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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
双竜は眠れない
188/324

灼熱と閃光と予言の竜

「これで……ラスト!!」


ザシュッ!!


「ぐぎゃあぁぁぁっ!!?」

 ナナシガリュウはついに暴力の嵐を生き延びた最後の妖鬼兵をハルバードで切り伏せた。彼の周りの地面は異形の怪物の肉片で覆われ、その血で真っ赤に染まっていた。

「雑魚退治は終了。あとは……」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!


「ボスか……!」

 突如として鳴り響く雷鳴!降り注ぐ雷光!しかし、紅き竜は何事もなかったように軽くぴょんぴょんと跳びはねて、それを回避した。

「さすがにぼくらの軍を一人で壊滅させただけはあるな」

「そう来なくては」

 竜の前に妖鬼兵とは比べものにならない威圧感を纏った黄色とオレンジの異形の戦士が姿を現した。両者は決して警戒を緩めず一定の距離を取って睨み合う。

「お前らがこいつらの大将か?」

「ええ。ぼくは魔皇帝ダーマスが配下の一人、閃光将軍ジルコ」

「同じく魔皇帝ダーマスが配下、灼熱将軍カルブンだ」

「そちらが名乗るならこちらも名乗らなくてはな。ナナシガリュウだ」

「ナナシガリュウ……そこそこ覚え易い名前だ」

「魔皇帝陛下に報告する時に間違いがあってはならんからな」

「予言の竜を討ち取りましたってね」

 そう言うと二人の異形はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「もう勝った気でいるのか?」

「むしろそうでない時がない」

「我らに敗北などあり得ないからな」

「だが、どうやらそれも今日までだ」

「へぇ……」

「フッ……今日までなのは……」

「お前の命だろうが!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 ジルコは両手から先ほどと同じ雷光を放った!それは放射状に広がったかと思うと、ターゲットに、ナナシガリュウに向かって凄まじい勢いで収束していく。しかし……。

「それはすでに攻略済みだ」

 紅き竜もこれまた先ほどのように軽快なステップで回……。

「では、変化をつけようか」

「!!?」

 回避運動の先に灼熱将軍カルブンが!彼は身の丈ほどもあり、そして刃が赤熱化した巨大な矛を振りかぶって竜がやって来るのを待ち構えていた!

「喰らえ!!」

「ちいっ!!」


ザシュン!!


 ナナシガリュウはハルバードで防御を図るが、その肩書きの通り灼熱になった刃に寄って武器は簡単に両断されてしまった。

「次はお前の身体を……」

「ガリュウグローブ」

「!?」

 灼熱将軍は目を疑った。壊れた武器から投げ捨てた竜の手が一回り大きくなったのだ!

 竜はその手を固く握り締めると手の甲から勢いよく光が噴射された!

「オラァ!!」


ゴォン!!


「――がっ!?」

 巨大な拳骨はカルブンの胴体に勢いよく叩き込まれる!衝撃でオレンジの身体は“く”の字に曲がり、そのまま真っ直ぐ飛んで行った。

「やるね。ぼくたちの連携を避けるだけでなく、反撃までするなんて」

 一難去ってまた一難。入れ代わるように閃光将軍ジルコが間合いに踏み込んで来た!

「でも、ぼくはカルブンほど甘くないよ!」

 ジルコはそう言いながら、コンパクトなモーションでパンチを繰り出した!


ガン!


「……俺にはそう思えないな」

 けれど、ナナシガリュウはいとも容易く腕でガードをした……が。

「防御できたくらいで……いい気になるなよ!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「――ッ!?」

 拳から直接雷を放電!紅き竜の身体が激しい光で明滅する!

「このまま死ぬほど痺れさせてやるよ!!」

「……遠慮させてもらう」

「何!?」

 本来なら痺れと痛みで言葉など発せられないはずなのに、竜が語りかけて来た。驚きで放電を止めるジルコ。だが、どういうわけか竜の大きな拳骨はいまだにバチバチと帯電していた。

 いや、これはジルコの雷ではない!ナナシガリュウの雷だ!

「電撃使いが電気にやられちゃ、世話ねぇだろ!雷竜拳!!」


ドゴォン!!


「――がはっ!?」

 再び竜の拳が異形の怪物に炸裂!しかも今度は電撃のおまけつきだ!ジルコは同僚と同じ体勢で吹っ飛んでいく……かに思われたが。

「おっと」

 ガリュウパンチの洗礼を受けた先輩であるカルブンが受け止めた。

「何やってんだ……って、わしが言える立場じゃないか」

「あいつ……想像より遥かに強い……!!」

「あぁ。これは……出し惜しみしてる場合じゃないな……!」

 ジルコとカルブンは離れると両手を頭上に翳した。

「なんだ?手品でも見せてくれるのか?」

「まぁ……そんなもんだ!」

「エレクトリックボール!!」

「焔玉!!」

 ジルコの周りにはバチバチと音を鳴らす雷の球、カルブンの周囲にはボウボウと燃え盛る炎の球が無数に展開された。

「ぼくたちの手品を見るのは……」

「命懸けだぞ、ナナシガリュウ!!」


バリバリバリ!ボオゥ!ボオゥ!ボオゥ!


