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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
後日談
180/324

出張④

「ガメエェェェェェェェェッ!!」


ドゴオォォォン!!


 カツミの悪巧みなど露知らず、ラメガエスはまたまた突撃を敢行!しかし……。

「当たらんて」

 完全に動きを見切ったエビシュリは軽やかに回避した。岩陰に隠れる観戦者達に視線を送る余裕もある。いや、これにはある意図があった。ただのファンサービスでも、心配しているのでも、ましてや助けを求めているのではない……。

「どうせなら使ってみようかな……シゲミツ!!」

「はい!」

「花山のお土産を適当なところに投げろ!」

「えっ!?あれ使うんですか!?」

「使うんだよ!せっかくだし、楽しそうだからな!!」

「まったくこの人は……」

 呆れながら、シゲミツエーラットは傍らにおいてあった箱を両手で持ち上げた。

「言われた通りに渡しちゃうんですか?あまり使って欲しくないって言ってたのに?」

 シゲミツの行動に録画に集中していたタマエも思わず彼の方を向いて、それでいいのかと問いただす。

 それに対して、シゲミツは自嘲するように吹き出した。

「フッ……一度言ったら聞かないから、うちの大将は。それに……」

「それに……?」

「ボクの心配なんて軽々と超えていくんだよ。だから、結局……従っちゃうんだよね!!」

 力任せにシゲミツは長大な箱をバトルフィールドに投げ入れた。ラメガエスはもちろんエビシュリからも離れた場所に箱は転がる。

「命令通り適当に投げましたよ!!後はご自分でなんとかしてください!!」

「おう!ばっちしだ!!」

 エビシュリはラメガエスから視線を外し、箱に向かって猛ダッシュ!

「ガメエェェェッ!!」


ドゴオォォォン!!


 少し遅れてラメガエスもその背中を追う!そのまま轢き殺すために、全速力で!

「危……な!!」


ドゴォン!!


 轢かれるギリギリで箱をキャッチ!そしてそのまま横っ飛びして、突撃を回避した!ラメガエスは勢い余って、岩壁に激突した。

「これでちょっとは時間が稼げるか?エビシュリがこいつを装備する時間が……」

 エビシュリは箱を地面に置いて開けると、右手の手甲を消し、中に入っていた武器を装備した。

「よし……『エルタスクバンカー』装備完了……!」

 それは巨大な杭打ち機であった。機械に包まれた杭は白く真っ直ぐで、どこか猛々しく、禍々しい異様な威圧感を放っていた。

「エルタスク……この名前、まさか?」

 その正体に感づいたカオルがシゲミツの方を向くと、彼は力強く頷き、彼女の解答が正解であることを示した。

「ええ……あれは獣ヶ原で回収したダイエルスの牙です。変に加工するより、そのままの形で撃ち込む方が威力が出るのではないか……花山重工はそう考えたみたいです」

「相変わらずたまに突拍子もないことを実行するな。あんなもの使い辛くてたまらんだろうに」

 遠目で見ても片手に巨大な杭打ち機を装備したエビシュリは明らかにバランスを崩していて、動き辛そうだった。

「その不自由さが許容できるレベルなのかどうかを調べて来いってことなんでしょうけど……」

「お試しで相手するには強靭かつクレバー過ぎるぞ、ラメガエスは……」

「ガメエェェェェェェェェッ!!」


ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴオォン!


 まるでカオルの言葉に「その通りだ!」と相槌を打つように甲羅の中でラメガエスは吠えると、爆発移動で宙を舞い、エビシュリを見下ろしながら、彼を中心に旋回し始めた。

「こいつのヤバさを肌で感じたか……とりあえず様子見ってことね」

 エビシュリは自分の周りを爆音を上げながら飛び回る甲羅を目で追いかけ、ゆっくりと後退しながら、次なる策を考える。

「空中を高速で移動するあいつにこれをどうぶち当てるか……思いきってジャンプしてみる……」


コツン……


「――か!?」

 小さな、本当に小さな突起が後退する踵に引っかかった。普段なら難なく体勢を立て直すところだが、巨大な杭打ち機のせいでバランスを失っているエビシュリは為す術なく尻餅をついた。

「「カツミさん!?」」

「何やってる馬鹿!?」

「ガメエェェェェェェェェッ!!」


ドゴオォォォォン!!


