あれだけの戦いを乗り越えたナナシ様の相手ではありません」

「今はお前もいるしな」

「はい!このカウントは奴の寿命です!」

 ベニのAIらしくない熱い言葉に当てられ、ナナシガリュウも熱を帯びた!こうなったら怖いものなどない!

「ベニ!このまま突っ込む!防御は任した!」

「了解!アーム1、2サムライソード・オン!アーム3、4ショットガン・オン。絶対防御気光全開!」

「よし!ナナシガリュウ!」

「クレナイクロス!」

「行くぜ!!」


ババンッ!ババンッ!ババンッ!!


「くっ!?」

 魔皇帝に向かって全力疾走!向かって来る触手は散弾銃で撃ち落とす!さらに……。

「よっと」

「貴様!!」

「お邪魔させてもらいます」

 触手の上に乗り、そのまま駆け上がる!当然、魔皇帝は振り落とそうとするが……。

「離れろ!」

「お前みたいな怪物に言いたくないが、側にいてやる」


ピョン!ザン!ザンッ!!


「良かったですね」

 触手をまるで曲芸師のように軽やかに飛び移る!迎撃に来た別の個体は背中から生えた腕が刀を振り、斬り落とす!

 そして、ついに魔皇帝の眼前に跳躍!

「絶対防御気光反転」

「絶対攻撃気光!」


バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「――ッ!!?」

 ナナシガリュウを中心に眩い光と激しい熱が球体状に広がる!それに触れた魔皇帝の身体は消し飛び、再び赤い球体が露出する。

「ちっ!?だが、まだ!!」

「いいや……お前に次はない。エレクトリックウェブ!」


バシュ!バリバリバリバリバリバリ!!


「何ぃッ!?」

 いつの間にか一回り大きくなっていた手のひらから電気の網を射出!赤い球体を壁に貼り付けた。

「ここまですれば大丈夫だろ」

 グローブを消すと、ナナシガリュウはシールドバレルマグナムのグリップを両手でがっちりと握りしめ、銃口を電気網にかかり、身動きできなくなっている獲物に向けた。

「さすがナナシ様……ジャスト74秒。次弾撃てます」

「太陽の収束弾」


ドシュウン!!


「――ッ!!?」

 天に爛々と輝く太陽のような一筋の光は今度こそ赤い球体を貫いた!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