見知らぬ世界
「ここは……」
見渡す限りの荒野、頭上には爛々と太陽が輝き、澄み切った青空が広がっている。夜の倉庫とは真逆の空間だ。
「幻覚……じゃないよな?」
ナナシはツドン島での経験からマレフィキウムがエヴォリスト、もしくはそれに類する者かと疑った。
「仮にあの怪盗の精神攻撃的なものだとすると、AIであるワタクシまで巻き込まれるのはおかしいかと」
「ベニ」
しかし、肩に乗っている相棒の存在によってそれは否定された。
「なら、コンピューターウイルス、ハッキングの可能性は?」
「ワタクシに全く気付かれないで、そのようなことをするなど不可能かと。ガリュウのカメラ映像を疑うならマスクを取って、ご自身の目で確かめて見ては?とりあえず空気組成はさっきまでいた空間とほとんど変わらず、人体には無害です」
「お前がそこ待て言うなら信じるよ。ってことは、噂通り、絵の中に飲み込まれたか……」
ゆっくりとその場を回転しながら、改めて見知らぬ世界を観察するが、やはりナナシはいまだに自分の身に起きていることが信じられなかった。
「絵の中にこの空間が広がっているのか、はたまた絵はゲートのようなものでどこか別の空間に転移させられたのか……」
「とにかく何でもいいからこの世界について知りたいな。今のままだと何も判断できない」
「移動しますか?」
「そうしたいのは山々だが、どこに向かえばいいのか……ん?」
突如としてナナシガリュウの動きがピタリと止まる。彼の視線の先には煙が空に立ち上っていた。
「見えるか?」
「はい。あの黒い煙は戦闘によるものだと思います」
「だよな。気が進まないが、あそこに向かうしかないか……」
ナナシガリュウは思わず肩を落とす。やはり自分の行くところには、いつも戦いがあるのだなと、運命を呪った。
「今度こそワタクシの出番かもしれませんね」
対照的にベニの電子頭脳は熱を帯びた。不甲斐ないチンピラのせいで活躍の場を得られなかった彼女にとってはまたとないチャンスだ。
「俺としてはこんなよくわからない場所で、新装備のテストなんてしたくない。今、言ったことが見当違いであることを祈るよ」
「四の五の言ってないで、何が起きてるのか確かめに行きましょう!ハリーアップです!」
「やる気満々だな。じゃあその熱意に応えて……ナナシルシファー」
赤と銀色の竜が一瞬で白と金色の片翼の天使へと様変わりした。友から受け継いだナナシ・タイラン、もう一つの愛機の降臨だ。
「こいつは疲れるし、ガリュウがエースなら、こいつはジョーカー、切り札を移動のためだけに使いたくないが……」
「緊急事態ですから」
「しっかり掴まってろよ、ベニ」
「はい。振り落とされないように全力を尽くします」
「じゃあ……ナナシルシファー!飛翔!」
赤いアタッシュケースを持った白のマシンは天に昇り、遥か遠くに見える黒の煙に向かって飛んで行った。