 観戦者の悲鳴と非難の声と、対戦者の咆哮と爆音はほぼ同時に洞窟に響いた!相手のミスを見逃さない目敏い獣は文字通り急転直下、凄まじい勢いで落下した!もちろんエビシュリの上にだ!


ドオン!ドスウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「ガメェ……!」

「そんな……」

 何度目かとなる洞窟の鳴動……。しかし、これで最後だろうと、その発生源であるラメガエスとその光景を録画していたタマエは思った。

「くっくっ……やられたな……!」

「た、隊長……!?」

 絶望の最中、隣で突然笑い出した上司を訝しむ。

「……こんな不謹慎な人だったのか?それとも自分のせいで一つの尊い命が奪われたという事実に耐えられなくなっておかしくなってしまったのか?……なんて、思っているな、タマエ?」

「――ッ!?」

 心の中を見透かされ、思わずタマエはたじろいだ。それを見てカオルはまた笑みを浮かべる。

「まだまだだな、お前も。ちょっと図星を突かれたくらいで取り乱すな」

「すいません……でも!」

「カツミさんがやられたのに平常心でいられるはずないか?」

「うっ!?また心を……」

「安心しろ……お前の上司はそこまで薄情者ではない」

「では……一体何でカツミさんがやられたのに笑っていたんですか?」

 恐る恐る真意を訊くと、カオルはまた笑った。ただし今回の笑みは少々自虐的だ。

「私がやられたと言ったのは、カツミの奴にしてやられたと自嘲したのだ」

「してやられた?」

「なぁ、君もそうだろ、シゲミツくん?」

 話を急に振られたシゲミツもまた仮面の下で笑みを溢していた。彼の場合は呆れているのだ、カツミ・サカガミという男の底知れない強さに。

「ラメガエスが地面に衝突する音の前に、もう一つ別の音が聞こえた。あれはカツミさんが地面を殴った音だよ」

「地面を殴る……そんなまさか!?」

 驚愕しながらもタマエもようやく事態を把握、自分が騙されていたことと、勝利したことを理解した。

「ええ……全てカツミさんの計算通り、自分を押し潰すように躓いたふりをして誘導、衝突の直前で穴を開けて、その中に退避……ここにいるみんながあの人にまんまと、してやられた……!」

「まんまと引っかかったな、ラメちゃん……!」

 部下の推測通り、エビシュリは自ら地面を殴って作った穴の中に寝転がっていた。入口はラメガエスの腹に塞がれているが問題ない……むしろそれが狙いだ。

「これでお前はエルタスクバンカーの射程の中だ」

 エビシュリはゆっくりと視界に広がる無防備な獣の腹にバンカーをくっ付ける。そして……。

「思いのほか楽しかかったぜ、ありがとよ」

 感謝の言葉と共に引き金を引いた!


バギィィィィィィィィィン!!