 雷と炎の球は紅き竜を取り囲むように移動し、そしてそのまま襲いかかった。

「ちっ!厄介な技を……!」

 ナナシガリュウはそれでも軽快に、そしてしなやかに身体を動かし、それらを回避した。

「フン!いつまで持つかな!!」

「ただでさえ我らの部下を相手に体力を消耗しているところにこの物量!どんな体力自慢だろうが、限界を迎える!」

「その前に集中力が切れてジ・エンドかな!」

「悔しいがあいつらの言う通り……こんな数ちまちま相手にしてられない。だったらガリュウマグ……」

 ナナシは愛銃を呼び出し、必殺技でジルコとカルブンごと吹き飛ばしてやろうと思った。思ったが、すぐに考えを改める。

 不完全燃焼で燻っている相棒のことを思い出したのだ。

「いや、あれを試すにはちょうどいい機会か……ベニ!!」

 ナナシの声は電波に変換され、ヘシエとソルビと共に城壁の上に避難していたAIの下に送られる。



「ようやく出番ですか……!」

「ベニ……さん?」

 突然、興奮を隠し切れない声で呟く小さな紅竜をヘシエは預かったアタッシュケースを抱えながら、不思議そうに覗き込んだ。

「ヘシエさん」

「は、はい!?」

 すると突然竜は彼の方を向き、名前を呼びかけて来た。驚きのあまりヘシエは背筋をピンと伸ばした。

「何か失礼を!?」

「いえ、その箱を置いて下がってください」

「え?この赤い箱を?」

「ええ、ナナシ様から預かっておいてくれと頼まれたそのアタッシュケースを」

「……わっかりました」

 ベニに言われるがままヘシエはそっと城壁にアタッシュケースを置くと、一歩後退した。

「一体何を?」

「見てればわかりますよ、ソルビさん」

 少年兵二人は互いの顔を見合せ、小首を傾げると、これまた言われた通りアタッシュケースに注目した。

「では、いきますよ」

「はい……」

「どうぞどうぞ」

「……それでは満を持して……クレナイクロス起動!!」


ガシャン!ガシャン!!


「「――なっ!?」」

 ベニの言葉、正確には彼女の発した信号に反応して、アタッシュケースが宙に浮きながら、形を変え始める!そしてものの数秒で長方形の箱だったものがX状の機械へと完全変形を完了した!

「こ、これは……ソルビ!!」

「十字架……十字架だよ、ヘシエ!!」

 少年達は再び顔を見合わせる。その表情は驚きと興奮、歓喜に溢れていた。

「なにやらまたテンションが上がっているようですが、ここは頼みましたよ。まぁ、クレナイクロスを起動した以上、何も心配はいらないと思いますが」

 そう言いながらベニも赤い竜の姿からカード状に変形すると、クレナイクロスとやらのXの中心に収まった。

「ではでは……いってきます!!」

「うおっ!?」

「飛んだ!!」

 紅き十字架は凄まじい勢いで天を駆けた!もちろん行き先は……紅き竜のところだ!



「……来たか」

 雷の球と炎の球を躱しながら、ナナシガリュウは横目でこちらに飛んで来る相棒の姿を確認した。だが、彼にも見えているということは……。

「カルブン!!」

「あぁ!また呼んでもいないお客様だ!!」

 やはり閃光、灼熱両将軍にも気付かれてしまった。二人は示し合わせたように両手を十字架に向けた。

「何かわからんが!」

「神聖な戦場に足を踏み入れようとするなら!」

「「落とす!!」」


バリバリバリ!ボオゥ!ボオゥ!ボオゥ!


 ナナシガリュウを包囲していた雷と炎の球の一部が方向転換!クレナイクロスの迎撃に向かった!しかし……。

「花山重工の知識、そしてナナシ様のアイデアを詰め込んだクレナイクロスをそんなもので落とせると思うな!!」

「な!?」

「何ィ!?」

 クレナイクロスは高速回転しながら、雷と炎の間をくぐり抜けた!そしてついに主、いや彼女の半身の下に!

「ベニ!このままドッキングだ!」

「わかってますとも!!」

 ナナシガリュウは飛んで来るクレナイクロスに背中を向けた。クレナイクロスは空中でブレーキをかけながらも、それでもかなりのスピードで接近!そして……。


ガキィィィィン!!


 合体!まるでナナシガリュウの背中から突然X状のパーツが生えたようだった。

「ドッキング成功、リンク完了、システム……オールグリーン」

「これが平和への祈り、父から受け継いだ誇り、俺の意志、友との誓い」

「そして人類の叡智、人とAIの未来、その全てを背負う神凪の紅き竜の最新にして最強の形態」

「ナナシガリュウ」

「クレナイクロス!」

「長いと思うなら、“スーパーナナシガリュウ”でもいいぜ」

 ナナシガリュウ改めナナシガリュウ・クレナイクロス、またはスーパーナナシガリュウは誰に向かってなのかはわからないが、右手の人差し指と中指をピンと伸ばし、シュッと敬礼した。



 ヘシエとソルビはその姿を城壁の上から見下ろし……涙を流していた。

「ソルビ!」

「あぁ、ヘシエ!予言は……予言は本当だったんだ!」

「あの人こそがエートラ王国の危機に現れるという十字架を背負った赤い竜だったんだ!!」


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