「――ッ!?」

 何かが砕けるような轟音が鳴り響くと、巨大な甲羅が下から何か圧倒的な力によって突き上げられ、空中に浮いた。だが、すぐに重力によって引き戻され、地面に着陸する。

 甲羅から頭と尻尾、そして四肢がだらりと力なく出てきた。瞳に出会った時のような輝きはなく、すでにラメガエスの魂がこの世にないことは明らかだった……。

「……終わって見れば、終始カツミのペース、まったく危なげなかったな」

「ですね」

「私の判断が正しかったと、胸を張りたいところだが……なんとなく気に食わんな。大きな声では言えんが、もっと苦戦して欲しかった」

「うわぁ……すごい勝手……」

「隊長……あなたって人は……」

 不機嫌そうに顔を歪め「ちっ!」と舌打ちをするカオルが岩陰から出て、ラメガエスの骸の下へ歩き出す。ドン引きしながらシゲミツとタマエもその背中を追った。

「よっこら……しょっと!!」


ドスウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


三人の視界の中でラメガエスがひっくり返り、仰向けになった。腹には大きな穴が開いており、そこからどす黒い血液が流れていた。

「ふぅ……終わった終わった」

 地面の方の穴からもどす黒い影が這い出て来る。返り血をもろに浴びたエビシュリである。さらにその全身には無数の亀裂が入っていた。

「エビシュリのあのひび……先のプレス攻撃でしょうか?」

「いや、あれはエルタスクバンカーの反動だよ」

「反動?反動だけであんなになるんですか?」

「なるんですよ、破壊力だけ求めたらね。結果、あれに耐えられるのは人間離れした丈夫さを持つカツミさんか、完全に人外なテッドさん、そして耐えられないけど、すぐに再生するからノープロブレムなナナシガリュウの三人だけってことになってる」

「動きがとか、バランスとかは些細な問題だったな。私はまだ花山に倫理観が残っていると思っていたが、大きな勘違いだったようだ」

「まぁ、今回のデータがあればもうちょっと扱い易いように改良してくれる……はず」

「そうだといいがな」

「なんだ?何の話だ?」

 合流したエビシュリが三人の会話に入っていけず、?マークを頭上に浮かべながら首を左右に傾けた。

「色々とお疲れ様でした、カツミさん……って話ですよ」

「あぁ、俺を労ってくれていたのか。カオルもか?珍しいな」

「私を何だと思っているんだ?結果を出した者には素直に賛辞を送るさ」

 シゲミツとタマエの冷たい視線が突き刺さった。(どの口が言っているんだ?)と無言の圧力を感じる。

「……えーと、労いと言えば、貴様の愛機も労ってやるべきじゃないか?」

「おっ!そうだな!早く休ませてやらないと!そのためにはバンカーを……」

「ボクが預かります」

「ありがとう」

「って言うか、腹の部分を攻撃するならバンカーを使う必要はなかったですよね?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。まっ、終わったことだ」

「まったく……つくづくあなたって人は……」

 呆れる部下にエルタスクバンカーを預けるとカツミは愛機をタグの形に戻した。

「お疲れ様、エビルシュリンプ。空気が冷たくて気持ちいいな……」

 火照った身体を冷やしてくれる風までが自分を労ってくれているような気がした。

「……で?これからどうするんだ?」

「洞窟の外で待機している研究班に引き継ぐ。ラメガエスの移送は明日か……下手したら明後日だな」

「そうか……俺はお役ごめんか」

「このままヘリに戻って、神凪に直接帰宅するか?ここは気候が気に入らないんだろ?」

「いや、やっぱり一泊泊まらせてもらうよ。構わないよな?」

「構わないが……さすがのカツミ・サカガミもお疲れか?」

「そういうわけじゃないが……」

 カツミは振り返り、ラメガエスの遺体を慈しむような優しい眼差しで見つめた。

「あいつとの戦いの余韻をもっと味わいたいと思ってな」

「……きっとラメガエスも倒されたのが、貴様で良かったと思ってるだろうさ」

「だといいが……」

「……では、テントに戻ろうか。直帰するなら歩きながら私のスマホにエビシュリのカメラ映像を送ってもらおうと思っていたが、後回しでいいな?」

「あぁ、俺が飯でも食っている時に勝手にやってくれ」

「フッ……楽しみにしておけ、我が部隊の飯はうまいぞ」

「それは……気合を入れ直さなきゃな……!」

 眉間にシワを寄せ、ラメガエスと戦う前より真剣な面持ちのカツミを見て、三人の顔に笑顔の花が咲いた。


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